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最終話一歩前 遥さんと摂理の迷宮²

全ての必要な要素(ピース)は揃えた。

後はそれを組み立てて勝利の完成形を描くだけだ。


「神判の時は来たれり、世界は終末を迎えん。

摂理、行こうか。

―――――――――全てを終わらせに。」


「はい、遥さん。

私達の新しい始まりの為に。

――――――――――超距離(ディメンション)転移(テレポート)


向かう先はただ一つ。神の住まう処(てんごく)だ。










「来たか姫宮遥、それに摂理よ。」


「ええ、お邪魔しますね。それにしても、

神域の家主(かみさま)自らお出迎えとは身に余る光栄だね。」



「ふん、そのような事微塵も思っていないくせにな。」

よくお分かりで。僕にとって光栄であることは、

お前が今、お母様の容を模って僕を迎えてくれていることだけに過ぎない。


「もう逃げることを止めた。全てを終わらせに来たんだ。」



「自殺か。」


「まさか?ただの殺神(さつじん)予告だよ。」



「ヒト如きが。この我に?」


「…僕をただのヒトだと思っていないから手を出してくれてたんじゃないのかな?

―――――――敢えて、乗り越えられる障害を。」



「どのような事をしたとしても結局は仮定選択(きょうせい)未来干渉(バッドエンドルート)があるからな。」


「なぜ最初からやらなかった?」



「お前にだってわかるだろう。愉悦だよ。

我はお膳立てされた試練により力を付けて勝てると思っていた相手が滅びるのが好きなのだ。」

奇遇だね、僕もだ。

流石同じ迷宮主(せかいのしはいしゃ)。気が合うのかもしれない。


「ところでさ、最初『敢えて』摂理に色々と必要以上の情報を与えさせたのは君だよね?」



「はっ遥さんっ。私は…。」

大丈夫だ摂理。僕は君を責める事なんて寝所以外ではないさ。

君を責めているわけじゃない。むしろそのお蔭でここまでこれたんだ。感謝しているよ。



「ああ、そうだ姫宮遥。知識情報があればお前は勝利への道へ辿り着くことができるだろう。

…そんな勝ち目を見せておいて、

それが絶対の敗北に向かう砂上の楼閣だと最後に明かし、

悔しがる様を見たかった。希望を見せて歩かせて絶望の落とし穴に叩き込む。

希望が無ければ人は歩かないし、絶望が無ければ落とせない。

パンドラの匣の最大の災厄は何か分かるか?『希望』だ。

そしてその様を眺めることはが溜飲が下がる思いだ。


最初、この世界にお前を引き込むことを考えたのは偶然だった。

創世の当初、世界の構築に必要なソースを使いすぎて、世界のメモリが圧迫され処理落ちしかけている状態だった

このままではいずれフリーズする。

召喚システムは本来、絶望に駆られた民衆に英雄(きぼう)にすがらせて纏め上げ、

打倒されるべき(ぜつぼう)が必要だった。それがこの世界の魔王(ダンジョンマスター)だ。

だが、外から呼びこまれる贄は、調整だけでなく、この世界にとっての贄としても有益だった。

だから、我は準備を整えた後、いずれ発生するかもしれぬ、

『傲慢』(スペルヴィア)の血族が力を付ける前にお前を呼び込んだのだ。

今ここで打倒して二度と悩むことの無いように、

慢心しているくらいでちょうどいいと、他の魔王共から言われる盟主をここで、

二度とこの世界には呼びこまぬように、その存在にこの世界で勝利したという結果を残す為に。

もはや、我は負けぬ。崩れる橋を自惚れて渡りそこに落ちるのはお前達だけだ。」



そうか、それは残念だったね。

崩れる橋も崩れる前に走り抜けたり、補強したり、

その近くに別の橋を設けたりすれば向こう側に渡れるんだ。

人は人を救えないし、神は人を救わない。

自分を救うのは自分自身だけ。

この世界には希望も幸運もない。

あるのは絶望と諦めだけた。そんなことは僕も知っている。

しかし僕が僕を殺そうとしたもの達に期待していたように、

もしその上で、前へ歩き、上へ飛ぶことができるのなら、

きっとその者は王の舞台へ立つ資格があるのだと思う。



「で? 僕に勝利する光景は掴めたかな?」


「はっ、愚かだな。お前はこの母親の姿である我を害することなどできない。」




「…そうだね。その通りだ。

『お母様に僕は勝つことはできない』。」



僕がそう告げると同時に、神が気取っていたお母様の姿は解けるように消えていく。

そこに在るのは容の無い球体だった。

敢えて言うのなら、『星』かもしれない。





「なっ、何が起こった!? どうなっているんだ。」




「…ありとあらゆる存在が君の干渉対象に当たる。

例えば、パソコンの中にあるデータが検索できるように。

けれど、その支配下に無いものまでは干渉しえない。」


「どういうことだ。この世界にある以上全てのものが我の管轄だ。

そのはずだっ!!」



「それって『バグ』も? 違うよね。

摂理、『バグ』の定義を。」


「この世界のシステムを構築するにあたってどうしても矛盾が発生します。

その矛盾が大きければ大きいほど『矛盾』が発生し、その矛盾が『バグ』を生み出します。

そしてバグに触れたものは区別なく取り組まれます。

そして通常、矮小な存在は(・・・・・・)膨大な分母の1に成り果てます。」


そう。つまり『バグ』だけは全知全能の(システム)の知るところではない。





「つまり―――――――

バグ、イレギュラーであるこの身は選択の対象にならない。」

相手の敗北ではなく、自身の勝利を求めるべきだったね。

そして、


「摂理、僕とデュカリスの関係は?」



「姫宮遥の異世界同位体であるデュカリス=スペルヴィアは、

この世界の創世神アクエリアスが本来存在していた世界においても、

脅威を振るっていた桁外れの存在力と意志力を持つ最強最悪の魔王。

そして、遥さんとは、

血で結ばれ、

意思で結ばれ、

存在で結ばれ、

『リンク』という他方が強化されれば片方も強化され、

他方が死ねば片方も死ぬ存在の共有を行うシステム上でも結ばれています。」



その通りだ。

「説明ありがとう、摂理。」




リンク、それは存在の共有。

他方が強化されれば片方も強化され、

他方が死ねば片方も死ぬ。


僕はバグと混ざり消え去り、

しかし同時にここに存在しているという矛盾。

その決定的な矛盾が更に世界(システム)にエラーを引き起こす。

すなわち、存在しているはずの僕にさえ管轄の対象にできず、

干渉することが感染の危険を生む。



「だ、だからといって、『完全』である我は、

何者にも穢されず、

何者にも傷つけられず、

何者にも乏しめられない。

たかだか、悪魔(バグ)如きに(システム)が滅ぼされるなど――――」


そう、まさに君が言っていることはこの上なく正しい。

けれど正しいだけでは勝ちえない。

勝つのは、―――――――――――――――いつだって強い方だ。

「『完全』な存在である君は、

何者にも穢されず、

何者にも傷つけられず、

何者にも乏しめられない。


たしかそうだったね。

――――バグによって『不完全』になっていなければ。」


「ど、どういうことだ。」



「解かっているんだよね? 既に。

ただ、どうしようもなく認めたくないだけで。」



僕の影響を受けたことで君は『バグ』に感染した。

その証拠にお母様の姿が維持できなくなった。

「僕の影響を受けたことで君は『悪意(バグ)』に感染した。」



悪魔(バグ)(システム)になり替わるつもりか。

そんなことは不可能だ。

悪魔(バグ)(システム)あってこその悪魔(バグ)

(システム)がなくては存在もできぬ。」



それも君の言うとおりだ。

実に全く退屈なほど正論だ。


「安心してくれ、君にはこれまで通り世界の役割をしてもらう。

僕が成り替わるつもりは無い。

僕は完全であるがゆえに不自由な存在になるのは御免だからね。

奪うものと奪われるものを傍観するものになるのではなく、

奪い続けるもので僕はあり続けたい。

第一に世界(きみ)は既に(デュカリス)に侵されている。

この世界の支配権は彼女(ぼく)が死んだあの瞬間に決まっていたのだよ。」





僕が覚悟を決めたあの時、僕は僕自身(かのじょ)に聞いた。

「もし、絶対に勝ち目がない様なシステムがあった場合、

対処方法は一つだけだ。


システム上絶対に勝てないというのなら、

そのシステムを破壊する。

予期しない行動を取ってバグらせる。

それしかない。


そのときは、

デュカリス、(きみ)は死んでくれるかい?」


僕の問いに彼女は無言で肯定した。

魔王(ぼくたち)』の勝利を掴むために。










「くっ、だがまだお前の勝利だと決まったわけではないだろう姫宮遥(デュカリス)

また、また傲慢の魔王(おまえたち)に負けるわけにはいかない。

今度こそっ、今度こそっっ――――――――――――――――――」



「正直王手だよね?感染して隠蔽して増殖するウィルスに掛かって駆除が出来なくなった時点で。

このまま、世界と共にバグりきって終わるつもりかな?

それならドローゲームだよね。

…けれど勝手に動き回られたり、

その力に作用しようとするものが現れても邪魔だから、

封印はさせてもらう。

どちらにしろ時間の経過によってバグの感染によって緩やかに死に向かうんだ。

凍結されていた方がマシだろう?」


これはルリの権能だ。

彼女の持つ封印の力はこのために非常に有益だった。

封印による精神返し。

肉体を失った、いや、肉体の無い状態に戻った神はただの情報体でしかない。

情報体は一般的に脆い。

肉体を持つものは精神的なダメージの影響は受けるものの、

肉体と精神のダメージカウントは別口だ。

肉体を持たないものは精神的な情報損傷が直接的に存在を損耗させる。



でもその前に1つだけ。


摂理の本来の権能を返してもらおう。

「摂理、『返して』貰うんだ。」


「はい。

栄光ある至高神にして愚かな敗北者アクエリアスよ。

汝にある我が権能を―――――――――――『回収』する。」



『摂理』。その名の意味は世界の秩序。

言い換えれば法則(ルール)

つまり、神の代行者。

新たなる世界の秩序を作るもの。

即ち、新たなる創世の女神。


「や、止めろ。何を、一体何をするつもりだ。」


「…些細な事です。

私が遥さんの御役に立てるように運命を作りたい。

例えどんな過去でも、例えどんな未来でも。

だから願いもそれでいいんです。

私の願いは、


―――――――――――『私達はここにいる』。」


「止めろ、収束の確定をするつもりかっ。」



ははは、これは愉快だ。

実にいい愉悦だ。

摂理、君はなんて凄いことを言っているのかわかってないんだろうね。

いや、新たなる創世神様からすればそれも凄い事ではないのかな。

「諦めて眠りに着けばいいよカミサマ。

向こうの僕が下手をすれば永眠していたのかもしれないのだからお相子だよね?


『システム』の頂点である摂理と『バグ』の頂点である僕にもはや勝利以外の道など無い。

では―――――おやすみなさい。」





「またしても、またしてもお前達(・・・)にっ!!

畜生、畜生、このアクエリアスが、

又してもお前達(バグ)に、この恨み、絶対に忘れんぞーーーーーーっっ!!」


安らかな眠り、とは言えないね。






「さて摂理、そろそろ帰ろうか。」

全てを片付けたらやりたいと思っていたこともあるしね。


「はい、遥さん。」



「じゃあ帰ろうか摂理。僕達の迷宮(いえ)へ。」

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