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29話 決着

 



 諦める……わけには……いかない!


 ここで諦めて……エロ太より……根性がない……とか言われるのは…マジで耐えられない……京子や…睦美が見てる前で……無様な……姿を見せる………のも嫌だしな……



 ……魔力を…集める………



 ……雷……起動……



 ………………



 ………よし!



 思考力が戻った。



 あとは血も止めなければ!



 ………………



 ………………



 なんとか応急処置も完了だ。



 少なくとも今すぐ死ぬってことはない。






 今やったのはわずかに残った魔力を雷に変換し強引に細胞を活性化させる。さらに微弱な障壁を張り体外へこれ以上血が流れないようにしたってことだ。


 ホントに簡易な応急処置だ。日常生活なら死にかけで病院送りは間違いなしのケガだからな。この状況では完治は不可だ。




 これからどうするにしろ、とりあえず立たなければ。


 サーマレイスのやつがこの状況でとどめを刺しに来るってことはないだろう。


 立とうとして、もがいてる奴をグサッと刺すような女じゃない。


 あくまで俺の行動を見届ける筈だ。




 ゆっくりと四肢に力を込め立ち上がろうとするが、そもそも腕も足もほとんど動かない。



「うーーーーーっ!?あっ!?」



 いっっったい!思いっきり顔を打った。


 両手で何とか上半身を起こしたと思ったら支えきれなくて地面に激突だ。


 手も足も黒焦げだから感覚はかなりボケているからな。


 実際のところ力が入ってるのかどうかも良くわかってない…


 仕方ない…


 風を操作し手足を覆い風の力で無理やり動かす。


 これでもう下級魔法さえ発動できない魔力量になってしまったがロングソードが近くにあるのは幸いだった。


 無理せずゆっくりと手を伸ばし剣を掴む。


 万が一の時のために貯めこまれている予備魔力を吸い上げる。


 この予備魔力は本人が魔力切れを起こした際に魔法式へと流すための魔力で通常は人間の身体に戻すことはできないが、俺は性魔法の応用で強引に吸い上げることができる。



 1分くらいかけて何とか簡易な魔法を少しくらいなら使える程度には魔力が回復した。


 そしてその魔力を使って“自分の体の中にある”機能を停止したはずの魔法式を強引に作動させる。



「…ッ!?…いてぇ…」

 


 おかげで麻痺してた身体に激痛が走るが構わない。むしろ回復している証だ。



「う……くっ!…よっ……と…」



 そのままノロノロと手足を動かし何とか立ち上がることに成功。


 真顔でじっと俺を見つめるサーマレイスに剣を構える。



「待たせたな。では再開しようか。」



 格好良く言ったつもりだけど掠れてみっともない声か出た。


 サーマレイスは最初に驚き、微笑み、そして真面目な表情になって静かに言う。



「血は止めたようですが、それでもその傷は深すぎます。」



 そんなこと言われても諦める俺じゃない。


 ここで諦めたら俺は俺じゃなくなる。そんな予感がある。


 第一エロ太にできて俺にできないって言うのが何より気に食わない!


 そう思ったから立ち上がったんだ。



「あなたは充分に戦いました。そしてあなたは紛れもなく強者です。それは―――――」


「エロ太のやつは、俺の部下はお前と戦った時どうしてた?」



 サーマレイスが話してるけどそんなのは気にしないで言ってやる。


 俺は既に選択してるからな。


 何を言われようとまだ手足が動くんだ!


 戦いは続行だ!




 俺の言葉を聞いたサーマレイスは苦笑して答える。



「そう…でしたね。あなたは彼のリーダーでしたね。ええ、理解しました。」



 サーマレイスは俺に話しながら焼け焦げた腕を魔法で回復していく。


 ほんの数秒でサーマレイスの腕は元通りになった。


 服は腕の部分がなくなっていて、わずかに残っている部分も黒く変色している。それ以外は多少汚れているくらいだ。




 一方で俺の方はもうボロボロ。服は上半身はほとんど裸の状態で、下は膝からつま先の部分が雷の影響で燃えて消えた。短パンしか穿いていないみたいだ。


 最も体中の傷のおかげで観客はそんな印象も浮かばないだろうけどな。


 血は止まっているものの胸はざっくり斬られて内臓が見えかけている。腕と脚は焦げているしな……ひどい状態だ。


 まあ、強引に魔法式を作動させたおかげで少しずつ再生が行われているがいつ止まるかわからんしな。完治の期待はしない。


 四肢は少ししか動かないから魔法で強引に動かしているが、肝心の魔力は1割以下だ。


 意思や心が折れたら、魔力が切れたら、俺はもう完全に動けなくなる。


 ここまでくるとサーマレイスと戦うというより自分との戦いっぽいな。




 そんなことを考えながら静かに相手を見つめる。


 魔力が切れたら歩くことさえできなくなる。


 このまま話しているだけで俺は勝手に倒れ負けるだろう。




 だからもう行くぞ!




 俺の意思が伝わったのかサーマレイスも真剣に構えを取る。


 本当にいい女だよ。既に構える必要だってないだろうに俺に付き合ってくれるのか。



 

 ちょっと感動したが、それを振り払い一呼吸。


 最後の力を振り絞りサーマレイスに向かって走り始めた!


 さすがに大したスピードは出ない。けど風で強引に動かしているから一般人程度のスピードは出ているだろう。





 サーマレイスを射程に捕えるまで時間にして数秒ほど。


 けど俺の感覚ではやけにスローに景色が流れている。


 一歩がやたら遅く感じられる。




 サーマレイスまであと10歩ほど。

 サーマレイスを見つめつつ走りながら、剣を左下に構える。



 

 サーマレイスまであと5歩。

 接近する俺に対しサーマレイスはその場で待ち構えている。




 サーマレイスまであと2歩。

 サーマレイスは抜刀の構えを取る。あの長剣でやる気か凄いな!




 サーマレイスまであと1歩。

 俺は左下からロングソードを振り上げる!




 俺の腕が首の少し下まで上がった。


 その瞬間!


 サーマレイスの手にある黄金の剣が一閃した!



 


 不思議な浮遊感を感じて気が付けば、剣を振り切ったサーマレイスとその向こうに“俺の身体”があった。






 “サーマレイスに首を飛ばされた”。


 “強引に起動させた不死鳥の巫女の魔法式のおかげかまだ意識がある”。


 この2点を認識すると同時に最後の魔力を使い2つの魔法を発動させる。


 首だけになろうと意識と魔力があるのなら魔法が使える!


 最後まで戦ってやるさ。





 


 俺の口元に魔法陣が浮かびそこから極細のビームを発射する。


 中級魔法『サンダービーム』


 本来は直径50センチほどのビームが出るのだがさすがに今の俺では直径1センチにも満たない極細のものだ。


 しかしサーマレイスは今、俺の身体の方を向き完全に油断している。


 ―――首を刎ねたのだから当然なのだが―――その無防備な頭を目掛けて魔法を放つ。


 簡単な障壁で防げる下級程度の威力しかないビームが、試合が終わったと思い、まったく防御もしていないサーマレイスに向かって飛んでいく。


 





 あと数十センチであたる!


 というところまで来て、俺を見た観客がざわめいたせいでサーマレイスは異変に気付く。


 そして瞬時にこちらへ振り返り飛来する魔法を視認する!



「なっ!?」



 俺が見た中で一番の驚愕を張り付けたサーマレイスは即座に首を横に傾けギリギリのところでそれを回避する!







 同時に俺のロングソードが背後からサーマレイスの心臓を貫いた!






















「……な…んで!?」



 あり得ない激痛が走り呆然と自分の胸元を見るサーマレイス。


 そこには真っ赤な血の付いた俺のロングソードが突き出ていた。



「……ウソ!?」



 愕然としたまま背後を振り返れば誰もいない。


 いや、少し下を見ると首より上のない俺の身体が剣を握っている。


 俺からは見えないが血濡れでボロボロの身体には弱い電気と再生の炎が迸り、所々がひび割れているだろう。






 ゆっくりと剣を引き抜かせる。



「…うぅ……」



 途端、大量の血しぶきが上がりサーマレイスは倒れこんだ。



 それによってようやく自分の身体が見えた。


 予想通りに半壊している身体を遠隔操作しこっちへ歩かせる。


 自分で自分の身体を遠隔操作するというのは半端じゃない違和感を与えてくれるけど、そこは我慢し、ここまで移動させた。



 首のない身体が首を持ち上げるという子供が見たらトラウマになりそうな場面だ。


 首の切断面では頭の方も胴の方も切り口から再生の炎がうっすらと出ている。そこを合わせるように頭を置くと、炎が傷口を塞いで首と身体をくっつけた。


 その様子を見てたサーマレイスは倒れながらも言葉を発した。



「……諦めないと言ってましたが……首だけでも戦うとは………」



 サーマレイスは小さな声で囁くように言葉を続ける。



「改めて……見事です。……この試合はあなたの―――」



 勝ちです、と続けようとしたのだろうがそれを遮り俺は言う。



「いや、お前の勝ちだ。」



 俺が言い終わると、パリーーンという音を立てて黒く変色していた左腕が“割れた”。


 そして体中に迸っていた炎や電気が消え、全身に無数のひびが入る。



「さすがに今度こそ完全に終わり。これ以上の再生は不可能だ。」



 話してる間にも少しずつ身体が剥がれ落ちていく。


 さっきまで電気で無理やり身体を遠隔操作した影響で、首から下はもう全く動かない。


 魔力も完全にからっぽだ。


 頭だけでも動かして攻撃しようかと思いかけたが、それをやると間違いなく前に倒れて全身が割れる!


 それに加えて



「お前はまだ動けるだろ?」


「う……」



 バレたか!というような表情をして渋々サーマレイスが立ち上がる。



「そんなに勝ちを譲りたいのか?」


「出ると分かっている芽を摘む気はありません。将来性が大きく見込める人にチャンスを与えるのもこの大会の役割です。」



 生意気なことを言いやがるなぁと思っていると、サーマレイスの方から「どうして気づきましたか?」と尋ねてきた。



「心臓を刺したのに血溜まりが全然大きくなってない。」



 そう、サーマレイスが倒れていた場所にはそれなりに多量の血が流れているが致死量ほどではない。心臓に穴が開いてるんだからもっと多量の血が出る筈だ。


 立ち上がったサーマレイスの胸を見ると真っ赤になってはいるが、新しい血は流れていない。魔法で回復したのだろう。



「お前らしくないミスだな?」



 俺がそう言うと、サーマレイスは子供のように拗ねた顔をして答える。



「まさか首なしの身体が動くと思いませんでしたから。動揺するのも無理はないと思いますが。」



 微妙に顔が赤くなってるな。


 このまま見ているなり、からかうなりしたいが時間がない。



「何か聞いておきたいことはあるか?試合後の質問には答えないぞ。さすがに精神的に疲れたから休みたいしな。」



 それを聞いたサーマレイスは表情を真剣なものに変えて聞いてきた。



「あなたの再生は不死鳥の巫女の魔法式によるものなのはわかりましたが、あれはそこまでの再生力はなかったはずです。何をしたのですか?」



 俺は言葉ではなく、視線を自分の身体に向けることで答えた。



「!?……まさか自分の身体に魔法式を組み込んだのですか!?」


「正解!」



「…なんて無茶を!?」と呟くのが聞こえた。



 確かに無茶は承知だが、こうでもして再生力を上げなければ戦いにならなかったろうしな。


 その分のリスクもでかいけど……



 魔法式を武器に入れた場合は限界を超えれば魔法が発動しなくなるだけだ。


 身体に埋め込んだ今回は再生限界以上に働いたがその結果として自己崩壊することになっている。


 現在進行形で、人としてありえない身体の壊れ方をしているし…普通は人の身体でパリーンなんて鳴らないからな。





 こうしてる間にも崩壊は進んでいる。


 遂には右腕が甲高い音を立てて砕け散った。


 さっきから顔もパキパキ音を立てているから凄いことになっているんだろうな……


 俺からも言いたいことを言っておこう。



「しっかし、貴族がこうなのかお前が特別なのかはわからんが、とんでもない強さだったな。」



 俺の言葉を聞きサーマレイスは首を傾ける。何を言いたいのかいまいちわからないということだろう。



「結局最後まで、お前は本気じゃなかったろ?」


「失礼ですよ。わたしは最大限の敬意を払うために本気で戦いましたよ!」



 サーマレイスは心外ですというような顔をして言い返してくる。



「言い方が悪かったか。本気で倒しに来てはいたけど全力ではなかっただろ?」


「…………………」



 これだけ戦えばわかる。


 この女は一度も全力を出さなかった。


 そう、サーマレイスが全力ならば俺は瞬殺されていた。


 俺をバッサリ斬った時のぶつかり合いでサーマレイスも腕を焼け焦がしていたが、あれはそれこそ俺への敬意だったのだろう、わざと受けたに違いない。


 最後の心臓への一撃だけがサーマレイスの想定外のダメージだったはず。だけどそれにしたって不意打ちだしな……次に戦うことがあれば絶対通じないだろう。





 それしかできなかったことに悔しく思う気持ちはある。


 でも今の俺はそれ以上に得られた結果に満足していた。





「1年半だ。」


「何がですか?」


「あと1年半あれば今のお前くらいの強さにはなれる。」



 俺とサーマレイスでは基礎能力が違いすぎる。そのために俺の敗北という結果になった。


 だが、まだ俺には強くなる余地がある。


 今回の大会で持ち込んだ魔法式のうち上級は1つだけで、残りは全て下級と中級だ。


 もっと沢山の魔法式が入る武器を用意して、上級の魔法式を手に入れる。それによってよりハイレベルの身体強化を行い、魔力消費を抑える魔法式も組み込む。魔力消費を抑えられれば詠唱でオリジナル上級魔法もたくさん使えるようになるからな。爆発的に強くなるだろう。


 

「ただ1年半あればお前だって成長するだろうから………俺が追い付くのは3~4年後ってところだな。」



 サーマレイスと同格だという幼馴染たちにもそれくらいで追いつけるだろう!


 昔は何をやっても勝てないと思い知らされたあいつら。


 時間はもうしばらくかかるけど、それを追い越せるところまで来ている!


 ゴールが徐々に見えてきた!


 



 これだけで十分に今大会へと出場した目的は果たせたがやっぱり負けたことは悔しいからな。


 せめて一言お願いしたい。



「次の決勝では一撃も食らうなよ!」



 話したり考えたりしているうちに俺の身体は肩が消え、ついに左半身が割れかけている。


 もうそろそろ終わりだなぁとわかる。


 サーマレイスも終わりを感じ取ったのか最高に可愛い笑顔を浮かべて



「もちろんです!」と請け負ってくれた!



 ちっぽけなことだけども優勝者に手傷を与えたのは俺だけってなると何となく良いだろう?


 サーマレイスの言葉を聞き遂げるのと同時に俺は前へと倒れこみ、


 全身が砕け散った。








『準決勝第一試合 勝者サーマレイス=セラヴァイル』













 こうして俺の大会は終わった。


 良かったところ、悪かったところ色々あるけども全体として考えると出場して良かったんだろうな!


 何より目標までの距離がわかったことだし。


 これかも精一杯頑張っていこう!


 俺は固く決意した。

















 そう思えるのはサーマレイスとの試合で諦めない選択をしたからなのだろう。


 もしあそこで諦めていたら…………


 俺がそれを知るのはずっと先のことだった。  





何とか準決勝が終わりました。


前回の選択肢で『勝利する』というのがあることから、多くの人はサーマレイスに敗北することがわかっていたと思います。


勝利する、を書くのはまだ先ですが次は『諦める』を選んだ悪ルートを更新する予定です。それは連休中に更新できればと思っていますがまだわかりません。


改めて注意ですが悪ルートでは主人公が魔王になります。完全に別の人格といってもいいくらいに性格が変わります。殺人、強姦などのシーンが出てきますので気を付けてください。


また今回のラストでは悪ルートとのつながりが示唆されています。今後、悪ルートを読んでなければわからないシーンが出た場合は、どこかで補足する予定ですので読まない人もご安心ください。

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