第59話 飛べない豚は只の豚。飛べる豚は?
「…遥さん?」
「何かな、摂理。」
「大羽豚の飛行速度を待っていては私も疲れます。」
「そうだね。」
確かに大羽豚は決して速くは無い。
というか遅い。
けれども―――
「相手の切り札が少し見えそうだよ。」
何かを謝りながら冴えない迷宮主が何かを大羽豚にかけると、
大羽豚の体色が赤く染まり、
突如他の大羽豚を襲いだした。
いきなりの自体を生み出した男に添乗員の老人が怒鳴っていると、
そのまま男は老人を突き落とした。
突然共食いが始まり、大羽豚便は降下していく。
狂暴化した大羽豚はあっという間に1匹の仲間を喰い終えると巨大化し、
更にその大きくなった体で仲間を食い破ると、その大きさをさらに増した。
最終的にはその大きさは当初の8倍ほどになり、
色はどす黒くなり、顔には9個の目とそれと同じ数の鼻の穴を持つ横長の鼻、
顔の周囲を花びらのように覆う耳と顔の至る所にある口が発生した。
尻尾も9本あり、プロペラの様に回転している。
「臨界溶融羽豚。
この世界にもともと存在しない新たに生まれた生物でも、
図鑑には乗るんだね。」
「…みたいですね。」
「これだけの裏技を持っていてポイントに飢えているというのも不思議だね。
添乗員を突き落とす冷酷さもある。
案外、生活保護を貰いながらパチンコをする人みたいな余裕があるのかもしれないね。」
「私には、怒られるのが怖いからもみ合った挙句に突き落としたように見えました。
どちらにしろ…。」
屑野郎。
僕達の意見は一致していた。
ちなみに臨界溶融羽豚は今まで飼ってもらった恩義が残っていたのか、
老人が地面に墜落する前に拾い上げた。
その口を通って胃袋の中に。
「ごめんよ、おじいさん…。
行っけーーー臨界溶融羽豚。」
屑迷宮主がそう叫ぶと、
臨界溶融羽豚は尻から大量のガスを噴射して一気に加速していった。
「飛行速度は上がったようだね。」
「先程よりも距離を置いて飛んでもいいですか?
近くを飛びたくはありません。」
同感だ。
「僕からもお願いするよ。」