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外伝 サンケミウリ・レポート少年の事件簿 8

まあ、今更な話なんだけど漣の迷宮の各エリアには、

攻略難易度が高い所もあれば低い所もある。


今回はどちらかと言えば結構低めの温泉エリアに行くことにする。

この温泉エリアにはその名の通り温泉がいっぱいある。

勿論この温泉の中に生息するモンスターもいるので、

無防備に裸一貫でお湯の中に無計画に飛び込むことは推奨しない。

その中でも特に不透明で底が見えないお湯は要注意だ。

中にモンスターが待ち構えていることがままあるからね。


けれど温泉の中に比較的安全に入る方法がある。

取り敢えず電気系の強力な魔法を温泉の中にぶちまける事。

これで大体安全を確認することができるみたい。

…勿論、他の人が入っている温泉にぶちまけてはいけない。

後、電気属性のモンスターもいないわけではないし、

他の温泉と底で繋がっていて無力化したその後に繋がっている温泉からモンスターが流れ込んでくる事もあるので、

くれぐれも念入りに。



けれどこれほどの温泉をわざわざ指を咥えて見過ごすことをしたくないという人もいるようで、

そういう人たちの為にモンスターの排除を行った臨時的に安全な温泉を提供する商売人もいるみたい。

そして大体が電気属性の高位魔法使いだったり、彼らを連れた商人だったりする。

底があまり深くなく、電気を流しやすいお湯に対しては非常に電気属性が有効で、

このエリアにおいてはモンスターを倒して成長や素材集めには非常に便利な属性だ。


他にもこのエリアに存在する植物、炭酸草(サイダーリーフ)の葉は、

粉末にして乾燥させた後水に溶かすと発泡して、

美容パックにも、酒草(さけくさ)の葉や実と水につけて寝かせたりして、

泡立つお酒に為ったりする。

現状は炭酸草(サイダーリーフ)荒鬼紫陽花(アラブリサイ)八仙花(マタブリグサ)

その他のアジサイ系モンスターの群生地と生息が重なっているので、

炭酸草(サイダーリーフ)を手に入れるために倒す必要がある、

アジサイ系の弱点である、乾燥剤系アイテムをばら撒くと近寄ってこなくなったり、

動きが鈍くなる。

また、アジサイ系モンスターの葉は、毒物を含んでいることが多いが、

上手く解毒すれば甘い嗜好品にもなりえるみたい。

温泉エリアは武器系アイテムはあまり多くない代わりに、

他にも多くの嗜好品になりえるアイテムが多くある。


ちなみに、このエリア女性にも人気で、

……当然彼女たちを狙った所謂ワニと呼ばれるような変態や、

ギャグにもならない覗きという犯罪行為を行う人たちも存在する。

というか、このエリアに訪れる男性冒険者が多いのは、

『偶然』に美女の入浴を『つい』視界に入れてしまうという期待を持つ者や、

強引に押し切れば同位だとかいう犯罪すれすれアウトの者、

そして無防備なら襲いやすいとか、つい咄嗟にやってしまったと言おうと計画を練るものも多い。

中には、温泉業者に扮した性犯罪者がいたという話もある。


稀に見せるのが性癖という女の人もいて、

露出魔の隠れ場所としても機能しているみたい。


ちなみに、このエリアに存在する代表的なモンスターの一種、

温泉鰐(オンセンワニ)は、獲物を見つけると暫く獲物をじっと眺めている。

その様子から混浴温泉に入って女性の身体をじっと見つめる男の事をワニというらしい。




…ちなみに決してボクはそう言うハプニングを期待してこのエリアに来たわけじゃないよ?

ジーナルストお姉ちゃんの捜索と日頃の疲れを癒しに…、

ごめん、やっぱり嘘つきました。

折角の温泉回、期待していないと言えば嘘になるかな。






このエリアに入るといつもの様に中年の男の人たちがたくさんいる。

何時もならこの男たちは稀にいる若い女の人がどこの温泉に入りに行くのか、

こっそり目線や、見えなくなったら偶然を装いながらその方向に歩いて行って探しに行って、

「いやあ、ぐうぜんですなあ。」

なんて言ったりするのだろうけれど、

今回は様子が変だ。


男の人たちがしぶしぶと背中を丸めて名残惜しそうに帰っている。

何故かと思って聞き込みをしていると、

「律務官が来て、風紀の粛清を始めたんだ。

古き良き見ず知らずの女の子と裸の付き合いをする混浴文化を、

女性が嫌がるなら許すべきでない。

もしそれを破るなら罪として罰を下す。だとよ。」


…思ったよりもまともな理由だった。

というか、律務官は過激だけれど基本的には理があることを言う。

こう書くと、その律務官に目を付けられているボク達は理も無い反社会勢力の様な扱いになってしまうのではないかと思うけれど、

あくまでそうじゃないと言いたい。



で、その律務官に脅えてボクは今日は帰ることにした――――――訳ではなく、

律務官とその隷下の保安部が帰るまで隠れてやり過ごした。

今日のボクは違う?

そりゃそうさ。だって今日はボクは温泉にいるんだから。

男の子的にも俄然気合が入る。



律務官をやり過ごした後、暫らく辺りをモンスターに警戒しながら歩くことにした。

基本的には温泉の中に多くのモンスターがいるので、

温泉の淵に近づかないようにすれば、比較的安全に探索ができる。



すると何だか騒がしい声が聞こえてきたのでそちらに行ってみると、

なにやら若い男たちが集まっていた。

あれは……超自由會と名乗っている、アウトローグループだ。

一体何を…その検討を付けながら話している声を聞くと、


「ねえ、彼女。俺達と一緒に温泉はいろーぜ?

お酒も用意させてあるし、退屈なんかさせねーって。」


どうやら、大人数で囲んで女性に口説いて…というより詰め寄っているようだ。

ボクも見ているだけでプレッシャーがあるけれど、

もしかしたらお姉ちゃんがそこにいる可能性も無くはない。


ボクが見ている前でお姉ちゃんが此奴らの毒牙に掛かるのを見たくはない。

だからボクはカメイラキャノンを構えて、

隙を見て連射しながら男たちに囲まれて中心にいる女性を助けようかと考えていた時、

偶然人ごみが動いて中にいる女性が見えた。




透明感あふれる澄んだ白い肌。

温泉から今出たばかりの様な淑やかな黒髪。

まさしく神の如きの美を語っても罪に問われないであろう容姿…。



…危ない。

いや、女性じゃなくてここにいる女性以外すべての生命が。

その人は危険だ。ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。


その女性は可愛らしく両手で前に持ったバッグを前方の男に左から横降りに振り回す。

しかしその相手の男はタイミングを見て身体を反って躱した。

けれど女性はバッグに振り回されたように勢いを利用してそのまま回転しながら地を蹴り飛び掛かり、

左足と右足で男の首を挟み込み地面に叩き付けた。



そして近くにいた別の男の頭を掴んでは地面に押し付ける様に叩き付け、

それと同時に挟み込むように地面から伸びてきた巨大な氷の針に男の頭を突き刺して、

―――――――――――――――――嗤った。



「風呂掃除の時間としよう。」



次々と恐慌状態が伝わり、男たちは逃げ出そうとし始める者達もいたけれど、

ボクの手前くらいから周囲に女性と男たちを囲む檻の様に氷の壁が張り巡らされ、

中からは男たちの怒声と悲鳴と、そして断末魔が響き渡った。



そして数秒だか、数分か、それとも数時間かわからない時間の経過の後、

急に周囲を囲んでいた氷の壁が砕け、その中には、

当たりに倒れ伏した男たちと、その中央に佇む女性がいた。


「覗きとか、そう言う人種は嫌いなんだ。」



鈴が鳴るような声でそう言う女性は、

やはり今回もボクに気が付いていたのだろう。

けれど、逃げようにも圧倒的な存在の格差の為か足が動けない。

気持ちを落ち着かして何とか逃げようとしたけれど今度はいつの間にか靴が凍って地面につなぎとめられている。

―――やっぱり気づかれていた。



「この階層での成長にも糧が必要か。」


此方を一瞬見た後、よく解からないことを言っている。

どうしよう、殺される。

そうパニックになって思っていた時、靴の裏にあった氷が砕けた。

周囲を見るといつの間にか女性の姿も無かった。



そこで意外なことに死んではおらず、何とか今のところギリギリで生きている超自由會の男たちの悲鳴にようやく気が付いた。

「助けてくれぇ。」


「死にたくないよぉ。」


そんな声が木霊している。

助けようか? それとも助けてお前が遅かったせいで後遺症が残ったと逆恨みされたらどうしようか?

そもそもあの女性の怒りを買うことにはならないだろうか?


そう考えているうちにボクはあることに気が付きその場を急いで逃げることにしたのだ。

だって、男たちの血の匂いと悲鳴につられて大量の温泉鰐(オンセンワニ)や他のモンスター。

そしてそのモンスター達をも狙う他の大型モンスター達も集まってきていた。


「たすけたすけ…たすけ。」


もはや言葉にならない悲鳴を上げる声も背後から多く聞こえる中、

ボクは急いでこのエリアを去ることにした。

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