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第121話 姫宮家

ここで少し姫宮家という一族についての話をしよう。



自分は相手に容姿や能力、資産を求めるのに、

相手には形に表せない自分の努力の姿勢や内面を見て欲しいという。

そういう者を姫宮家は唾棄し、受け入れることはない。


心が綺麗な事を評価されるのならその相手も心だけが美しくてもいいはずだ。

最後まで野獣の姿の王子と醜女、

最後まで蛙の姿の王子と醜女、

醜女の振りをした美女の筈が実は本当に醜女であったものと冴えない男。

そんなおとぎ話では誰も喜ばない。


姫宮家に取り込むに相応しい能力、容姿を兼ね備えた人材を選別し、

姫宮家は交配を繰り返してきた。


姫宮という家は、人類を淘汰の洗練により向上させようとする西の支配者と、

極東のやんごとなき家の結びつきから始まる。


歴史書に記される極東と西洋の結びつきより遥か昔、

西の支配者たちは愚直で素朴な民を持つ東の先にある国を知っていた。


西の支配者たちはこの愚直で素朴な民達は、負荷(あくい)の容易な贄になるものだと思っていた。


けれど、純粋さが高じて悪意を自らのものとして取り組むことに成功した極東の支配者に、

逆に喰われるよりかは遥かに自分達側に引き込んだ方が良いと判断した西の支配者たちは自らの一族の娘を差し出した。


その無色に近い硝子玉のような瞳を持つ間の子こそが、姫宮の一族の始まりである。



姫宮家の家紋は、敢えて言うなら国旗か地球をオリーブで覆ったもののようなものだ。

つまりはそういう存在だと思ってくれていい。


世界の富を回し世界の市場に貢献する姫宮家は、

世界を支配する権利がある。

その市場を世界に広めたのもまた、姫宮家だったとしても。


最近は末端の家を使って戦争ビジネスにばかり手を出しているけれど、

本来の目的は戦争自体で人口の調整と不要物の除去だ。


僕が蜂という社会性昆虫と相性がいいのも姫宮家との関連性が高いのだろう。

少なくとも日本において蜂という生き物は、

暖かくなればその数を増やして、

寒くなればその中から淘汰され厳選された血筋が残る。

そうやって日本の雀蜂は社会性昆虫として最強の地位を得た。



数が少なくなっても質が保てれば、その後に数を増やせばいい。

これを人類に当てはめれば、即ち姫宮家の悲願と同じだ。


人類の品種改良。

これが姫宮家の真の目的である。



少し話はずれるが、

障害を持つ者の中には、自身を苦しめる障害自体よりも障害を持たない健常者や社会を恨む者がいる。

例えば、障害を持った不幸な子供を生まれないようにするための技術である出生前診断を、

自分達の存在を否定するものと捉え、障害児の人権の名の元に否定するように。


恋人の浮気相手よりも元恋人自体を恨む者がいる。

例えば、恋人の女性が他の男にとられたときに、

その女性に恋人がいると解っていて手を出した相手の男には何も言わず、

元恋人の女性だけを恨む者がいるように。


イジメられっこの中にはいじめをする者よりその周囲を恨む者がいる。

例えば、イジメられっ子が、イジメっ子ではなくイジメから助けてくれなかった人や疎遠になった人たちを槍玉に挙げるように。


お金が支払われ無かった際に、その原因となった着服した中間よりも支払主を恨む者がいる。

例えば賠償金を国に支払ったにも拘らずその賠償金が国民にまで行き渡っていないのは支払った国の責任だというように。



それらは信じていたから、愛していたから。

そう言う理由もあるだろう。

だが、それが全てではない。


障害自体には、元恋人の浮気相手の強面の男には、イジメっ子には、着服した中間層には、

勝てないから、相手を特定できないから、責任を押し付けられないから、戦っても得るものが無いから、

だから、勝てそうで、相手が解かりやすく、責任を容易に押し付けられて、

戦えば得られるものがある相手にその矛先を向けているだけのものも多い。

結局、勝てない相手には弱者(ヒト)は挑もうとしないのだから。


人間は克てない(あく)ではなく、

克てる(あく)を望み、時に作り出す。


警察組織が捕まえられない真犯人を捜す手間を省き、免罪を許す様に、

農村が飢饉の原因を、身を寄せてきた余所者や、身寄りの無い者のせいに押し付けて生け贄にしてきた様に。



結局、人類がもし、姫宮家の支配下にある全ての貨幣経済基盤を捨て、

自らや家族の命を厭わず、武器が無くても捨て身で散る様な覚悟を持ち、

今まで人類が姫宮家によって導かれ構築してきた社会基礎を放棄していれば、

あるいは、姫宮家からの自由と平和を勝ち取れた、かもしれない。


けれどもそれは所詮IFに過ぎない話だった。

正義と自由を掲げて姫宮家に挑んだ国家もあったが、

戦争どころか事変というほどのものにすらならなかった。

あっという間に、分家の軍事会社が開発した大量殺戮兵器で活気が溢れていた都市を沈黙に変えた。



こうして元の世界において姫宮家は今も欠けることのない望月の様に盤石にある。





少しお母様の話をしよう。


祖父母が言っていた。

お母様は歴史が好きであったと。

お母様は誰よりも姫宮としての知識を持ちながら、

誰よりも姫宮としての知識を使わず、その意思を持たず、

誰よりも姫宮らしい容姿の一人でありながら、

誰よりも姫宮らしくない姫宮であったと。



先程言ったように歴史が好きであったお母様は、

姫宮家の歴史という歴史、

つまり世界の暗部、

悪意という名の負荷により人類の選抜と進化を目論む者がおり、

その意思と過去に行ってきたあらゆることを知っていた。

識り尽くしていた。



けれどその業の深さにそれを引き継がせる事を恐れたお母様は、

僕に姫宮を教えることを強く拒んでいた。

結局僕の姫宮の知識は独学と祖父母、そして父親(あのおとこ)によって与えられたものが殆どだ。


姫宮の名前と歴史は業が深い。

血筋による資産は下々の人間達はずるいと喚くのに、

その業には当然という顔をするから彼らは信用に値しない。





歴史と言えば僕の名前だってそうだ。

剣術と権謀に優れた姫宮家中興の祖の名前を借りたものであるらしい。


文武両道、才色兼備である子に育つように、

そう名付けられたと祖父母からは聞いている。


本当のところは、そのような悪意や因果から解き放たれた、

健やかで愛を知れる子供になって欲しい。

そう言う意味があったとお母様からは直接聞いた。


この事を優越感もあってお母様以外の者に教えたことはない。



だというのに、だというのに…

あの完全にお母様の姿をしたものは、

それを、知っている。

僕は、お母様とは、戦えない。

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