28話 過去と現在の話、そしてこれからの選択
俺は東心峰へと入学した。
決意したように俺は魔法の特訓に時間を費やしまくっていた。
東心峰の近くには魔法訓練ができる場所は2つある。あ、学校でもできるけど人が多いから利用しなかった。外部にある2つの施設のうち1つは多くの一般市民も利用するそこそこの規模だったから俺はもう1つの今にも潰れそうな施設で毎日訓練してたんだ。
だけど何の才能もない俺が一人でやっても上手くいくわけなくてな。知識は増えたけど実践はダメダメでなかなか上達しなかった。
「まあ、それは最初からわかってたから黙々と訓練していたらあそこにいる部下たちが施設に来て一人で訓練するようになったんだ。」
言いながら客席の部下たちを指し示す。
ホント懐かしい話だな。
あいつらは同時に来たわけではない。個人で来ていていつのまにか施設の常連になっていたんだった。
あいつらは不登校とかはないけど俺と同じ負け組で似た者同士だ。
ショボイ施設に4人しかいなかったからな。俺たちは自然と時折会話するようになって一緒に訓練するようになったんだ。
負け組4人だからそんな簡単に上達しないけどやっぱり仲間がいた方がモチベーションは上がるし意見も言い合えるし楽しいからな!喧嘩もしたけど…
そんで2年になる頃に4人ともレベル2なって喜んでると部下の一人、Dの友達のBとCも顔を出すようになったんだ。
学校ではいつも一緒にいるDが最近放課後の付き合いが悪くなり成績も上がってるから気になってついてきたらしい。
そんなわけでBCコンビもたまに顔を出すようになったがあいつらは基本的には訓練しないで駄弁っていたな。
まあ、それはどうでも良い。そんなことより大事なのはここから!
久しぶりにBCコンビが来て6人で話してたある日のことだ。
いつものように訓練し帰ろうとして外を歩いていると、目の前の空間が突如歪み何もない漆黒の空間が現れたんだ。
そう、異世界への扉『ゲート』だ!
過去の記録から知識はあったが本物は見たことなかった。けどなぜだかわからんが俺にはそれがゲートだと直感でわかった。
そして俺たちが驚いている間にゲートが開き俺たちを飲み込んだんだ。
「ゲートの向こう側、異世界で起きたことは長すぎるから省略するけど――――」
「待ってください!」
俺が一人で語りまくっていると初めてサーマレイスの方から口を開いた。
「なんだ?詳細は無理だぞ。長すぎるもの。」
「それでもできる限り詳しく知りたいです!!わたしも知識では知ってますがこうして実際に異世界に行ったことがある人の話を聞くのは初めてですから!!」
興奮したように言うサーマレイス。ここまで感情を出すのを見るのは初めてだな、
「てか、いきなり異世界の話が来たけどウソだと思わないの?」と聞いてみれば
「あなたはウソをつくような人ではないです。」だってさ。
「嬉しい言葉だけど詳細は無理だ。なんせバカみたいな期間異世界にいたからな。話しきれるわけない。どうしても知りたかったら別の機会で話してやる。」
そう告げると渋々引き下がったようだ。
異世界に着いた俺は魔王の力を与えられた。
もともとその世界には魔法技術もモンスターもなく、人類の科学による文明が発達していたらしい。
しかし文明の発達とともに資源の枯渇が起き、結果滅びることとなった。
だからその世界の神は新しく作り直した人類に魔法を与え科学の発達を抑えるとともに、モンスターを創り科学の発達している地域を滅ぼす役割を与えた。
そのモンスターを統括し世界を管理、支配するのが魔王である!
俺がその世界の神によって課せられた制約は2つ。
1.人類を全滅させないこと
2.人類の文明をある一定水準以上にさせないこと
この2つを守れば何をしてもいいということだった。
俺の魔王の力を部下5人に分け与え、眷属としたあとは制約の範囲内で好き放題しまくった。というか魔王の本能に従って気に食わないやつを殺しまくって、美しい女は犯して手元においていたら制約は意識しなくても守れていたな。
こんな感じで過ごしながら長い長い時間が経った。
その間にもいろいろあったけど基本的には力づくで解決できたから特筆するべきことはない。
そうして魔王としていられる期間が過ぎると開拓者へ戻ってきた。
問題はここからだ。
魔王の力は肉体に与えられるものだから帰ってきた俺たちは力を失っていた。
それに対しBとCは魔王の力を取り戻す研究を行うことを主張した。
けど俺はそれに賛同しなかった。
そりゃ魔王の力を取り戻せば簡単に幼馴染たちの上に行けるけどな、それは『俺が』強くなったのではなく『魔王が』強いだけだ、俺の目標とはズレている。
ここまで話したところでサーマレイスが質問してきた。
「………その魔王の力とやらはそんなに強いのですか?あなたの幼馴染たちは優秀ですよ。特にハヤテやロイヤードはわたしと同格ですから。」
マジでか!?凄いなあいつらは!
そこまで強くなっているのか。
驚きだがそれは置いといて、ひとまずサーマレイスの質問に答えるとしよう。
「魔王の力があれば、俺一人で開拓者に戦争を仕掛けて滅ぼせるぞ。俺は無傷でな。」
笑いながら告げると、探るような視線を向けてくる。
だけどそれは無視して元の話を続けよう。
そんなわけで俺は魔王の力を必要ないと判断したんだが、それによってうちのチームは2つに分かれてしまってなぁ…色々めんどくさかったんだわ。
魔王の力がなければどうにもならない場面だってんなら俺も賛成したけどな。
現状では『魔王の力がなきゃ終わり!』なんて問題はない。
あるいはA、D、Xの誰かが提案したんなら俺も少しは考えた。けど提案したのは異世界に行く前から訓練なんてしてないBとCだ。あいつらは提案しておいて実際の作業はやらないタイプだ。
わかりやすい例えとしては――――――旅行だ。
BとCは旅行に行こうと言い出すが、実際に行くための交通手段、宿泊場所、食事などの手配は一切やらないんだ。おまけにあとになってから「俺だったらあっちのホテルにしたのに」「この料理はまずかった」とか文句言うタイプでな。正直鬱陶しいんだ。
異世界では魔王に逆らうことはできないから問題なかったけど開拓者に帰ってきてからはもうダメだ。アホなことばっかりやって…1年半ほど説得し続けたけど無駄だったからもう諦めた。
ま、これは内輪の話であまり関係ないことだし、こいつらの話はここまでにしよう。
魔王から人間に戻って今日までの約2年間、俺は異世界での知識や経験をもとに訓練したんだ。そのおかげで今の中級レベルのスペックを得たってわけだ!
師もいない俺の魔法技術が無駄に高い理由もわかっただろう?
あ、この2年間は友達と遊んだりもしてるぞ!訓練しっぱなしよりも効率よく成長するってわかったからな。
最後にこの大会へ出た理由の説明だ!
これは単純に今の自分の実力を把握するため、それだけだ。
だから優勝賞品なんてどうでも良い。
地位も名誉も金も必要ない。武器と魔法式は欲しいがそれは自分で用意する。
実際に自分がどれだけ成長したのかを確かめるため、上級者を相手にどれだけ戦えるか知りたかった。
だからサーマレイスが聞きたがってるような望みなんてない。
「敢えて言うならば、お前と戦うことこそが俺の望みだ。わかったかなサーマレイス?」
長い話を終えてサーマレイスに問いかける。
「ええ。ありがとうございます。いろいろと興味深い話でした!特に異世界の話は機会があれば改めてお聞きしたいですね。」
サーマレイスは微笑んで答えたあと、目を閉じる。
そのまま何かを考えるように押し黙る。
「この試合のことですが………」
しばらくして、サーマレイスは静かに口を開いた。
「あなたの望みから考えるに、私があなたに勝利を譲るというのは――――」
「そう!ありがた迷惑以外の何物でもない!」
サーマレイスが言い終わる前に俺が口を差し挟む。
この礼儀知らずな話し方に俺の本気を感じ取ってくれたんだろう。
俺の意思を受けてやる気になってくれたようで、サーマレイスの気配が変化した。
今までのような『情報を聞き出すために』加減して戦うのではなく、『俺を倒すために』戦う気になったのだろう!
余計なお喋りはここまで。
ここからは本気の殺し合いだ!
俺は地面に突き刺していた剣を引き抜き、サーマレイスに対して切っ先を向ける。
サーマレイスは閉じていた眼を開き、黄金の剣を構える。
少しずつお互いの魔力が高まっている。
俺の再生はもうほとんど機能しないだろう。
正真正銘これが最後だ。
体内の魔力を循環させる。……………簡易身体強化完了。
魔法式起動!……………攻撃力、敏捷、知覚の上昇確認。
自力型エンチャント……………風属性の付与完了。敏捷、斬撃の威力が上昇。
2つ目のエンチャント……………雷属性の最大付与完了。攻撃、敏捷が大きく上昇。
丁寧に魔法をかけ能力を強化していく。
身体と剣に付与した雷が全身から迸りものすごい音を立てている。
俺の周囲の地面は身体から放出される雷光で焼け焦げてしまっていた。
これが今の俺にできる最高の状態だ!
「俺の準備は終わったけどそっちはどうだ?」
「いつでも。」
短い答えを返すサーマレイスの全身から、ここまで感じなかった独特の魔力が放出されている。
おそらくは一族に伝わる魔法――――感覚的に身体強化系だと思われる。
「お前も真面目に戦う気になったようだな。」
俺の魔力量、サーマレイスの実力から考えて戦えるのは5分程度だ。
それ以上長引けば魔力切れで俺の負けだ。
「ええ。それが話を聞かせてくれたあなたに対する礼儀でしょう。わたしは勝ちに行きますよ!」
空気の読めるいい女だ。
身長差が無ければ口説きたかったなぁと少し本気で思うぞ。
場違いな考えが浮かぶが、すぐに追い出して深呼吸する。
深呼吸してワンテンポ置き、告げる。
「よし、はじめるか!」
簡潔な言葉と共に俺たちの試合、最後の戦いが始まった!
今の俺は間違いなく最高の状態だ。
俺の一振りによって十数メートル先まで雷を帯びた斬撃が飛ぶ。
強靭な脚力によって一歩動くだけで地面が砕かれる。
だがサーマレイスはそれに遅れずついてくる。
一太刀合わせるごとに強烈なスパークが発生するこの戦いは観客からはかなり見ごたえのあるものだろうな。
「ウオオオオオーーーー!!!」
叫びながら渾身の一撃を放つ!
しかしサーマレイスはすべて抑えきる。それだけにとどまらず隙をついて的確にこちらの急所を狙ってくるのが凄い!
お互いに一瞬たりとも同じ場所にはとどまることなく動き続けている。
特に俺が絶えず動き回るせいで会場の足場はボロボロになっているがそんなことに気を回す余裕も無くなりつつある。
こうしてる間にも魔力がなくなり続けているからだ。
魔力量が残り90%
・・・80%
・・・70%
・・・60%
時間の経過とともにドンドン減っていく。
このままではジリ貧だ。
粘って戦い続けてもサーマレイスはミスをするような女じゃない。俺が意図的にミスを起こさせようとしてもその頃には俺の力が残ってないだろう。
ただ魔力が減るだけでやがてはエンチャントが解け敗北してしまう。
勝ちを狙うならば余裕があるうちに全魔力を使い一撃で決めるしかない!
俺はそう決意すると、サーマレイスの攻撃後のほんのわずかな隙を狙い距離をとった。
そしてサーマレイスが追撃をかけるより早く、ほぼ全ての魔力を雷のエンチャントへと注ぎ込み脚へと付与する。
極大に高めたスピードで切り伏せる!
限界以上の魔力を注いだことで地面どころか俺の脚さえ焼けかけているのがわかるが、次の一撃で決めるつもりだから気にしない!
意識をすぐに敵へと戻すとこっちに向かおうとしていたサーマレイスの動きが止まっていた。
俺が何をしようとしているのかがわかったのだろう。
受ける構えを取った。
俺たちが動きを止めたために、ただ雷の音だけが響いている。
ここまで来て余計な言葉はいらないだろう。
俺は仕掛けるタイミングを計っていた。
膝を少しずつ落として飛び出す構えを取る。
そして!
サーマレイスが瞬きをした瞬間に全速力で駆け出した!
わずか1秒にも満たない一瞬でサーマレイスに肉薄する。
今まで以上の速度―――――俺の限界を超えた神速を持ってサーマレイスを射程に捕えた!
しかし流石は貴族代表というべきか。サーマレイスはこのスピードにも反応してきた!
回避どころか迫る俺を逆に斬り捨てようとしてくる。
だが俺にとってもこれは予想の範囲内。
サーマレイスと交差する直前に脚へ付与されていたエンチャントを腕と剣へ移動させた。
それにより破壊系上級魔法に匹敵する威力を持った一撃をサーマレイスへ向かって振り上げる!
―――――これで終わりだ!!!
衝突によって生じた爆発的な閃光が収まったあと、俺たちはお互いに背を向けて立っていた。
背後でサーマレイスがこちらに振り向く気配が感じられるが俺は動けなかった。
「ちくしょう………」
俺の身体は斜めに大きく切り裂かれている。
ぎりぎりで心臓には届いていないが致命傷だろう…血がドクドク出ていくし。
やばい。
血が足りないせいか立っていられない。
少し頑張って振り向いてみようとしたけど無理で、そのまま前に倒れてしまった。
もう痛みも感じない……
「見事です。」
段々と遠くなっていく意識の中、サーマレイスの声が聞こえる。
「あのわずかな瞬間での雷の移動!さすがに対応が間に合わなくわたしも手傷を負ってしまいました。」
ちらっと視界に入るサーマレイスの右腕は服の袖がなくなり肌は真っ黒に焼け焦げていた。
あれが俺の戦果か………
「勝つ以上は一撃も食らってはならない。圧倒的な勝利を示す。この決まりを破ってしまった。」
…………………………
「例えあなたが――――――――でもわたしは―――――――――――」
サーマレイスが……何か言ってるが……
……聞き取れなくなってきた……
……………
………………
…………………
……………………
………ああ…………
………俺は………このまま負けるのか………
……エロ太のやつは…………あんなに粘っていたのに………
……俺は……俺は……
選択肢
諦める → 悪ルート 『最初の目覚め』へ
まだちょっと動く!最後まで戦う → 頑張るの次話へ
勝利する! → まだ選択できません。『魔王の力の支配率100%』『リリエットがいる』二つの条件を満たしたうえで選択してください。
ゲームでの分岐だとこんな感じですかね。まあ、最後の『勝利する!』の選択肢は微妙に違うのですが……