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外伝 スティリア・スカーレットの御付の調書 FILE 0

議会は荒れていた。

新国王となったジャズロックが急進的に様々な分野で改革を行い、

とりわけその中でも保安部の扱いと、それに反発する記者達とそこから宣伝をしてもらったり、

利権を得ている平民から選ばれた議員達は一握りの人間が権力を振るえる律務官の制度に反発していた。


そもそも王政というもの自体が一握りの人間が権力を振るうものであるし、

結局この議会も物事を決める為ではなく、王に申告する助言の場でしかない。

そのことに身分も弁えずに不満な者もいるようだが。



その平民出身で記者達と将来議会が国家の運営を決める、

民主主義という名の愚集政治を目指そうとしているグシューン議員が口を開いた。


「律務官の影響で、行き過ぎた正義が蔓延している。

実際にこんなことがあった。

赤い髪の少女が裏路地から血濡れの剣を持って出てきたのを見てどうしたんだと尋ねたら、

「レイプされそうだったので殺しました。」と言っていた。


私は聞いた、

何で命を奪うようなことをしたんだね。

まず話し合いで何とかすればよかったじゃないか。

そもそも女子供が武器を持って何とかしようと考える行動自体がいけない。

そう諭したのだが、


「…そうですか。

では今からあなたを本気で殺しに行きますのでどうか言葉で何とかしてみてください。

無理だと思うならそこに在る剣でどうぞ。

では――――――――行きます。」


そういってこの議員である私の喉に剣を突きつけてきたのだ。」



そう叫ぶ議員を新国王は笑っている。

いや、嗤っている。


「ははは、結構。実に結構だ。


皆の中に後ろめたいことがあって、

律務官を恐れるようなものはいるのか?


…ふむ、いないようだな。


ならば何も問題はないのでは?

これまで通り誠実に生きていれば何も恐れることはない。

それとも何か、やはり都合が悪い者でもいるのか?


グシューン議員、お前はどうだ?」



「い、いえ。」



「ではヤバッカ伯爵は?」


「いえ…、特には。」



「何も問題はないみたいだな。

ならばこれを持って可決とする。」


「お、お待ち下さい陛下。

些か権限を与えすぎでは?


自ら調査して、罪を決め、罰を下すなどと、

もし免罪があってはどうされるのですか?」


グシューン議員の様に隠れ反政府体制ではないが、

律務官がどうやら平民らしいと聞いたヤバッカ伯爵は、

お得意の平民嫌いが発動し、自分たち貴族、それも伯爵クラスの者が持っていない権限を、

役職があるとはいえ、一平民出身の、姿も独特の服で隠して正体不明の怪しいものが持つことを許せないのだ。

それに、王子であった頃に政治的に敵対していた王女が立ち上げたカルト組織とズブズブである彼にとっては、

あまり律務官に動かれては拙い。



そんなヤバッカ伯爵に新国王は言う。

「律務官が決めたことは、俺の決定でもある。

そうすれば何も問題は無かろう。

俺が、罪だと断定すれば、

免罪も何もそれは『絶対に』罪だろう?

この国の王である俺が定めることに何か異論でも?」



そう言われてはヤバッカ伯爵も黙るしかない。


「既に律務官の服装には使っているが、

シンボルはこの国と密接な関係にある漣の迷宮に生息する蒼き蝶と並んで正義の象徴である五首鶴(イツクビタヅ)を使う。」



王の断定によって議会は終了した。

所詮有象無象が頭を並べても天才の暇つぶしの思考にも劣る。

王は終始その態度を議会で示し続けた。





一方律務官もその絶対正義を控えることなく堂々と示し続けた。


特に少年犯罪についてはこれより長い時を犯罪者として過ごさせるよりは処分した方が健全と言う態度であり、

恩情という名の妥協を一切行わず、そして火刑を好むことから民衆にも恐れられていた。

薄い笑顔が上品な王妃の様になりなさいと女の子を持つ母親は教え、

悪い事をすると律務官が来るよと出来の悪い子を持つ親は教えていた。


実はその二人が同一人物であるという事を知るものは少ない。



そしてその王妃の女官である女性が、

律務官の腹心でもあるという事を知るものも同様に少ない。



―――――これは王子が王になると共に婚約を発表し、

律務官が王妃になる数年前の話である。








装飾コートと仮面という出立の律務官に部下が報告する。


「犯人は年下の友人の家に匿われているようです。」


「犯人の友人が匿ったか。

…少年だろうが、何だろうが関係ない。


死刑対象の匿ったことで同罪だ。

構わない。家を取り囲んで魔法で燃やし尽くせ。

家ごとだ。」




――――――――――――――――――――――――――――

SIDE FUTURE MAID FOR QUEEN      ~ある平民少女~



私の家は『平民』という言葉がよく似合う、

苦しいほど貧しくも、余るほど裕福でもないごく普通の家でした。


ただ一つ迷惑だったのは、

時折、父に金をせびったり、

弟に金を持ってくるように言っていた近所の悪餓鬼達でした。


性質の悪い犯罪者たちを恐れてその場で助けに来てくれる者もいませんでした。

悪餓鬼たちの兄貴分が逃げ回っていて逃げ込んだ家が保安部の人に丸焼きにされたようですが、

その兄貴分と悪餓鬼達はまだ死んではいません。



――何で知っているかですか?

「ここに匿え。逆らったら皆殺しだぞ。」

私の家にそう押入ってきたからです。



私はその少年にはまだ見つかっていなかったことと、

中等部に入ったばかりの私がちょうど出られる隙間が家にあったからです。

お父さんが不器用で治すたびに崩れて元通りになる、隙間風が冷たいあの穴が役立つとは思いませんでした。


お母さんは「保安部に相談するんだよ。間違っても律務官に言っちゃだめだよ。」

そう言っていたけれどよく解からない。律務官は保安部の人じゃなかったのかな?



逃げたはいいけれど私は助かっても家族が心配です。

1人で泣いていると赤い髪の真面目そうなお姉さんが私に「どうしたんだ。」と聞いてくれたので、

全てを話しました。

するとお姉さんは目を閉じて頷いた後私にこう言いました。


「力が無い正義が憎いか?

力がある悪が憎いか?


ならばこの私にその力を貸せ。

律務官の名において正義を遂行することを誓おう。

…私の正体は伏せておいてくれ。」



私は不思議と怖くない律務官の正体を知りました。

あの怖い仮面の中はこんな美人さんだったんだ、と。



再び1人で家に帰って、律務官に助けを求めたとお母さんに言いました。

するとお母さんはがっくりとして言いました。


「いいかい、リズ。難しかったかもしれないけれど、

律務官には罪を断定して、罰を執行する権限がある。

それは保安部には無くて律務官個人に与えられた権限なの。

つまり保安部に言って律務官の耳にそれが入らなければ、

私達の安全を確保した救出があったかもしれないけれど、

律務官がそれを知ったら私達も匿った同罪として家ごと焼かれるのよ。

このままだと皆焼き殺されちゃうよ。」


そんな…。あの少し厳しそうだけれど私の話を聞いてくれたお姉さんがそんな厳しい人な訳はない。

そんなわけない。

でも本当にそうだとしたらまだ死にたくない。


「死にたくないよぉ。」


震えながら声を出したのが悪かった。

折角お母さんは声を抑えて喋っていたのに。



「おぉ、女はババアだけかと思ったら若い女もいるじゃねーか。」



だから、見つかっちゃった。

どうしよう。せっかく隠れていたのに見つかっちゃった…。




そう怖がっているとお父さんがやってきて私の前で両手を広げた。

「この子に手を出させたりは絶対にさせない。」


お父さん、カッコいいけれどナイフを持った男の前でそれは無謀だよ。

そう思って、私が思い描く嫌な未来が現実となろうとしたとき、





押入った男たちだけが突如燃え出した。

次いでコートと仮面を付けたお姉さんが入ってきた。


「鎮火したら確保しろ。お前達も視界が塞がれた場所を知る術と、

遠隔攻撃手段は持っておけ。

正義は必ず勝つ。勝てなければそれは正義ではないのだ。」


部下にそのように言うお姉さんは、

先程とは全然違う冷たい雰囲気を纏っていて、

何処か先程の様に誠実な優しさを持っていた。

















数年後、

「お姉様ーーーー。

今日も凛々しくて私鼻血で出血死しそうです。

ええ、陛下にくれてやるには余りにも惜しいですが、

そのドレスきっと殿下もおほめになると思いますよ。

なんたって素材がいいですから。

きっと、陛下も思わず子作りに励みたくなるに違いありません。

私だったら間違いなくそうしますっっ。」


「そ、そうか。」


リズはレズに目覚め、スティリアは大変だったが、

律務官の腹心であるリズは、律務官同様姿特定できない服を着ており、

その無口にして律務官以上に冷静で冷徹だと言われる副官が実は面倒くさい系百合少女だという事を知るものは、

本人と被害者以外には誰もいない。

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