第136話 やることないんだからやるしかないよね。
ハイストの着物。
ドライスコッチのKIMONOとは全然違う本物の着物を着る摂理は清楚であり艶かしく美しい。
…決して着物がスレンダーな女性に合うというだけの理由では無い事はここに明記しておく。
「…今何か凄く失礼な気配があったのですが、遥さんはどうでした?」
…鋭いな。
「気のせいだよ。きっと西洋人の摂理が美しく和服を着こなしているから見惚れていたんだと思うよ?」
「遥さんも…ですか?」
「というよりその筆頭が僕だ。」
「遥さん…。」
摂理がチョロくて良かった。
僕達が見つめ合っていると、
「流石、向こうの国の女子は進んでるねぇ~。」という、
偏見に満ちた声が上がったので取り敢えず無視してキスをした。
甘酸っぱい味はしない。むしろ酸っぱさはなくただひたすらに甘い。
…キスは少し、砂糖醤油の味がした。
摂理。さっき君はみたらし団子、食べてたからね。
その味で少し冷静になった僕は周りに集まった人の群りに気になり始めた。
恥ずかしいものではないので、この外国美人の摂理が僕のものだと、
アピールして見せつけてやればいいと思って行ったけれど、
ここまで見せ者扱いされると腹が立たなくもない。
「摂理?」
「ふぁ~い?何れすか、遥しゃん。」
少し蕩けた、正直誘っているようにも見えるくらい出来上がってる摂理を、地面と平行になる様に持ち上げ、
要するにお姫様抱っこと呼ばれる抱き方のまま、
蘇我原の屋敷の中にある離れに行くことにした。
今はそこで生活をしている。
僕達が帰ると、女中が、
「御飯になさいますか?お風呂になさいますか?」
そう聞いてきた。
摂理が、ぼそっと、
「それは私が言いたかったのに。」
と拗ねていたので、
「摂理にはその先を言ってもらおうかな。」
そう言うと、先程の余韻が残っていたのかもぞもぞしながら赤面して頷いた。
…正直、迷宮の管理室とは違ってハイストの家屋は密室性が無いというか、
やや開放的過ぎるので音漏れや覗きが気になる。
ところ変われば品変わる。郷に入れば郷に従えというけれど、
僕はそれに従う気はない。
なので、寝室とお風呂については完全密室に作り直させた。
…これは独占欲などではなく現代人であれば普通の感覚なのだと思いたい。
後、そういうことを覚えたから嵌って抜け出せなくなっているとかそう言うのでもない。
敢えて言うならば僕がそうなっているのは性欲に、ではなく摂理にだ。
「僕達が社に行っている間にやっておいてくれ。」
そう蘇我原に言って建築させたのだけど、
なんというか体感的にはプレハブ小屋の組み立て速度も真っ青な気がする。
実際の時間はかなりかかったのだろうけれどね。
できた小屋には僕の冷気を使ってくまなく隙間を探ったので、
密室性は信用できる。
後は僕が実は男だったことを蘇我原に教え、
僕と摂理が夫婦だという設定にしておけばそれ以上口を挿むことは無かった。
そういうことを理由に間諜かも知れぬ女中の必要以上の侵入を拒めるわけだし。
その後、僕達が風呂に入ったり、
その後の食事の後どうしたかは敢えて触れないでおこう。
敢えて一つだけ言えるのは、摂理が次の日早く起きれなかったなかったというだけだ。
その他に摂理と話していて摂理が気にしていたので印象的なことは、
おいてきたピーのことだ。
「無事にお留守番してるでしょうか?」
「…大丈夫だと思うよ。
あれで意外と行儀は良いし。
…というか、モンスターの居る階層に放しているから、
行儀が悪いくらいでもいいんだろうけどね。」
「…それも、そうですね。
ところで、そろそろピーちゃんもお嫁さんが必要なんじゃないでしょうか?」
「…結婚か。」
…って違うだろう。今はあのピーの話だ。
「親に心配されて結婚の世話までしてもらうというのは、成熟した雄的にどうなんだろうね?」
マザコンにも程があるだろう。
「……一理、いえ、二理程ありますね。」
何故、そんな目で僕を見るのかわからない。
だけれど、そことなく自信がなくなるような目だ。
「火山地帯には似たような種もいないことはないし、
案外親が見ていない今だからこそ羽を伸ばして、
案外うまくやってるかもしれないよ。」
鳥だけに。
「そうですね。」
第一、親が結婚していないのにその子が結婚しているのも、
アレじゃないか?
そういうと、「じゃあ、します?」と、
そう摂理に言われたときにどう返すかはまだ考えていないし、
そんな気軽に話を振る様なプロポーズの仕方はしたくはない。