外伝 律務官スティリア・スカーレットの調書 FILE 0
正義って何ですか?
脆く儚いものですか?正しさと現実は違うと面倒もの扱いされるものですか?
悪って何ですか?
対処が難しいというだけで見過ごされるものですか?
私は赦さない。決して赦さない。
力を振るう悪も、―――――力無き正義も。
私、スティリア・スカーレットは
平民という言葉がぴったり似合う普通の家庭に生まれました。
敢えて言うのなら父親は幹部級でない保安部に所属していて、
当時は存在していた部署である少年課であったので、
周囲の評判は良かったですが、
決して楽な仕事でもなく、少年と言えども凶悪犯は凶悪犯。
更正の余地などない屑の割合は大人とそう変わりません。
少年というだけで更正の余地や未来があるなどという
自称人権派の記者達の影響を受けて動いた国民が面倒くさくなって以前の国王が作りだした悪法、
『未成年法』の為に罪を犯しても罰を軽くしたり観察処分のみでおとがめ無しに近い状態で解放されるというものでした。
実際、成人でないというだけで処刑されることも無く、
厚生施設に入った者達の再犯率は一般の善良な市民の犯罪率と比べて高いものです。
幼いころから始めた煙草をやめることは難しいでしょう。
それは体質的なことだけでなく、
幼いころから規範を護るモラルが欠如している人間に他者の為に更正する思考は持ちにくいからです。
現在『未成年法』が廃止されてから処刑される犯罪者は増えたと言われていますが、
それは、『未成年法』に保護されて処刑されなかった犯罪者数を数えていない記者達の悪質な誘導です。
記者達の悪質な誘導には、保安部による免罪による一般人の殺害をあげた直後で、
(実際に重犯罪を犯した者も数えた上の)保安部による殺害件数を声高々に水増しして叫ぶという事もありました。
免罪を肯定するわけでないですが、免罪で逮捕され処罰を受ける者のリスクと、
犯罪者であろう者を野放しにするリスクを比べれば明らかに後者の方が危険でしょう。
保安部は犯罪者を疑う過程で無防備になって撃たれるのも仕事なんて言う記者までいますから、
記者というのは正義を騙る屑集団ですね。
記者達は黙って、王国や陛下に都合がいい事だけを宣伝していれば皆が幸せになれるというのに。
話は戻りますが、私の父親は今は無い少年課という部署で、
平民の為れる仕事の中では栄誉ある仕事ですが、
決して安全で楽にお金が稼げる仕事ではなく、
少年課の理念に則って、少年たちを更正の為に捕縛したことを逆恨みされ、
所謂、『お礼参り』をされて家族ともども被害にあった人たちもいます。
―――――――――――――――――――――――――私の家もそうでした。
…あの悪夢の日は忘れません。
私が中等教育の卒業式の前日という事でいつもより早く半日で帰ると、
ドアを開けたと同時に後頭部を殴られました。
意識を失った私が目覚めた時、父親は何度も蹴り飛ばされ、
母と姉は髪を引っ張られながら犯され、弟は既に殺されていました。
意識を取り戻した私は痛みと恐怖で動けなくてただ震えていました。
年若い男達は父親に「おめーらに逮捕されたことが周りに知られたから仕事にも困った。
身一つでなれる冒険者なら何とかなると思ったけれど、
素行が悪いと普通以上に能力を実証しないと登録してもらえないから、
それもできなくて困っている。
別に登録しなくても迷宮には行けるけれど、
迷宮のエリアをクリアした時にもらえる報奨金とかも減額になるだろうがっ!!」と、
自分達が最初に捕えられる犯罪を作ったことを棚に上げて罵っていました。
そして少年と青年の間ぐらいの男たちは父親も動かなくなると、
「おい、死んじまったぞ。おい、起きろっつってんだろがっ、――――死んでやがる。」
「本当かよ。オレまだそんなに蹴れてないぞ。」
「そりゃ女ばっかヤってるからだろ?」
「まあそりゃそーだけどよー。で、どうする?」
「そりゃ、火でもつけとけばいいだろ。」
「証拠も残らないだろうからな。で、おっさんとガキ二人は死んだとして、
女たちは?」
「殺す? それとも縛って家ごと燃やす?」
「というか、着火剤にしねー?」
「さんせー。ってゆーかそれちょーあったまいーくねぇ?」
男達に母と姉は腹を蹴飛ばされて蹲っているところに油をかけられて火を付けられました。
もはや二人は抵抗するそぶりも見せません。家族を殺されて尊厳を奪い尽くされて生きる気力もなく、
この悪夢が終わるのならそれもよいと思っていたのでしょう。
それは私も同じでした。平穏な幸せが悪夢に変わった今、
この悪夢が終わるのならすべてここで何もかもが終わればいいと思っていました。
私の視界の中で二人は抱き合ったまま松明になり、火は家の中に広がっていきました。
男たちは、
「よっし燃えた。」
「そろそろけーろーか。」
「やっべー、まじやっべー。」
そう言いながら去って行き、私もこのまま焼け死のうかと思っていたところで保安部の人たちがやってきました。
「君、大丈夫か!! 他の家族の人たちは?」
そう聞いてきたので、
「この家に生きている人はもう誰1人もいない。
それより犯人を殺しに行って。
私の事よりも、早くあの男達を殺して…。」
私を保護する為に残った女性の保安部の人を残して、
残りの人たちは危険人物を処分するために走っていきました。
暫くするとどなたかがやってきました。
その人物を見た途端、私に構っていた保安部の人は立ち上がり敬礼をしました。
「殿下自ら視察とは思わず何の準備もしておらずすみません。」
「いい、それで状況は?」
「犯罪者は現在逃亡中。
隊を3つに分けて、追跡班、消化班、そして私一人ですが保護班として行動中です。」
「解かった。彼女と話がしたい、いいかな。」
「どうぞ。」
そういうと、私を保護していた保安部の女性は去って行った。
代わりに殿下と呼ばれた人物が私に向かってこう言った。
「保安部は頑張ってはくれているが、
犯人が無事捕獲され処刑されるかどうかは確定とは言えない。
法を護る者であるならば、強くなければならない。
けれどその力がまだ足りない。
力ある悪が憎いか? 力なき正義が憎いか?
その憎悪が力になるのなら、
―――――――――――――――僕の理想に力を貸してほしい。」
「私が…力に、なれるんですか…?」
「なれる。
君がそう望めば。」
後に王国の法務執行機関最高幹部である初代律務官になる私、
紅蓮の死神、スティリア・スカーレットの始まりでした。