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一章 赤い天才 ⑹
回想です。
「ここ、人口密度高いんだけど」
灰は、面倒臭そうに言い放つと
ため息と共に、何やら書類を掲げた。
俺にはよくわからない内容だったが
最後の一行
署名の欄に書き込まれた、肩書きの意味だけはわかる。
『刑事部長』
それはつまり、捜査一課の
一番……偉い人。
「おいおい坊主……これ、本物かよ?」
書類を眺めた刑事さんは、呆然と呟いた。
信じられないのだろう。
俺も信じられない。
「本物ですよ。本物の、委任状です。
というわけで、この件は俺が預かりますから」
淡々と告げ、硬直している刑事さん達に背を向ける灰。
もう少し説明して欲しいとは思うが
こいつにそれを求めても無駄だろう。
そう思い、歩き出した灰の後を追おうと立ち上がった瞬間。
俺を押しのけて、刑事さんが灰の服を掴んだ。
おそらく腕を掴む つもり だったのだと思う。
だが、灰の右側の腕はーー
もはやどこにも、存在しないのだから
刑事さんの手は虚しく空振り、服の右袖を掴んでしまった。
……その結果が、この状況なのである。
……気にしてたんですかね?