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正史外伝 とある王女の独白

「あら、お客様?あなたは…?」


「頼む、協力してくれ。

その薬草をあるだけ全部売ってほしいんだ。」


そう言う傷だらけの男。

それが(アレイク)との出会いでした。

忘れもしません、

始まりは血濡れになって治療所に運ばれてきてもおかしくない彼が、

薬草を買いに来た時でした。


私はクリアリプルス王国の第一王女。

キャロル・クリアリプルス。



周囲の私の弟子と衛兵たちが無礼だと騒ぐのを止めます。

彼らが私の事を思って言ってくれているのは解かりありがたいのですが、

私はただの王家になった家に生まれて聖女と呼ばれているだけの薬師です。

怪我人を前に無礼などを咎める必要は感じません。


私は傷だらけの彼は、確かに多くの薬草が必要だと思いましたが、

幾らなんでもあるだけ全てというのは十分以上と判断してこう言いました。


「全て分けて欲しいと言われましたが、

それは、できません。

助けを求める人はあなただけではないのです。

その前にあなたの怪我を直しましょう。傷だらけです。

私なら適正な量の薬草で適切な治療が出来ます。

…まったくどれだけ無茶をしたのですか!!」


「面目ない。どうしても倒さなくてはいけない奴がいてな。」



「復讐が神の愛に答える行為だと思っているのですか。」


「神は、いるのか?」

私は神を信じてはいません。

私の信仰は人の愛だけですが、私の周囲にいる者達はその言葉にざわめきます。


「静粛に。」

周囲をなだめます。

彼にその続きを話させる為に。


「悍ましいほど美しい烏の濡れた羽のような髪の魔王が、

天使を率いて天使を殺す。

こんな現実を放置する世界に――――神は、いるのか?」


驚いたことに彼も女神の悪意を知っていたのです。



「清漣の女神が信仰されているこの国で黒髪の悪口は言わない方が賢明ですよ。

お話したいことがあります。奥の部屋にどうぞ。」


そう私はあなたの求めるものを知っているという事を匂わせながらも、

咎める姿勢を見せた彼は、私に着いてきました。

そこから彼は患者と医者ではなく、共犯者になったのです。


彼が部屋に入ると私は鍵を閉めて扉から離れた場所に座り、

小声で喋るように指示を出します。

今から喋ることは知られれば大逆罪。


私を邪魔に思っている現在最も王位に近い皇太子である、

ジャズロックとお父様に魔女として消されます。

国家と女神にとって邪魔なものを魔女として弾圧する闇を持つクリアリプルスは、

確固たる証拠も無く魔女として決めたものを次々と処刑していきました。


その結果、実際に魔女であった者による脱獄と報復により、

近くの多くの町や村に兵を派遣しては、強引な調査を行い、

魔女を強引に摘発し、止めようとした私の率いる『人の愛の会』との衝突もありました。



その被害者が彼と共にいたことには驚きました。

その女性、グレーテルには未だに睨まれることがよくあります。

聞けば彼女の家族を崩壊させた遠因は私の父と弟。

赦せることではないのでしょう。



真の悪は魔女ではなく、

女神を擁護する王国と教会。

いえ、知らない者を責めるのはおかしいでしょう。


その正体を知りつつも口封じし利権を求めるその上層部。

つまり私の家族とその関係者です。


彼には全てを話しました。


私には何者か、恐らく女神かその眷属に記憶操作を受けた形跡があること。

その偶発的な副作用による常人を遥かに超える精神としての時の流れと、

絶対的な回避能力があること。



そして迷宮の女神を封じ、滅し、為り替わり、

人の為の迷宮に作り替えること。


私の、真の目的を。



彼は私を利用することを心苦しく思っているようですが、

気にする必要など無いのです。


私は彼が私を利用しなければならないことを知って、

その上で彼を利用したのです。

人の為の世界の為に。

愛と関心を肯定する世界の為に。

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