39話 奈瑠美さんは大暴れ,部下たちは良いとこなし,大祐は見てるだけ
10人でダンジョンに入った俺たち!
今日は100階からスタートだ。
ダンジョンによって大きさは違うが、ここ不死鳥祭殿の通路はそれほど広くない。もちろん大きい部分もあるが基本的に10人は多すぎる。
また超イケメンであるメン太郎のチームがマップを見ずに自力で進みたいということで、現在は分岐のところから二手に分かれて進んでいる。
15分したら次の階層への階段を見つけても見つけなくても元の分岐まで戻る約束だ。
とはいってもメン太郎組、そしてこっちにいるアリスや奈瑠美の実力を考えると、どんなに遅くても15分あれば次の階段など余裕で見つけ出せるだろうけどな。
一応、探索開始したばかりということで長めに時間をとっている。
俺たちのいる『不死鳥祭殿』は一定階層ごとにいる『不死鳥の巫女』やボスである『不死鳥』が強力なのであって、ダンジョンのトラップや通常のモンスターはそれほど高難度ではないと知られている。
まあ、上級のBMにとってはだけどな。
他のダンジョンでは1階層クリアするのに5分とかで済むところはあまりないぞ。
まあ、地下数百階まで続くダンジョンもほとんどないんだけどな。
話は戻ってメン太郎組と別れた俺たちは6人でダンジョンを進んでいる。
あ、黒華と巴は微妙に俺たちのことも気にしてたみたいだが、特に何も言わず向こうへ行ったぞ。正確には何か言おうとしていたけど俺が視線で止めて、ひとまずはメン太郎組の方へ行かせたんだけどな。
そして俺たちの方の隊列は奈瑠美が先頭でその後ろを部下3人が進み、最後尾に俺とアリスがいる。
2手に別れて数分後、本来は戦う予定であった俺はアリスとのんびり会話をしていた。
「いや~楽だな!今日は俺も働かなきゃいけないと思ってたけど奈瑠美のおかげで楽できてよかった。俺さ、思うんだけど将来は働かないで生きていく道を探そうかなって!自分で身体を動かすのも嫌いじゃないけどやっぱりダラダラのんびり過ごす方が好きかも。」
「しっかりと働く男性の方が女性に好かれますわ。」
「それはそうだけど最悪、アリスや睦美ちゃんとかに寄生すれば良いしさ!」
「ヒモになるのはどうかと思いますわ。せめてフリーターでいてください。」
「それってあまり変わらないと思うけど。」
こんな感じでダンジョンでするには相応しくない会話をしている。
すると先頭を歩いていた奈瑠美が不満げな表情をしながら振り返ってきた。
「ちょっと!くだらない会話をしてないで、わたしの活躍をちゃんと見なさいよ!あんた、わたしの実力を見ることができるなんて凄い名誉なことなの!わかってんの?」
「わかってるわかってる。俺の代わりに部下たちが見てくれてるから。あとで報告聞くから。大丈夫大丈夫!」
「わかってないじゃん!あのね――――」そう言いながらこっちに向かって来る奈瑠美ちゃん。
こいつはあれだ。
構って貰えないと寂しくなるタイプなんだな。
外見が黒髪の美人の大和撫子って感じだから、まだ許せるが標準以下の見た目だったら絶対ウザくて無視するだろうな。
そう思ったとき不意に大和撫子という単語が引っ掛かった。
……………………
……大和撫子……
……和風美女……
……こいつには巫女のコスプレが似合うと思う!
今度着させてみよう!
「誰が着るか!」
「え?」
脈絡もない頭がおかしくなったかのような俺の心のつぶやきに対して微妙に頬を紅潮させた奈瑠美がツッコんできた。
なんか最近やたらと俺の心を読むやつがいるんだけど!
……お、恐ろしいな……
「大祐、声に出てましたわ。」
………………まあ、そんなことは忘れよう。
「アホなことしてないでちゃんとこっちを見てて!」
奈瑠美はまたこっちを振り返り大きな声で言ってきた。
迫る強力なモンスターの群れを腕の一振りで発動する魔法で消し飛ばしながらな。
…………
……そう、さっきから一撃で消し飛ばしてるから正直なんも面白くないんだよなぁ。
なんせモンスターが視界に入ると奈瑠美が腕を横に払うわけだ。すると何かが飛ぶわけでもなくモンスターが一瞬で分解されて魔法式だけが残されている状態になる。
最初はその強さに驚いたけど、ずっとこうだと飽きて無駄口を叩きたくもなるだろう?
おまけに罠があっても奈瑠美は気にしない。刃や電流が飛んできても奈瑠美の障壁で防がれ、落とし穴があっても宙に浮く奈瑠美には意味が無い。天井が迫ってきても結界で防がれる。
もう緊張するのも馬鹿らしい位だ。
こうしている今も前方右方向から、大型の歩く甲冑のようなモンスターが3体現れた。
名前は忘れたがかなり強い奴で魔法の威力を減衰させる能力を持つため、接近戦をするしかないわけだ。でも甲冑は堅いし所持する剣のスピードとパワーは上級並みだし、今の部下たちじゃ殺されるレベルのモンスターだ。
そんなモンスター3体も奈瑠美たんが腕を振るえば一瞬で原子レベルまで分解される。
探索を開始してから出会ったモンスター全てがこうだから、もう何しに来てるかわからない。わざわざこんなとこに来る意味ないんじゃない?お金で魔法式を買うのと変わらないんじゃないか?そんな気さえしてくる。
部下たちも超暇そうにしてるし、エロ太に至っては既に警戒さえしてないからな。
これが奈瑠美じゃなくさっきまで一緒にいたルーンたち貧乳ペアだったら、あいつらは真剣にその顔や尻を凝視してたんだろうけど、奈瑠美のような眷属(?)同士ではまったく性欲を感じないらしいからな。
かといって良いとこ見せようと張り切っているらしい奈瑠美を止めれば、またメンドイことになりそうだし。
……あ、奈瑠美が罠を踏んだ!
あれは強制転移の魔法陣だ!
やば――――――――――くなかった。
魔法陣から発せられる魔力が俺たちを包囲する前に、奈瑠美が魔法陣を魔力でかき消しやがった!
………もうあいつは何でもアリだな。
こんなわけでとにかく退屈しながらダンジョンを進んでいる俺たち。
15分が経過したので、一度メン太郎たちとの集合場所へと戻ると彼らの方が次の階層への道を見つけたらしいから全員でそっちへ向かった。
次の階層でも同様に別れて探索し、こっちのチームは奈瑠美ちゃん無双ですごく暇だった。
その次の階層、その次の階層でも同じ感じで進んでいく。
そうして8階くらい下りた後、さすがに身体を動かしたくなったのか部下たちの中の1匹Aが、気分よくモンスターをブッ飛ばしてる奈瑠美へ話しかけた。
「あの~倉島様。わたくしどももそろそろ労働したいな~みたい感じでして、一度交代しませんか?」
「あ゛ん?」
予想通りというかなんというか、張り切ってるところを中断させられた彼女はお嬢様とは思えない表情と声で振り返りAを見た。
ここでモメられても困るんで奈瑠美が口を開く前に俺が話すことにした。
「そうだな。先は長いし少し交代するか!奈瑠美は一旦下がって俺の話し相手になって!」
すると奈瑠美は表情から怒りを消して、でも困惑を残しながら俺とアリスの方へ来た。
入れ替えにほっとしたような表情を浮かべながら武器を構えて前に出る部下たち3人。
さっきまでボケ~っとしてたこともあるし部下たちにちゃんと集中してから前へ行くように指示した後、隣に来た奈瑠美に労いの言葉をかけた。
「お疲れ!ってほどでもないか。なんか散歩するくらいに余裕が漂いまくってたもんね!でも一度あいつらと変わってやってくれ。まあ、もともとはあいつらの修行的な意味合いもあってダンジョンに来てるしさ。」
まったくイケメンじゃない俺だけどできる限り爽やかになるように心がけて微笑んでみた。
「爽やかっていうか、爽やかになりたくて頑張りすぎな感じが痛々しいわよ。――――それよりあいつらの実力じゃこの階層は厳しいわよ。ホントに良いの?そりゃわたしの良いとこ見せようと思ったのもあるけどさ。」
「………まあ、前半のセリフは置いといて……あいつらじゃ確かに厳しいだろうけどね。だけど俺もサポートで出るし――――」
大丈夫だよと続けようとしたら、エロ太が「俺たち3人でイケるさ!リーダーはそこで見てろ!」とか言いだし、Dも「この戦いに勝ってスミレちゃんにアピールしよう!」と訳の分からないことを言い出した。
バカなの?昨日ボコボコにされたのをもう忘れたの?
「いや、俺たちをボコボコにしたのはファスナイルさんだし。」
「ってかなんだよ、山彦はスミレちゃん狙いか。じゃあ俺はルーンちゃんを―――ってさっそくモンスターが来たな!いくぞ竜也、山彦!」
そういったエロ太を筆頭とした3人は俺が止める間もなく甲冑型モンスター『リビングアーマー・ルビー』(アリスから名前を聞いた)へ突撃した!
30秒後。
「はぁ……重いな。こいつらの武器と防具を外せばもう少し軽くなるかな。」
「それよりも本体ごとここに捨てていきませんか?わたくしにとってこれを抱えて歩くのは大変な苦痛ですわ。」
「アリス……あんた抱えてって言うか引きずってんじゃないのよ。今の段差のとこだって思いっきりそいつの頭を打ち付けてたわよ。」
「あなただって引きずってますもの、同じですわ。」
「わたしは戦いながらだから良いのよ!ったく、こいつらは……だから無理だって言ったのに。瞬殺だったじゃない。」
そう吐き捨てながら、次々に現れるモンスターを消滅させていく奈瑠美。
左手でDの右足を持ち、右手で魔法を振るいながら歩いていく。
後ろを俺とアリスがそれぞれエロ太とAの足を持ちながら進んでいく。
うん。
説明しなくてもわかると思うけど秒殺だった。
普段ならちゃんと様子を見て戦うことで勝てはしなくても負けることもなかっただろうに、今日はなまじ奈瑠美が一瞬で消し飛ばしてたから甘く見ていたんだと思う。
動く紅い甲冑のような『リビングアーマー・ルビー』は接近戦が強く魔法を減衰するってのはさっき言ったと思う。
それにより後衛から魔法を放つタイプのAは役立たずだった。
役立たずが放つ牽制の魔法はまったく牽制になってなくリビングアーマーに直撃したがノーダメージ。
さらにモンスターはスピード重視の双剣使いDより速く動き、パワー重視の大剣使いエロ太より力強い一撃を繰り出す。
おまけにAの魔法によってできた隙を突こうとしていたDとエロ太は、牽制がノーダメージだったことに驚き逆に動きが鈍る。
結果として3人ともモンスターの攻撃をモロに受けてしまったというわけだ。
まあ、当たる直前にアリスが致死を防ぐバリアを張り、奈瑠美が即座にモンスターを殺したけどね。
俺の忠告を無視したバカ3人。
お仕置きの意味も込めてそのまま引きずって歩きまわった。
やがて時間が経ちメン太郎組と合流して、それ以降は一緒に探索することになった。
俺とアリスたちは部下を引きずっているのでメン太郎たちが先頭を進む形だ。
メン太郎組の面々は、合流した直後は気絶した3人を見てかなり心配そうにしていたがアリスが命に別状はないことを伝えたので現在は探索の方に集中している。
まあ、生命の危機のある人を引きずったりはしないだろうからな。
「さすがにその状態は可哀想よ。」とかスミレたちが言ってきたが、これは部下たちへの罰でもあるのでそのままにしている。
そんなバカどもは中ボス的存在である不死鳥の巫女のいる120階のところに来てようやく目を覚ました。
目覚めた3人は引きずられて頭が痛いことや、スミレっち達の前でダサい姿をさらしてしまったことについて、ものっそい文句を言いまくってきた。
「自己責任だろうが!」と説教するも聞かない3バカ。
うるさいし、面倒になったのか俺の隣に立っていた奈瑠美が一言、
「うるっさい消すわよ。」
微妙に殺意を見せながらの言葉に3人は小さな声で「すいまっせ~ん」と押し黙る。
…………最近というか前から薄々気づいていたが俺が言うよりもアリスや奈瑠美が言った方が言うこと聞くんだよねこいつら。
おかしくね?
社長の命令より部長の命令を聞く感じだよコレ。
おかしくね?
俺がこの不条理に頭を抱えていると再びエロ太たちの大きな声が耳に入った。
そっちの方へ顔を向けると巫女のいる部屋に入ろうとしているメン太郎組をエロ太たちが呼び止めているようだ。
「メン太郎待って!ここまでお前たちが連れてきてくれたんだろう?だからここは俺たちに任せてくれ!」 ← キリッとした顔でエロ太
「そうだ。俺たちが戦うから少し体を休めてくれよッ!」 ← なんか女の子をいたわるような表情を作っているA
「俺たちも少しは皆の役に立ちたいからな!」 ← すっごいキメ顔のD
ここに至るまで失敗を無視して好みの女、スミレとルーンの前だからと格好つけている部下たち3人。
その自身に満ち溢れる部下たちとは対照的に不安げな顔をしたメン太郎たちが俺を見てくる。
うん。
その気持ちはよくわかる。
まあ、雑魚的に瞬殺されてるこいつらが中ボスと戦って大丈夫なのかなぁ?って疑問に思うのは当然だよな。
俺の両隣に立つアリスと奈瑠美を見るも二人とも呆れたように俺を見るだけだ。
「処置なしね。」
「バカですわ。」
「…………はぁ…………」
もう何回目かもわからない溜め息をする俺。
そんな俺たちの内心を知ってか知らずか勇ましく巫女の間へ突撃する勇者たち。
このあと彼らがどうなったかはお察しください。




