表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/271

外伝 湧迫潮山地の古竜

僕の名前はリーザ。ごく普通のカナヘビだ…った。

ふと冬眠から目が覚めると、少々変わった姿と高くなった知能を持って見知らぬ土地にいた。


少々短くなった上に、青みがかった尾。身体は湿り気を帯びて少し柔らかくなった気がする。

カナヘビにしては少々変わり種の気がするが、そういうこともあるだろう。

良く間違われることがあるんだが、僕達ニホンカナヘビをニホントカゲなんかと一緒にされては困る。

ニホンカナヘビはカナヘビで、ニホントカゲはスキンクの系統だ。


取り敢えず、やる事も無いので日向ぼっこをすることにした。

あー温かい。にっこーさいこー。今凄く生きてる気がする。

僕達爬虫類にとって日向ぼっこは4大欲求のひとつだ。

食欲、睡眠欲、性欲に並ぶ生存欲求。

それが日向ぼっこだ。


あんまりやりすぎると、太陽の光って結構強力なのできつくなるけれど、

その時は住処に戻ってのんびりしていればいい。


長くなった尻尾をくるくると回して弄んでいると、

他のカナヘビがやってきた。

まあ、僕のよく知っているカナヘビとは微妙に違うけれど、

どんなトカゲ下目かと言われると間違いなくカナヘビだ。

身体の7割以上を占める美しく長い尾。整ったはっきりとした鱗。

くっきりした穂線。カナヘビ的美少女の要素を見事に抑えている。

まさにに美少女だ。美少女に国境も蜥蜴種も関係ない。


「はじめまして。」


「はじめ…まして。」


何だか警戒されている気がしないでもないけれど、

それはおいおい何とかしておけばいいと思う。

取り敢えずは性成熟も発情期もまだだからそれまでに何とかなればいいや。


「僕はリーザ。しがないニホンカナヘビさ。」


「カナ…ヘビ?どうみてもニホントカゲだけど…。」


少しおとなしそうな態度とは裏腹に思ったことははっきり言う娘の様だ。

なんとなく、自分でもトカゲみたいな容姿になったとは思っていたけれど、

他爬虫類に言われるとそこはかとなく傷つく。


「君の名前は?」


「カナ。しがないニホントカゲです。」


カナ…。実にキュートでプリティーな名前だ。

それにカナヘビらしくて実にグッドな名前じゃないか。でもさ…。

おいおいおい、冗談だろ?ジョージ。

こんな可愛いカナヘビがトカゲな訳がない。

思わず会ったことも無いジョージという架空の友人に判断を委ねてしまいそうになるぐらいの衝撃だ。

……そんな現実逃避をしながらも、

この場所に来てこの姿になってから飛躍的に成長した知性が、

僕と同様に彼女も元々の種族とは別の種族の身体になってしまったのだろうと当たりを付ける。

うー賢すぎるこの知能が憎い。


「どうやら僕はカナヘビだったのがトカゲに、

君はトカゲだったのがカナヘビになってしまったらしい。」


「――そのようですね。あなたもカナヘビというには凄くカッコいい青色の尾をしてます。」



「それに、少しばかり頭がよくなった気がする。

カナはそんなことはない?」


「少しばかりはしないこともないですね。

今ならば2本足で歩く哺乳類位の知能ならば張り合えそうな気がします。」



「奇遇だね、僕もだ。」


そんな僕達のところにカマキリの様な何かがやってきた。

なんか明らかにカマキリより強そうだ。幼少の小型地上徘徊性爬虫類は成長すればエサになる、

カマキリ、ワラジムシ等に幼少の折には逆に捕食されてしまうこともよくある。

それでも女子(メス)にカッコいいところを見せようとするのは男子(オス)に生まれもったものの本能だから。


そんな気持ちで向かいかかったはいいものの、

恐ろしく強い敵に一瞬で尾が切断された。

…いや、確かに以前の場所の時に幼少の頃、カマキリに殺されかけたことあったけどさ。

カマキリってここまで強かったっけ?


見るからに幼虫らしさが出てる柔らかくて色素の薄いカマキリが、

腕を振っただけでその衝撃波で岩を砕きながら僕の尾を切断するなんて正直普通じゃない。

っていうか成虫サイズのカマキリでも風切り音が聞こえる程度じゃなかっただろうか?


もう一回カマキリが腕を振り上げた。

ヤバい、死ぬ。思わず目を閉じてしまった。

このときにヤモリとは違って目蓋があってよかったとかどうでもいいことを考えてしまう。

最後に考えたことは、よりにもよってかべちょろさんのことかよ。

……

…………

……………………

あれ?死んでない?

ふと目を開けると、カマキリがいた場所には代わりに青い光沢の無い、

細長いカナヘビの尻尾があった。

ふとその横を見るとカナがカマキリを押し倒している。


そこに羨ましいなんてのんきな感情は生まれない。

だってカナの下半身には美しい尻尾は無く、

尾を自切(パージ)した切断面がそこに在ったから。


形跡からすると、尾を振り回すと同時に自切して、それをカマキリにぶつけたと同時に、

突進を掛けたのだろう。

――ここで何とかしなければオスが廃る。


僕もカマキリに向かって全力で突進する。

…中途半端に切られた尾のせいで動きにくい。


更なる加速をするために、後ろ脚に力を込め跳躍。

更に、僅かに残っている尻尾を自切し、

それを足場にして蹴飛ばす様に2段階跳躍。


加えて、更に心臓に近い位置にある部分のほぼ付け根と言っていい部分を再び自切し、

先程同様に蹴り飛ばし3段階跳躍。今度はその方向は下方。

空から地面に自らを叩き付けるようにしてカマキリを狙う。


今までかつてない速度で突き進む身体。

このまま頭突きをすればカマキリにも大ダメージを与えられるだろう。

だがそれでは決定打になりえない。

身体の半分の尾を失って重さが無い、

しかもまだ幼いからだでは加速によるエネルギーだけでなく、重量によるエネルギーが足りない。

何かそれ以外のエネルギー加算方法を考えろ。


その為に僕はきっとこの高い知能を手に入れたはずなんだ。

極限に高まれ僕の知能。

極限に昂ぶれ僕の闘争本能。

有り得ないことを起こせ。

有り得るだろう限界をぶち壊せ。



「KKSSYYAAAAAAAAAAAAR!!」



絶対たる意思の発露に伴い漏れる咆哮。

その方向性に従うように、先程自切したはずの尾が先程以上の長さにまで急再生する。

尾の青いラインが燦然と耀き、細胞一つ一つが沸騰し隆起していくのが解かる。


僕はその身体を捩じる様に振り回して、

―――――――カマキリの首に思い切り叩き込んだ。




それから大体1年がたった。季節が一回巡りかかっているので間違いない。

今では僕とカナは番になっている。

カナは美女だからやたら他の爬虫類にモテたけれど、

僕は他のオスと争うことも無くカナと番になった。


大体この手のトカゲ科の婚姻はオス同士が競い合って、

勝ち残った個体をメスが選ぶのだけれど、

メスであるカナ自体が最初から僕を選んでくれていたので闘争の場さえなかったのだ。


カナのお腹の下には、僕達の仔が頭を隠す様にして甘えている。

まるで授乳する哺乳類の様だ。

でも、長すぎる青い尻尾がはみ出て、その分はカナの身体に絡めている。

仔達の中には、カナに似て尻尾が青くないものもいるけれど、

その仔はその代わりに尻尾がとてつもなく長い。

カナヘビ的美少女の素質は見事に引き継がれている。


ちなみに僕はカナヘビだった頃の影響で交尾の際にカナのお腹を噛んでしまったけれど、

カナのカナヘビの身体がそうさせるのか、それとも彼女自身の素質か、

割と嫌がったりはされなかったので番の営みの時にはいつもそうしている。

目立つ部分に着けるV字歯方(キス)マークは独占欲の証だ。



―――で、一つ気になったことがある。

カナと番になってからもう10回以上春を迎えたわけなんだけど、

トカゲってこんなに生きるものだったっけ?


僕達は実は地上徘徊性小動物ではないのかもしれない。

最近はもうあんまり覚えていない、向こうの世界にいた二足歩行哺乳類が小さくなったような奴らの言葉も覚えてしまった。

もしかしたら僕達が大きくなりすぎただけなのかもしれない。

時折、彼らが僕達の事を(エンシェント)(ドラゴン)と呼んでいるけれど、

僕達はごく普通に日向ぼっこをしたり、ご飯を食べたり、歩き回ったり、

家族と戯れたりするだけの爬虫類だ。そんな仰々しい物じゃない。


あっ、そろそろエサ取りの時間なのでここらへんで終わる。







その後、巨大な(エンシェント)(ドラゴン)が尻尾一打ちで大型モンスターを仕留める様子が観測されたという。

古竜


そう呼ばれている個体の本来の種族名は真蜥蜴(ジェヌインリザード)

炎を吐いたり雷撃を召喚したりするような奇想天外な事は行わず、

噛み付き、尻尾攻撃など極めて単純で原始的な攻撃を行う。

けれどその威力は強靭な肉体とその巨大さから折り紙つきとなっている。

とはいえ、普段は日向に当たってボーっとしていることが多い。

同じく古竜と呼ばれる源蜥蜴(プライマリーリザード)の個体と番であり、

その仔に関しては、基礎能力は高く固有特徴はあるものの、

ごく普通の蜥蜴系モンスターが産まれている様子。

種族名としての古竜は別種。


近隣のモンスター達。

風切(エアスラッシュ)蟷螂(マンティス)

鎌の腕を振るうと相手を切断する鎌鼬を発生させるカマキリのモンスター。

飛翔能力も高め。反面、能力面の内打たれ強さは低め。


風伐(エアブレイク)蟷螂(マンティス)

上記の進化系。乱暴に敵を叩き壊す規模の鎌鼬を発生させられるようになった、

成長すれば風のアーマーで敵の攻撃を弾き飛ばし防御力を上げられるようになる。


風斬(エアガッシュ)蟷螂(マンティス)

上記の進化系。その風の流れがさらに洗練されて、狙ったものだけを正確に、

しかも強力に切断できるようになった。風の防御で敵の攻撃を逸らすこともできる。


掃繕魚(クリーンフィッシュ)

他の生き物に近寄ってはその汚れなどを食みとる魚のモンスター。

極めて善良だが、後述の存在のせいで嫌われ者扱いを受けて喰われることもしばしば。


偽掃繕魚(ウロコハギウオ)

他の生き物に掃繕魚(クリーンフィッシュ)に似た姿で近づいては、

その生き物の鱗や毛を剥ぎ取って食う魚のモンスター。

極めて性悪だが、前述の存在のせいで警戒されずに獲物に近寄れることもしばしば。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ