外伝 華晶洞窟の鬼
この国は犯罪者に優しくない。
特別重罪にかけられた人間には、
例え殺してもいいという法律がある。
最初は犯罪抑止のいい法律だと思っていた。
実際、いい効果も生んでいた。
…そう思っていた。自分がそれに巻き込まれるまでは。
そのせいで、大量殺人犯の濡れ衣を着せられた私は見付け次第殺されてもいい人間になってしまった。
私を大量殺人犯にしたてあげたのは、売春を生業にする犯罪組織だ。
私を表に逃げ出せない人間にして、
閉じ込めて無償で身体を売らせる為に、あらぬ罪を着せられた。
そして私はある日逃げることを計画した。
犯罪者が効率よく忘れられる場所がある。
迷宮の中だ。
迷宮の中では、時の流れが遅いのは当然だ。
だから迷宮の中で時間を過ごし、人々に私が忘れられるのを待つのだ。
奴隷吸血鬼に遭遇した時は、
モンスターに出会った恐怖よりも、人に自分の存在がばれたかどうかを恐怖してしまった。
私はどうやら戦闘の才能があった…というか、
咄嗟に生物を殺すことに対する抵抗が先天的にか後天的にか欠けているようで、
奴隷吸血鬼の目に落ちていた尖ったものを突き刺して、
弱った所を吸血鬼の首筋に逆に咬みついて倒した。
それが私の初めての人型への殺人だった。
…思ったよりも大したことは無かった。
其れからも大食土竜を迷宮で死んだ冒険者の装備で襲ったり、
噛魚を肉で釣っては突き刺して食べたりした。
それからどれだけ経ったのだろう。
追われる身である私は自分以外の人間とはきょくりょくかかわらないように過ごしてきた。
長く人とかかわらない内に、自分の名前も人としての在りかたも忘れてしまった。
言葉もじゃっかん怪しいかも知れないが、おそらくは大丈夫かもしれない。
「お、鬼だっ。」
もはや、人間がほかくしやすい食料になってしまった私は、
人間達に鬼と呼ばれるようになってしまった。
今日もカップルを襲い、きょうふのあまり連れの男につきとばされた女を喰った。
中にふたごのあかんぼうがいて、とくしたきぶんだった。
こもりつづけていた。
みすぼらしいろうじんたちがやってきた。
そのかおはよくおぼえている。
忘れるものか。
例えおいていても、間違いなくかくしんできる。
私にぬれぎぬを被せたやつらどもだ。
もしかしたら、
あのような格好で、
ここに来ているということは、
そうせざるをえないのかもしれないりゆうがあるのかもしれないが、
そんなことは関係ない。
ーーー殺す。
この迷宮にこもりつづけていた。手にいれた力で殺し尽くしてやる。
復讐だ。1人も許してやるものか。
あの時に、人間の私は殺された。
命の罪は命をもって償わせてやる
「ク・ワ・レ・ロ」




