32話 再会?
数分の攻防(大祐 vs 茉莉)ののち、改めて話に戻る。
あ、着やせの可能性も考えしっかりとチェックしたけど、普通にペチャパイなだけでした。おそらくロイは貧乳好きなんだと思います。
まあ、それでもほどほどに触ったのでちょっとだけ満足だ。
バトルが終わるといつの間にか集まっていたギャラリーも解散していったようだ。
それを横目で見ながら、
「じゃあ、一段落したところで施設の案内でもしますか。行くぞ!」と雄介が本来の目的を果たそうと宣言したが、そうはさせねぇ。
というかこいつらも本来は自分の研究があるみたいだしな。会話とバトルとで無駄に時間を食っちまったから………
「その前に~この部屋のチームで魂に関する研究をしていたり詳しい人とかいるかな?」
5人に尋ねてみた。もしいるならそいつを部下にして、施設の案内をさせよう。んでこいつらはひとまず自分の班に戻そう。
プライベートなことを話すのはハヤテを交えてみんな集まった時、そうだなぁ…研究が終わった後の晩飯の時とかでも良いよな。
「うちのチームではいなかったよ。よそのチームではいたと思うけど正直それほど進展していなかったよ。」
友美が代表して教えてくれた。
「そっかぁ…」
じゃあ自分で一からやらなきゃいけないのか。めんどいけど………部下を連れてくれば良かったと思わないでもないけど……仕方ないか。
「あ、でも貴族では魂についての研究をしているところあるよね。」
沙夜が手をポンと打ちながら思い出したように言ってくれた。
そう言えばそうだったな。
確か2つくらいあった気がするけど、どこだったかな?
「三宮院家とファスナイル家だったと思うよ。」
「お~さすが沙夜!チームにはその家系の人っている?」
この質問にはロイが答えてくれた。
「いるぞ。二つとも本家の人間が。ほら、あそこにいるのがファスナイルさんだ。」
言いながら示すのは銀髪の女だ。確かファスナイル家は銀髪の家系だったか。
ちなみにこの女はさっきから気になる女の一人で、沙夜のデスクの隣に座っていたやつだな。
先ほどまでは近くにいたが今は少しは慣れたところで男と話している。けど、男の方はすげぇ恐縮しているような感じだから付き合ってるとかではなさそうだ。
「もう一人は?」
「もう一人はあそこだ。」
失礼にならないように示された方向にいるのは緋色の髪をした女だ。ファスナイルが銀髪なら三宮院は緋色の髪だ。
この娘は立って友達っぽい人たちと談笑している。三宮院の隣には長い黒髪の綺麗な女がいて正面にも何人かの女がいる。そしてグループの中心にはこれまた爽やかなイケメンがいる。
この部屋にはどうやら主人公っぽいイケメンが多数生息しているようだ。そして奴らはハーレムを形成していると見た!うぜぇ!
いや、落ち着け俺!
さっきから思考が変なことになっている。
どうもこの部屋に来てからというもの普段より感情の高ぶりが激しくなっている気がする。落ちつこう。
目を閉じて深呼吸だ!
「いきなりどうした?」「やっぱり頭おかしくなったの?」とか声が聞こえるが、それらは意図的に聞き流し自分を落ち着かせる。
よし!いつものクールな俺に戻ったぜ!
さっそく本題に戻ろう。
「あのファスナイルのと三宮院の名前はなんだっけ?」
「私の隣に座ってたのが“アリス”さんで、三宮院さんの名前は“巴”ちゃんだよ。」
ほうほう。そういえばそうだったな。
ニュースとかでも聞いたことあるし。
じゃあ、さっそく二人をスカウトするか。
「アリスー!アリス=ファスナイルー!ちょっとこっち来てくれ!」
大きな声で叫んだ瞬間、見事なまでに部屋全体がシーーーーンと静まり返った。
え?なんなの?
幼馴染たちを見ると5人とも見事なまでにフリーズしている。
じっと見ていると徐々に表情が動き出す。男2人は真っ青になった後、なんてことをしてるんだ!?みたいな驚愕、非難、焦燥をごちゃまぜにした様な顔をしている。
このことから判断すると俺はどうやらなんか地雷を踏んだようだ。
「なんでしょうか?」
後ろから透き通るような美声が聞こえる。
俺が幼馴染の面白い顔を観察してる間に接近してたらしい。
振り返るとそこには銀髪碧眼の女がすぐ近くにいた。
アリスの容姿だが貴族の一つ『ファスナイル』の象徴である銀髪は本来ロングなんだろうけど、後ろ髪は束ねて凄く高価そうな、でも品のある感じの髪飾りで結い上げているため実際の長さはわからん。
顔は人形のように整っていて、肌は透き通るように白くきれいでツヤツヤだ。病的な白さじゃないのがポイントだぞ!
そしてこれまた当然のように美少女だ!カワイイ系のな!だけど、なんだろう……表情なのか雰囲気なのかちょっと冷たい印象を与える感じかもしれない。
服装は百合子っちと同じ制服ってことだから学校も同じなんだろう。
そんなアリスが目の前に、50センチほどの超至近距離にいるわけだ。
なんか香水かわからないが凄い良い匂いがする。
とりあえずじ~っとその美貌を見つめる。
アリスも俺を下から見つめてくる。周りの連中はぼけ~っとそんな俺たちを見つめている。
呼び寄せたのは研究員としてスカウトするのもあるし、ずっと気になっていた独特な気配についても調べたいからだったわけだ。
だがそんなのは調べるまでもなくすぐに答えが出た。
この距離なら間違いようがない。やっぱりアリスはあの気配を放っている。
“魔王の眷属”の気配を。
それもかなり強いレベルでだ。
現在の部下たちは人間の身体に戻っているので既にこの気配を失っているが、現役魔王とその眷属たる使徒であったときは俺との一体感というか共鳴感というかそんなものを感じていた。
しかしこの女に抱く一体感は現役だった部下たち使徒に対するものよりも強いものだ。
………どういうことだ?
この顔を直接見るのは初めてだ。こんな美しい女を忘れる筈がないもの。
なのに何故眷属の力を纏っているのだろう?それもかつての部下たちよりも強く!
わけがわからない。
ついでに言うなら俺自身もおかしなことになっていた。
アリスが俺の目の前に来てから徐々に、この女を自分のものだと認識し始めている。
最初に見たときはそうでもなかったけど、今では間違いなくこの女は俺のものだ!と認識するようになっている。
そしてアリスの態度、表情、気配から向こうも同じように感じているのわかる。
ただ、わからないのは理由だ。
なんでだろう?
こいつを部下にした覚えなんてない。
どういうことだ?
魔王化の影響で頭がおかしくなったのか?
もしくは実は沙夜のことで動揺しているのかな?
いや、でも俺は―――
「どのようなご用件でしょうか?」
再び混乱し始めた頭にアリスの声が響き渡る。
その瞬間、俺の頭の中にノイズが走る!
ザーザーザーザー!とうるさく鳴っている中で、したことのない会話が、見たことのない場面が頭に浮かぶ。
記憶の中で目の前の美しい銀髪の女が覚悟を決めた顔で言う。
「わかりましたわ。わたくしはあなたに従いましょう。そのかわり――――――」
美しい銀髪の女が血塗れになりながらも俺を睨んで言う。
「もっと早くにあなたを―――ておくべきでしたわ。そうすれば―――」
美しい銀髪の女が柔らかい微笑みを浮かべて言う。
「いつかあなたの――――を――――たら、名前は―――――」
美しい銀髪の女が蔑んだような表情で部下たちを見つめて言う。
「ゴミ。」
「ひどい!ゴミはないでしょ!?俺たちはただ彼女が欲しいだけで。」
「気持ち悪いですわ!こちらを見ないでくださいますか。」
「アリス~あんまいじめないでやって。こいつらは」
「あなたの部下でしょう?もう少ししっかり管理するべきだと思いますわ。」
美しい銀髪のアリス嬢との知らないはずの場面が次々と頭に浮かぶ。
なんだこれは?
「大祐君大丈夫?」
沙夜の声が俺を現実へと引き戻した。
沙夜と友美が俺の顔を覗き込んでめっさ心配そうな顔をしている。
「すいません!ファスナイルさん。こいつホント礼儀知らずのバカで!あとでよく言って聞かせておきますからどうか許してやってください。」
俺をアリスから離してそこにロイと雄介と茉莉が割り込み凄い勢いで謝罪していた。
どうやら俺のフリーズの理由がアリスにあると考えたらしく、許してもらおうとしているのだろう。
当のアリスはというと、アリスの眷属としての気配から動揺が窺える。おそらくこいつも不思議な記憶を思い出したのかもしれないな。
ただそれを表面には出さないのが素晴らしい。
『俺のアリス』がしっかりしてるんだ。この俺様もしっかりせねばなるまい!
もう1回しっかりと落ち着こう。
深呼吸じゃ意味なかったから、今度は精神を安定させる魔法を自分にかけた。
魔法が染み渡るまで1分くらいかかるから少しの間、頭の中を空っぽにして休んでいよう。
「ふぅー……もう大丈夫だよ沙夜。」
泣きそうな顔で下から覗き込んでいる沙夜の肩をたたき、顔を上げる。
今度こそ、落ち着いていつも通りの俺だ!
無言で俺を見つめるアリスに対していまだ謝り続ける3人を押しのけ前に出る。
「だ、大祐?」
茉莉が慌てたように声をかける。
「大丈夫。俺は何もされてないぞ。立ちくらみしただけだ。」
「え?や、でも。」
普通な感じの俺に対してようやく3人も謝るのをやめた。そして彼らが何かを言おうとする前に俺はアリスに話しかける。
「あーなんか騒ぎになっちゃってごめんな。ちょっと話があるから呼んだんだけどこんな大騒ぎになるとは思ってなかったから。」
「いいえ、構いませんわ。」
人形のような整った、いや整いまくった顔で柔らかく微笑みながらアリスが言う。その表情を見てようやく他の人達も大丈夫だと判断したらしい。ギャラリーの中にはアリスに見惚れている奴もいるようだ。
うーん………
やっぱり…………やっぱり初対面だが、それでもこの顔を、声を、匂いを、話し方を俺は知っている。
こんな特徴のある話し方、「~ですわ」のような高飛車お嬢様チックな話し方をする人間を忘れることなんて無いだろう。間違いなく初対面だと思う。
だけど俺はこの話し方を自然なのものと感じている。昔からそうだったと理解している。
矛盾しているけど……確信だ。
この女は間違いなく俺の眷属だ!魔王の魂がそう感じている。
つまりおかしいのは記憶の方だ。
が、それは後にしてまず先に研究のスカウトについて話をしてしまおう。そして人の少ないところに移動してから魔王関係について話すことにする。さっきからの騒ぎで部屋中の視線がこっちに向いているしな!
「それでご用件は?」
「ん?ああ、んとね。アリスは実家の方では魂の研究を行っているんだって?」
言いながら左手をアリスの頬に添えて、触ってみた。
初対面ではありえない行為だけどアリスはきっと怒らない。
いや、絶対怒らないな。それがわかる。
遠慮なく触りまくろう!
超スベスベで気持ちいいわ~
アリスの甘い匂いと手触りに感動している俺をよそに、周りのやつが再びざわめきだした。
「ちょっ!?どぅわぁいすけくぅぅーん?」
雄介からものっすごい驚いた声が発せられるがもう無視だ。
いい加減話を進めたい。
「魂に関する研究をするっていうのは言ったと思うけど、そのための設備と部下をそろえようと思ってさ。アリスは今どこかの研究班に属しているの?」
未だに騒ぎ続ける外野を無視して尋ねる。
マジですごく気持ちいい手触りだ!やっぱ普段から食うもんが違うからなのか?
さてさて、そんな俺に対してアリスは遠慮なく触りまくる俺の左手に自分の右手を重ねて答えてきた。
「いいえ、特に専門にしているところはありません。頼まれれば協力するくらいですわ。」
「よし!それなら俺の班に入って!」
「はい。よろしくお願いいたします。」
即答だった。
考える間もなく超即答だった。
そして言い終わると、俺の手を掴んだまま頭を下げてきた。
「え……」
「ウソ!?」
「え!?あのファスナイルさん?」
「はぁ!」
驚きのあまりうまく口が回らないのか、誰のとも判別できない声が漏れ聞こえた。
他の連中も似たような反応だ。幼馴染の男たちと茉莉ちゃんは口を大きく開けたままポカンとしている。
この反応からするによほど意外な光景なんだろう。
何でそこまで驚くのだろうと思う一方で、この反応も無理はないかと納得する部分もある。
この不思議な感覚の原因を早く突き止めたいが、まあ、とりあえず班員一名確保だ。
研究室はアリスの伝手を頼って良い設備のところを使うとして、もう一人くらいいた方が良いな~ってことで三宮院の巴ちゃんに声をかけてみるか。
可愛らしい笑顔を浮かべているアリスの手を引き巴の元へと向かう。
そんなあまりの展開に幼馴染たちを含むギャラリーはただ茫然と動きを止めて俺を見送っていた。
巴ちゃんの元へと向かう通路にはそこそこに人がいる。男女、美醜関係なく口をあけて呆然となっているが俺たちが近づくと慌てて端の方に避けてくれる。
どいつもこいつもアリスとつないだ手を凝視しまくっている。
さっきちらっと浮かんだいつのかもわからぬ記憶では、アリスがものすごい侮蔑に満ちた表情で部下たちを「ゴミ。」と言っていたからな。
ギャラリーの驚きと合わせて考えると普段は相当キツい性格で男と手を繋ぐなんて考えられないのだろう。
まあ、でも俺には従順だから問題ないか。
さてさて話は変わって、これからスカウトする巴ちゃん。
あのコもアリスと同じく初対面だけど『魔王の眷属』だ。
他にも何人かいるけど今日はその二人を研究班に引き入れて、研究室を確保。その後に落ち着いて話し合うことにしよう!
方針を決めた俺はまっすぐ巴のもとを目指した。