序章
序章
序章
その裁判は最初から異例だった。
最高裁判官たる皇帝アズリエル・パラメイト・レイダース5世を中心に、ずらりと居並ぶ八人の選帝侯、八人の帝国軍指揮官、二十余名に上る各大臣、四十余名に上る各領領主、数百名に上る帝国中枢を担う貴族、議員、そして数えることのできない群集。
全員が壇上にあるただ一人の男を見ていた。
男の名前はカイン・アーランフェルド。先日起こった隣国トーリアス神聖帝国との間に起こった通称ミフィア戦役の首謀者とされる男である。
鼻筋の通った顔は、まずまず美形と言われる類にしても構わないだろう。赤味を帯びた長い黒髪は腰まであり、これを首の裏で紐で無造作に結わえている。しかし、今はひどい格好だった。服はヨレて皺くちゃ、ところどころ破れているし、顔は埃に塗れている。髪は何日も櫛をいれていないのだろうか、ぼさぼさのままだ。頬はこけ無精髭が伸びている。
彼の周りは完全武装の兵士で固められていた。槍の穂先、剣の切っ先、弓弦に張られた矢の全てがこの男に向けられていたことが、この裁判の異様さを物語っているだろう。
「被告カイン・アーランフェルドに判決を申し渡す」
黒のローブを身に付け、手に錫仗を持った男が一際大きな声でそう言うと、それまでざわついていた会場が一斉に静まり返った。男はその様子に満足したかのように軽く頷くと、気障な様子で居並ぶ高官らに頭を下げて見せ、そうしてカインを睨みつけた。
「判決、有罪。被告を──」
一瞬の静寂、そして爆発。
観衆のどよめきの只中で、カインはその顔を皮肉げに歪めたまま、悠然と立っていた。