ビッグ・ハート
「先輩の…アイス…美味しいですね」
そこまで言ったのは覚えている。
ーガラッ!ー
『おいはじめー!メイちゃんは大丈夫なのかよー!』
『うるせぇ!でかい声出すな!寝てんだから!』
『っあ…わりぃ…』
…メイちゃんは大丈夫なのかよ…
この声…こうき先輩…
…メイちゃん…
…メイちゃん…
あれ?
さっきからずっと…
同じ言葉がリピートされてる…
こうき先輩が…私の名前…呼んだの?
…なんだろう…このかんじ…
保健室のカーテン越しに聞こえる二人の会話を背に私はまた眠ってしまった…。
「…………んっ……ん~?……」
『っあ!目覚めた?』
…あれ?
「こうき先輩…は…」
確かに私が聞いたのはこうき先輩の声だったと思う。
もう何時間前の話だかわかんないけど…
『あぁ…こうき?こうきは帰ったよ
これからデートなんだってさ。』
ーーっつーー
そう…なんだ
私…なんでこんなに傷ついてんだろう…
もしかして…私…こうき先輩が好きだったの?
じゃぁ…はじめ先輩は…?
あんなことまでして…
わからない…
なんなんだろ…
『ねぇ…メイちゃんって…
こうきが好きなの!?』
!?
どうなんだろう…
「なんで…ですか?」
『だってさ…俺とアイス食べてるときも、ずっとこうき見てたじゃん!?違う?』
気づかれてたんだ…
確かにさっき、はじめ先輩とアイスを食べてるとき、私の目は自然とこうき先輩を見ていた。
でも…その時はまだ“好き”とかそういうのではなかったと思う。
私のはじめての恋は一瞬で終わったのだ。
こうき先輩を好きになったのは私の名前を呼ばれたとき。
終わったのは…さっき…
彼女がいるとわかったとき。
『ねぇ、なんであんなに俺と話して俺の近くにいたのに、メイちゃんはこうきばっかり見てるの?なんであのとき俺のアイス舐めてくれたの?』
「それは…暑かったから」
そう…あつかったから…
太陽のあつさ…こうき先輩を見てたときのあつさ…
でももう今はこうき先輩なんて関係ない。
『ねぇ、こうきの事好きなんでしょ!?』
「…好き…でした…でもさっき終わりました…だってこうき先輩…彼女いるんですよね…?」
なんで私泣いてるの?
彼女ぐらいいて当然じゃん。
彼女…ぐらい…
『俺じゃ…ダメ?』
「っえ?…」
『俺じゃ、こうきの変わりになれない?
今はまだ俺の事好きじゃなくてもいい!
いつか、メイちゃんが俺の事好きになってくれるまで、俺はメイちゃんといる!
だからもう、俺の前でそんな辛いかおしないで…』
そんな…何処かから拾ってきたような台詞…
嬉しいわけ……あるじゃん…
今はまだこうき先輩の事…好きでいてもいいのかな…
はじめ先輩は…こうき先輩は事忘れさせてくれるかな…?
『俺と…付き合って。』
「うん…」
いいんだ…いつかこうき先輩を忘れられる日が来るなら
「私…まだこうき先輩が好きです、でも…もう忘れたい…
はじめ先輩が…忘れさせてください…」
『うん、必ず忘れさせてあげる。
約束する。でも、忘れさせて欲しいなら
キスして』
…“キスして”…
「え…」
いきなりで戸惑ってしまった。
『ははっ、いきなり好きでもない男にキスしらだなんて無理か』
「…すいません…」
『いいよ。いつか、してね。』
…私が…キスなんてできるのだろうか…
こうして
私とはじめ先輩の“偽”のカップル生活が始まった。