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外伝の外伝つまり――――本編? 神々の日常0

The astray alice       姫宮雪花



この(わたくし)さえいなければ、

私こそが本物の姫宮雪花になれる。

目の前ですやすやと寝息を立てている小さな小さな(ひめみやせつか)さえいなければ。

忍び寄る悪意に気付きもしないのでしょうね。

どうすれば同じ


もしここで私が私を手にかければどうなるのでしょうね。

娘の紛い物として処罰されるでしょうか?

それともお父様とお母様の唯一無二の娘のなれるのでしょうか?

いえ、それともそのような事は寸前の所で無かったことにされてしまう可能性も否めません。

何せ、2人で世界の秩序と創生と破壊を担う神そのものの御二方なのですから。

ですから今はこの考えも先送りにしましょう。

あの御二方が身内には盲目でも、敢えて私を泳がしているのだとしても、

機会は何時だってあるのですから。


そう心の中で呟いて、気分を落ち着かせるために私達二人の部屋を出たとき、

誰もいないはずの居間に誰かの気配を感じました。

ですがそこに行ったところで誰もいません。

この私が気配を読み違えるとは…。

そうですわよね。この魔王の本拠地に足を踏み入れた下手人をお父様たちがお見逃しになるはずもございませんから。


「こんな夜更けまで起きているとお肌に悪いわね。

でも眠れないというのなら少し付き合っても良くてよ。」


「…急に後ろに立つなんてお父様の目の前で無いと随分とお行儀が悪いのですわね。ミラーカ…さん。」



「あら、それは女の性というものよ。それに―――――――――――貴女も人の事を言えて?」


「良いですわ。場所はお任せします。」



「では此方へ。」


そういうと目の前の吸血姫は暗闇のトンネルを造り出した。

彼女(・・)は私の知る彼女(・・)では無いので警戒の為に一瞬だけ『眼』を開放しておきましょう。


「安心していいのよ。この闇は只の演出で陛下の許可を得ての転移に色を付けているだけだから。

少しの間でも苦しいのでしょうに無理をしなくても。」


言外に私の能力を把握している。

つまりお父様から事情を知らされるだけの信頼を得ていると告げた彼女はその微笑みを崩さない。



彼女に続き闇の穴を通って付いた先は彼女の居城。

侵入者たちには罠部屋と呼ばれるトラップ群の最奥。


蝋燭で照らされただけの暗闇の中で浮かび上がるようにある白い椅子の上で、

何処までが闇か判らないドレスを着た彼女が座っていた。


相も変わらずニンニクを溶かした液体を飲んでいる。


「貴女もどうかしら? 美容にもいいのよ。」


「吸血姫がニンニクを好み、剰え薦めてくるなんて目を疑いますわね。」

…そういうところも彼女(・・)と変わらない。


「ニンニクを吸血鬼が嫌うのは、新鮮なニンニクには血液を固めて台無しにする成分が含まれている為。

肉体という器が血液の器であり、出入り口でもある吸血鬼にとっては、

その流動性を失わせるニンニクは匂いだけでも拒絶反応を起こすのも無理のない事でしょうね。

でも熟成したニンニクは血液をサラサラにするのよ?

貴女もどうかしら。」


その回答は全く同じ声と内容で聞いたことがありますが、

どうして吸血姫がそのニンニクを熟成させて飲もうと考えたのかは未だに解りませんわね。

彼女(・・)も教えては下さいませんでしたし。


「急かす様ではしたないのですが、要件は何かしら?」


「自分が一番知っているでしょう?」


私の事を明かすと脅迫をしているのでしょうか? それとも只の鎌掛けでしょうか?

彼女を殺すのは心苦しいですが、彼女の殺し方は心得ているつもりです。

そんな私の殺気に気が付いたのでしょう。


「その様子だと手を掛けようとしたみたいね。」


…やはり気が付かれていたのでしょうか?

それとも私に気が付かれずに見られていたのでしょうか?

仕方ありません。この吸血姫は私の親友では育ての母ではありません。

ですが―――――いけませんわね。このような正念場でさえ意思を固めきれないなんて。

それでも、世界が変わろうと時代が変わろうと運命が変わろうと彼女は、

彼女はミラなのです。私がお父様やお母様を手に掛けるなんてことが無いのと同様に、

彼女を手に掛けることはできません。

私が殺せるのはきっと私だけ。それも今となっては自信を持ってはいえませんが。

ですが、私の口は言い訳や謝罪ではなくどうしてか強気な反発だけを生んでしまいます。


「だと思うのでしたら私を始末しようとは思わないのでしょうか。」


「だと思ったのかしら――――――――――――――――――思っていたようね。

私が未だに攻撃態勢を取らないのを意外そうにしているのね。」


ええ。彼女は私の無二の親友であり、悪友であり、私のもう一人の母親であり、

後ろ盾を失った私の守護者であり、最高の臣下であったのですから。

()を害そうとする者を絶対に許すはずも無いと思っていましたから。


「ええ、先ほどは不覚にも不意を突かれましたが警戒していれば二度目はありません。」


「…まるで妾の攻撃手段を知り尽くしているような言い分ね。」


ええ、他の誰よりも知っていますわ。

それにしてもこれだけの情報で私がミラーカ・カムロドゥノンを把握していることまで…。

相も変わらず読みが鋭く、読ませにくい性質ですわね。


「でもきっと貴女はそれを利用して妾を消滅させることは無い筈よ。違うのかしら?」


「随分と自身がおありの様ね。」



「そういう意味でないことは貴女が一番よく理解しているでしょう?

無理に悪役ぶらなくてもいいのよ?―――――陛下の様には上手くは振る舞えないわ。」


彼女もお父様の事を陛下と呼んでいました。

そろそろ謝れば彼女と同じように私を叱ってそして赦してくれるのでしょう。

ですが憎まれ口が止まらないのはミラーカという存在に弱みを見せたくないという小さな小さな、

けれども強情な意地なのでしょう。


「結果として先程は手をかけることはありませんでした。

ですが、それはあの時点での結果に過ぎません。」


「その結果が大事なの。それでも確かに思いとどまったという事でしょう?」


それで、それで終わりなのですか?

私は姫宮雪花を殺そうとしたのです。貴女はそれを咎めない、怒らないというのですか。

何を期待しているのでしょうか、私は。

こちらのミラーカにも姫宮雪花の守護者であってほしいと思っているのでしょうか。

―――――――――それとも私は昔の様にミラーカに叱って欲しいと思っていたのでしょうか。



「…何か勘違いしているようだから言っておくわ。

怒りを向けるとしたら、赦しを出すとしたらそれは妾ではなくあの子でしょう。

貴女はやるべきことを見つけられるわね。」




『貴女はやるべきことを見つけられるわね。』


それは彼女が迷っていた私にいつも投げかけてくれた言葉。


「…おかあ…さん。」


「えっ? 何のことなの!? 妾は子供どころか未婚よ。どうしたの…。

まあいいわ。妾の胸で良かったら使いなさい。」


せつかはダメなこです。このとしにもなっておかあさんのむねであまえているのですから。



泣き止むこともできないのでここは彼女の胸で甘えさせて貰うことにしましょう。








翌日。

私はすやすやと寝ている娘に疑似的な日差しが窓から差し込みその起床を促すのを待っていました。


「お、おひゃよーごじゃいます。」


「おはようございます。それと…ごめんなさい。」

お母さんに言われた通り悪い事をしたときは、

厳密には悪い事と思ったことをしてしまった時はその相手に真摯に謝ります。

因みに謝った事はミラーカにしかありません。

有象無象に下げる程私の頭は安くはありませんので。


「どうしてあやまるの?」


きっとこの子にはその意味も解らないのでしょう。

必死に何が理由かと考えているのでしょう。

ですが、寝起きの頭で必死に解るはずも無い理由を考えたところで結局どうにもならなかったのでしょう。

熱が出そうなほど考え込んだ小さな私は最終的に答えではない結論を出しました。


「よくわからないけれど、ぷれぜんとをくれたらゆるしてあげます。」


ええ、それで良いというのなら全力で頑張るわ。

…何を作ればいいのかも解からないけれど。


「それで、いいのかしら。」


「う~ん、だったらじゅつしきはなしにしてね。むずかしいけれど、いい?」


それが彼女なりの罰なのでしょうか。

…全く殺しても消えても良いような歪んで捩じ切れた私とはまるで別の存在なんですね貴女は。

かけがえのない姫宮遥と姫宮摂理の一人娘、それが貴女。


なら私は貴女の部下として、万が一のスペアとしてこの身を貴女に捧げることを贖罪としましょう。

差し当たってはプレゼントは何にすれば宜しいでしょうか?


そうですわね。あるべき正当な後継者に相応しい王冠を造りましょう。

正当なる姫宮雪花の証として。


そうですわね、私は……雪華(ゆきか)と名乗りましょう。

いつまでもお姉様では距離を感じるでしょうし、お父様方もややこしいでしょうからね。













「お父様、宝石細工について教えていただいても宜しいでしょうか?」































…お父様の様に上手に作れませんでした。

「ごめんなさい。不格好な出来で。

お父様の見本は良く出来ているからそちらを貰って―――――――――――」


「おねえさますごーい。

おねえさまのてづくりのキラキラすてきーっ。

これ私のたからものにするーっ。」



やはりこの子は、この子こそがあるべき姫宮雪花。

愛する者達を喪い悪意の渦に沈み、悪意の波を呑みこんだこの私とは同姓同名の別の存在。

スペアなんて必要にはさせない。

だれにもこの美しい箱庭には足を踏み入れさせない。

その導きさえも許さない。

そうさせるくらいならいっそ、

代償を払ってでも本命を存続させる。


――――――――――∮∮――――――――――



沈んだ笑顔の裏に陰るその危うさは闇を纏う美女だけが見ていた。

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