第125話 おっきくなっちゃった。
「ぴーちゃんただいまー。」
「Piiiiier!!」
迷宮管理室に帰ってきた摂理を出迎えたのは鳥だった。
いつの間にか摂理の2倍以上の身長にまで成長した鳥が摂理に突撃してきたときには、
思わず命の危険を心配したほどだ。
その翼で摂理を抱きしめて首を擦り付けている様は、
正直親子というにはサイズが逆転しすぎている。
二人(正確には1人と一匹)で仲良くしている様は正直置いて行かれた感を凄く感じるので、
周囲を何気なく見まわしたところ、思ったより部屋は荒れていなかった。
急にサイズが大きくなって食事が足りなくなったためだろう。
棚に置いてあった超高級孔雀用餌の在庫を取ろうとした形跡だけは強くうかがえる。
無理矢理開けた何袋もの空袋が散乱しているけれど、
食べ残しはその周囲には一切散らばってはいない。
行儀がいいのか、それともただ単に食い意地が悪いだけなのか。
前者であれば僕と摂理の教育の賜物だと言っても過言ではない。
そう言いたいけれど、きっとそう言うと、
「遥さんは何もしてませんよね?」と摂理が言うことは想像できる。
まるで育児には大して参加していないくせにイクメンを語る駄目夫の様な気分になるだろうから、
敢えてそれは言わない。
「…遥さんもしかして拗ねてます?」
「断じて違う。」
別に僕は拗ねてなんかいないのだから。
「遥さんもギューッとしてもいいんですよ?
それとも私からしましょうか?」
「そういうことは赤面しながら俯いて言うことではないと思うよ。」
効果は其れなりにあると思うけれどね。
「…気を付けます。」
別に気を付ける必要もないし、
して欲しいとも本当は思っているわけではない。
…第一、気にしたところで真顔で今の発言を摂理ができるイメージが浮かばない。
取り敢えず、
「今日の料理は僕が作るよ。
偶にはポイント消費で作る料理だけじゃなくて、
手作りで、というのも悪くはないと思うんだ。」
「私、楽しみにしてます。」
「Piiiii!!」
鳥、お前が満足できるほどの量は作れない。
増えるワカメや、増えるオオバコ種粉末でも食べているといい。
…オオバコ種粉末はダイエット食品だった。
成長期?の鳥にはあまりよくないのかもしれない。
「何処かの階層にでも行って食事してくるといいよ。
今のお前なら勝てない敵もそうはいないだろう。
お腹がいっぱいになっていそうだったら呼び戻すよ。」
そう言って僕は火山のエリアにぴーを送り込んだ。
料理をしながら様子をモニターで見ると、
巨大な炎の身体の蛇を丸呑みしていた。
孔雀は毒蛇を喰らうことから仏教でも益鳥とされているけれど、
この様を見ていたら、化け物が更なる化け物に食われる圧倒的な恐怖と、
全くついていけない無力感に襲われるしか人間には思えないだろうね。
……ってまだ食べるのか。
既に巨大な炎蛇が3匹食べられている。
森エリアに羽ばたいては石化眼蛇も喰らっている。
某有名ファンタジーに置いても毒蛇と戦う不死鳥がいたけれど、
鳥が毒蛇を襲う発想は世界何処にでもあるようだ、
そういえば元の世界の砂漠地帯にも最強クラスの毒を持つ蛇を主食とする鷲がいるからね。
僕の迷宮の死の砂漠エリアにも毒蛇やミミズを主食にする鳥のモンスターもいたしね。
…さて、出来た。
今日のディナーは、
煮込み飯
赤味噌
魚の活造り
貝の酒蒸し
天ぷらの盛り合わせ
鳥の刺身
アイスクリーム
以上7品だ。
…一応言っておくと鳥の刺身は、ぴーちゃんのことではない。
そしてデザートのアイスクリームは冷凍庫要らずの遥、こと、
この僕の冷気の力によって作りだしたもので一応ポイントは材料や道具にしか使ってはいない。
テーブルには摂理が座っている。
あの鳥がいなくなると不思議と静かだ。
…久しぶりだね。摂理と二人きりになったのは。
以前鳥を留守番させていたことが随分と前の事のように思える。
食事を始める前に2人分のグラスを用意し、
お酒を入れる。
…僕のものはノンアルコールだ。
「改めておかえり、摂理。」
「ただいま、遥さん。」
それじゃあ、
「「乾杯。」」
案の定、メニューを説明していると、
『鳥の刺身』の所でツッコミが入ったり、
アイスクリームを作るのに便利な能力だと絶賛されたことは敢えていう事でもない。
アルコールは入っていないのに、
不思議と気分がふわふわして高揚する。
悪くない、――――いや、凄く幸せな気分だ。




