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第55話 薬師姫キャロル~お姫さまはクスリがお好き~

21~25階層における高山帯におけるデュカリスによる音符角蜻蛉(ノートホーンフライ)の保護も、

音符角蜻蛉(ノートホーンフライ)の成虫化によって終わりを告げた。

これより後は、海雀蜂(シーヴェスパ)同様にこの階層の支配者としての管理を任せようと思う。


管理と言っても、何の事は無い。

戦い、競い、奪い合っていき、

階層全体の戦力の向上に頑張ってもらえればいいだけだ。何か特別な事をしろと言っているわけではない。

1~9階層に戻ったデュカリスは以前より深いところに娘達と進み、

深海雀蜂(ディープシーヴェスパ)へと位階を昇ることになったようだ。

僕自身に繋がりとともに流れてくる力にも圧縮密度の違いを感じる。


デュカリスの長姫のアリスだけは今では自身の管理する巣がある為、

深海には潜っては行かなかったようだ。

今では彼女も母となっている。


孫…か、時が立つのは早いものだ。







「パターン緑、集落から来た侵入者です。」


摂理の声に意識を再び浮上させる。

「解かってるよ。…また、例の少女かな。」


例の少女。

集落のまとめ役の娘、

弟を生んだ際死んだ亡き母を生き返らせる手段として、

この迷宮(ダンジョン)をモンスターから逃げ回りながら手掛かりになるものを探しているようだ。

色々薬品や植物の汁に汚れた白衣とその下にある仕立てのいい服が特徴的なのですぐにわかる。

その成長には時の流れを感じさせる。

…ある意味時を持たない僕達と比べれば、

短い時を駆け抜けていく迷宮の外の者達は酷く人間らしく映る。


どこか、無様で、滑稽で、哀れで、無駄が多く、必死で、何か輝かしい。

今も妖船虫(フニャムッシー)というトビムシとフナムシの合いの仔みたいな、

ハイテンションで消化液をぶちまける、

どこか様々な意味でヤバい生き物にい追い立てられては、

逃げつつ宝箱や植物などを回収している。


だけれど僕が届かない命題に、

お前達如きが届くと思っていることが哀れだ。


人は人を救えない。

だからこそ神に救いを求める。


けれど残念なことに、

僕は救いを求められる女神ではなく魔王だ。

「母親の遺骨を持ち込ませて歩脆骸骨(ブリトルスケルトン)にでもしてあげようか?

モンスターになればこの迷宮から出せないけれど、

問題ないさ、彼女も歩脆骸骨(ブリトルスケルトン)にしてあげれば一緒にいられるからね。」


「遥さんはお母様以外には相変わらずの冷徹さですね。」


「区別することは間違いではない。それを差別というのは強者になる才能も努力も無かったものだけだ。

富裕層はキューヨークタイムズのゴシップ記事の背後関係について議論してもそれにのめり込むことは無いし、

貧困層はマシントンポストの情勢記事よりも自分たちの明日で精一杯だ。

…生きる世界が違うんだよ。」



「衣食足りて礼節足る、ですか。

…少し違いますけど格差が指導者たる人材を育てる。

不平等が競争と成長を促す。

そういうことですよね。」


「よく解かって来たね。」



「ですが、本気で殺す気は無いんですよね?」


「何故そう思うのかな摂理。」



「特には資源的には何もない罠部屋群に入った時はすぐに出られるようにしているじゃないですか。」


「…この世界には薬師は貴重だ。

それが存在するだけであそこの集落、いや最近国になったのか。

其処の価値が大きく跳ね上がる。

迷宮に入っても怪物とは戦わず、逃げ回ることで迷宮の表面的な概要に詳しくなり、

薬草を加工し、調合し、商品として父親の店から出荷する。

訪ねてくる傷病者を癒し、集ってきた薬師を目指す者達の長として、

研究と看護を行い、教育機関まで設立した。


…今は小国とはいえ、次期国王の姉という立場であるほどの、

裕福な家に生まれたからだとは言えるけれど、

彼女は今の国の名前となっているクリアリプルスから由来して、

『クリアリプルスの天使』と呼ばれているそうだよ。」



「らしいですね。」


「未だ商店としても機能している実家への貢献と、

自身の母への望みの為に活動した結果、

周囲から頼って湧いてきた枷によって天使扱い。

本物の天使としては騙られて思うところは?」



「特にはありません。寧ろ私より天使らしいところがあるのかと。」


「…意外だね。」



「私は、堕天使ですから。魔王(はるかさん)に従うことを受け入れた堕天使ですから。」


「…そうかな、そう思いたいだけじゃないのかな。

摂理はまだ…いやいいさ、摂理がそう思うのならそうなのだろう。」



「ところで、彼女はお姫様と呼んでも間違いでは無い立場にいると思うのだけれど。」


「……お気に召したのですか?」

何故非難するような笑顔を向けるのかはわからないけれど、

それは今はどうでもいい。





「この迷宮(ダンジョン)も洞窟や小屋というよりは、

美しい城の様な容として景観としての観光資源にもなっている。

というか僕がそのように建築したからね。

――魔王の城には、捕らわれの姫君が必要だとは思わないか?」


「…既に捕らわれの女神様(はるかさん)がいるので必要ないかと。」

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