外伝 サンケミウリ・レポート少年の事件簿 11
迷宮を出た後そのまま次に僕が入り直したエリアは『流水氷洞』だった。
先程の『海』のエリア同様、最初の部分だけが陸地で後は水なのでその陸地だけを見て帰ることにする。
このエリアは、急な冷水に流されて氷の迷路の中を上手く流されながら出口を目指すエリアなんだけれど、
比較的簡単な攻略法がある。
ボスと戦う必要もないかもしれない方法だ。
このエリアは要するに急流の流れに身を任せれば何とかなるので、
取り敢えず水中での呼吸手段を確保して、重装備の防御に身を固めて、
それも身体を丸めると球体になる様な装備を選んでおくとスムーズに流される上に、
流されている間にモンスターの攻撃を受け流しやすい。
硬くて、丸くて、重くて、回転していれば、寧ろ攻撃にすらなりえる場合もある。
…目が凄く回るらしいけれど。
でも、このエリアは運が良ければ戦闘という容にはなることなくクリアできる可能性も残されているので、
エリアを1つでも踏破した者に与えられる報奨金目当てに挑む者も多い。
けれど、問題があって、運よく出口の様な所へ行ったにも拘らず、
何故か最初の水の中に飛び込むところにある滝の上に出てしまったと皆、口を揃えて言う。
恐らく本物の出口は別にあるのだろう。
ベテラン勢で1人、流されている途中、偶然鎧が引っかかって別の所に運ばれる感覚の後、
いつもとは違う通路を流れて、別のエリアに辿り着いたという人がいたけれど、
その通路がどこだったかは覚えていないらしい。
恐らくそこが真の出口だろう。
…彼はもう一度その通路を探すべく挑戦したらしいけれど、
結局帰ってはこなかった。
彼が身に着けていた物だけが滝の上から流れてきたらしい。
他にも、このエリアも幾つか別のエリアも踏破したんだと主張する男の人もいたけれど、
彼は昔から虚言癖があるという事で、誰にも信じてはもらえなかった。
余りにも騒ぎすぎたので、迷宮の階層を踏破したとクリアの報奨金欲しさに動乱罪を起こしたとして、
彼が真実を言っているか王宮で検証を行うとなって連れて行かれて以来彼は帰ってきていない。
彼の周りにだけモンスターやトラップが発生せず、
進んでいくだけでクリアできたなんてあまりにも嘘くさいのは確かなんだけれど。
実際、彼が話した深部の地形情報の内、幾つかは実際に確認された部分もあったらしい。
彼がもしかしたら本当のことを言っている可能性もあるんだ。
でも必ずしも『真実』と『事実』は一致しない。
例えそれが『事実』でも、周りに納得してもらえなければそれは『真実』にはなりえない。
だからボク達は常日頃から発言力を増すように努力している。
彼は普段から嘘ばかりついていて、
挙句に他の人たちが逸れこそ命がけで挑んでも1つの階層もクリアできない迷宮を、
歩いたり流されたりしただけでクリアできたなんてことは、
証拠も無ければ、周りの人たちが信じたくなるような要素も無い。
仮に彼が言っていることが事実だったとしても。
けれど、王家が迷宮の魔王とつるんでいて、
魔王を倒せる可能性がある英雄を免罪ででっち上げで吊るして処罰したんだという兄の意見も妄想のし過ぎだと思う。
まあ兄は国家を悪者にしたいだけだからね。
このエリアは、出現するモンスター的には、最初の陸地の所が一番危ないので、
本来なら逃げるようにして急いで流れる水の中に跳び込まなければいけない。
だから僕が今しようとしているような陸地の周辺を探してもう一度入口に戻るという行為は非常に危険なのだ。
『湧迫潮山地』にもいるモンスター深威音発獣の不安をあおる様な鳴き声をBGMに、
各ボスクラスモンスターの注意を惹きつけないように気を付けながら、
尚且つ見つかった場合でも他のモンスターに注意を惹きつけるようにして同士討ちを狙わせるような方法を取りながら逃げる。
其れでもモンスター達の注意を惹きつけてしまったときは今まさにこの状況の様に、
植物モンスター発光大葉子の粉末を水と反応させるアイテムを使って放り投げる。
効果が始まると同時に急速に膨らんで光りだす発光大葉子の粉末は、
今まさに僕からモンスターの視線を奪い独り占めにして、サンドバッグにされたり、石化させられていたりする。
後は高山エリアや、転境回廊で出現するモンスターで、
ふわふわした綿でできた鞘のような先端を持った植物モンスター、
槍穂綿菅から作られる武器やアイテムが、
非常に他のモンスターを惹きつけることができるので、今回はそれも投げ飛ばして逃げる。
ネコ系や獅子系のモンスターなどには酷く有効だけれど、
他のモンスターにも有効だったりする。
まあ、元々の槍穂綿菅自体を巣の材料にするモンスターもいるし、
槍穂綿菅はモンスター受けする根っからのゆるふわ系愛されボディ体質なんだろう。
結局、またジーナルストお姉ちゃんのメモ書きが落ちていたからそれを拾ったけれど、
肝心のお姉ちゃん自体はいなかったので、全力で帰ろうとすると、
この陸地付近におけるザコ的扱いになる愛殺坊が襲ってきたので急いで逃げ、
その逃げる進路上にいた音を出す以外には時間が掛かる攻撃しかない深威音発獣を蹴飛ばして水の中に落とし、
もがいて何とか陸地に戻ろうとする所を後ろから伸びてきた鞘蛸の触手に掴まるところを横目に見つつ、
急いでこのエリアを脱出して、猛筋肉痛も精神もいろいろキツイので今日はここで帰ることにした。
家に帰った僕は自室でお姉ちゃんのメモに目を通すことにした。
思わずそれを見て僕は背筋が凍ってしまった。
メモのインクの様子からして非常に新しい字でこう書いてあった。
「親愛なる私の従弟へ、
最近、カメイラキャノンを使ってないですね。
できればもっと使って下さい。
私を探して迷宮の中を走り回っているそうですね。
後はあなたが調べていないエリアは少しぐらいだと思います。
そこで、私は待ってます。
ジーナルスト・レポートより。」