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第102話 魔王勇者編 冷たい計算式

「……姫宮遥、俺はただの復讐者でよかったし、今もそれでもいいと思っている。

だがな、世界の為にもお前はこの世に必要ない。

存在してはいけない、倒さなくてはいけない化け物なんだと解かった。

化け物だ化け物。

お前は決して人間なんかじゃあない。

ましてや女神なんかじゃあない。

お前みたいな化け物に大切な人を失う痛みが解かるかっっ!!」



解かった。

「いいよそれで、

だから早く僕を殺して見せろ。」


それが開始の合図だった。

復讐者は斬馬刀。

王女は大鋏。

王子は鎖鎌。

魔女は釘が刺さった杖。

それぞれがそれぞれの得物を構える。



身の丈を超える程の野太刀を振り上げて復讐者は吼える。


「魔王、さっきの戦いを見ていたか?

この刀の銘は斬魔刀(デーモンべイン)

魔と悪意に反応し、その力を引出し、

魔と悪意を喰らってはその力を増す刀だ。

まさにお前を殺すにはうってつけの刀だ。

この刀を墓標に死ねっ!!」



……それは自慢かな?

君にそんな余裕があるとは思えないのだけどね。

それにその程度の得物では僕の得物(デュカリシア)は超えられない。

第一さ、――――――持ち手の格も違うだろう?



大柄な武器を持っているとは思えないほどの急接近で迫るアレイクが横に野太刀を降ろし、

水平に薙いだのに合わせて、薙刀(デュカリシア)を合わせる。

上に薙ぐように絡めて捻り上げた野太刀をそのまま共に地面にめり込ませ、

そのまま同じく地面に突き刺さった薙刀の刃を軸にして、

体操選手の回転を水平方向にした要領での蹴りをアレイクの顔に叩き込む。


吹き飛ぶアレイクに追撃。

唯一の手が塞がっているため地面に身体を擦りながらも、

得物を手から外さず、獲物から目を外さない辺り、

中々できるとは思う。


だけれど、中々程度で僕を倒せるつもりだとは片腹痛い。

もう片方の腕も斬り落として、

その後は足も切断してダルマにして突き落としてあげようかな。


その為に、アレイクに駆けながら背後で一回薙刀を旋回させた後、

上方から残った斬魔刀を持つ右腕を斬り落とすためにデュカリシアを振りかぶった。


「アレイクッ!!左に転がり込んで例のアレをして下さいっ!!

カノンッ!!グレーテルッ!!今ですっっ!!」


「応ッ!!」

「解かってるよ、姉様。――万変刃蛇鎖鎌(ヘンリース)ッ!!」

「猛る焚火よ、我が怨敵を薙ぎ焦がし、打ち払えっ!!

武装延長魔法、旋回焔(フレイルフレイム)。」



まるで、僕の行動を読み切ったかのように、

普段から逃げ腰ばかりのお姫様が指示を出し、大きく僕は被撃した。

…なんだ、回避だけじゃなくて攻撃もできるじゃないか。


そんな客観的な感想を抱きながら、

僕は後方に跳躍しようとした瞬間、拳銃に足を撃ち抜かれ、

回避が遅れたことで刃の繋がった鎖でできた鎖鎌を巻きつけられ、

そのまま振り回されて地面に薙ぎ倒されたところで炎の塊を叩きつけられた。



中々やるよね。

骨は一か所どころじゃ無く折れているし、

火傷も重症だ。

正直立ち上がれたことが奇跡的だと思う。


―――けれど、まだまだだ。

「痛みの過去を棄てろ、

苦しみの過去を棄てろ、

哀しみの過去を棄てろ、

完なる過去へ回帰せよ、

回復術式(ヒーリング)。」


摂理に何度もかけてもらった術式だ。

身体にどのような作用を起こすかは身体が覚えている。

その逆算で詠唱を構築しイメージを構成し、魔力を通せばいい。

理論の習得は容易かった。


魔女が叫ぶ。

「なにあれ、なんなのよ、あの詠唱はっ!!

なんて傲慢で、純粋で冷たい術式なの…。

癒しでも慈愛の概念でもなく、

完全なる自分の設計図と比べた『差分』の概念で欠けたところに魔力を込めて強制的に『直す』なんて、

そんなの滅茶苦茶よっっ!!」


何を叫んでいるのだろう。

一見まだ君達の方が優勢じゃないか?

何故叫ぶ必要はあるのかが疑問だね。



「あの人、今に何の価値も感じてないか、

自分を道具や数字か何かと勘違いしてるんじゃない!?」


「自愛すらも忘れましたか。

…なんて哀れな。」


魔女の叫びに律儀に王女が答える。



術式の世界において自らを数値化して最適解を探すことは、

天使でもやっていることだ。

というかそれしか僕は体験したことが無い。

勿論、摂理(オリジナル)との術式の違いはあるだろうが、基本理論は近い筈だ。

けれど僕はその無機質な回復術式が冷たいなどと感じたことは、

一度も無い。


「不要為るものを消し捨てよ、

穢れを消し捨てよ、

濁りし過去を忘却の彼方に、

清掃術式(クリアアウェイ)。」


血の染みが全て綺麗に洗浄される。

僕から抜け出ることを選んだ血などもはや不要だ。

僕の血は僕の中に留まる事を選んだ血だけでいい。

きっと今抜け出た血は父親(あのおとこ)の血だけだ。

きっと今抜け出て無い血はお母様の血だ。



さて、身体の修復は終わった。

衣服の洗浄も終わった。

次は何を綺麗にしようか?


「何だアレは…、ああなるまでにどれだけの罪を重ねてきたんだ!?」


そうだね、数えられたら褒美をあげよう。

倒すことができれば更なる褒美を得られるだろう。

けれど、僕は一度見た攻撃は覚えているクチでね?

だがそれでも躱せない、防げない攻撃はきっとあるはずだ。

頭を振り絞って考えろ。

力を振り絞って放て。

魂を振り絞って叶えて魅せろ。


お前達の前にいるのは、大魔王(ひめみやはるか)だ。

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