外伝 闇の狩鷹
ピー、ピー。
此処はとある森の樹上。
小型猛禽類であるノスリの夫婦が営巣を行っており、
現在は生まれた雛の為に、ネズミやリス、ムクドリやハトを狙っては、
ヒナ達に与えていた。
ノスリは時の権力者にその大きさから大きな獲物を取ってこれないとして、
鷹狩りにおける要らない子扱いされ、鷹で小動物を狩るはずの鷹狩りが普通であるが、
猛禽類自体を狩り殺す為の駆除が行われその数を大きく減らした。
その結果、ノスリの得物であるネズミが大量発生して人間達は困ったそうだが、
自業自得である。
ヒナ達は当初は不恰好なハゲタカのようなずんぐりむっくりした毛並に、
白一色の姿であったが、
両親の懸命な給餌の結果、少しずつノスリらしい毛並が少しずつ混じっていった。
時には、ノスリの成鳥にとっては抵抗できる大型鳥類であるハシブトガラスや、
忍び寄ってくるアオダイショウの脅威にも、
父親がエサ取りで不在の間、母親が必死の攻防を行い撃退するなど、
涙ぐましい、というか、野生動物に見られるごく一般の全力の生存競争によって、
2匹の雛は元気に育っていた。
けれど、ノスリの親子は、
巣がある松が轟音と共に震えているのに気付いた。
飛び立って下を確認すれば、
下には人間達が唸りを上げる棒状の物、
つまりはチェーンソーで松を伐っていたのだ。
ノスリ達は、必死に鳴き叫びながら威嚇するが、
そんなものはチェーンソーの轟音で麻痺した上に、
疲れていて作業を早く終えたい人間たちの耳には届かない。
ノスリたちの抗議も虚しく、
その巣は松の墜落と共に落ちてしまった。
そして人間達はその時漸く一匹の雛が死んでいることに気が付いたが、
最早どうすることもできる物でも無く、
作業を終えて帰っていった。
後日、野鳥保護団体による抗議がその作業者達に送られるが、
そんなことはノスリたちには関係ない。
ノスリたちは結局、雛鳥の死を確認すると、
その甲高い声で、別れを告げて別の樹へ飛び去って行った。
そして、そのノスリの魂は別の世界へ。
「あら、人間が憎いの?
いいですわ。今のあなたには人間だって狩ることができる。
そうね、私の僕になりなさい。
思う存分、猛禽としての華を咲かせてあげますわ。真っ赤な美しい華をね。」
魔王の娘は、新たな血肉を得た鳥を肩に乗せると、
深い獣道の中に消えていった。
家に連れて帰った娘は肩に乗る幼鳥にしては巨大な鳥に言う。
「そうね、貴方ピィちゃん…だと被りますから、
『キィ』ちゃんと言う名前はどうかしら?
だって、そんな鳴き声でしょう?」
…残念なことに彼女のネーミングセンスは母親譲りのものだった。
因みにヒナは今生ではノスリではなく、敢えて言うならチュウヒ。
ついでに言うと性別は雌。つまり、女の子だ。
生前の癖で飛行に対する意識は両種が混じっている。
因みに元の世界での2種は昔からよく間違えられている。
種族名は刃宙飛鷲。
0←→100に近い急加速と、最高速度、低空飛行、
そして圧倒的な切れ味の翼が武器。この時点ではまだまだ主人を乗せて運ぶとか無理。