第4話 ダンジョン?経営?いいえただのラブコメです。
僕は摂理と共に我が城に入った。
第一階層 浅瀬(未開放)
まず最初に思ったことは、
「ここは…、予想以上に広いな。外からの見た目とは大違いだ。
それに………」
それに昔僕がお母様に連れて行ってもらったことがある砂浜によく似ている。
僕の深層心理が作用しているのか?
「どうかしました?」
「何でもないよ。」
この場所に化け物を放ち、他人を呼び寄せるのか。
……今だけだ。今だけは此処には僕と摂理しかいない。
今この時を。…僕は絶対に忘れない。
「摂理。」
「はい遥さん。早速モンスターとか呼びます?
それとも仕掛を?」
そんなどうでもいいことよりも、だ。
「少し此処で遊ぼうか。此処は今だけは僕達だけのものだ。」
「………はいっ。…遥さんも結構可愛いところありますね。」
綺麗、とはよく言われるけれど、可愛いとはなかなか言われたことは無い。
…男に対する評価としては間違っている気がしないでもないけど。
「じゃあ、装備選択!!」
その魔法の呪文と共に摂理は水色のホルターネック型の上にフリル過多のパレオを組み合わせた水着になった。
スレンダーな身体に良く合い、可愛らしさと清楚さが混じっていて可愛らしい。
それと合わせて僕の衣装も水着に変わっていた。
それはいい。だが…。
「何故女物?」
同じくホルターネック型だけれど、僕のはワンピースタイプ。
やはり水色でフリルが多めなのは摂理の趣味か?
そう言えば水色ってよく言うけれど水って実は無色透明だよね。
全く関係ないけど亜鉛と鉛も別物だよね。
そんなどうでもいい方向に脳が働くあたり、
僕は案外現実から逃げ出すことには適性があったのかもしれない。
「えぇ~、その、遥さんが見た目美少女過ぎて刺激が強すぎると言いますか、
何か犯罪臭がすると言いますか。ほら、女の子に褌は危ないでしょう?」
女の子の褌にはロマンよりも履かせたオヤジ達の下衆さのほうに吐き気がするが、
僕は普通に男なのだけれど……慣れたからいいけれど。
「あのっ、せっかくなので日焼け止めを塗ってくれませんっかっ。」
僕がどうでもいいことを考えているうちに、
いつの間にかそこに在ったパラソルの下にマットを広げ、摂理がうつぶせになって寝転んでいた。
……準備がいいな。
ダンジョンを造る際に咄嗟にバロックをイメージした僕にも負けてはいないと思う。
だが―――――、
「それこそ『魔法』やダンジョンの設定でどうにかならないのかな?」
「えぇー。まぁなりますよ。なりますけど、ほらそこってやっぱりロマンじゃないですか。
パートナーと海辺で嬉し恥ずかし、塗り塗りするって。」
そのパートナーって多分意味が違う気がする。
きっと摂理は僕の世界の間違った常識をインストールされて作られたんだろうね。
「そういうものを塗ったら、海に入ったりできないだろう。」
「えっ、知らないんですか?日焼け止めって最近のはたいてい水に強いんですよ?」
凄いな、日焼け止めって。
よく使っていたけれど知らなかった。
「……わかった。なるべく優しくする。経験が無いから痛くしたらゴメンね。」
いつも使用人に塗ってもらう側だったから、
人に塗るのは経験はあまりない。
「うわ、なんかその言い方はエロい…。」
何がだろう。
取り敢えず、いつの間にかそこに在った日焼け止めを手に取って、
軽く手の中で揉んで摂理の背中に触れる。
「んっ。」
くすぐったかっただろうか。
いけない。もっと優しくしなくては。
「んんっ。」
羽根のように軽やかに、肌に負担をあまりかけないように。
「んはぁっ。」
…逆に多少強くした方がくすぐったくないのかもしれない。
「んん~~っっ。」
やっぱりくすぐったそうだ。
「取り敢えず、背中は塗り終わったから後は自分でしてね。
多分我慢できそうにないだろうから。」
くすぐったがりすぎるかな。
……いや、お母様に似せようとしたがあまり、
繊細な所が似通ってしまったのだろう。
そう好意的に受け取ろう。
「はぁはぁ…、そう、ですね。我慢できないかもしれません。
…多少名残惜しいですけど。」
そうか。
「じゃあ塗り終わったら僕のも頼むよ。
…………いや、やっぱりいいよ。
ワンピースタイプで特に塗るところも少ないし。
……摂理?」
どうしてそんなショートケーキのイチゴをいつ食べようか迷っていたら、
他の人にとられたような顔をしているのかな?
凄く器用な表情をしているよ。
「……私の馬鹿っ。スピード一番!勝負は一瞬!
もしかしたらワイルドなパッションがデトネいっちゃう展開があったかもしれないというのにっっ!!
……って遥さんどこへ行くのですかっ!?」
何処って、それは―――
「海だよ。折角だから入ろうよ。」
折角こんなきれいな海に来たんだしさ。
その後僕達は水しぶきを掛け合ったり、
一緒に泳いだりした。意外と浅瀬の部分はそこまで大きくなくて、
遥か先に見える大海原はただの背景で行き止まりがあった。
…それもそれで面白かった。
折角なのでこのダンジョンの設定を『昼夜設定 自動』にして夕方になるまで遊んでみたんだ。
楽しかった。
ここ最近では感じられなかった楽しみがあった。
幸せだった。
昔お母様と砂浜に来た時の思い出を間違っても上書きしないように気を付けつつも、
この思い出も僕のメモリーに保存する価値があると思えるくらいには十分に。
この時間がずっと続けばいいのに。