正史外伝 とある不幸な結婚式
ある村の結婚式
「おめでとー。」
「おめでとー。」
「この幸せ者―。」
「花嫁さんも綺麗だよー。」
「皆さん、ありがとうございます。」
「皆、ありがとう。僕達、は幸せになります。」
ある晴れた昼下がり、
祝福をする人々と、される新郎新婦。
彼ら二人の左手の薬指には同じ珊瑚の指輪がはめられていた。
そのような二人に話しかける男、神父が告げる。
「この結婚に異存があるものはこの場で申すが良い。
さもなくば永遠に口を噤め。
…よし、いないな。
まあ、坊と嬢ちゃんの結婚だしなぁ。
羨ましむ者はいるだろうが、これほど似合いのものもいねえ。
今日は酒が進―――――
…いかんいかん、真面目にやらねば。
では、アーサーとオンディーヌ、
病める時も健やかなる時も、
死が二人を分かつまで、
二人が互いを永遠に愛し抜く事を誓うか。」
「「誓います。」」
「では口づけを。
これを持って主の名のもとに二人の永遠の愛を認めん。」
「アー君。」
「ディーヌ。」
これはそんな幸せな日の2次会の話。
「おめでとう。」
「おめでとー。花嫁姿綺麗だったよ。」
「ありがとう。これランスさんが縫ってくれたの。」
「あの毒舌仕立て屋のランスさんが?」
「そう、弟分と妹分の晴れの日だからって。」
「あの人黙ってたらカッコいいんだけどねえ。
…よし、逆プロポーズしに行こう。」
「酔ってるでしょ。止めといたほうがいいと思うよ?
どっかの綺麗な御嬢さんもこっぴどく追い返されたらしいから。」
「そっか、それは難しそうね。」
「ねーねー、そう言えばディーちゃんが前に話してくれた指輪の話、またしてよ。」
「ちょっとやめなさい。結婚式でオンディーヌは疲れているんだから。」
「別にいいですよ?」
「ほら、そうやって甘やかすから。
しょうがないわね。代わりに私が説明してあげる。
――――ダイジェスト版でね。」
「…何それ。」
「ふふ。」
「昔々、といっても十数年前、
男の子と女の子がとある迷宮に行きました。」
「解かった。それがアーサー君とディーちゃんだね。」
「うん、少し黙ろうか。」
「御免なさい。」
「そして男の子は迷宮の中で珊瑚の指輪を拾い、女の子にあげました。
それから月日が流れて二人はまた同じダンジョンに入りました。」
「清漣の女神様のいる村のとこのだよね。」
「…少し、お話ししたいの?」
「頭冷やして反省します。」
「ならいいわ。次は無いわよ?
そして今度は女の子が同じデザインの珊瑚の指輪を広い、
男の子にあげました。
それが二人の宝物に為りました。」
「それをそのまま結婚指輪にしたんだよね。」
「そ~だよ~?
…次は無いって言ったわよね?」
「まぁまぁ、抑えて。
…案外これぐらい勢いがある子だったら、
逆にランスさんも。」
「はぁ~。ディーも鈍感というか空気が読めないというか、
逆に失礼というか、大物というか。ランスさんもこれは黙って泣くしかないわ。」
「?…何故か貶されているような気がするのですけど?」
「ううん、何でもない。やっぱりディーの横にはアーサー君じゃないと無理だわ。
ランスさんなら幸せそうに泣きながら血を吐きそう。」
「?」
「いいよディーはそのままで。」
「そうですか?」
「そうそう。」
「その通り。とにかくディー達はラブイベントてんこ盛りで、
ハッピーな夫婦になったんだよね。」
「…大まかにまとめるとそうなるのかしら。
いえ、そうなるのね。頭が使える子だったのね。凄いわ。」
「ありがとー。」
「…貶されているのではないでしょうか?」
「でも素敵よね。そう言うイベントって。」
「素敵素敵ー。憧れるねー。」
そう言って新婦とその友人たちが女子トークで盛り上がっている際に、
余計な事を敢えて大声で言う男、いや少年がいた。
「ふん、何が素敵なもんか。」
「こら、止めなさいブラート。ディーちゃんをアーサー君にとられたからって見っとも無い。
さっき神父のおじさんが異存がないか聞いたときに立たなかったくせに。」
「そうだよ。それにブラくんじゃ勝ち目ないよ。ディーちゃんはアーサー君一筋だし、ねえ。」
「ちょっっ、バカ姉貴。
…あの日、アーサー達があの指輪を見せびらかせなきゃ、母ちゃんは死ななかったんだ。」
「…ブラ、どういうことかな。」
「てめえが貧乏なうちの母ちゃんに指輪を見せびらかせたか――――――――ってえよ、姉貴。」
ブラートがそう言いかけた時、彼の姉は彼に飛び蹴りをかましていた。
「……ダゼさんが…。
そういうことか。済まなかった。いや、謝っても赦されるとは思わない。
――――僕はあのダンジョンに行くよ。それが僕にできる唯一の罪滅ぼしだと思うから。」
「…私も行きます。」
見る見るうちに少年の顔が青ざめる。
此処に来て自分の姉がなぜ起こったかが理解できたのだ。
皆に好かれる新郎と新婦は少年が思う以上に高潔すぎたのだ。
「ちょっと待ってくれ。おいらはそんなつもりで言ったんじゃない。
あのダンジョンは今はかなりヤバい。最近の冒険者で帰ってこれた奴らはほとんど聞かない。
お前たちが帰ってこられたのはきっと偶然だ。
迷宮を破壊するなんて無理だ。絶対に無理だ。」
「済まなかった。今まで僕は親友だと思っていた相手に酷い事をしていたことに気付きもしなかった。
じゃあ、征ってくるよ。」
「征ってきます」
新郎新婦が去っていく中、
無言が貫く部屋で、人々の視線は少年に向けられた。
一人の男が口を開く。
「……ダゼさんの事があるから今までのアーサー君に対する暴言や態度は大目に見られてきたけど、
アーサー君たちが死んだらきっと村の皆は君を許さない。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ。
許してくれ。ごめんよディー。アーサー。」
少年の声だけが部屋の中に響き渡った。




