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40話 居酒屋での一場面





「オヤジ!もう一杯こいつらに。」


「へい。」



 静かにテーブルに置かれた酒を部下たちに勧める。



「ほら。これでも飲んで元気出せ!な?今日のことはこれを飲んで忘れよう!」



 時間はまだ夕方。


 この寂れた感じの居酒屋には俺たち以外に客はいない。


 あ、酒に関してだが法律的に問題なしだ。


 魔法の中にはアルコールによる悪い酔いを防いだり、瞬時に酔いを消し飛ばす魔法もある。それを使えるものは飲酒に関する許可証を手に入れることができ、居酒屋へ行っても大丈夫というわけだ。このメンバーの中では俺、アリス、奈瑠美が持っている。



「グスッ………うぅぅ……俺なんて不細工のカス男だし弱いし良いとこなんてまるで無いんだ。」 ← 泣き上戸のエロ太


「……ふぅ……」 ← 無言でちびちび酒を飲むD


「そーだよ!あいつらが悪いよ!なんで俺たちよりつよぉいんだよ!俺たちは魔王の眷ろくだずぉお。巫女だか何だか知らないけどよぉ!!一回シメてやんなきゃならんわ~」 ← ほろ酔い気分のA



「シメてやるって、あんたたちがシメられてたじゃない。14秒しか持たなかったじゃないの。」



 Aの言葉に反応して奈瑠美がツッコミを入れる。



「うるっさい!何なのオマェ!おんなじリーダーの眷属のくせに生意気だぞ!俺たちの方が先輩なんだからなあ~敬語をつかうのが礼儀だろ~~~~が!!!」



 当然奈瑠美も言い返すわけで言葉のバトルが始まった!



「わたくしこのような質素で庶民的なお店に来たのは初めてですが、居心地はそれほど悪くないですわね。」



 ぎゃーぎゃー騒ぐ二人の眷属など気にもせず、アリスが俺に言ってきた。


 泣いてるエロ太、無言のD、うっさい二人にマイペースなアリス。


 どれから手をつけたらいいかわからないから、とりあえずアリスを抱き寄せてその頭を撫でることにした。








 アリスも奈瑠美も大衆居酒屋は初めてのようで、興味深いのか最初は店内を見回していた(アリスはさりげなく、奈瑠美は堂々とキョロキョロしていた)。


 ちなみに座席は小上がり(畳)で、俺の両隣にアリスと奈瑠美が座り対面に部下たち三人が座っている。

 店内は畳のとこの3席分とカウンターのみと、こじんまりしたところでAが学校の友達とよく来るところらしい。


 席に着いた俺が飲み物を注文した後はアリスと奈瑠美の太ももを触ることに夢中になっていた。


 奈瑠美の方は顔を赤く染めて「…!?なにすんのよ!?」と怒ってきたが、アリスがされるがままになっているのを見て、「な!?うぅぅぅ……」とボソボソなんか言った後は大人しくしている。


 まあ、一度調子にのって手を奥まで入れた結果、純白の下着が丸見えになったときは本気で止められたけどな。店主のオヤジに見られたし。


「いや~良いもん見せてもらったから、このツマミは俺のおごりだ!」と言ってしめサバをくれたので結果的には良かったと思う!



 そんなアホなコメディを繰り広げている主と眷属(女)の対面には暗黒のオーラを巻き散らかす魔王の眷属(男)がいた。


 そう!彼らはまさしく魔王の眷属そのもの!


 その身から発せられる陰鬱な負のオーラはどんな素晴らしいパーティーも盛り下げること間違いなしで、合コンには絶対に来てほしくない男ランキング1位であるだろう。


 合コンなんて行ったことないけど。







 …………とにかくだ!


 こいつらのマイナスのエネルギーが半端ないから、セクハラは半分やめて(片手でアリスの足を触って、もう一方の手で酒を注いでやっている。手が疲れたら交替して奈瑠美を触っている)部下たちの気力を取り戻す作業を開始した。


 その結果、今のカオスな状況になったわけだ。



「リ~ダォ~!俺は……グズッ……もう……グスッ……ぅぅ眷属失格ですぅぅ。眷属をクビにしてくらはいぃ。」


「どうやって!?魂の情報を書き換えなきゃ無理だよ!?そんなの不可能だし!」


「……ふぅ……」


「あら?これはなかなか美味しいですわ。大祐、あ~んしてください。」


「え?今それどころじゃ―――あ、あーん……。うん美味しいな!」


「でしょう?わたくしも女性の嗜みの一つとして料理をしますが、このような粗野な男の料理的なものは作ったことありませんの。大祐の妻になるのなら学んでおいた方が良いかもしれませんね。」


「待ってアリス。いろいろ問題発言でどっから突っ込めばいいかわからないんだけど。」



 まずは店主に聞こえてほしくない『粗野な――』の部分を突っ込もうとしたら反対側では2人が未だにバトってた。



「おまえはさぁ!顔と性格のバランスがダメなんだよ!なんで一見お淑やかな大和撫子っぽいのにさぁ、言動は荒いしバイオレンスなわけぇ?はっきり言って無駄だよねそのバカみたいにデカい胸とかさぁ~中身は完全に男だし!」


「あん!?あんたには関係ないでしょう!大祐はドMだからこれくらいでちょうどいいのよ!胸だって巨乳好きなんだから問題ないわよ!」



 違うよ!巨乳は好きだけどMじゃないよ、どちらかというとSだよ。


 普段強気な奈瑠美が二人での甘い空気になると外見通りに淑やかで可憐な女の子になるギャップがいいんだよ。


 "今の俺"は奈瑠美と甘い空気になったことまだないけど、俺はそれを知ってるんだ。


 正確には違うけどツンデレに近いと思う。



「まったく!リーダーのぉよ、お気に入りだからってよぉ~あんま調子に乗んなよぉ~!俺らが本来の力を取り戻せばお前なんて1発パ~ンだかんな!」


「はいーはい。そんな負け惜しみを言うような奴だからあんな無様な結果になったのね。それに引き替え来栖川(メン太郎のことです)のやつは及第点ね。止めを刺されそうになったあんたたちを助けて、おまけに巫女も一人で倒してたし。スミレたちもウットリしてたわ。黒華と巴は微妙に違ったけどね。」



 最後の部分でチラッとこっちを横目で流し見る奈瑠美。


 まあ、あいつらも一応は眷属だから。


 命じればきっと俺の傍に侍るようになるだろうが、俺の方の魔王化の影響が強くなる気もするし、当分はアリスと奈瑠美だけで良いだろう。


 わからないことがいっぱいの状況でこれ以上負担は増やしたくないしな。



「そうぅぅだ!メン太郎だ!あいつが悪いんだぜーーんぶ。ぶっ殺そう!な、風太!?」


「グスッ………うん……そうだな。あいつがいなけりゃ……グスッ……上手くいくよな。」


「……賛成……」



 いつのまにか話がずれてドンドンおかしな方向へと進んでいた。さっきまで溜め息をつくだけだったDも何気に賛成してるしさ。


 奈瑠美は散々かき回したくせに「もうわたしは知らないわ。」的な顔をしてメニューを見てやがる。アリスは当然ながら初めから部下たちの事なんて視界に入っていない。



「あ、店長!わたしにホッケの開きを持ってきて。あとは……枝豆と……このたこわさっての?おいしいのかしら?まあ、良いやこれ持ってきて。」


「あいよー。」


「わたくしはとりの唐揚げと野菜スティックをお願いいたします。」


「あいよー。少々待ってくだせぇ。」


「あ、あとわたしに飲み物の追加でこの日本酒を熱燗で―――うーん……もうぱーっと6合持ってきて。」


「はいよー!御嬢さんは飲めますね!」


「あったりまえよ!わたしを誰だと思ってんの!……それは良いとしてこの日本酒は安い割に飲みやすいわね。気に入ったわ。」



 ……うん。二人ともバカどもを止める気はないな。


 このままだと本気でメン太郎殺害計画を立てそうな流れになっているから、さすがに介入することにした。



「待て!落ち着こう。そもそもお前らだってまだ宝具を使ってないだろう?宝具を使えばモンスターとの戦闘結果だって変わるだろう。」



 今日の部下たちとモンスターとのバトルではスピードでは問題はなかったが、攻撃力と防御力に差がありすぎたからな。


 今のこいつらの攻撃ではあの階層のモンスターにはダメージを与えることができない。そのため敵に攻撃を当てた直後の反撃で返り討ちにされて負けたわけだし。


 おまけに今の部下たちの場合、きちんと防御しても即死級のダメージを与えられてしまうわけだし。


 だが宝具を使えば攻撃力や防御力が大幅に上昇するわけで十分勝てるようになるだろうし。


 そんな説得をしたが部下たちは戦闘うんぬんよりも他のことが気になるらしい。



「今さらぁ、そんなの使ったところでぇ、スミレたんやルーンたんの評価は取り戻せないもん!」


「そんなことないって。まだ挽回の機会はあるさ。」



 もん!じゃねぇよこのバカが!と殴りつけたいのを我慢してとりなす俺。



「え?こいつら宝具持ってるの?」



 意外だわ~といった感じの表情をした奈瑠美が聞いてくる。右手には日本酒が来ないので俺のビールの注がれているグラスを勝手に持ち、左手には残り少ない枝豆を持っている。       


 その姿は美少女ではなくただのおっさんだった。


 比べてアリスは食べ方もお嬢様っぽく品があって好印象だ。まあ、奈瑠美のようなラフなのも全然嫌いじゃないけどさ。



「おう。こいつらってか、うちのチームは全員宝具持ちだ。魂性のな!」


「ふ~ん。宝具を使えば勝てるようになるってことはそこそこの性能なのね。」



 手に持った枝豆を口に運びながら奈瑠美が呟く。


 奈瑠美がまさに口に入れようとした瞬間、俺が横からその枝豆を強奪した。奈瑠美の指ごと口の中にな!


 や、別に理由はなかったんだけど何となくそうしたかっただけなんだ。

 

 バカの相手は疲れるし奈瑠美たちといちゃつく方が有意義だし。



「きゃっ!……ちょ、ちょっとなにすんのよ。」


「なんとなくここはそうする場面かなと思ってさ。深い意味はないんだ。」 ← 奈瑠美の指を咥えながらフガフガ言ってる感じ。


 嫌がらせのように指を舐めまくってやった後、放してやると一見怒ったように―――でも指を抜くそぶりはなかったし、実際には恥ずかしいだけで嫌がってはいないんだろうけど―――



「うっわ~ベトベトじゃん!うー………えいっ!」


「きったね!おい、何すんだよ。」


「汚いってあんたの唾液でしょ。」


「大祐、わたくしの枝豆も、あ~ん。」


「え?あ、あーん。」


「……あのわたくしの指は?」


「え、え?いやだってアリスさん、それ箸で枝豆持ってたでしょ?それで指舐めるってどういうこと?」



 箸を丸呑みしろってことなの?



「冗談ですわ。」



「そ、そっか。なら良いんだけど。」



 顔がマジだったのは気のせいか?


 うん、気のせいということにしよう。


 あと、アリスと話し始めてからほっとかれてる奈瑠美が俺の足を抓っているのが地味に痛い。でも頬を膨らませてるのは普通に可愛い!




 だが奈瑠美以上にほっとかれてる対面に座る負のオーラを放つ組は、そんな俺たちを見てついに我慢できなくなったらしい。


 代表してAがテーブルをドンと叩いた。



「おいぃぃぃぃぃーーーーーーーーー!何をいちゃついてんだ!」


「何よ、うっさいわね。」



 もちろんすぐに奈瑠美が言い返す。


 余談だが奈瑠美の『膨れっ面』から『鬱陶しいなこいつなんなの?邪魔すんじゃねぇよ。』という表情の変化はあまりにも早すぎて俺にはいつ変わったのかわからなかった。


 

「団体で来てる時にいちゃつくんじゃねぇよ。」


「え?何あんた妬いてるの?言っとくけどあんたは好みじゃないから。」


「ちげぇよ!てかお前にしろアリスにしろ―――」


「アリス?」



 今まで部下たちのことは完全にスルーだったアリスが呼び捨てされたと同時に冷たい声で反応した。微妙に気温が下がった気がするが、これも気のせいだと思いたい。



「……あ、あ、あ……………あ、あ~アリスさん――――ファスナイルさんにしろ同じ眷属には女を感じないんですよ。なので、倉島さんに対して恋愛感情や性欲を持つこともないですね、ハイ。」


「ふーん。じゃあ、別にいいじゃない。」



 怯えるAの言葉にあっさり返した奈瑠美は俺の腕にギュッと抱きついてきた。普段の奈瑠美なら恥ずかしがって自分からはできないだろうけど……部下たちへの嫌がらせでやるときは問題ないようだ。



「いや、良くないよ。そんなの見たくないしさ。興味ない人であっても目の前でいちゃつかれたらウザいでしょう?」


「そんなことないんじゃない?だって、あんた達にとってわたしやアリスは女じゃないんでしょう?確かにわたしもあんた達に異性としての意識を欠片も感じないわね。きっとあんた達の前でなら平気で着替えとかもできるし、あんた達もわたし達の裸を見たって何とも思わないんでしょう?」


「いや、そうだけどそうじゃないよ。確かに男同士みたいな認識だけどさ―――」


「それなら良いじゃん。」


「君たちを男と認識するとしても嫌だよ。なんで男が男の指を舐めてんだよ?男同士で抱き合ってんだよ!」


「わたしらホモだから。」


「やめろおい。俺まで巻き込むな。俺はちゃんと女が好きだ。」



 研究室には確かガチでホモなやつがいたからな。


 冗談でもそういうレッテルを貼られるのはよくない。


 俺の勘が危険だと言っている!


 





 こんな感じの超グダグダな会話が続いていく。


 2時間ほどかな?時間は確認して無いけどそれくらい飲んでたはず。


 仕事帰りのおっさんとか他の客が多く入り始めたので俺たちは店を引き上げることにした。


 酔いを醒ます魔法をかけ会計を済ませ解散する頃には、部下たちのテンションも割と復活していたがやっぱり微妙にへこんでいるのが見て取れた。


 う~ん……明日の探索に影響が出ないようにするにはどうすればいいか?帰宅中それを考えていた俺は家に着くと同時に何人かに電話をかけるのであった。


 




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