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第3話 経営方針

まずはダンジョンそのものの配置について。

なぜ大陸の内部付近を選んだのか。

簡単な話だね。


海に面した地域は発展しやすい。

逆に内陸部は交通の拠点にでもならない限り交易による発展は難しくなる。

そして大事なのが恐らく内陸部に泳ぎに優れた種族は少ないということ。

人魚は陸路も一苦労だしね。


例えば熱砂の舞う砂漠の中央に氷のダンジョンを造るようなものかな。

暑い処に住む以上、大体防寒対策は……いや、砂漠は夜は冷えるし例としては不適切かな。

熱帯雨林の中央に氷のダンジョンを造るようなものだろう。

熱帯雨林付近にそんなに防寒対策の必要を感じているものが多くいるとは思えないしね。


ダンジョンの場所によって地形のコストは変わると摂理は言っていたけれど、

恐らく周囲の地形と真逆の事をすれば上がるのかもしれない。

だが、ダンジョンは外界の影響を受けないということなので、

一度作ってしまえば火山の中にも氷のダンジョンは維持できるのだろう。



……なぜ先程から一人で考えているかというとその方が捗るから。

後、摂理がなぜか先程から不機嫌そうなアピールをしているから。


幼馴染の瑠璃も時折そのような態度をしていた。

全く持って何を考えているのかわからないし、

特に何を考えているのか解かるために敢えて僕が頭を使ってやる必要がある様なことを考えているのでもないのだろう。



だが、仕事位はしてもらわなければ困る。

部下の気持ちなど上司はくみ取る必要はないけど、

部下に動いてもらえなくては、それはきっと無能な上司の証明だから。




「摂理。」


「はい、マスター。」




坊ちゃまとか、遥様とか、呼ばれたことはあるけれど、

マスターと呼ばれたことは今までにない経験だね、悪くは無いかな。




「好きな呼び方で呼ぶといいよ。」



「………うっ。」


その後、これじゃあ私が馬鹿みたいじゃないですか。

とか色々摂理が呟いていたが、結局、


「では遥さん、で。」


そう、落ち着いたみたいだ。



「じゃあ早速だけどダンジョンを造っていこうか。」


「…はい。」

なぜか摂理は諦めたような溜息をついた後にそう肯定した。



「では、このダンジョン建設予定地に行きましょうか。」


「そうしてくれるかな。」


僕がそう答えると摂理は少しだけ逡巡した後、

僕の手を握ってこの世界がファンタジーであるという証明。

即ち魔法を唱えた。


長距離転送術式(ハイテレポート)。」





僕達は思ったよりもあっけなくダンジョン予定地についた。

この場所はいい。予想通りだった。

人気が無く、だが人が通れそうな場所がある。

いうなれば寂れた村の文化体験センターの様な。

そこに人は来るんだけれども、常日頃から人がそこに住んでいるわけでもない。

そして、一定以上の人数は来ることはあまりない。

つまり攻略の拠点が無い。


唯一の例外が、この場所が有名になった時。

ドラマなどの影響で急に舞台となった所に人々が訪れるのはよくある話だから。


ダンジョンが強くなった後には侵入者(にえ)に来ていただかなくては困るしね。



造った後は長期を見越しての宣伝力と情報操作。

この地域一帯を含めて、ね。



「で? どうすればダンジョンは造れるのかな?」


「何でもいいです。何でもいいからそれらしき言葉を紡いでくれればいいですよ。」




そうか、じゃあこの言葉こそ、箱庭の(ダンジョンマスター)には相応しい。



「光あれ。」





途端に眩い漆黒の光が眼前に収束し、東京ドーム程度の大きさの白亜の建築物が出来た。

どうせ破壊されて持ち去られることは無いのだから、と外見には拘ったつもりだ。

美しく戯れる妖精や女神などの像で彩る。

彼女たちは硝子の様な透明度の高い素材でありながら、

乱反射を使い、中までは見えないようになっている。

フェイクダイヤ見たいなものだ。


アクセサリーが良くても付ける者が醜くては意味が無い。

彼女たちに似合うだけのダンジョンに仕上げたつもりだ。

オーストリアのバロック建築の造形を真似ては見たが、

我ながら悪くない出来だと思う。


ダンジョンが非常に硬度に優れ、人為的に破壊されないのであれば、

本来必要な土木学的な建築強度を無視して、デザインだけに拘ることができるからだ。


後は周囲の小川の水をうまく曳いて仕掛けを凝らせば十分か。

ダンジョンは水による風化も無いので問題ないかな。



これだけ外見に拘ったんだ。効果はあるだろう。


「たったこれだけの時間でよくもここまで緻密なデザインを考えられましたね。」


「因みに普通はこうはしないのかな?」



「はい。ダンジョン生成の時間は非常に短くてその間にここまでデザインを練り込めませんし、

そのようなセンスがある人もいません。

第一その前にダンジョンの外部の造形に拘る人なんて見たことはあまりないです。」



「摂理、なぜかわかるかい?」


「解かりません。なぜ、ここまで外見に拘ったんですか?」



簡単な事さ。


「人は外見で第一印象を決める。

美しければ惹かれるし、醜ければ遠ざけられる。

ギフトの包装やラッピング、無形であれば宣伝などもその類だ。

このダンジョンに来る価値があるか、だけでは無く、

このダンジョンに来る価値がありそうか、ということも重要なんだ。

……最終的にはこのダンジョンを観光名所にしてもらって人を呼んでもいい。


ダンジョンは高強度で外界とは拒絶されている。

恐らく中と外での空間も乖離させることもできているのだろう。

この事から外観への維持修復は想定されていない。

ならば多少外見を複雑にしても材質の強度や量が変わらなければ特にポイントへの影響はないはずだ。

だったら、宣伝効果を高めないという策は無いだろう?」


「………予想以上のスペックですね。」



「見た目にしか拘らないものはいずれ看過される。

見た目には拘らない質だけでというものも寂れていく。

機能性とデザイン性の両立。

更に価格面と信頼性、量産コストに宣伝力。

……この世界は解からないけれど、

僕の元の世界ではこの程度は常識なんだよね。」





「いざというときに普段通りに知識を行使しそれを実行できるレベルでのことを常識なんて言いませんよ。

普通の高校生は建築デザインなんて咄嗟に出来ませんし、経営学を学んでたりはしませんし。」


「ほら、僕は御曹司だったから。」




「御曹司生まれってスゲェ・・・その時初めてそう思いました。」


「百匹の羊を率いるものは1匹の獅子である必要があるからね。」



「御曹司が皆遥さんみたいだったら、きっと世界はもっと格差社会になっていたでしょうね。

有能な方と無能な方。有能な側に善意が溢れていなければ無能な側は搾取されて朽ちるだけですね。」


「有能なものが多く稼いで、少なくとも資金面においては魅力を上げ、

魅力的な異性を確保する。一種の自然淘汰の生存競争だね。

金を稼ぐ能力もない無能を社会で生きていけるように補助しても、

そのような奴の遺伝子や教育能力に価値は無い。

未来ある低学歴貧困層は金の卵?寝言は寝ていえばいい。

失うものが少ない者達などただの犯罪者予備軍にしかならない。

………中には金を稼ぐ能力しかないような奴もいるけどね。」



僕の父親はそうだった。

確かに金を稼ぐ能力はあり、

多くの魅力的である女性に手を出していたという点では、

今僕が述べていたことと狂いはない。


だが何故だ。

何故お母様を愛してはいなかった。

僕にとっては世界の全てだ。

貴様にとってはそのようなお母様ですら目的達成の手段でしかなかったのか。

お母様の何が悪かったのか。

姫宮の名が欲しかっただけなのか。

挙句に貴様のせいで殺害犯(おじ)を呼び寄せたようなものなのに。


やはり生まれが悪かったのか。

醜き血からの生まれは所詮はその程度だったのか。


ああそうだ。

ゴミは何処まで行ってもゴミだ。

そうだゴミだ。無意味だ。無価値だ。無益だ。無駄だ―――――――




「…遥、さん?」


ん?どうかしたのかい摂理。


「いえ、何でもないです。」




「ならいいさ。」


「……いえ、やっぱり聞かせてください。

今、透明すぎるガラス玉のような目をしていましたよね。」



「目の色素は薄いとよく言われるよ。」


「透明すぎるがゆえにどのような光も通すけれど、

ただ通すだけで何も映してはいない。…そんな目でした。」



「人間味が無い容姿だとはよく言われるよ。」

リアル羽根の無い天使の君に言われると不思議な感覚だけどね。


「そう言う問題でしょうか。」



「そう言う問題だよ。」

だからそれ以上は踏み込まないでくれ。

お母様に似た容姿で、お母様に似た声で、

そんなに心配されると甘えたくなってしまうから。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 無能がいないと有能っていないのよね。 あと朽ちさせたらもうお金うまれないやん。 母数(パイの数)って大事。 これ書いてるときはまだ学生だったかのかな。
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