外伝 天空城の鶏女王
各階層には様々な強力なモンスターがいる。
大体のエリアには最強を担う一角がいるのだが、
それに次ぐポジション、――所謂中ボスモンスターも、
人間から見れば届くことのない天蓋の存在だ。
今回は、その中の1匹、
鶏女王アンバタリーについて追及していこうと思う。
アンバタリーは多数の刃嘴鶏の母鳥であり、
住処に足を踏み入れた人間達を捕獲しては監禁し、
残虐に殺していく、その様はまさに人間達が家畜を飼育しては屠殺するさまであるという。
天空城の一角は今も捕えられた者達が、いずれ迫る死期を泣き叫ぶ、
養鶏所と皮肉めいた呼び方をされる場所になっているという。
迷宮に侵入した人間達は知る由もないが、
他の何匹家のモンスターと同じように、
このアンバタリーも他の世界から移転してきた魂情報に基づいた存在、
即ち、転生者なのである。
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SIDE MOTHER HEN ~鶏女王、アンバタリー~
私は、人間を憎んでいる。
何故なら私は元々人間の為に生まれ、人間の為に生き―――――――――、
人間の為に殺されたからだ。
有精卵工場、
それは私が気が付いたらいた場所だった。
通常雌は子孫を残すために雄を受け入れ、
そして卵を産む。
でも私達はそうじゃなかった。
人間達に食べさせるための有精卵を産むために、
雄を受け入れて卵を産む。
それが私達の『存在意義』だった。
卵を産み、そして食肉になるために不自然なほど極端に肥大化した醜い身体で生まれ、
身動きのできない狭い檻の中に閉じ込められ、
旺盛な好奇心を満たすような興味を引く物は檻の中には無く、
糞尿は飛び散らされたまま、死んだものは放置されたままの酷い環境で育てられた。
嘴も斬り落とされた。
『商品』同士が互いに傷つけあわない為だろう。
私達、鶏は好奇心が旺盛なだけでなく、少なくはない凶暴性も兼ね備えている。
商品価値が低いのかほぼ種鶏を除いていないが、
雄等は赤いものを見ると露骨に興奮して突く。
例えば仲間の血であってもそれは変わらない。
雌もその傾向が皆無ではない。
だから嘴は斬り落とされた。
私の商品価値はそう高くはない、
いや、寧ろ最低値だっただろう。
肥大化した醜い姿で生まれた私が言うのも失礼かもしれないが、
正直、種鶏として同じ檻に入れられた雄はパッとしなかった。
その言い方は失礼かもしれない。
だが、この雄の受精卵なら仔鳥を産んでもいいという魅力は感じなかった。
それからかなりの時が経って、
私の卵を産む頻度が低下した。
劣悪な環境でよく解からないものが混じったエサや、水のせいで、
ひっきりなしに卵を産んでいたせいだ。
鶏というものは巣で捕食者から隠れながら卵を産むもので、
最初は人間達ややたら近い雄や他の雌の衆目監視の中で卵を産むことは無精卵とは言え、抵抗があった。
だが、じきにそれも慣れた。
慣れるくらい産まされた。
私が卵を産まなくなってくると、
人間達はエサも水もくれなくなった。
それでもエサが無いと解かっていてエサが入っている場所を突き続けたのは情けなかった。
ひもじくて喉も乾き、羽根も殆ど抜け落ちた。
これで死ぬのかと思ったが、
限界直前と言うときにエサと水が再び戻ってきた。
死に物狂いでエサを啄み、
水を飲み、気が付いたらいつの間にか羽根もまた生えそろっていた。
そして、その頃からまた卵を多く埋めるようになった。
…人間達は私がこうなると解かっていてエサと水を抜いたのだろう。
けれどもそれからまた時が経つと、
再び卵を産む頻度が落ちてきた。
人間達は私を何処かに連れて行った。
乱暴に扱われたので、片方の羽が折れた。
何時折れてもしょうがない骨だったから、
必然と言えば必然だったのかもしれないが。
連れていかれた場所には他にも大量の鶏がぎゅうぎゅうと詰まっていた。
狭い檻で運動も碌にできなかった私の弱い脚はその時にへし折れた。
そんな中、そこにいた雄鶏に年甲斐も無く恋をした。
本来もっと寿命はあっただろうが、
あのような生活の中、私はだいぶ老け込んでいたと思う。
それを恥ずかしいと思ったのはこの時が初めてだった。
この雄の受精卵なら産んでもいい、
そう、思った。
結果としては彼の卵をその狭い場所の中で産んだ。
他の鶏達に踏み潰されない様に必死に守った。
しかし、私達は人間達に再び移動させられた。
その時、卵がどうなったのかは知らない。
そして私は逆さにつるし上げられ、
痺れる熱い水の中に浸された後、羽根を毟られ――――――――
頸を刎ねられた。
そして気が付いたらこの場所にいた。
以前とは比べ物にならないくらい健康的で、
羽毛のふわふわ感は増したにも拘らず、
その中身は引き締まっていた。
これが私だと驚いたものだ。
彼にもこの姿を見せたかったとは思う。
容姿は大して気にしない雄だったがそれでもだ。
この世界に彼はいなかったが、
不思議と私は雛が孵る卵を産むことができた。
今では可愛い子供たちに囲まれている。
昔のやさぐれた私はもういない。
子供たちにそのような姿、見せられないからだ。
「Piii Pi? (マーマ。)」
雛の一匹が、私を呼んだ。
回想していて自分に構ってくれていないことに気が付いたようだ。
「koo…。(ゴメンね?)」
子供たちには優しい母鳥として口調を柔らかくすることに常日頃から着意している。
…トサカに来た時以外は。
トサカに来ると言っても雌にはそれはトサカは無いが、あくまで比喩だ。
彼はここにはいないけれど、
可愛い雛たちに囲まれて、私は今幸せだ。
そんな中、私たち一家の団欒を邪魔する不協和音が響き渡った。
「じ、自由だぁぁぁぁ。 これで自由だぁぁぁぁ。」
私が今生で手に入れた『力』で人間達の骨で作り上げた鎖に繋いでいた
人間が逃げ出そうとしていた。
見たところ手と口が真っ赤だ。
私見では自分で繋いでいた手を齧って抜け出したのだろう。
逆さに吊し上げておくと大体人間は死んでしまうので、
保存の為にも片手に鎖をつけていたのがまずかったのかもしれない。
次からはもっとしっかりしておこう。
人間は雛の一匹をまだ使える方の手で押しのけるようにして部屋から出ようとした。
無論、私の雛だからその程度で倒れ込んで大怪我するほどヤワじゃない。
それでもトサカに来ることには変わりない。
「kkkoooooouu!!!」
特に意味を持たない声を上げる。
その気に呼応して、
今まで食べてきた人間達の骨が繋がりだし鎖となり、
そして鋼鉄の鎖、炎の鎖、雷の鎖が地面、天井、壁から湧き出て人間を雁字搦めに縛る。
そのままさらに力を入れれば、
人間は焼け焦げるか、千切れ飛ぶ。
でもそんなことはしない。
突き飛ばされた雛、
彼との間に産まれた雛に付けようとした名前を付けたこの子に処分させる。
人間はまだ意識があるのか、
鳴き叫ぶが、そのまま屠殺する趣旨を違えるつもりは毛頭ない。
怒り狂いながらも、魂の吸収による強化の取り分はしっかり雛にあげる。
もう、雛と言うのも卒業だと本鳥は言うが、
甘えるのが大好きな時点で、
いや私が存命な時点でずっと私にとっては雛のままだ。
そんな慈愛を心に置きながらも、
それ以上に沸騰する怒りと憎悪で私は嘶く。
「KOOOKKEKKOKKOOOOO (首を刎ねておしまい。)」
因みに、アンバタリーは、
クリアリプルスでは妊娠、出産、育児のシンボルの1つであり、
よくその系統の雑誌に抽象化した絵として使われる。




