25話 準決勝の開始、そしておかしな展開へ
朝、目が覚める。
ついに準決勝。
自分が貴族と戦うような舞台に来るなんて魔王になる前の俺は考えもしなかっただろうな。それを思うとなんだか不思議な気分だ。
起きて、ご飯を食べ身支度を整える。
両親や弟妹から声援を受けた俺は家を出た。
「出ると玄関の外に3人のカスがいた。おはよ~」
さわやかな笑顔で挨拶をする俺。
「おはよ~じゃねぇよ!わざわざここまで来たのにカスって何?」
3人を代表してDが口を開いた。
「おだまり。あんま生意気なこと言ってっとD!お前のメガネをかち割るぞ。」
言いながらメガネの上からアイアンクロー。
痛いと喚くDを無視してAが話しかけてきた。
「朝から荒れてんな~。なんだ、珍しく緊張してんのか?」
「違うし。お前らの顔を見たから気分悪くなっただけだし。」
「痛い痛い、マジ痛いって。」
「ちょっとちょっとそれはひどくね?」
俺の言葉に今度はエロ太が反応する。Dのことは完全に無視だ。
「いや、お前らちょっと考えてみろって!せっかく京子の魔力を感じてルンルン気分で外に出たらお前らの顔だぞ。そりゃ気分も悪くなるだろ。な、京子?」
声をかけると塀の陰に隠れていた京子が出てきた。
「あれ?バレてたか。おはよ!」
言いながらDの顔を掴む腕をとり自分の腕を絡ませてくる。
「ぅぅ…痛かった。ありがとね、三坂さん。」
Dが京子に感謝を述べる。
あれ、こいつらいつの間に知り合いになってんだ?
「俺は三坂さんと同じクラスだし、竜也や山彦にしたってお前といればいくらでも話す機会はできるだろう。」とはエロ太の言葉だ。
それもそうだな。
「大祐、調子はどう?緊張したりしてない?」
心配そうな顔で京子が聞いてくる。
可愛いし気遣いもできるし俺なんかにはもったいない女ですよこいつは。
「大丈夫だよ京子。ありがとう!」
言いながら京子の体を抱きしめる。制服がシワになっても困るしそれほど強くではないけどな。
ホントにいい匂いだ~すげえ柔らかいし。
京子も抱き返してくれ、より密着する。
清々しい朝にいきなり現れた3バカのせいで下がったテンションがみるみる回復していく。
調子に乗った俺は京子の頬に手を触れキスをした。
「ちょっと!?それは―――――ん~~~ダメだって!んっっ……んむっ………」
なんか視線を感じるけど気にせず1分くらい堪能した。
ついでに少しだけ京子の魔力を頂戴した。いや、意味はないんだけどな。
真っ赤になって息を整えている京子の肩を抱き、歩き始める。
「そろそろ行くぞ。」
気分よく告げると3人も無言でついてきた。
転移施設に向かいながらのんびり歩いている。
落ち着いた京子は頬を膨らませて睨んできたので、何とか宥めた後は手を繋いで歩いている。
その間、部下たちはボソボソと呟いていた。
「死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死」とD
「淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫淫」とA
「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい」とX
傍から見ると幸せそうなカップルの背後で不気味なことをつぶやく3人がいてかなりやばい状況だが幸いにも周囲に人影はない。
俺はともかく京子も特に気にした様子はなかったのがビックリだった。
まあ、俺と気が合う女だけあってやっぱりどこかぶっ飛んでるのかも?と失礼なことを考えていたが口には出さなかった。
「お前ら、そろそろ人通りの多いとこに行くから静かにしろよ。恥ずかしいから。」
俺が言うと、はぁ、とため息をつきながらAが言った。
「幸せそうで良いですね~リーダーは。」
「Aだってセフレいるだろうが。」
「そうだけど、人がイチャイチャしてるのを見るとゲイボルグで後ろから刺し殺したくなる。」
「何?そんな槍持ってんの?」
「持ってないけどそういう気分。」
グダグダ会話をしてる横でDとXが京子と話してる。
「三坂さん。リーダーより俺の方が良いって。同じクラスだしきっと運命だよ。」
「私と一緒にいたら、池田先輩に睨まれるよ?」
「あーーーーーそれは辛いな……」
意味の分からない口説き文句をXは言ってる。ふざけてるんだろうけど。
「三坂さんはなんでリーダーと一緒にいるの?三坂さんはすごい可愛いしもっといい男を狙えるでしょう?」
今度はDが話しかけている。
「強引に純潔を奪われたの……だから仕方なく……」
演技をしながら言う京子。
「やめてくんない。知らない人が聞いてたら俺、人体実験場に送られるから。」
準決勝の緊張とは無縁な状態でのんびり歩いていると端末が震えた。
誰だろう~?と思い確認すると睦美からだった。
『余裕があれば駅前のいつもの喫茶店でまっつますので来てください。』
「まっつますってなんだと思う?」
待ってますだと思うけど。
「待ってますじゃないかな?」「待ってますだろう。」「うん。」「だな。」
順に京子、X、A、Dのセリフだ。
あ、またメールが来た。
『間違いました。待ってまつです。』
「「「「「…………」」」」」
俺も、横で覗き込んでる京子や部下たちも特に何も言わない。
微妙な空気が流れた。
「あーーーとにかく睦美が“待ってまつ”から行くか。行くよ京子。」
京子の手を握りなおして歩き出すと、部下たちもついてきた。
ま、いいか。
「おはよ!睦美!」
声をかけると返事が来る前にベンチに腰掛ける。俺の両隣に京子と睦美がいるかたちだ。
あ、人数が多いため、メールで外のベンチにいてくれと言っておいたんだ。
俺だけが来ると思ってたんだろう。
余計なのがぞろぞろいるために驚いてフリーズしている睦美。
「リーダー!ズルくない!?なんでそっちは両手に花でこっちは両手に男なんだよ!」
エロ太が隣のベンチで叫んでいる。エロ太の隣にAとDだ。
なぜか知らないけどエロ太は二人に腕を組まれている。
冗談でやってるんだろうけどかなりキモイ!駅前を歩いている男たちは俺に嫉妬の視線を送るけど直ぐに隣の3人を変な顔で見つめてる。たぶん正面から見るとそうとうやばいんだろう。
知らない人のふりをしよう。
「あ、え、あの……」
睦美はまだ混乱中だ。
のんびり話す時間も無くなりつつある。
だから何も言わず頭を撫でてると、仕方ないな~という顔になってそのまま肩に頭を乗せてきた。
右手は京子と手を繋ぎ、左では睦美が身体を寄せている。
そんな俺たちの隣のベンチでは男3人がふざけて俺たちの真似をしていた。
道行く人の視線は既に99%が男たちに向いており、中にはこっそり写真を撮っていく人もいた。
こっちの真似をするためにバカ3人は俺の方を見ている。
制服的にはAの学校の女子だと思うが、彼女が写真を撮っていったことには3人とも気づいていないようだ。
あとでどんな噂が広がるか楽しみである。
しばらくして俺たちは会場に移動していた。
睦美とはそれほど会話をしていない。ただ一言「俺、頑張るね!」とだけ言ったらニコッとして俺の頭を撫でてくれた。
会場につき、松田たちクラスメイトや先生方、あまり話したことのない他のクラス、他の学年の人も話しかけてきてくれ挨拶をした後は選手控室へ向かう。
俺の試合が最初で、もう一方の試合はそのあとだ。
緊張はしていない。
けどいい感じの高揚は感じている。
ようやくここまで来た!
部下たちと仲間になる何年か前、幼馴染とまだ一緒に過ごしてた頃、引きこもりだった自分がここまで来れた。
けどまだだ。
ここで立ち止まる気はない!
良し!
気合を入れ立ち上がるとフィールドの方へ歩き出す。
俺の姿が客席からわかるようになると大きな歓声が上がった。
まだサーマレイスは来ていないようだ。
解説や実況が毎度のごとく話している。
客席では東心峰の連中が名前を叫び手を振っているが部下たち(AとDは学校が違うけどエロ太と一緒にいる)、京子や睦美ちゃんは静かに座ってこっちを見ていた。
空を見上げると雲一つない青空が見える。雲があれば、魔法陣を雲に紛れさせて魔法を使う気だったが今日は無理なようだ。
昨日手に入れた不死鳥の巫女の魔法式の状態を確認すると一応作動はしていた。さすがに時間的な問題で100%の機能は発揮させられないがそれは仕方ない。
今の状態でできる限り戦うだけだ!
ふいに強い気配を感じる。同時に再び大きな歓声が響き渡った!
「貴族様の入場か。」
声に出しながら相手が来たであろう入り口を見る。
いつもとは違い武器を所持しているサーマレイス=セラヴァイルがいた。
金色の細長いむき身の長剣にミニスカートだがスパッツらしきものが見えてるため下着は見えないんだろうなぁ。
なんて馬鹿なことを考えているが服装は動くのに支障はないものだ。まあ、魔法的な補助のあるやつではなさそうだがそれは俺も同じことだ。
サーマレイスが近づくにつれ歓声が徐々に小さくなる。
そしてスタート地点につくと同時に歓声が消えシーンとなった。
俺たちはお互いの顔を見つめ合っている。が、俺のほうが背が低いからちょっと微妙な気分だ。
見つめ合ってるうちに結界が作動した。
完全に展開が終わるとアナウンスが鳴り響く。
「それでは本日1試合目。」
1秒ごとに意識が研ぎ澄まされていく。
「準決勝、笹川大祐選手とサーマレイス=セラヴァイル選手の試合を始めたいと思います。」
今の俺がどこまでやれるかはわからない。
「両者ともに準備はよろしいでしょうか?」
だから俺はただ
「―――――――試合開始!」
全力を尽くすだけだ!
開始の声と同時にロングソードの切っ先を敵に向け魔法式へと魔力を流し込む。
身体能力が強化されると同時に、10の魔法陣が即座に浮かび上がる。
中級魔法『ビッグボム』
その名の通り、1つで周囲数十メートルを吹き飛ばす、10の輝く爆発物を放つ。
しかしそれはサーマレイスまで届かない。
ちょうど二人の中間地点まで到達した瞬間、サーマレイスの放った炎のチャクラムのようなもの、―――下級魔法『炎月輪』―――、がボムを打ち抜く。
この炎によって1つが爆発しかけ他のボムも誘爆を引き起こされそうになる。
ここからの距離だと俺も巻き込まれると判断し、一気にその場を離脱。
会場の端に着くと同じくして、キィィィィンと言う音が鳴りその直後大爆発が起きる!
巨大な爆発による閃光と轟音が発生するが、それが消えるまで待たずに魔法陣を発生させる。
爆発は収まったが土煙が濛々と上がっていて向こうの状態はわからないが、サーマレイスのいる場所は感じられる。
先手を取る!
しかし俺がそこから魔法を放つより先にサーマレイスが魔法を撃ってきた。
炎月輪が数百個ほど土煙を吹き飛ばしながら俺の方へと迫ってくる。
クッソー!せっかくもう1回ボムを撃とうとしてたのに!
けど嘆いても仕方ない。
魔法陣をキャンセルしエアシールドを展開する。
風の盾に阻まれて炎は俺の左右に逸れていった。
だが安堵する間もなくいきなり巨大な魔力が感じられる。
サーマレイスの前に巨大な魔法陣ができていた。
俺の記憶だと確かあの式は上級の『タイダルウェーブ』。
強力な津波を引き起こす大魔法だ!
いきなり上級かよ!俺は上級はほとんど使えないのに!
回避は無理だな、邪魔をするか。
しかしこの距離だと魔法式型じゃあ間に合わんな。
即座に判断し詠唱破棄によって瞬間的にサーマレイスの周囲に魔法陣を展開する。
上級と下級じゃ当然下級魔法の方が発動は簡単で早い。
あいつが魔法を発動させる前に炎、氷の矢、風の刃、岩の矛などによりオールレンジ攻撃を行った。
サーマレイスは魔法をキャンセルすると回避行動に移ったがこれが凄い。凄まじい数の魔法をめちゃくちゃ速いスピードで動いて躱しまくる。どうしても間に合わないものは魔力を帯びた長剣でかき消していた。
結果としてただの一撃も食らわず魔法陣の囲みから脱出し再び俺に魔法を放ってくる!
それに俺も正面から全力で応戦する!
お互いが放つ魔法が戦場の中央でぶつかり合う。
ときに相手の魔法とのぶつかり合いに勝利し敵にまで到達する魔法も、障壁に阻まれてしまい両者の身体に届くことはない。
さきほどのオールレンジ攻撃を受けて上級を使う隙はないと悟ったんだろう。
サーマレイスは下級と中級の魔法のみを使用するようにしたようだ。
さすがに上級を使いながら他の魔法を使うのはなかなかに難しい。魔法式型は魔力を注ぎ込むだけとはいえ、上級ともなると消費魔力量は膨大で、さらには魔力の注ぎ方にも細心の注意を払わねばならないからな。
しかしこれにより戦局が硬直することとなった。
下級や中級のみに絞ったサーマレイスだが一度に飛んでくる魔法の量が尋常じゃない。
先ほどの炎月輪は遊んでいたのだろう、準々決勝でぶつかったモブおじさんの数倍の量の魔法が飛んでくる。おかげで魔法式型の魔法だけでは処理しきれず詠唱破棄による魔法も正面の撃ち合いに使用しなければならなかった。
だが、ここで焦れた方が不利になる。
俺は落ち着いてこの魔法の撃ち合いを続けた。
一進一退の攻防は10分近くも続いている。
未だにつづく魔法の撃ち合いに観客や実況は大声を上げて盛り上がっているが、俺は凄い違和感を感じていた。
それは相手が使ってくる魔法だ。
サーマレイスが放つ魔法はほとんどが下級や中級の炎や氷、水の魔法だ。あとはときたま不可視の魔法だったり厭らしい攻撃をしてくるだけだ。
それがおかしい!
上級を使わないことがおかしいのではない。上級は時折隙を見て使おうとしていたが俺が使わせないように攻撃してるから正確には使えない状態だ。
そうではなくセラヴァイル家の一族が得意とする属性を使ってこないのがおかしい!
おまけにあいつの身体能力を考えれば俺は常に雷エンチャントをしてなきゃいけないのに今は普通の身体強化しかしなくても対応できている。オリジナルの魔法を使わなくても正面から戦えている。
どう考えてもおかしかった。
あの女は貴族代表として出場している大会レベルの調節役のはずだ。エロ太と戦った時も、「圧倒的な勝利を見せつけるように命じられている」と言ってたはずだ。
なのにどうして手加減をしている?
俺が疑問に思っているとだ。
「もう充分です。」とサーマレイスは言いながら魔法陣を消し武器を収めた。ついでに目を閉じている。
「なんだ急に?」
あの女が不意打ちすることはないだろう。
俺も臨戦態勢を解き尋ねてみた。
「あなたの実力は充分にわかりました。」
「それがなんなんだ?」
「あなたに勝利を譲りましょう。」
「……………………………………………はぁ!?」
え?何言ってんのこいつ?
バカなの?
「バカではありません。」
やべぇ、小さい声だったのに聞こえていた…
俺がちょっとだけ反省していると、構わずサーマレイスは言葉を続ける。
「何も驚くことはないでしょう?わたしは大会レベル、正確には優勝者の質を保つために参加しています。」
「……………」
「あなたは優勝するのに相応しいだけの実力を持つと判断しました。だからあなたに勝利を譲りましょう。」
…………認めたと言われてもな。
そもそも俺の基礎能力は上級には届いてないのにいいんだろうか?
疑問に思ったから率直に聞いてみた。その返事は
「魔法でカバーできています。」だそうだ。
「付け加えれば身体能力の脆弱さを帳消しにできるくらいにあなたの魔法技術は高い。」
「上級魔法はほとんど使えないぞ。」
「どんなに強い魔法であっても使いこなせなければ意味が無いでしょう?実際この試合でわたしは上級魔法を使えませんでした…あなたの妨害によって。そう、状況によって下級や中級で上級魔法以上の成果を引き出すことだってあります。すべては使い手次第です。」
サーマレイスの真意を探るようにじ~っと見てるけどこの女は目を閉じていてよくわからない。
「俺が次の決勝で負けたらどうするんだ?」
「わたしはあなたの実力を認めたと言いました。あなたは優勝者として最低限必要なレベルに達していると。そのあなたを打ち負かす実力者が優勝するのであれば何の問題もありません。」
まあ、実際のところはもう一方の準決勝の選手は大したことない奴らだ。こいつとの試合こそが事実上の決勝戦だ。
当然この女もそれを理解しているんだろうな。
しかしまさかの超展開になんて答えたらいいんだろう?
俺が悩んでるとサーマレイスの方が口を開いた。
「ただしわたしが試合を辞退する前に2つほど確認したいことがあります。」
「なんだ?好きな女のタイプは可愛い巨乳だけどお前は背が高いからダメだぞ。エロ太も言ってただろう?」
ゆっくりと目を開いて問いかけてくる。
「なぜ、あなたの魔法を扱う技術はそれほどに高いのですか?」
「…………」
俺の冗談には完全無視で真面目な質問をしてきた。
ちょっと悲しいけど仕方ない……
それにしても魔法技術に関してか…異世界のことを話すのはメンドイしなぁ……
俺がそう考えている間もサーマレイスは話し続ける。
「特に自力型の魔法に関する技術はあまりにも高すぎます。おそらくは貴族や他の上級の自力型を用いる魔法使いと比べてもあなたは遜色ない。いえ、それ以上の実力を持っているでしょう。少なくとも私の知る限りでは最高の使い手です。」
とりあえず余計なことは言わず彼女の主張を全部聞くことにしよう。
「そして問題なのは一昔前の時代ならばともかく今の時代は詠唱による魔法を使う人がほとんどいません。その状況でどうやってその技術を身に着けたのか?あなたの仲間の佐々門さんは師はいないと言っていました。」
あの野郎!余計なこと言いやがって。あとで殴っとこう!
「もちろん。初代様がそうであったようにあなたも生まれながらの天才という可能性もありましたが、調査した結果その可能性はないと判断しました。」
調査?なんか調べたのこの人?
「調査というと大げさですね。あなたの幼馴染たちから話を聞きました。」
「………あ~なるほど!お前たちが知り合いだっていう可能性は失念してたわ。あいつらみんな、上位の研究室だもんな。お前と知り合いでも不思議じゃないか。」
「ええ。あなたの6人の幼馴染のうち友美と雄介はわたしと同じ班員ですから。あなたが友美たちと一緒に過ごしていた数年前まではこのような実力はなかったようですね。」
「……………」
「彼女たちは皆上級の実力者です。その全員から実力を隠しぬいてきたということはあり得ません。それくらいには彼女たちの才能を信じています。」
特に否定も肯定もしないがそれには構わずサーマレイスは話しを進める。
「つまりあなたは幼馴染たちから離れたこの数年の間に急激に力をつけたということになります。だからこそどのようにしてそこに至ったのかを聞いておかなければなりません。」
「どうしてだ?」
いや、理由はわかるけど敢えて尋ねてみた。
「あなたが努力の果てに辿り着いたのなら問題ありません。しかし何らかの特殊な方法で強くなった場合、それが誰にでも可能な方法となるとわたしたちは対応しなければなりません。でなければ火星の秩序に大きな影響を与えてしまいます。」
まあ、その懸念は仕方ないか。みんなが簡単に力を持てば治安などにも影響が出るだろうしな。
「あと、これは根拠はありませんが……ただこうしてあなたと戦って受けた印象なのですが………」
一度言葉を区切るサーマレイス。
何を言うのかと待っているがなかなか続きを言おうとしないな。
「印象がどうしたって?」
それでも言おうとしないな。さっきまでとは違う自信なさげな表情からすると言葉通り自分でもいまいち確信が持ててないのか。
数秒の沈黙の後、サーマレイスがためらいがちに言葉を絞り出した。
「…あなたは本当はもっと高度な魔法を使えるのではないですか?」
「?????」
「魔法だけではなくもともとの潜在能力にしても本来はもっと高い。だけど今は何らかの理由で使えなくなっている。そのような抑制されているような印象を受けました。…そう、少なくとももっと高次元の戦いを知っているような印象を。」
「………………」
何こいつ?
鋭すぎね!?
「その顔を見る限り、はずれてはいないようですね。」
「ふん。………それよりもう1つの確認したいことってなんだ?」
まずは全部聞こう。
「あなたの望みはなんですか?」
「望みって…なんか漠然とした質問だな。」
「いえ、今大会で優勝した時のという意味です。お金、名誉、地位、魔法式、武器いろいろありますが何を望みますか?」
「その質問は重要なのか?」
「もちろんです。あなたという人を知るためには重要なことでしょう。」
や、なんで俺の人間性を知らなきゃいけないんだよとかいろいろ言いたいことはあるがそれは置いといて別のことを問いかける。
「最初の質問にしても2つ目にしても俺がウソつくかもしれないぞ?」
「構いません。それも含めてあなたという人を見極めますから。」
…ハァ…なんかわけわからん展開になってるなぁ……
でもわざわざサーマレイスに俺が教えてやる理由もないしな。
京子とか睦美が話してっていうなら教えても良いけどさ。
どうしようか?
サーマレイスは言いたいことは言い終わり返事を待ってます!みたいな状態だ。
それによく考えたらこいつにバカ正直に教えたらそのまま俺の勝ちになるのか!自分の実力を測りに来たのに、対戦相手に辞退されたら意味ないな…
よし!決めたぞ。
「なあ、お前はバトル物の漫画だとかアニメとか見るか?」
いきなりの質問に不思議そうな顔をするサーマレイス。
「いえ、見ませんが。」
「そっか。じゃあ教えてやるけどさ!最近の開拓者の人気作ではな、こんな場面だと戦って力づくで聞きだすんだ。」
言葉と同時に魔法を発動する。
俺の周囲にさまざまな重火器が浮かぶ。
ビーム砲×4基、ミサイル60発、ガトリング×12基、カノン砲×6基。すべて金属系の魔法で作り出したものだ。
その戦う気満々の俺を見て、サーマレイスは困ったような顔をした。
「勝利を譲ると言っているのですが…仕方ないですね。」
言いながら再び武器を構える。
それを確認した俺は
「行くぞーーーーー!!!!!」
全弾をサーマレイスに向けて発射した!