26話 サーマレイスは予想以上に強かった
俺が魔法で生み出したミサイルやガトリング弾が迫りくるにもかかわらずサーマレイスは動く気配がない。
まあ、あくまで開戦の合図程度の気持ちで使っただけだしな。
やはりというべきか攻撃が届く直前に何かがすばやくサーマレイスの身体を覆い隠した。ミサイルなどはその上に直撃するがサーマレイスの魔力には何の変化も見られずダメージなど全く受けていないのが感じ取れる。
そして俺の攻撃によって生じた煙が晴れると1本の樹がとぐろを巻いてるのが見える。やがてそれは時間が遡るように地面の中へと消えて行く。
先ほどの渦巻く樹の中央部分に当たる場所には無傷のサーマレイスがいた。
植物の魔法を司るセラヴァイル家。
一般では農業や林業、さらには薬学など植物が関係する分野では多大な影響力を持つ貴族の家系である。魔法を用いる、用いない関係なく植物の研究開発に貢献している。
それを使い始めたということは少しはやる気になったらしい。
花粉などを利用した毒や催眠を警戒し身体に風のエンチャントをかける。身体の表面にも風の層が出来たため、吸引してしまうことはないだろう。
サーマレイスの魔力が徐々に高まっているのがわかる。
ここからが本番だ!
先ほどのミサイルやガトリングは物理属性だ。それを受けた樹にはキズ1ついていなかった!
一般的には樹の弱点は炎だ。まあ、こいつには効かないだろうけど確認を込めてやってみよう。
俺の出方を窺っているサーマレイスにさっそく魔法を放つ。
中級魔法『フレイムストーム』。広範囲に広がる炎の嵐が地面を焼き焦がしながらサーマレイスに迫る。
が、サーマレイスはやはり微動出せず魔法を発動、彼女の正面に20本ほどの太い樹が生えた。1つ1つが太く30メートルくらいの高さがある。先ほどと違って黒っぽい樹だ。それらが並ぶ様子はまさに巨大な壁。
そして嵐が壁に衝突するも、全く燃える様子がない。
10秒ほどのせめぎ合いの末、炎は消滅したが樹は一つとして焦げ跡さえついていなかった!
サーマレイスが消したのだろう、樹がなくなると再び俺の様子を窺っている。
どうやら自分から動く様子はないようだ。
………これはあれだな。
好きなだけ試してみろと。
何をやっても通じないぞと。
そういう意思表示だな。
確認の意味を込めてサーマレイスを見つめると綺麗な顔でニコッと微笑んだ。
まあ、正面からぶつかれば敵わないのはわかっていたからな。せっかく本人が試していいと言ってるんだ。じっくり調べさせてもらおう。
動かないサーマレイスに詠唱破棄でサンダーボルトを使う。
するとサーマレイスの頭上には紫電が迸る魔法陣が生成された。今回は以前使ったのと違い力を一点に凝集させている。あの時と比べて数倍の威力があるが…………
「サンダーボルト!」
声と同時に天空から極太の雷がサーマレイス目掛けて飛来する。
強烈なフラッシュを浴びたかのように視界が眩み、轟音が鳴り響く!
が、サーマレイスは微動だにしていない。今度は黄色い針葉樹のようなものが身を守っていた。
今のサンダーボルトを防ぐということはあの樹は電気を通さず、熱にも耐性があり、物理的圧力にも強いということだ。
なるほどなるほど。
俺が考えをまとめている間にサーマレイスは樹を消した。
次は風だ。下級魔法『エアスラッシュ』に中級補助魔法『ブースト』で威力を強化!さらに同じ魔法を複数発生させ融合する。
上級に匹敵する切れ味を持つ、30メートルほどの巨大な風の刃『エアスラッシュ・極』の完成っと!
通常では不可視のはずの風の刃があまりにも凝集しすぎて視認可能になっている。
右手の指を2本立て、それを横に振る。同時に魔法がサーマレイスに向かって進んでいった。
ちなみに指を振る動作は必要ない。観客へのポーズだ。
エアスラッシュがサーマレイスに到達する前にぶっとい倒木のような生え方をした樹が出現。今度の樹は金属のように銀色の光沢をもっている。
参考までに強化版のエアスラッシュは厚さ1メートル程の鋼鉄なんて余裕でぶった切る!
が、大方の予想通りこれも防がれた。ただ今までとは違い植物に、はっきりとした斬撃の後は残っていた。幹の部分の3分の1ほどに到達したところでかき消されたな。
同じように水や氷、岩石、土流を使ったがどれも防がれることとなる。
スピードで圧倒しようとしたがあの樹の生える速さもまた尋常ではない。今の俺の手札では自分自身のフルパワー状態のスピード以外では対応できないだろう。
パワーも同じだ。あの樹を正面から壊すとすれば効果があるのは身体強化マックスで風と雷の二重エンチャント状態の剣での攻撃や攻撃用の上級魔法だけだろう。
数で圧倒しようにも一番最初に使われたようにサーマレイスの体全体を植物が覆い隠せばどうにもならなくなる。
結論として自然系の魔法では上級以外では傷をつけることさえ難しいということだ。
「もう気はすみましたか?」
考え込む俺にサーマレイスが話しかける。
「いや、まだだ。」
「…ハァ……わたしとしてはそろそろ質問に答えていただきたいのですが。」
「まだまださ。こんな機会は滅多にないだろうからな!有効に活用する。もうちょっと待って。」
そうして考え込む俺。
「はぁ…」
サーマレイスはその図太さに呆れたように溜め息を漏らす。
「ですがあなたならもうわかってるはずです。下級や中級の魔法ではどうにもなりませんよ。あなたにわたし自身へと攻撃を届かせる方法はないはずです。」
「お前が避けないでくれるならロンギヌスで倒せるんだけどな~。」
そうロンギヌスなら植物をぶち抜けるだろうが、あれは詠唱が長いし、直線にしか飛ばない。この女のレベルだと簡単に躱される。
何かいい方法はないものか………
「その高度な魔法技術はおそらくあなただから得られたものなのでしょうね。」
考えている俺に向かっていきなりサーマレイスが言い始めた。
「どうしてそう思うんだ?」
不思議に思って聞いてみると
「天才かどうかは別として、あなたもまた精神が一般とはかけ離れてますから。常人ではこの状況でそのような態度はとれませんし。」
馬鹿にされてるのか?微妙なところだな。
悩む俺が言葉を発する前にサーマレイスが続けて話す。
「このままだとあなたの好奇心が満たされるまでいつまで経っても終わらないでしょう。試合の時間制限もありませんし。」
言いながら剣を再び構えなおす。
「ここからはわたしも攻撃を開始します。」
言うと同時にこっちへ向かってくる。
やばい!速い!
弾丸のような勢いで突っ込んでくる。
そして俺が構えると同じくサーマレイスが俺に剣を振り下ろしていた。
「おらっ!!」
二つの剣がキィン!という音を立ててぶつかる。かなり重い一撃だ。
だがサーマレイスの猛攻は続く!
俺が体勢を立て直す前に次の斬撃が迫る。なんとかそれをはじき返すも、今度は下から切り上げてくる!それに反応し弾き返すも次々と連撃が来る!
美咲ちゃんと戦ったときの反省からロングソードは耐久力をアップさせる魔法式を取り込んでるから壊れることはないと思うけど…
武器の心配より俺がヤバイな。
1,2,5,10と斬撃の応酬が増えるにつれ俺の反応が間に合わなくなってくる。
次はもう間に合わない!
詠唱破棄で弱めに雷を付加し、即座にその場を離脱した。
しかし距離にして50メートルは離れたはずだがサーマレイスは次の瞬間には10メートルほどまでに迫っていた。
魔法で牽制するも植物に防がれてしまう。が、ここで昨日の経験が役に立った!
サーマレイスからは見えない角度で重力玉を放つ。
俺が放った自然系魔法を防いでる植物たち、その合間を縫って重力玉は飛んでいく。下級程度の魔力しか感じなかったから自分の身体にかけている魔法障壁で防げると油断したのであろう。回避行動をとらなかったサーマレイスは重力玉をもろにくらって後方へと吹っ飛んだ!
追撃をかけようとする俺の前で植物たちに変化が起きた。木の枝に生えていた葉っぱの色が赤、青、黄、銀色など緑色から変化したのである。
そしてそれらが枝から離れ俺に向かってきた。小さく軽いだけありかなりのスピードで飛んでくる。
あれは危険だ!
自分の勘に従い追撃を停止し後方へと跳んだ。
俺が先ほどまでいた場所に赤い葉が到達した途端爆発を起こした。他の葉も凍らせたり、硬化していたりと色ごとに能力が付与されているらしい。
大量の葉が俺を包囲するように襲い掛かってくる。
次々と迫る葉に対し回避ではなく下級魔法を撃ちまくり消し飛ばすことで対応している。
俺がすべての葉を消したのと同時に体勢を立て直したサーマレイスが再び接近してきた。
それからのサーマレイスの攻撃は熾烈を極めた。
さまざまな能力を持つ葉を飛ばし、頑丈な弦で俺の動きを拘束しようとする。迫る植物を俺が切り裂けばそこから強力な酸が降りかかり、向かってきた種子を回避すればその種子が俺の後ろで発育しいきなり背後から攻撃されることになる。
直接攻撃以外にも植物の粘液で地面を動きにくくしたり、色の濃い濃密な花粉によって視界を遮るなど流石はセラヴァイル家と思わせるような多彩な攻撃の数々で俺は何度も傷を負ってしまった。
さらにサーマレイスは一度受けた攻撃はすべて完璧に回避した。
重力玉は最初の一度以外はすべて躱され、霊・闇系魔法『ゴーストパレード』により作り出された数十体の死霊モドキは植物をすり抜けてサーマレイスに到達し、一度はそれなりのダメージを負わせたものの即座に回復、二度目は聖系魔法『神聖・浄化』によって防がれてしまう。
次に俺は本来は上級相当であるため使えない『邪神の波動』をわざと弱めることで発動させた。サーマレイスの左右から巨大で醜悪なな手が現れて指先から広範囲に広がる闇の波動を放つと一度目はもろにくらった!
しかし弱めていたため倒すには至らず、俺も無理に使用したため追撃がかけられなかった。そして2度目以降は邪神の波動の魔法陣を見ると即座に離脱することで回避、俺自身も連続では使えないためにこの魔法は打ち止めとなる。
ここまでくると俺が植物を通り抜けたり、植物ごとダメージを受ける魔法を選んで使いはじめたことに気付いたのであろう。魔法陣上のものを強烈な重力で押しつぶすオリジナル魔法『グラビティプレッシャー』も植物は圧殺したもののサーマレイス本人はギリギリのところで範囲外に逃げられてしまった。
そうして今はお互いに少し離れたところで向かい合っている。
「さすがですね。自然系だけでなく闇や重力まで扱うとは。おそらくは聖系やその他の物も扱えるのでしょうね。」
サーマレイスが俺に賛辞の言葉を述べる。
「お前こそ。植物系の魔法を極めるとあんなにも多彩な効果を発揮させられるんだな!汎用性で言えばサーマレイス、お前の方が高いんじゃないか?それにまだすべての手札は出していないだろ?」
「それはお互い様です。あなたは治癒魔法を使っていないのに傷が治っている。どんな手段を用いたのでしょうか?詠唱型で詠唱破棄によって行ったとしても魔法陣は現れるのが普通です。ですがあなたの傷口周辺には魔法陣は出ていませんでした。」
あんな戦いの中でもよく見てやがる。
「それに他にも疑問があります。」
何のことか俺が尋ねると
「なぜ未だに動けるのですか?今までの試合を見た結果と、わたしが感知するあなたの魔力量を考えれば既に魔力切れを起こしているはずです。」と返ってきた。
サーマレイスに教える気はないがそのためにわざわざ『不死鳥の巫女』を狩りに行ったんだからな。
ホント昨日ダンジョンに言って正解だった。じゃなきゃとっくの昔に敗北していたな。
けど再生回数にも限度はあるからそろそろ試合を終わらせなきゃまずいかな。
「言ったはずだろ?その質問も力づくで聞きだして見せろ!」
俺は自分の限界が迫っているのがわかるけども戦いをやめる気はなかった。
数分後。
二人はずっと接近戦を行っている。
観客からは一進一退の攻防に見えているだろうが実際には俺が押され気味だ。
というのも俺たちの戦い方が大いに異なっていることが原因だ。
サーマレイスは身体能力の強化に重点を置いている。俺の魔法の中には植物の防御を透過したりするものがあるので、逆に邪魔になると判断したのだろう、ほとんど魔法は使ってこない。
それに対し俺は風と弱い雷のエンチャントを使って対抗しているが、もとの能力はあっちが上だ!魔法で牽制しながら戦っている。
雷の付与も全力でできればいいのだろうけど、フルパワーで行くと巫女の魔法式による再生に悪影響を与える可能性がある。だから使えなかった。
けどエンチャントや牽制に魔法を使い続けている俺は確実にサーマレイスより多くの魔力を使っていた。
迫る黄金の剣に対し、魔法を放つことで微妙に軌道を変える。それをぎりぎりで回避し、反撃に移ろうとするがその頃には次の一撃が迫っている!
もう間に合わない!即座に判断しノーダメージではなくかすり傷で済むようにロングソードを振るう。
再び剣がぶつかり合うが押し負ける。
「ッ!」
俺の左腕にサーマレイスの剣が当たる。
傷は浅いため、即座に再生する。
かすり傷程度の再生ならまだまだ行けるはず。
牽制に多数の重力玉を一斉に放つことで一旦、距離を取ることに成功した。
しかしマズイな…防戦一方だ。
この状況を変えるには呪怨大樹の能力が適切なんだが……サーマレイス本人へは攻撃が当たらないだろうから……なんとか植物の魔法を使ってくれればいいんだが……
悩む俺だったがそのチャンスは意外なほど早く訪れた!
サーマレイスが焦れたのか、俺が待ち構えてるのに気づいて敢えて撃ったのか、今の俺では本来なら反応できないタイミングだが待ち構えてたため反応できたのか…
それはわからないが鍔迫り合いの後、お互いが下がったとき俺を囲むように地面からたくさんの樹が生えて向かってきた。
待ち望んでいた瞬間である。タイミングを外さないように魔法を使う。
「呪怨大樹!」
詠唱破棄で呪怨大樹を発動させる。発動魔力量はそのままで詠唱破棄を行ったため魔法の威力がかなり下がっている。が、今回はこれで倒すことを目的としているわけではないからそれはいい。
骨でできた白い樹がサーマレイスの黒い樹に絡みつき押し止める。そして魔力を吸収し始めた。
サーマレイスは少し驚いたようだがそのまま力づくでねじ伏せることにしたようだ。さらなる魔力を注ぎ込まれた黒い樹は白い樹を絡みつかせたまま、徐々に近づいてくる。
しかし俺にとってもこの展開は好都合であった。
呪怨の樹が壊されかけているが黒い樹により魔力が注ぎ込まれていることで魔力の吸収も早くなっている。おかげで直ぐに種が生成された。
種を回収し、巫女の再生を停止させ自身にフルエンチャントをする。
そして即座にその場を離脱!
エンチャントを解き再生を再開させながら次の作業を行う。
一方で先ほどまでいた場所ではサーマレイスの神聖魔法で簡単に呪怨大樹が破壊されたが(これがこの魔法の弱点だ)、それには構わず種子を地面に叩き付ける。
そうすると黒いラフレシアのような花が咲く。
「植物系と闇系の複合型ですか。見たことないタイプですからあなたのオリジナルですね?どのような効果があるのでしょう?」
サーマレイスは戦闘行動を停止し興味深そうにこちらを見ている。やはり植物を司どる家系だけあって好奇心がわくのだろう。
まあ、何が起きても対処できるという自信があるからこそだろうけど。
「お前の魔力を吸収していたのはわかったよな?」と俺が尋ねればサーマレイスは静かに頷いた。
「その魔力を解析し種子を作る。その種子からこの黒い花が咲き、その中心からは呪いの実が霧状になって周囲に散らばる。」
言葉通りにラフレシアの中心からはすごい勢いで黒い霧が噴出していた。
「どんな効果があるのですか?」
「サーマレイスの魔力を解析し、それに対する抗体のようなものを作り上げる感じかな。簡単に言えば魔力を吸い上げた奴の能力を下げる呪いだと思えばいいさ。」
会話をしている間も呪いは広がり、サーマレイスの周辺も汚染されている。
サーマレイスはそこへ呪怨大樹を壊した神聖魔法を放つが呪いは消えない。
「無駄だよ。お前の魔力に対する呪いだからな。お前の魔力によって発動する神聖魔法も効果を封じられるというか威力が下がる。結果として呪いを消すだけの出力は出ない。」
「なるほど。」
俺の解説を聞きコクコク頷いている。
「わたしへのダメージなどはないのですか?」
「ないよ。能力を下げることに特化させた呪いだし。魔法だって発動したでしょ?威力は極端に下がるけどな。」
凄いですね~と呟きながら周囲を見渡している。
効果を発揮し終わったラフレシアはすでに枯れて消滅し会場は完全に汚染されていた。
「どうして最初にこれを使わなかったんですか?」とまたまた尋ねてくる。
まあ、これには答えてもいいか。
「元々はお前が焦り始めた時に使う予定だったんだ。」
サーマレイスは手加減をしつつも余裕あふれる貴族っぽい勝ち方をしてくると考えてたから、俺は魔法式で再生能力を高めしぶとく粘り、隙を見て強力な魔法を使う。
それによってスタミナを削られたサーマレイスは徐々に焦りだし、全力で俺を叩き潰そうとする。その時に呪いで能力を下げてやり、一気に逆転!俺が勝つ!
こんな筋書きだったのに現状は全くの逆だ。
サーマレイスは未だ余力を残すが俺はもう再生回数に限界が見えてきた。
まったく貴族ってやつはとんでもないな。事前の予測をはるかに超えている!
そんなことをサーマレイスに伝えた。
「あなたも十分に強いですよ。わたしは貴族の中でも戦闘に関しては上位ですし。私より強い方はそれこそ本家の当主の方々とかですよ。」
そうなのか!
いや、今はそんなことはどうでも良い。それよりもだ。
「この状態で戦ってそれでもお前を倒せないようだったら2つの質問に答えてやるよ。」
呪いの説明を聞いても動じなかった女が俺の言葉を聞き大きく目を見開いている。
「どうしたんですか、急に?あなたは殺されても答えないと思ってました、部下の佐々門さんがそのような方でしたから。だからこそどうやって吐かせようか悩んでいたのですが…」
別にそこまでして隠すことでもないしな。めんどくさいというだけだし、自分の実力を測るという目的は半分は達成した。
この呪いをかけた状態でも勝てないようだったら、もう雷エンチャントMAXで行くしかない。
おまけにその場合、巫女の再生が働かなくなるから事実上の最後の手段になる。
「まあ、良いじゃないか。それよりもそろそろ続きを始めるぞ。覚悟はいいか?」
俺の確認に対し、首を縦に動かしたサーマレイスを見て俺は再び戦いを開始した。
再び行われる斬撃の応酬。
だがこれまでとは違い今回は両者一歩も引かず対等のレベルでの戦いだった。
そう『対等』だった。
まさか呪いの影響を受けてなお、対等だとは!
心から驚嘆する!
この呪いはレベルで言うなら2段階ほど能力を下げるものだ!その上で強化された俺と対等だという。
ならばサーマレイスの全力はいったいどれほどのものなのだろうか!?
もちろん武器の性能による差はある。その中に入っている魔法式の量と質による差も。
でもそれを扱い使いこなすのはサーマレイスだ。
この女はホントに強い!
俺が前に感じたように、こいつなら魔王の眷族たちの中でも中程度の奴なら普通に倒せるだろうな。
そんな思いを抱きながら二人で戦い続けている。
既に時間のことなんて頭にない。俺はただただ剣を振るうことに夢中になっていた。あとで確認すればこの時点で過去最長試合時間を記録していたそうだ。
サーマレイスも楽しそうな顔で剣を扱っている。その顔にはまだ余力があるぞというような色も見て取れた。
俺も楽しい。いつまででもこうしていたいとさえ感じる剣舞の中、終わりは唐突に訪れる。
ズキッ!と強烈な痛みが全身に走った!
次で再生限界という証だ。
俺の対戦相手は突然硬直した俺の隙を見逃すような女じゃない。
痛みでわずかに動きが止まった俺に対し久々の魔法を放つ。
俺を囲むような球形の魔法陣が作られるとそこから植物が一斉に出現した。今までと違い完全に密集しており、わずかな隙間さえない!
呪いの影響下でこれほどの魔法を使えることに驚きたいがそれどころじゃない。
隙間がない以上、スピードを上げてもしょうがないな。
仕方ない…
魔力を大量に消費するが空間転移で包囲から脱出!
離れた場所に移動すると今の空間転移でなくなった分の魔力を回復するために魔法式が作用した。
まさかラストの回復をこんなに早く使うことになるとはな…
考えながら呪いを解除する。
これ以上は使っても無駄だろうし再生ができなくなった今魔力量的にも維持するのが厳しい。
「魔法式を用いずに空間転移まで使えるんですね!ここまでくると驚くを通り越して笑ってしまいそうです。」
俺が呪いを解いたのを見ながら話しかけてくる。
それには答えずに
「2つの質問に対する答えだけどな」
と話し始めると直ぐに真剣な顔になって聞く姿勢になったようだ。
「力は他のやつから与えられたものを参考に自分用のものを開発したって感じだな。優勝賞品としての望みはない。この大会に出たのは商品が欲しくてではないからな。敢えて言うならお前、というより上級者と戦うことが目的だったから。」
「………………」
「………………」
「…え?今ので終わりですか?」
「うん。ちゃんと言ったろ。」
「………………」
「………………冗談だ。ただけっこう長い話になるぞ。」
「構いません。時間制限はないのですし。」
サーマレイスは聞く気満々と言うか聞き終わるまで動きませんって感じのオーラが出ている。
…なんか凄い勘違いをしてそうなんだよな、この女は。
別に聞いても楽しい内容じゃないし、壮大な物語があるわけでもない。
どちらかというとくだらない感じの話なんだけどな。
まあ、本人がそれを聞くと言い張るのだから仕方ないか。
俺がロングソードを地面に突き刺し手を放すと、サーマレイスも同様に黄金の剣から手を放した。
そうして俺たちは戦いを一時中断し過去の話を始めるのであった。
次の27話の後の28話から『悪ルート』へと分岐することになります。
大会編ももう少しです。今週中には終わらせたいですね。