第114話 侍、忍者とくれば残りはアイドルぐらいでしょうか?迷宮のアイドル、遥さんだよー…うん、それキツい。
「オレっちが生きてる理由?
そんなのレサレサが助けてくれたに決まってるじゃん。
もしかして坊ちゃん中卒?お金持ちなのに。」
見た目は中学校にも言ってなさそうなのはこの男の方だが、
案外以外にも海外の有名大学に留学に行く遊牧民の子弟例に漏れず高学歴なのかもしれない。
別にどうでもいいけれどね。
それより誰かにこの現象を開設してほしいものだね。
…まあ、一応見当はついているからどちらでもいいけれど。
「…元は風さんの力なの。
寸前に起こったことを無かったことにする。
基本的に彼女は無銭飲食や泥棒がバレた時にしか使っていなかったけど。」
ありがとう怜早さん。能力を使って少しお疲れそうなところにも関わらずありがとう。
君には解説の役職に再び戻してあげよう。
但し君の兄は駄目だ。
「ところで、次は誰かな?」
「おいおい、オレっちはまだ戦えるぜ?」
「…僕は急いでいてね。
又すぐに殺せる相手と戦う暇は無いんだ。」
「…んだって?」
「少なくとも中学卒業程度の学力がある者には解かる言い方に言いかえよう。
―――――――――――――――時間の無駄だ。役者が不足しているのなら数で補え。
全員纏めて、死にに来い。」
「…随分と舐められてるね。」
「ここまでコケにされたことはオレっちの親父にもないのに。」
「ふむ、あいにくエスク殿の親父は知らぬが、忍者と侍の国の民は随分と無礼でござるな。」
女子高生が文字通りの額面をしっかりと理解してくれ、
誰一人として興味もないエスクの父親の話が続き、
どう見ても欧州人な鎧武者が律儀にそれに返していた。
「で、おひとり喋っていないあなたは?」
女子高生の兄に話を振る。
「…無口なだけだ。」
そうか…だったらそのまま口を閉じていてもいい。
今のところ女子高生がこの4人組の主軸の様だから。
そう、思っていた。
だが、その女子高生の兄は続けて口を開いた。
「なあ、怜早。ここは彼女に甘えることにしよう。」
僕は女ではないと先程言ったはずなのだけれどね。
「…兄さん? 珍しいね。兄さんが意見するなんて。」
「例え馬鹿にされたからと言って多人数で襲い掛かったとしても、
それで挑発した彼女が死んでしまえば、愚か者は向こうだ。」
「…そうね。それで行きましょう?いい、皆。」
「……へえ、言ってくれる。」
けれどね、今回はプライドがどうだとか、
娯楽がどうだとかそういうことはどちらでもいい。
手短に済ませたいんだ。
だから手段は―――――――――――無制限だ。
「ミラーカッ!! アーサーッ!! オンディーヌッ!!
遠慮も容赦も慈悲も要らない。
僕が求めるのは、
何の感慨も感動も感激も無い、
確定した勝利だけ、
それだけでいい。
蹂躙し壊滅し抹消しろ。」
「はい、我が君。」
「この従順で尽くすタイプの娘をどう思う?」
「結婚したくなりました?」
既死者家族を戦いに呼び出す。
以前アレイク達を葬った時は、
魔王として勇者を斃す必要があったし、
僕が撒いた負荷の種から萌え出でた花を摘み取る必要もあった。
けれど今は違う。
いや、仮に違わなくても問題ない。
ポリシーも理念も意地も照れ隠しも余裕も役目も全てを排してでも為さねばならぬ目的がある。
その階層にいる従順な部下を使わない発想などあるはずもない。
「命令は先程達した通り、皆殺しだ。
速やかに、確実に、この部屋にいる生存者を僕だけに変えろ。」
「それは僕や家族たちにも…ああ、そういえばそうだったね。」
そうだ元勇者。君達は既に生きていないからそれでいいだろう?
「…流石は妾が魔王。酷い言い方ですわね。
解かりましたわ。影蝕空間。」
ミラーカの宣言と共に、部屋中に広がる照明を消し去る様に、
影が広がり覆い尽くす。
「これで皆さんは妾の手の中にあり、
胃の中にあり、目の中に存在することに―――――あら?
そうなると我が君も妾の中に……少し興奮しますわね。」
随分と変わった性癖を暴露するのはお互いの為にならないからやめてほしい。
…ふざけている場合じゃない。
僕も一気に終わらせる。
視界が薄暗い影で見えにくくなる前に僕に一番近くにいた、一見武者っぽい西洋人に斬りかかる。
「『SHIFT』。」
西洋人らしい日本ではなかなか聞けない完ぺきに発音された3音。
同時にその身体が一気に小さくなった。
僕の薙刀が虚しく宙を斬る。
「『SHIFT』。拙者の忍術を受けてみよ。」
再び発音されたその3音は、
小さくなった西洋人の身体に元の大きさと、
黒ずんで影の中見えにくくなった肌を与える。
それと忍術って…、
武者かと思っていたら忍者だったのか。
飛び込んで振るわれる手刀に合わせ、
僕の得物を振るう。
普通に考えれば相手の男の手が切断されて終わりだ。
しかし――――――――――、
僕の耳に響いたのは肉が切断される小気味いい音ではなく、
不快な金属音だった。
「拙者、師不動 山の力は『SHIFT』。
大きさ性質、様々なものを切り替えられる力でござるよ。
それにしても不意打ちとは卑怯でござるなあ。
忍者はもっと派手に、正々堂々と戦うべきでござるのに。」
それは絶対に忍びじゃない。
断じて忍びではない。
常識的に考えて忍者が正々堂々と派手に動いては駄目だろう。
ポーズを決めて背景が爆発したり、世界の命運をかけたり、
ビルの谷間で一般人に見つかる様な忍ばない忍びも多くいるけれど、
断じてそれらは本来忍びのすることではない。
視聴率と忍者のイメージアップの為のロビー行為としての露出だ。
それを見た外国人の間違った印象による忍びの再現。
忍ぶあり方などとうに捨てたNEW GENERATIONなSTYLISY忍び。
きっとそれを敢えて言うならば人はSHINOBIと呼ぶのだろう。
けれど先程の男よりかは強そうだ。
少し程度手こずる事はあるかもしれない。
――僕、だけならば。
「影毒。」
ミラーカの声が響き渡る。
その宣言に続くように影が毒の性質を持ち、
場にいる僕と死者たち以外を蝕んでいく。
影で遠くが見渡せないけれど、感覚は視覚だけではない。周囲の様子は掴める。
「『DELETE』」
例の解説少女の声が響き渡る。
アレは文字通りの必殺技だ。喰らえば必ず殺される。
多人数を相手にして戦力の低下を考えるのは気分のいいものではない。
「それに触れれば死ぬ。」
優しさがこぼれる程慈愛溢れる僕は、一応、忠告位はしておく。