第145話 …僕が嫌われるわけなんてないだろう?(白目)
架空術式、――――――――魂術、悪帝祓、存在。
そう告げた為果月の周囲に渦巻く力が一気に変質した。
決して先程まで為果月が見せていた力強さも、先程まで如月が見せていた澄み切った高効率さも其処には無い。
あるのはただ、ただ圧倒的な力の循環速度。
これが、悪帝祓、存在…。
先程、本来モンスターの最上位種が振るう一種の暴力を人の身に宿して行使した反動が来ている。
もはや力はない。
さて、どうする姫宮遥。
この不利を覆す力を振り絞れ。策を考えろ。
自分の油断が与えた敵のチャンスで斃れるなんて何とも敵のボスの様で情けないじゃないか。
「仕方ないですね。」
摂理?
「遥さんがあまりにもカッコ悪いので、
ここで私は逃げることにします。」
何を言っているんだ?
いや、そんなふうに愛想が付かされてもおかしくないことは何度もしてきた。
当然と言えば当然か…。
「最後に、私の活力だけは渡しておきますね。
熱い戦闘も疲れたので、少し涼んできます。
それでは。」
捧力術式。
そんな摂理の声が聞こえた後、
摂理は如月を無視してこの階層を去っていった。
流石にこの状況は誰も想定しなかったのか、
如月も為果月も、勿論僕も含めて一瞬止まってしまった。
為果月はともかく、如月辺りは実際のところ、罠だと怪しんでいるかもしれないが、
絶対に殺したい敵は僕だけなので、最優先対象が殺しやすくなったと結局それでいいという判断なのだろう。
「…同情されたかったら、されるような人生を歩んでくるべきだったわね。」
「哀れな末路です。」
狐たちが何を言っているか正直どうでもいい。
活力は元に戻った。魔力も体力も問題ないけれどそれもどうでもいい。
熱い戦闘…先程からほぼ冷気ばかりを扱っている僕には涼しいくらいだ。
……?
少し涼んでくる……今は夏だから外が夜だったとしても熱いのではないだろうか。
……?
……。
…………。
今、このハイストでいつだって寒いところがあるじゃないか。
ああ、そういうことか。
本気で見捨てられたのかと驚いて肝が冷えた。
摂理には僕まで騙されていたという事は絶対に隠しておこう。
「まあ、いいさ。
足手纏いがいなくなって、しかもおもちゃがもう一つ増えた。
僕としては今大変都合がいい。」
「強がりを。」
「こんな惨めな敵に睦月は倒されたのね。」
「強がりかどうか、試してみるといい。」
恐らく一時的にだけれど、天使の力がこの身には宿っている。
術式無制限。無詠唱。使用負荷軽減。
摂理の術式に僕のデュカリシアの力を重ねる。
「真実に気がつけないほどイライラしているのか。
少し頭でも冷やせばいいさ。
ーーーーーーーー天堕滝。」
「何っ!?この水の量、尋常じゃない。」
「先程逃げた女の技ね。…そういうこと。
為果月、敵は私たちと似たようなことをしているの。
今逃げた女は恐らく、自分で用無しになったと気が付いたから虚を作って離脱したのね。
この敵が嫌われ者そうな性格をしていることを利用したいい手だと敵ながら称賛するわ。」
「御名答。」
敢えて言わなくてもいいけれど、
今回ばかりは知っていましたアピールがしたくて仕方がない。
「天堕滝。」
「くっっ。」
「何て量なの。」
1回、2回で終わると思わないでくれよ?
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
「天堕滝。」
何度も同じ術式を放ち続ける。
既に水浸しという規模ではない。
足場に池が出来ている。
その池の水を基盤として氷の蛇を作りだしては狐たちに喰らい付かせる。
…中々当たらないようだけれどね。
時間稼ぎをするもよし。
上手く当たって嬲り殺しにするもよし。
摂理が間に合わない可能性?
僕の摂理がそんな失敗をするわけがないだろう?