6話 今年の王者は君だ!予選会開催
『今年の王者は君だ!目指せチャンピオン!大会!第8エリア デルンダロン地方予選』
「え?何あれ?あの頭の悪そうな大会名。誰考えたの?」いや、マジで疑問。馬鹿なの?
「そうか?毎年あんな感じだろ。去年は『優勝すれば可愛いあの子にモッテモテ』って名前にして批判されながらも押し通してだろ。」とクラスメイトで同じく大会参加者の松田が答えた。
「うーそんなことよりボクチン緊張がやばいんだけど。泣きそうなんだけど。」
「ボクチンってどうした西川?緊張で頭やられたか?ついでにメガネは忘れたの?棄権すれば。」マジで西川がおかしくなったのかも。休憩室につれてくべきかな?
「今日はボクチンな気分なんだ。突っ込まないで。あと今日はコンタクトだ。」
「あ、あそこにいるの池田先輩じゃないか?うわ~あの人もここの予選会に出場かよ…終わった…」
「ウッソ…あーーーー……三坂さんとのラブラブ学校生活が終わった。」
俺の前で西川と松田が激しく落ち込んでる。こいつら本気で付き合うつもりだったのかな?
ちょっと引き気味の俺は周囲に視線を向けた。凄い人だ。この会場の参加者だけで数百人はいると思われる。
「そういえば佐々門も出るんだよね。まだ来てないみたいだけど。」
立ち直ったのか松田が聞いてくる。佐々門?誰だ?
「佐々門…………………あーエロ太は別のエリアから出場するって言ってたぞ」
やばいやばい。本気で誰かわからなった。そろそろコードネームで呼ぶのはやめようかな。本名がわからなくなる。
「別のエリア?同じエリアの別の予選会場じゃなくて?」
「そう別のエリア。たぶん第30エリアだと思うけど。」
「えーーーーーーーホントに?なんでわざわざ別のとこから?」
「さあなんでだろうな?俺もよくわからん。」
俺と当りたくないからだろうな。なんだかんだ言ってみんなやる気だったし上位に食い込む意思はあるんだろう。少なくとも本選までは行けよってチームとして命令しておいたし。同じとこだと俺とぶつかって敗退する可能性はあるからな。たぶん他のAやDも別エリアだと思うし。確認しておけばよかったかな。
ん、どうした西川?
「30エリアって隣のエリアだよな。うわーボクチンもそうすればよかったかな。確か今年は実力者があんまりいないって話だし。佐々門のやつ本気で三坂さんをゲットするつもりかな。やばい負けられない!」
「確かにー!三坂さんのはじめては俺のものだし。ビビってる場合じゃねえな!」
気持ち悪いことを言い出した二人を無視してもう一度周りを見る。意外と知った顔が多いな。あ、あいつはうちの学校のやつだ。あそこのも。
「間もなく開会式が始まります。選手の皆さんは会場中央まで下りてください。観客の皆さんは着席してください。」
アナウンスが聞こえた。そろそろ本番だ気を引き締めるか!
開拓者は50のエリアに分かれている。日本でいうところの都道府県だ。首都があるのが第1エリアで今俺たちがいるのは第8エリアだ。エリア番号は隣接してる部分でつながるのではなく、人が住み始めた順番につけられている。なので俺たちがいるエリアは首都に割と近い場所だ。
各エリアの地方ごとに予選があり勝ったものがエリアの本選に出場、その本選で勝ったものがエリアの代表として小大会の本選に出場できる仕組みだ。日本の大会で言うなら地方大会、県大会、全国大会みたいもんかな。火星には国が1つしかないから全国大会=世界大会だけど。
試合形式は毎年違っていて去年はずっと1対1の戦いだった。一昨年は予選では5人ずつのバトルロイヤル形式だった。今年は何になるのかはまだわからない。楽しみだ。
おっとそろそろ開会式が終わるな。
「……以上で開会式を終了します。つづいて選手の皆さんに連絡します。出場手続きの際に引いていただいた抽選くじ番号1~60までの方はその場に残ってください。その他の方は客席の方へお上がり下さい。」
「えっなんで」「お前何番?」「俺は55」「何やる気だろう?」「まさか…」「この形式は多分」
周りの人が一斉に話し出した。だよな~これはおそらく60人単位のバトルロイヤルだな。
「大祐とマッツンは何番?ボクチンは25なんだけど?」
俺が208で松田は199だな。となると一緒か。
「俺と大祐は一緒だな。よろしく頼むよ!これって多分バトロイ形式だろ。協力しようぜ。」
「おう!こっちこそ頼むわ。ただ勝者の人数が気になるが。」
「たぶん10人くらいは残すだろ。じゃなきゃ今日1日で終わっちまうし。予選は3日間でやる予定だろ?」
「3日目は延期の場合の予備日だ。だから2日間だな。どうなるか微妙なところ。」
「ちょっと待って!?ボクチン1人?1人でいきなり戦えって?」
西川泣きそう~。面白いけど周りも移動してるし俺たちも行こう。
落ち込むに西川を置いて松田と2人で客席に向かう。
会場は大きなアリーナで中央の広場を観客席がぐるっと囲っている。今日は平日で学校の授業もある日だ。観客席にはあまり人がいない。俺と松田は同じ高校のやつらを見つけみんなで最前列に座った。
他の人とも話してみたが俺と同じ試合なのは松田だけらしい。俺たちの前の試合にたくさん人が固まってしまったみたいだ。
ちなみにイケメン池田は第2試合のようだ。
「これより試合の説明を行います。今大会では60人ごとのバトルロイヤルを行ってもらいます。この会場では参加者がおよそ480人ほどなので本日は8試合を行います。試合時間は30分で各試合は1時間ごとに行います。」
「各試合では勝者を5人とします。制限時間を過ぎても5人以上残った場合はそのグループの勝者は無しとなります。また制限時間内に5人となりましたら、そこで試合は終了します。」
「本日勝ち残った40名が明日の決勝に進むことができます。決勝についての詳しい説明は本日の最終試合が終わってから説明いたします。以上で説明を終わります。各選手の健闘を祈ります。」
女の声でのアナウンスが終わり、説明を受けて再び仲間内で「うわー」とか言いそうになっているところで男のアナウンスが聞こえる。
「これより、会場内の結界を作動させます。第一試合の選手の皆さんは会場に書かれています線の内側にお入りください。」
選手が動き終わると結界が試合会場を包んだ。
この結界は攻撃が外に出ないようにするためのものであるが、中から外に人が出ることは可能である(当然出たら失格である)。また試合が終わる、あるいは結界の外に出ると傷を癒やす性質がある。たとえ結界内で死んでも蘇生ができるすっっっっごい結界で俺にも仕組みがわからない。会場の四方におかれている魔法機械のようなものが結界を作動させてるようなんだが。いつか調べてみたいな。
「大祐大祐、ニッシーのやつすっごい緊張してるんだけど。ウケる。」
ホントだ。凄い震えまくってる。まあ、あいつは勢いで参加しただけだからな……同校のやつは他にも3人ほどいるみたいだ。名前はえっと……………
「マッキー、比留間、ヴェルナールだ。全員をみんなで応援しようぜ!同じ学校なんだし!」とさわやかな笑顔を浮かべる池田先輩。
うーんいい人だなぁ。三坂さんも付き合ってやればいいのに。
「ちょっとちょっと口に出てるよ。俺泣いちゃうよ。」
こんな感じでみんなでわいわいやってるうちについに試合が始まった!
いきなり飛びかかるやつと様子見のためかまったく動かない人の2つに分かれた。
そして3分もたたないうちに個人で行動する人はいなくなって3~4人のチームが10ほどできている。同校の4人は同じチームとなっている。
個人で動いたものはみんなどこかのチームを組んでる連中にあっさりと倒されていた。
…そして試合開始5分後にはどのチームもにらみ合ったまま動きを止めた。
「え?今回の大会ってチーム戦だっけ?」「いや、違うけど」「俺たちのときはどうする?」
最初は応援していたが完全に硬直した試合のせいで、みんなそれぞれ話し始めた。
しかしなるほどねぇ。この会場はほとんどが下級BMだから大規模攻撃がないもんな。おまけに能力もさほど差がない、あっても複数で挑むことで渡りあえるレベルだからこんな結果になってるんだ。てかこの地方大会のレベルってこんものなのか?予想の百倍は低いんだけど。いつも見るのは首都で行われる本選だから知らなかった。
「大祐、なんかみんな全然動かないんだけどどうしてだ?」と松田が聞いてきた。
しっかりしてよ松田君。見ればわかるでしょ。僕と組む予定なんだからしっかりしてくれないと!
と言おうか悩んでると、俺がわからなくて困ってる風に見えたのか池田先輩が代わりに答えた。
「みんな同程度の実力だからね。どこかのチームと戦えば体力も魔力も消費するだろ?だから勝っても今度は違うチームに襲われる。実力が近い分体力がある方が有利に決まってるから当然負けてしまう。つまり先に動いたところから負けてしまうんだ。」
「なるほど~でもそうなると時間だけが過ぎてくんじゃないですか?」「うんだからこの試合のカギは・・・・」
松田と池田の会話を聞き流しながら試合を見る俺。この試合は勝者なしだな。
30分後
「試合終了です。5人以上の選手がいるので規定によりこの試合の勝者は無しとなります」
アナウンスが響き渡ると同時に切られて倒れている人も含め選手の体が癒えていく。
1分後には瀕死だった人も自分の足で客席に上がってきた。試合はクソだったけどこの技術は凄いマジ凄い!
西川含め同じ学校の人たちがこっちに来た。みんな微妙な顔をしている。ま、いきなりの試合だったし試試合内容も微妙だったし不完全燃焼なのだろう。
近づいてくる彼らを「おつかれ~」と出迎えた。
簡単にみんなで話した後はそれぞれ仲のいい友達同士でこの試合についての感想を話し始めた。
「何が何だかわからんかったよ…気が付いたらボクチンの試合が終わってた。」
例に漏れず微妙な顔をした西川が言う。
「いきなり試合だったからな。全体的にみんな緊張してたっていうか戦う準備ができていなかった感じだったし」
「そう!それ!もう少し時間がほしかった…。あーーーー三坂さんとの付き合いが終わった。」
「いや始まってさえいないだろう。」
「始まる予定だったの!この試合をきっかけに!」
「ちょっと待てそこの後輩たち。三坂さんと付き合うのは俺だ。そこはゆずらねぇ!」
「あーんふざけんなよ。あの子と付き合うのは俺だ。」「いや、俺が……」
松田と西川の話を聞きとがめた先輩たちが会話に加わり、カオスな状況になってきた。もう無視しよう!と思ったところで
「第二試合に出場する番号61~120までの選手は控室の方に集合してください。」
この後のことは簡単に話そう。試合もレベル低かったし。
まずさっきの西川の出た第1試合は途中小競り合いはあったものの試合は動かず、試合終了間際になってみんなあわてて戦いだしたが、時間切れで勝者なし。
第2試合は池田率いる我が東心峰学園勢5名が勝ち残った。池田の指揮のもと上手に試合を運んでいた。敵が残り半分くらいになったところで他のチームが組み始めたが連携はうまくいかないし、ずるいことを考えて池田チームごとまとめて全員倒そうとしたのかランダムに魔法を打つやつがいておかげで敵はさらに減っていた。
そいつは池田達以外のやつに倒されてたし、もう凄かった。なんかすごかった。で結局学園勢の勝利だ!
第3試合は東心峰から11人の参加だった。これは余裕と思われたが他のチームはすべて結束していた。個人で参加したであろう中年にさしかかる前くらいの男、ドゥークというやつが上手くまとめあげ学園勢をぼこった。
そのあとはドゥークが暴れて終了。残り6人になった時点でドゥークは他の5人を同時に吹き飛ばした。よって勝者はドゥーク1人である。
こいつは間違いなく中級だ。やっぱり多少は中級が混ざっているよな。安心した。
第4試合は俺様と松田が出場だ。けど特に何もしてない。東心峰と同様にデルンダロン地方にある学園 西海陽学園(レベル的にも東心峰と同じ地方では上位、惑星上の進学校の中では下くらい)からの出場チーム3人が見事なチームワークで他をやっつけてくれた。
俺と松田? 離れたところで見てたよ。西海陽の連中も『俺たちのおかげだぞ』みたい顔をしてたんでありがとうと松田と二人で言っておいた。
西川はズルいと拗ねていたけど男なんでシカトした。
そのあとの試合に特筆することはない。結局俺たち東心峰学園から8人、西海陽学園5人、おっさん7人、若い兄貴が3人、おばさん1人に俺と同じ中級であろうドゥークの計25人が決勝へと駒を進めることとなった。
「本日の試合は以上で終了しました。この会場での予選からは5人までがエリア大会への出場が可能となっております。明日10時の試合では25人でバトルロイヤルを行います。その他のルールにつきましては本日と同様です。また・・・・・」
「つかれた~~~~~~メンタル的に」
夕方前に試合は終わったのに帰ってきたのは太陽が完全に沈んでからだ。
さっきまで学園で明日の作戦会議を行っていた。議題はドゥークと西海陽とどう戦うかだ。めんどかったんで俺は適当に頷いておいた。とりあえず池田に従うとのことだった。
しっかしホントにレベルの低い大会だったな。うちの会場が特別なのか全体が低いのかどっちだろう?
エロ太たちに他の予選会場についてメールで聞いてみると「テラワロス」「弱かった」「小さな会場だから仕方ない」とだけ返ってきた。
…まあ、問題なく勝ったようだな。Aの言うとおり上に行かないと強い奴には会えないか。本選には必ず貴族が出場しているはずだから全力を出す機会はあるだろうし。
力を隠す気はないけど最低限の実力も持たないやつにマジで戦うのも馬鹿らしい。
できれば明日戦うであろうドゥークが本気になれる相手でありますように。そう思いながら寝ることにした。




