23話 十五貴族 セラヴァイルの実力
今日は準々決勝だ!
よって一度に1試合ずつ行われるようになり、戦闘フィールドも2倍の広さになる。
試合の順番は決められているが1試合あたりの時間が無制限なため、何時から自分の試合になるかはわからない。
まあ、一般的に1試合で1時間を越えることはない。
1対1の試合での過去最長は47分だったらしい。
なので準々決勝の4試合は全て今日中に行われる見通しだ。
ちなみに明後日が準決勝で、その2日後が決勝戦だ!
さて俺の試合は第3試合で第4試合がエロ太となる。
第一試合から俺や東心峰の関係者は会場にいるのだが、俺とエロ太は東心峰の客席には座っていない。
少し離れたところでAとDと4人で座っている。
これまで関係ない試合は観戦しないで会話してたり、端末をいじったり、寝てたりしてたが今日はちょっと真面目モードだ。
西川たちクラスメートや京子たちも俺たちから発せられる気配でそれを悟ったらしい。
挨拶をした後は特に声をかけてくることもなく試合を見ていた。
第1、第2試合ともにそこそこ盛り上がる試合だった。試合時間はそれぞれ25分程度。
さすがにここまで残るだけあって実力はあるし、力も近いもの同士が戦っているので観客も大きな歓声を上げていた。
が、それでもあのレベルなら何とかなると思う。
魔法式のみ、剣技のみで戦うとなるとさすがに厳しいが全力で戦えば問題なく勝てると思われる。
次の俺の第3試合。開始時間は11時からだ。
以前も言ったが対戦相手は中級のレベル7の男だ。
おっさんだし格好良いわけでもダサいわけでもなく微妙なやつだからな。
モブおじさんと呼ぼう。
俺は控え室に向かう前に東心峰の客席まで言って先生や友人に挨拶してきた。
まず校長とかに挨拶した後、
「睦美ちゃ~ん。行ってくるよ!君のために!」← 二人きりじゃない時はちゃん付けで読んでる
「睦美ちゃんではなく先生です。もう!……………怪我しないようにね。無理しちゃダメだよ。」
京子に
「行ってくるよ!君に勝利をささげて見せる。」
「ハイハイ頑張ってね」と呆れた様な口調だが俺の胸を軽く叩きながら返してくれた。
クラスメイトたちに
「松田!」
「どうした?」
「俺が勝ったら寺島は俺がもらう。もちろん処女だろうな?」
「「死ね」」とカップルで言ってきた。
「じゃあ西川など他のみんな、行ってくるぜ!」
「などってなんだ!?」「頑張れよ!」「三坂さんと別れろ」「逝って来い」「頑張ってね」
いろいろな声を背に会場へと向かっていった。
『さて次の第3試合は今大会の注目選手の一人、笹川選手が出てきますが吉宗さん。どんな試合展開になると予想されますか?』
いつものように実況の久留間と解説の吉宗の声が聞こえる。
が、特に気にせず目的地へと向かう。
そしてフィールドに降り立ちモブおじさんの正面で向き合う。
こうしてモブおじさんと向き合ってるわけだが、やはり負ける気がしない。
なんというか彼からはモブオーラしか感じないのだ。
だが油断してやられるのは馬鹿のすること。
魔王の俺ならともかく人間の俺には調子にのるだけの余裕なんてないはずだ。まして相手はレベル7。
少なくとも基礎身体能力は俺を超えているはずなんだ。
そう自分に暗示をかけ集中力を高める。
目の前の敵にのみ集中した俺にはさっきまでうるさかった実況や解説の声も聞こえなくなった。
事前情報で彼は遠距離から魔法を撃ち相手を倒すタイプとわかっている。
俺はそれを正面から叩き潰すつもりだ。
「それでは時間となりました。これより準々決勝、第3試合をはじめたいと思います。両者ともに準備はよろしいでしょうか?――――――――――――――――― 試合開始!!!!」
準々決勝第3試合が始まった!
「あれーーーーーー???ウソーーーーー???」
戸惑っている俺の足元ではモブおじさんが血溜まりに倒れこんでいる。
「試合終了!勝者、笹川大祐!」
ワーー!っと歓声が鳴り響く。試合時間は48秒だ。
「なんで????」
あまりにもあっさり試合が終わり俺の方が戸惑っている。
俺は特別なことなんて何もしてない。
試合開始後、正面から魔法の撃ち合いをした。
さすがに中級の遠距離タイプだけあって数十の魔方陣を正面に展開し下級や中級の魔法を放ってきた。
それに対抗して俺も同じ数だけの魔方陣を魔法式を用いて展開、激しくぶつかり合った。
20秒くらいの拮抗の後、詠唱を終えた俺はモブおじさんの左右と背後に魔方陣を出現させ攻撃!
それ対しておじさんは結界とか魔法で叩き落とすように行動してた。
なのでモブおじさんはその対処で力を分散したため、正面で撃ち合う魔法の弾幕が薄くなった。
まあ、もともと遠距離タイプだ。ゲームとかでも出てくる、魔法は凄い強力だけどスピードとか低めで肉弾線に弱いタイプだったらしいから回避という選択はなかったんだろう。
そんなわけで正面の撃ち合いは俺が有利になったため魔力を高め身体強化!
一気に距離をつめた。
そしてそのまま斬りかかったわけだ。
おじさんは反応するまもなくバッサリやられて倒れてしまった!
なんでこんなのが勝ち上がってるのだろう?そう思った俺が調べたところ、わかったのは以下のことだ。
中級の中で一度に数十の魔法を出せるのは一部のエリートだけ。肉弾戦派には勿論無理で、遠距離タイプでも出来るやつはごく一握りだけ。
俺はエリア大会で戦った美咲ちゃんが使ってたから一般的に出来るものだと勘違いしていた。
美咲ちゃんはかなり優秀な女だったってことだな。
モブおじさんはこれまでの試合は全て圧倒的な魔法の火力で反撃を許さぬままに勝ちあがってきたらしい。
中にはひたすら結界をはってモブおじさんの魔力切れを狙おうとしたやつがいたらしいが、魔力が豊富なおじさんは結界を壊しまくって、最終的には相手の方が先に魔力を失ったらしい。
他には接近戦タイプが魔法を回避しつつ近づこうとしたり魔法を使われるより速く近づこうとしたらしいが、膨大な弾幕に回避が不可能であったり、運よく近づけても攻撃を停止して防御に回ったおじさんには攻撃を当てることができなかったらしい。
そんなわけでエリートのモブおじさんとの撃ち合いを制しあっさりと勝った俺は余計な注目を浴びてしまうが、こんな試合なんて霞んでしまう様な強烈な印象をサーマレイスは第4試合で見せ付けた。
観客席に戻った俺はいつもどおりに先生たちのところへ行く。
「笹川君!君は我が校の誇りだ!」
校長やその他、学園の知名度を考える皆様の言葉に対し内心で「ハイハイ、良かったね」とか適当なことを思ってたけど口からは形式的な挨拶だけを出して対応した。
続いて、睦美と京子の胸に飛び込み、寺島に処女を要求し、―――松田にあげるからだめだそうだ―――、友達に話しかけた後は部下たちの元へ向かう。
そして次の試合へと意識を切り替える。
エロ太は俺と拳をコツンとぶつけ合った後、何も言わず控え室に向かった。
サーマレイスの試合は今まですぐに終わっていたため実際のところどのくらい強いのかはわからない。
しかし一見しただけでわかる強者の気配というようなものを漂わせている。
俺の勘ではおそらく魔王の眷属だった頃の部下たちと同等だと思う。人に戻ったエロ太が勝てる相手ではない。
俺たち3人は静かにエロ太の試合が始まるのを待っていた。
しばらくしてエロ太とサーマレイスがそれぞれ反対方向にある入り口からフィールドに入った。
エロ太の服装が下級でよく使われる簡易な金属製の胸当てなどをつけているのに対し、サーマレイスは俺と同様、いや俺が防具はつけないが運動に適したズボン(色は青とか黒とか日によって違うが)に半袖の服を着るのに対し、彼女は完全にプライベートの私服だ。
なんせ黄色を基調としたワンピースだからな。それでも見た感じかなり高そうな衣服だが魔法などはかかってなく明らかに戦闘用ではない。
彼女はどの試合もこうして戦闘向きではない服装だったらしい。
まあ、余裕で勝てるという意思の表れなんだろう。
エロ太ことXもそれを感じているのがわかる。武器さえ持ってきていないサーマレイスに対し敵意をむき出しにしている。
武器がない=媒介がない=つまり魔法はほとんど使えないのだ。
当然肉弾戦となるわけだが、魔法による強化もしないで接近戦を得意とするエロ太に挑み、それでも勝てるという意思表示はこれ以上ないくらいに屈辱だろう。
戦意がやばいくらいにあふれてるXに落ち着き払って目を閉じているサーマレイス。
実況と解説が2人の紹介をしてる間に結界の準備が終わりいよいよ試合が始まる。
「それでは次の試合を始めます。準々決勝第4試合、佐々門風太選手対サーマレイス=セラヴァイル。準備はよろしいでしょうか?―――――――――――――― 試合開始!」
Xは即座に大剣を抜き魔法を発動。身体能力を最大まで強化する。
のんびりと歩いて近づいてくるサーマレイスに対して、ダッシュで距離をつめて剣を振り下ろす。
かなりのスピードで叩きつけられる攻撃は一般的な中級でさえ防ぐのは難しいだろう!そんな一撃をサーマレイスは魔法を一切使わずに必要最低限の動きで回避。
振り下ろし後の隙を突いてXの腹部に強烈なパンチを叩き込んだ。
「ぐはぁっ!」
あまりにも重い一撃に意識が飛びそうになるがXはこらえたようだ。
それを見たサーマレイスは、あれ?っという様な顔をしながらも続く二撃目を繰り出す。
Xは大剣でとっさにガードし、サーマレイスの拳は大剣の真ん中に当たったが大剣ごと後方へ大きく吹っ飛ばされるX。
サーマレイスは追撃せずにXが立ち上がるのを見ていた。
そして立ち上がったXに声をかける。
「驚きました。まだ立てるんですね。…………なるほど…わたしが予想していたよりもあなたは強いようです。」
髪と同様に紫色の瞳でXを見つめて言うサーマレイス。
「俺も驚いた。強いのはわかってたけど魔法無しでもこれほどの実力だなんて想定外だ。十五貴族を侮っていたぞ。」
挑発的な笑みを浮かべて答えるX。
「それでもだ、ここまで手加減してる相手に負けるのは俺のプライドが許さん。なによりあんたは俺の好みだからな。押し倒して俺の女にしてやるぜ!」
Xのちょっときもいセリフに対してやわらかい笑みを浮かべて返事をする。
「ごめんなさい。わたしは婚約者がいるのであなたの女にはなれません。」
「ダメだ!断られるのを断る!あんたは背が高いからな、リーダーの守備範囲外だろうし。久々に最高級の女を自分のものに出来るチャンスなんだ!絶対勝って押し倒す!」
「どうよあれ?」
俺の質問にAとDが答える。
「いやーバカだろ。」「バカだよね。」
せっかくクラスの女の子と仲良くなってきたというのに…アホ。せめてマイクを切って言えよ。
俺たちは呆れながら、でも真剣に試合を見ている。
「リーダーの守備範囲外ですか。リーダーとは笹川選手のことですか?」
サーマレイスが問う。
それをXは肯定する。
「なるほど。興味深いですね。」とサーマレイスは言う。
「何がだ?言っておくけどリーダーは自分より背の高い女はダメだぞ。だから俺にしておけって。」
あの野郎!余計なこと言いやがって。
心なしか周りから生暖かい視線が向けられている気がする。
「ドンマイ」「あとで殴っとけばいいだろう。」
AとDが言う。
顔が楽しそうなのが気に食わないがとりあえずは試合を見てよう。
「興味深いといったのはそういうことではありません。一般の学生でありながら中々の実力者が集まってるのが興味深いという意味です。あなたがたに特別な師がついたわけではないのでしょう?」
「そうだな。しいて言うならリーダーが教師も兼ねていた。」
「自分たちだけでそこまで力を磨けるという話はあまり聞いたことがありませんね。」
「それがなんだ?」
「いえ、これ以上のことは準決勝であなたがたのリーダーから聞くことにしましょう。」
その既に勝負が決まってると言わんばかりの発現にXは闘志を燃やす。
魔法式に魔力を注ぎ込み風のエンチャントを発動させる。Xは普段は身体強化だけでエンチャントはめったに使わない。これは本気で殺す気だということだ。
「話が終わりならそろそろ行くぞ!」
そう言い先ほどまでとは比べ物にならないスピードで斬りかかる。
反応できないのかまったく動かないサーマレイスに対し大剣を振り下ろす。
(当たった!)
Xがそう感じる直前で大剣がピタリと止まる。
サーマレイスが左手で刃を握っていた。
「な!?うそ!?」
愕然と声を漏らすX。
無理もない。Xが最大限の強化をしエンチャントまで付けた場合、瞬間的には上級レベルの能力を発揮できる。
それが魔法を使わない女に片手で止められていた。
完全に硬直したXに対し、サーマレイスの右腕が動く!
声もなく10メートル以上を殴り飛ばされるX。あいつの武器の大剣山割はサーマレイスが掴んだままだ。
「…ちっくしょう…」
なんとか起き上がるXの声にも力はない。
だが立ち上がろうとするXを見つめるサーマレイスは大きな目を見開いて告げる。
「今のを受けてもまだ立ち上がれますか。これは驚きです。」
さらに柔らかい笑みを浮かべ言葉を続ける。
「ええ、いまだ戦う意思を示せるあなたは確かに強い。本来なら敬意を表しわたしも武器を抜くところなのですが、今回の大会は私的なものではなく公的な立場としての参加です。ある例外を除き、圧倒的な勝利を見せつけるように命じられています。」
言いながら大剣をXに向かって放る。
それを地面に落とさず掴み取ると
「ふん。動けるうちは最後まであきらめないのが俺の主義だ。」
そうして再び剣を構えると
「行くぞ!」
サーマレイスに攻撃を仕掛けた。
合計で23発。サーマレイスに殴り飛ばされた回数だ。
今までの試合では上級中級関係なく一撃で沈めてきたサーマレイスの攻撃をここまでくらいようやくXは倒れこんだ。
『試合終了です。勝者サーマレイス=セラヴァイル!』
観客は立ち上がって拍手をした。
それはサーマレイスを称えるものでもあり、最後まで果敢に挑みかかったXに対する称賛でもあった。
そんななかで俺は拍手をしながらも頭で今後について考えている。
サーマレイスはエロ太を相手に魔法を一切使わず勝ってしまった。
俺もヤバくね?