第14話 僕に乱暴する気でしょう?エロ同人みたいに。
僕は今日も侵入者の一人を装っては第1階層を歩いていた。
歩いたり泳いだりした結果少なくとも3種類のモンスターが確認することはできた。
海中に2種。陸上に1種。
何れも植物系モンスターだった。
僕の持っている禁書のカタログには登録されていないモンスターだったので、
100ptで購入できたモンスター辞典で確認する。
モンスター辞典とは、某博士から渡される、某図鑑のようなものだ。
この辞典で見られるということは、恐らく世界側のカタログで購入可能なモンスターなのだろうね。
確認すると、
海中にいたものは『毒藻』と『水中草』の2種。
毒藻はランクFのモンスターで、
毒で満たされた藻系のモンスター。毒性はそう高くないとのこと。
水中草も同じくランクFのモンスターで、
触手のような無数の根を持ち水底にへばりついているようだ。
陸上にいたほうの1種は他の2種より高めのランクE+の子蜘蛛曼陀羅華というモンスターだった。
辞典の説明を見ると、
子蜘蛛曼陀羅華 Lv1 RANK E+
安住の地を求め根を使い蜘蛛のように這い回る植物族モンスター。
低位モンスターにもかかわらず
致死性こそないが非常に強力な幻覚作用をもたらす毒が充満している。
喰らったものは耐性がなければ、
少量で3日3晩頭パーになっているのでそのうちに逃げる。
との記述がある。
ザコにしては強力な幻覚作用がある毒があるというのがいいね。
トラップに使ったり、その毒を使って捕えた侵入者に対する自白剤なんかも作れたりはしないのだろうか?
今度捕えた侵入者には試してみようかな。
そう思って薙刀を振るい子蜘蛛曼陀羅華の一匹を仕留めると、
研究材料として取り敢えず最下層に持っていこうと、
そう考えて管理人室に帰ろうとした時だった。
「おい、待てよ嬢ちゃん。」
言うまでもなく僕は男だけど、よく女性に間違われる。
色々訂正するのも面倒だし、もうそう呼ばれるのも慣れた。
目だけで周囲を見渡しても他に女性はいない。
だから、他の誰かじゃなくて僕が呼ばれたのは間違いないだろうと思って振り返る。
「はい、何でしょうか?」
「なあ嬢ちゃん、俺、見たんだぜぃ?」
「何をでしょうか?」
「半年位前にも此処にいたよなぁ。」
「いえ、そのような事はありませんが、何か?」
半年?
その時点では、そもそもこの世界に僕は誕生されていない。
「なわけねえだろうがっっ。」
いや、それはこちらの台詞だよ。
「どなたかとお間違えではないですか?」
まあ、こんな柄の悪いのに絡まれる、
僕に間違えられたターゲットの女性からすれば、
僕は今、ていのいい生贄になっているのだろうね。
「間違えるわけがないだろう。
お前みたいな綺麗な女、他に見たことねえよ。」
だから僕は男なんだけれど。
「…ちなみにどのようなご用件ですか?」
「俺は見たんだぜ、お前がババアを連れて海の中に入って消えていったのを。」
…あの件かな。
でもあれは数日前の出来事だったハズだけれど。
時間の流れがおかしい?
「それで、何か?」
「どうもこうもあるかよ。
あんたあのババア殺しただろうが。」
「何の根拠があるのですか?」
「ババアはあれから行方不明。
てめぇも死んだのかと思ったらここにひょっこり居やがるじゃねえか。」
「はぁ…。」
「てめぇいいとこの嬢ちゃんだろ。
男物の服を着ているが、それでも大した高級品だしなぁ。」
目的は金かな?
「それで?」
「それは否定しねぇのかい。
…で?いいのかよ、そんないいところのお嬢ちゃんが人殺しなんかして。」
「私が人殺しだと勝手に決めつけるのは早計ではないですか?」
敢えて一人称を『私』にしたのは、女性だと思われているのならそちらの方が自然だから。
それと、その中年女性を殺したのは実際に僕で大正解だ。
「うるせぇっっ!!
それともここのダンジョンの主か?
人殺しにしろ主にしろだな、
どっちにしろ正体を知られたら不味いだろうが。」
驚いた。案外頭が回るのかな?この男。
「…それはご自分で考えられた妄想なのですか?」
「あぁんっっ!?
なんだとてめぇ、犯すぞ。
いやどっちにしろ犯すんだがなぁ。
今此処にいる冒険者は全員、
さっき言ったことを話し合っていた仲間だ。
ほんとは男がいたら強奪して、女は犯して、
誰でもよかったんだが、見知った顔を偶然見つけてな。」
盗賊団かな。
しかも全員ダンジョンの1階層程度では死なないという自信があるようだ。
それなりにはやるのだろう。
そう言えばさっきの話…、
「仲間はどれくらいいるのですか?」
「さっきもいっただろうが。全員だよ全員。」
後方要員は無し。仲間の全員が実働要員とはね。
…ということはここにいる全てを始末すれば僕がダンジョンマスターかも知れないという情報は潰えるということか。
…いや、必ずしもそうとは限らないけれど。
「なあ皆。」
男がそう言うと、他の男たちもぞろぞろとこちらに集まってきている。
「ひゃーほんと上玉じゃねーよ。」
「売るのを止めて性奴隷にしたいくらいだ。」
そんなことを各々が口々に言い、
下卑た笑いを浮かべながら。
「まー間違っていても関係ないがな。
いいとこのお嬢ちゃんがこれだけの男とやったなんて醜聞言えないだろうよ。
だから、色んな男の相手して稼いでもらうぜ。
その為にしっかり調教もしてやるよ。
だから、だからな?
――――だまって俺達に犯されなっ。」
そういって男が僕を殴り飛ばそうとするのよりも早く、
僕は薙刀で僕を殴りつける筈の右腕を下から斬り上げるように跳ね飛ばす。
男の腕はそのまま前方に飛んでいって他の男にぶつかった。
…ロケットパンチというやつだろうか?
威力は対してなさそうだけど、精神的な効果は大きそうだね。
当たった人は呆然としている。
…悪いけれど、そんな隙だらけの状態を見逃す程、
僕は優しくないよ。
「疾ッ!!」
早く小さく息を吐きながら、
立ち尽くす男の一部位を切り離す。
今回は右腕ではなく、首。
跳ね上がった首に、薙刀の先を突き刺したうえで、
振り回して抜き取り、その首を又、別の男の顔にぶつける。
また、驚いてる。
真っ青だよ?…どうでもいいけど。
まあそんなことよりもさ、
「折角の綺麗な砂浜を尿で汚す真似は止めていただきたいのですけどね。」
どちらにせよ、殺したり、身体を切り裂いたりすれば尿の成分は漏れ出すのだろう。
僕の薙刀は両方の端が刃の特別式で、
石柄が存在しない。
完全に殺傷用となっている。
元々は護身術として学んでいたのだけれどね。
1歩踏み込んだうえで持ち手を下げ、リーチを伸ばして尿を漏らした男の喉を突き、
今度は一気に持ち手をあげて後ろに回り込もうとした男の腹に刃を刺す。
流石にそれだけでは死んでいなかったようなので、
振り向いて再度、今度は心臓に刺す。
…次からは一度で殺せるように気を付けよう。
男の心臓から刃を抜いて、頭上で薙刀を1回回した後、
横に踏み込んで更に別の男の額に刃を差し込む。
刺して、刺して、刺して、刺す。
まるで蜂の様に一心不乱に敵を刺し殺す。
斬る、薙ぐなどの動作を相手の胴体など広い部分にすれば、
途中で詰まった際など抜くのに大きな隙ができる。
このような混戦では大きな過ちだ。
だからこそ、隙が少なく、尚且つ次の相手を殺すために、
肉から刃を抜くのに容易な『刺』を僕は多用する。
時間は速やかであれば速やかな方がいい。
最初はまさか大負けするとは思っていなかったのだろう。
僕が得物を持っているから、まずは話しながら脅して優位性を高めた上で、
いきなり殴りつけ、混乱して戦意を喪失させた隙をついて集団で慰み者にする。
僕の行動は、
この相手の行動パターンと奇しくも似ている。
所詮は女だと油断している隙をついて、
先ず、相手側に巨大な損害を与え、
死体を盾に動揺を誘い、
動揺している隙をついて一気にたたみかける。
そろそろ、動揺から、怒りか脅えに感情が推移するころだけど、
既にだいぶ立っている人間の方が少なくなってきた。
―――その時だった。
パンッ。
派手な火薬音がしたかと思うと、何かが裂けるような音がした。
――何のことは無い。僕の身体だ。
粗雑な出来ではあるが、銃火器を持った男がいた。
この世界感で銃なんてものがあったことには意外性を感じてしまったけれど、
一応あったんだ。
…粗雑な筒を銃と呼んでいいかどうかは疑問だけれど、
僕としては銃としての機能を果たした以上銃と呼ぶ。
「やっ、やった。ざまぁみろぉ。
このお宝を持ってきた甲斐はあったぜ。
覚悟しろよ、死ぬまでたっぷりとおかし―――――ぐふぉ…。な、ぜ。」
お宝、か。
やはり、あの程度の銃でさえ珍しいものなのか。
それにしてもあんな粗雑なものでよく当てられたね。
いい狙撃手になれただろう。
生きてさえいれば、ね。
僕が振り回した薙刀の刃が、彼の頸動脈を突き刺した。
ただそれだけのことで、彼がいずれ狙撃王と呼ばれる運命は閉ざされた。
傷はポイントだったり魔法だったりですぐに修復できる。
死ななければどうだっていい。
…死んでも、どうでもいいか。
「ひっひぃぃぃ、化け、バケものぉぉぉっ。」
そう言って脅えて逃げようとした男の足の腱を刃で撫でるように斬ってやる。
人が減ったことで男たちの包囲網は随分と無くなったが、
今度は僕が怪我を負ったことで先程より力が入らない。
刃の重みを利用して敵を裂いたり、余り相手の奥深くに刃を残したりしないように気を付けなくては。
足を動かせなくなった男は、必死に手だけでもがいて逃げようとする。
後ろを見ようともしない。見る余裕がないのか、見るのが恐いのか?
さて、彼の後ろにそんなに恐ろしいものがあっただろうか?…疑問だね。
もはや男たちの血で染まりきった砂浜に、
新たに新鮮な血を垂らしながら、
ゆっくりと僕は地面を彼に近づき、
その手の甲に、薙刀の刃を突き刺して地面に固定した。
質問がしたいから、
少し待っていてもらう。
「ぎゃあ”あ”あ”あ”あ”!!」
全く、そんなに慌てて、
「何処へ行くのかな?」
「びぃぃ、死ぬ。死ぬ。たずけで。」
死ぬ? 何処へ行くかという質問の答えにもなっていない…、
不正解だ。
いや、そうか、あの世か。
それならば正解だ。
「行けばいいさ。」
僕はその刃を抜いてあげた。
彼が自由になれるように。
「ばっ化け物ぉぉっ。ひぃぃぃ。」
男は這って逃げる。
先程も言われたけど、『化け物』、か。
彼女の同類なんだ。
そういう呼ばわり方をされても不思議ではない、ね。
逃げていく彼を見送ろうと思っていたら、
このダンジョンの最弱にあっさり食われていった。
どのみち逃がす気は無かったんだ。
情報封鎖の為にね。
拙いはいはいで出ていける程、
僕のダンジョンは甘くないよ。
近くにいた蹲ったまま、うわ言を紡ぎだした男の首に刃を落とし、
それを見ながら叫びだした男の口の中に刃を差し込む。
…静かにはなった。
だけれども、薙刀に唾液が付いたままなのは嫌なので、
逃げようとした別の男の首で拭かせてもらう。
…今度は血で汚れた。
他の男を使って拭き取る。
……切りが無いね。
そうこうしていると、
男たちの集団は最初に僕に話しかけてきた右腕を失った男だけになった。
「た、頼む。なんでもする。助け、助けてくれよぉ。」
そうか、何でもしてくれるんだ。
「じゃあ君に役目をあげるよ。」
「ほ、本当か、何でもする。」
彼の顔に希望が灯る。
「まずは、子蜘蛛曼陀羅華を使った新薬の実験に付き合ってもらおうかな。
それが済んだら―――彼女のエサだ。」