2話 とりあえず今後の方針
「おっす!」
いつものように挨拶をしながら教室に入ってく。既に教室にいるのは半分くらいかな。
「おう、おはよう」「うっす」「おはよー」
俺の隣の席の西川を中心に3人で話をしていた、クラスメートが挨拶をしてきた。椅子を引いて席に着いた後、西川が話しかけてきた。
「隣の組の三坂さんの話聞いたか?」
「? わかんない。たぶん聞いてないな。」
三坂さんというのはあれだ。よくいう学園のアイドル、高嶺の花ってやつだ。カワイイ、スタイル良い、勉強運動魔法ができる、性格も良いという漫画に出てくるヒロインみたいやつだ。確かに顔は貴族級にカワイイし胸もでかい!憧れるのはわかるが、俺はかつて魔王だった時に同等かそれ以上のレベルの娘をたくさん自分のものにしてたからな。周りの連中ほどは夢中になってない。でもやっぱ付き合えるなら喜びまくるな。
「2つ上の先輩でイケメンで強いって有名な先輩いるじゃん?」
「あ~確か池田だっけ?前に三坂さんに告ってフラれてたよな。」
「そうそう。そいつがまた告ったらしくてさ、でフラれたんだけどそしたら何がダメなんだ~とかどうしたら付き合ってもらえる?とかしつこく粘ったらしくて。」
あーそれはいくらイケメンでもやっちゃいけないことだよなぁ。俺たちみたいな残念組がやったら即ストーカー扱いだろうしな。んでどうなったんだろう?
「三坂さん自身は単純に恋愛に興味がないらしいんだけど、それを言ったらためしに付き合えとか、経験してみれば考えが変わるとか言ったらしい。それであまりにもしつこいから次の小大会で優勝できたら付き合ってやるって言ったらしいよ。」
「マジか?スゲー無茶言うね。」
小大会ってのは毎年行われる武術大会とか戦闘大会とか見たいやつのことだ。各地域で『小大会 予選』があって勝ち抜いた人が『小大会 本選』に出場する。ちなみに年齢制限はなく誰でも出場可能、優勝者には豪華褒美が待っている。ただ貴族の血筋は厳選されて出場するらしい。若い才能だったり新しい人材を発掘するという目的も兼ねているので強すぎず弱すぎない人が大会に出場することになっているらしいが詳細は不明だ。。そんで小大会で好成績を収めたら優勝賞品とともに5年に1度行われる大会、通称『大大会』または『本大会』『世界大会』といくつかの名で呼ばれる大会への本選出場権をもらえる。ちなみにこの本大会は貴族も制限なく出場可能だ。勝ち抜くのは難しいがその分優勝賞品はやばいらしい。
んで小大会はてっとりばやく自分の能力を示すいい機会だからたくさんの人が出場する。おまけに地球の人間もやってきて名を上げようとするからさらに大会のレベルは上がっている。小大会、大大会以外にも戦闘をする大会はあるが、火星全域で行われるこの2つの大会出場者のレベルは飛びぬけている。そこで優勝しろなんて、絶対付き合いませんと宣言するようなものだ。
「じゃあ先輩は諦めたのか?」
「それが逆に張り切ってるらしいぞ。昨日も訓練所で遅くまで頑張ってたって。マジ身の程知らずだわ。三坂さんは俺の嫁なのに」
気持ち悪いことを言うクセ毛の松田君。とりあえず流すことにしよう。
「はぁ~いっそ俺も出場して……」「無理だろ…」「イケるって!諦めなきゃなんとか…」
グダグダ話してる松田と西川。三坂さんのことはひとまず置いといて、大会かぁー。出てみようかなと少し思ったり。今の自分の力を存分に出し切ってみたいなぁ…なんて考えながら端末をいじろうとしたらミックが話しかけてきた。
「そういえば大祐の友達でBとCだっけ?本名わかんないけど。昨日駅の近くの裏路地っぽいとこで殴られてたぞ。」
「…ウソ!?」
「なんか最初は肩がぶつかったみたいで、相手側が謝ったんだけどそれを無視して掴み掛って返り討ちにされてたっぽい。」
「ってことがあったらしい」
放課後のいつもの訓練所でAたちに話してみた。も~どうしようもない。あいつらはマジでどうしようもない。さすがにみんな呆れ顔だし。珍しいことにXまで呆れてる。下ネタじゃないのに反応するなんて珍しい。
「さすがの俺も呆れるくらい馬鹿だってことだよ。」
え?今、声に出してたか
「顔に書いてた」
ホントか?気をつけよっと。
「それより、どうすんだ?いよいよメンドクサイことになってきたぞ。このままじゃ大きな問題を起こしかねないぞ。」
あいつらは小物臭が半端ないから、なんだかんだ言って大丈夫だとは思うけどね。でも問題がおきてからじゃ遅いし。一度腹を割って話し合う必要があるかもな。
「今度みんなで落ち着いて話し合ってみよう。それで今後の付き合い方を決めることにする。場合によっては完全に別れることもあるかもな。ゲートアウトする前は正直仲良かったわけじゃないし。異世界で一緒に過ごしたときは仲間だったけどこっちに帰ってきたら元の身体とか感情に引きずられる部分もあるしね。実際最近はゲートアウト前のように顔見知りだっていう認識になりつつあるんだよな俺は。」
「それはわかる。俺もそんな感じだから」同意するA。「確かになぁ」とXもいう。
「待って。確かにあいつら、最近はひどいけどそれでも仲間じゃん。そんな簡単に切り捨てるなんて」
「Dの言うこともわかるけどな。何度言っても直らないじゃんあいつら。」
「だからって」
「じゃあどうすればいい?俺たちは努力して強くなろうとしてる。あいつらは『努力はしたくない。でも強くなりたい。そして一番の本音は力を手に入れて好き勝手にしたい』って思ってるだけだぞ。」
「だーかーらーそこは説得してあいつらにやる気を出させれば良いだろ?」
「山彦、山彦。少しは現実を見よう。あいつらは楽したいだけだから訓練なんてしないぞ」
俺の代わりにA が言ってくれた。ちなみにDの本名は 東 山彦 です。アルファベットは俺以外使ってくれない。コードネームみたいで格好いいのに。
「それに俺たちはあいつらの親じゃないんだし。なんでやる気を出させる~までやんなきゃなんないんだ?もともとウチのチームの方針はやりたい奴がやる!ってのが基本だろ?やる気がない以上放置プレイでいいだろ。」
Xが続けて言う。そして俺も
「もし仮に魔王の力を取り戻す研究をしますって決めたとして、研究するのは俺で、補助はお前ら3人。あの2人は何もしないで結果が出るのを待つだけのような気がするし。D はどう思う?」
何か言い返そうとして、でも黙り込むD。実際その情景が思い浮かぶのだろう。
「D は俺らと違ってゲートアウト前から仲が良かったからな。かばうのもわかるけどそれにしたって限度はある。お前がどうしても一緒に頑張りたいって思うならお前がやる気にさせる方法を考えろ。幼稚園児でもあるまいし、わざわざあいつらの機嫌とって訓練させる~なんてことはやんねぇぞ。良いか?」
「…わかったよ。」
「何度も言うが次に会う時に一度じっくり話し合おう。Dもそれまでに何とかする方法を考えておけ!あいつらがやる気になってくれるならそれに越したことはないし。………とにかく結論はその時にだそう。」
そして次の日。
昨日は予定外に熱く語り合った後、休憩をはさんで訓練をした。微妙に浮かない顔をして帰ったDが気になってたが一晩経って落ち着いたのか今日は特に問題なさそうだ。では本日のメインの議題を出しますか。
「次の小大会に出てみよう!」
「「「 は? 」」」
期待を裏切らない反応だな。我ながら素晴らしい案だと思うけど…だって
「次の大会で優勝したら三坂さんと付き合えるらしいんだよね。だから出場するぞ」
「三坂さんて誰?」
AとDが不思議そうな顔をしてる。同じ学園なのはXだけだからな。知らないのは無理ないけど。
「うちの学校で一番かわいいって言われてる人。しつこくコクってくる先輩に優勝したら付き合ってやるって言ってたらしい。胸が大きいし大祐好みの女だが、貧乳好きの俺にはいまいち魅力が感じられないな。」
「マジか。じゃあ俺も駄目だな。俺的には大き過ぎず小さ過ぎないくらいが…」
俺の代わりにXが答えてくれる。そしていつのまにか胸のサイズの話に切り替わってる馬鹿連中。こいつらもなんだかんだ言って飢えてるのかも。
「冗談は置いといてだ。出場する理由は、今の自分たちの実力を確認するってのがある。それにいつも自分たちだけで訓練してるから、たまには知らない連中と戦うことでいろいろと勉強になるだろうし。」
「俺は別に出る気ない。」エロ本読みながら喋るX。せめて本から顔をあげろ。
「バカ、いい成績を残せればカワイイ貧乳彼女ができるかもしれないぞ!?女の子に『カッコいいです』とか言われてリア充になれるかしれないぞ?」意外と乗り気なAが言う。
「…マジか。どうしよう…」
簡単に乗せられるなこいつは。説得はAに任せちゃおう。あとはDはどうするかな?
「出るのはいいけど個人戦?団体戦?」
そーいえばそれを言ってなかったか。
「自分の実力の確認も兼ねてるからな。個人戦だ。」
「ふーん。まあいっか。」
「よしDも参加でいいな。あとはエロ太 はどうする?」
ちなみにエロ太はXのことだ。本名は佐々門 風太な。俺のこいつらへの呼び方は気まぐれで変わる。意味は特にない。
「これを機会にリア充になろうと思います」
よし全員参加で決まりだな。久しぶりの実戦だしわくわくするな。やっぱり俺は多少なりともバトルジャンキーの気があるのかも。
「さてさて今後の方針が決まったことで、具体的な日程を話すとだ。今年の小大会は3か月後の8月だ。予選への登録は各自でやっとけよ。これからの訓練は基礎的なものに加え対人戦を行うようにしよう。同時に魔法を使うために必要な魔法式もそろそろ集めるようにしよう。今までは肉体の強化と魔力の強化、制御がメインで魔法はすでに持ってた魔法式の分だけだったからな。文句がある人は?」
「「「異議なし」」」
「よし!では今週から大会まで、水曜日の放課後はダンジョンに潜って魔法式回収を行うことにする。潜るダンジョンは」
「ちょっと待って。何で水曜日?休日とかにがっつり潜った方がよくない?」
「ハイ、良い質問だねA君。できれば話し終わってから聞いてもらいたかったが、他のやつらも不思議そうだし答えよう。」
1.がっつり潜る気はない
2.週末は他の人もいっぱいで混雑する可能性がある。最悪入れない場合もあるし。
3.金銭的にも平日の方が安い。毎週行くつもりだからなおさら。
以上のことを説明したらAは首をかしげて再び聞いてきた。
「2と3はわかるけど、1はどうして?良い魔法式を手に入れるなら深いとこの方が効率良いだろ?」
「今から複雑で高度な式を手に入れても解析、稼働、運用、応用までいけないだろ。それに俺たちの魔法媒介はそれほどの容量がないからな。高度すぎるとそもそも使えない。」
うーんでも…っていう気持ちが微妙にあるっぽいけど一応納得はしたみたいだな。今回は優勝目指すわけじゃなく実力を測るため、久々の実戦を楽しむためだし良いだろう。んじゃあ、良い時間だしそろそろ今日の訓練を始めますか!