21話 トーナメントの開始です
2話に分かれていたのをくっつけたためいつもより長めです。
さていよいよ俺たちのトーナメント最初の試合の日が来た。
身支度を整えた俺は京子と一緒に家を出る。
うん。今日はちゃんと戦闘用の服装だしロングソードもっている。
完璧だ。
「本当に完璧なの?忘れ物ない?」
「ありません。服も武器も問題無しでしょ。てか何で俺の考えてることわかるの?」
「声に出てたよ。」
制服を着た京子は呆れたような顔でこちらを見てくる
誰にだってミスはあると思うから俺は気にしない。
そんなことよりこれからの試合のことを考えよう。といっても今日は俺や部下たちの相手は下級だったり中の下だったりとそれほど警戒する必要のない相手だ。
むしろバトルロイヤルで、はっちゃけた分俺たちの方が注目され警戒されてしまっている。少し調子に乗りすぎた。
昨日のニュースとかでも話題の選手ということで俺たちが出ていたし………特に俺は服装やら使用した魔法やらで目立ちまくっている。
ロンギヌスは完全に1から俺が作った魔法だ。当然俺と部下以外は誰も知らなかった。他にも誰も知らない魔法を使うのではないかとかな~り警戒されている。
まあ、当然だな。知ってる魔法よりも知らない魔法への対処の方が難しいもんな。
おまけにオリジナルの魔法を作り出すのは上級BMか専門の研究者と相場は決まっている。
新しいダンジョンで見つかる新種の魔法式を用いて作られたものがそれだ。ただそれもすぐに検証されて有用であれば公式魔法として登録されることになる。有用でないとされればオリジナルのままだが有用でないと考えられるものをいつまでも使うものもいないだろう。
また、新規のダンジョンは全て開拓者が作り管理しているためそこで得られた魔法式を独占し隠し通すことなどはできない。
自力型の魔法が開発されることなどもっと少ない。
何度か自力型と魔法式型の説明をしているが、自力型は魔法式型に比べて難易度が高いしめんどくさい。
例えるなら木材に火をつける際、手で「うお~!」と木と木擦り合わせる原始的な方法で火をつけるのが自力型で、ライターやチャッカマンなどで火をつけるのが魔法式型だ。
だからいまどき珍しいオリジナルの詠唱による魔法を使う俺は今大会のダークホースらしい。
とはいっても公式の賭けでは俺は3位だと予想されている。例年は優勝者を予測するというものが多いのだが、今年は貴族が勝つと思われているため2位と3位二人を当てるという賭けが多い。あ、3位決定戦は無いから3位は二人だ。
俺が3位と考えられているのは俺が順当に勝ち進めば準決勝で貴族代表『サーマレイス』と当たるからだ。
話が逸れたな。
とにかく俺たちは他の選手から警戒されている。
それはいいが、いや良くは無いがそれ以上に問題なのは松田だ。
ニュースを見る限りではなんと松田も要注意人物の一人だとされていた!
まあ、これも原因は俺たちなわけで、俺たちと行動しているからってのと俺たちが公式レベルが2となっているからだ。だから松田も「実は中級なのでは?」とニュースで言っていた。ひどいところになると「実は彼があのチームのリーダーで一番の実力者なのでは?」と報道しているところもあった。
昨日の夜、京子と二人でニュースを見ていると松田が半泣きになりながら「どうしよ~?なんかすんごい勘違いされてるんだけど…」と通信してきた。
このときすぐ隣で俺に引っ付いていた京子も通信範囲に入っていたから松田にも京子のラフな格好が見えていたはずだけど、それにも気づかないようで「どうしよ~?どうしよ~?」と言っていた。
正直、今更どうにもならんだろと思ったけど自重しておいた。
かわりにほどほどに慰めた後、寺島に連絡し松田の事を頼んで置いた。
あいつは前の試合のときも緊張していた松田の相手をして上手く落ち着かせていたし大丈夫だろう。
そう判断した俺は松田のことは忘れ、寝坊しないように早めに寝ることにした。ちなみに今回はエロいことしてません。普通におとなしく寝ました。
さてさてそんなことを思いながら2人で歩いていると転移施設に到着した。
少し早めに来たからか現地集合だからかここに学校の人はいない。
二人で施設に入り、身分証明を見せる。俺のほうはテレビででまくっていたからか職員は俺を知っているようだったが身分証の提示は確認された。まあ当然か。
料金は学校が払ってくれるので俺たちはそのまま施設の奥に進み、直径が60メートルはあろうか巨大な転移の魔方陣の中心へと進む。客は俺たちだけみたいだな。
「では起動します。」
職員の声が聞こえた数秒後、魔方陣から光が漏れる。そして一際強くなると同時に転移の魔法が発動。
次の瞬間には首都の試合会場に最寄の転移施設へと移動していた。
「お疲れ様でーす。具合が悪くなったりしてませんか?」
「大丈夫です。」
いつものやりとりをしたあと店を出る。
エリア8は曇りだったがここは雲ひとつ無い快晴だった。
「お~いい天気だな!今日は気持ちよく動けそうだ。」
「そうだね!でもあんまり無茶しちゃだめだよ。」
そんなことを話しながら手を繋ぎ歩き出す。
試合会場は巨大だからここから既に見えている。
遅刻の可能性はないしのんびり歩くことにした。
京子と二人でいるときはいつもだけど周りの視線が集まる。
男はみんな京子の顔と胸をガン見して、隣を歩く俺をすごい嫉妬の篭もりまくった視線で見てくる。
女は京子を見たあと俺を見て「え?何あの組み合わせ?」という顔をするし、時には「つりあってね~!もったいないねあの娘。」といってる人さえいる。まあ、俺はさほど気にしないでいるから良いんだけどな。かわいい子に言われると傷つくけどブスに言われても気にならない。
だが今日はちょっと視線が違った。
おそらくは連日の報道のせいなんだろう。顔が知られてしまったらしい。いつものような京子のオプションとしてではなく俺自身に対して好奇の視線が寄せられる。
が、最近は徐々に視線に慣れてきているので周りを軽やかにスルーして二人でのんびり歩いている。
先ほどもいったように話をしながら歩く俺たちの視界には試合会場が映っている。そしてその奥の背景全てが始原の塔で埋め尽くされている。
「しっかし相変わらずでっかい塔だよなぁ。横幅もどこまでも続いてるんじゃねぇの?ってくらいあるし
上を見ても頂上なんて見えないし。」
「あたり前だよ。下層には街が入ってるんだし、高さだって雲の遥か上まであるわけだし。皇帝しか入れないって言われてる最上層なんて大気圏の高さだって話しだもん。」
「確かにな。でも良くこんなもの作ったよな。どうやって造ったのかさっぱりだ。俺でも造れないだろうな。」
というか造ろうと思わない。魔王の力があったとしてもこんなハンパなく巨大なもの設計しようとも思わない。
あと100メートルで会場の入り口ってところで俺たちは手をはなした。堂々と行っても大丈夫だろうけど大会が終わるまでは面倒は避けるにこしたことはない。
入り口には選手や応援など既にかなりの人がいる。うちの学校の制服を着た人も十数名ほどいるようだ。話したことある人はいないみたいだけど。
俺と松田は午後からだけど、エロ太のやつが午前中から試合なので11時集合となっているところを10時に来ているとは!
「ちーす!」「おはようございます。」
俺と京子が挨拶しながら近づくと向こうもこちらに気づき「おはようございます」と返してくれた。
会場のほうからは歓声が聞こえる。早い時間から始まる予定の試合が行われているのだろう。
「先輩今日もがんばってくださいね。」
初めて見る人だが先輩と呼びかけるぐらいなんだから後輩なんだろう、いかにもロリですという感じの女の子が話しかけてきた。
「ありがとう。応援してくれるなら俺もう頑張っちゃうよ!」
「ハイ!わたし一生懸命応援します!」
両手をぎゅっと握りしめ力強く答えてくれるロリ子(仮名)。
胸の薄い女は好みじゃないがこんな感じの素直そうなコは可愛いと思う。
「俺のテンションを高めるためにロリちゃんを抱きしめていい?」
「え~ダメです~。ロリちゃん三坂先輩に怒られてしまいます~。」
思いのほかノリも良いね!いや、内心ではこいつキモイとか思われてるかもしれないけど…
でもそんなことまで俺は気にしない。
てなわけで普通にロリちゃんと話していると俺や西川と同程度の外見の持ち主の多分後輩が話しかけてきた。
「やっぱり笹川先輩は三坂先輩と付き合ってるんですか?前は先輩は三上先生派だと聞いてたんですが。」
外見は俺たち同様残念だけどクラスの笑いの中心にいるような雰囲気の男だなぁ、となんとなく感じながら俺は聞き返した。
「君はどっちが好みなんだ?京子?睦美ちゃん?ロリちゃん?」
「何でわたしが入ってるんですか~?」と訴えるロリちゃんの言葉を聞き流して彼の返事を待っていると
「あ、え、あー……自分は…三上先生ですね。」と照れながら答えてくれた。
「睦美ちゃん派か!ポイントは童顔の年上か?もしくはロリ顔巨乳か?俺的には巨乳ってところが大きいな!あと睦美ちゃんはまだ誰とも付き合ったことないらしいし。」
「マジっすか!?それは知らなかったっす!あんなに可愛いんだから男だって放っておかなかっただろうに…これは俺と先生が結ばれる運命ですね。」
なんでだろう?西川とかもそうだがうちの学校の男は妄想レベルが激しいと思う。
「運命かどうかはおいといて、睦美ちゃんのどこに惚れたんだ?」
「自分は一目惚れですね!だってあんな可愛い人ほかにいないでしょう!?三坂さんくらいですよ。」
「貴族の次期当主とかはすごい美少女美女ばかりだぞ。」
「貴族は含めないですよ。そもそも住んでる世界が違いますから!あくまで現実的なところでの話です。いや、貴族を含めたとしても先生や三坂さんは貴族の美女たちに負けてませんもの!」
おーーーー意外なところに睦美ちゃん派の人がいるなぁ…そういえば最近は京子とばかり一緒にいるから睦美ちゃんにはあまり話しかけていなかったな。今日の試合が終わったら少しくらい話しかけてみるか!
俺がそんなことを考えてる間にも後輩君は睦美ちゃんの良い所をひたすら挙げ連ねて話しつづけている。
地雷を踏んだかな…近くで知り合いの後輩と話している京子とかにも後輩君の語りが聞こえているのだろう、微妙な視線でこっちを見ている。
この微妙な空気は10分後にエロ太が来るまで続いた。
会場入りし、しばらくするとエロ太の試合10分前となった。既に学生も教師も大多数が到着し応援席に移動している。
客席は満席で数万人の人がこの会場にいると考えると何かすごいことのような気がする。
そういえば言ったことなかったが、当然会場内に入れない人もいる中で俺たちが毎回席を取れているのは、俺たちが試合に出るからだ。選手のいる学校は全校応援で優先的に席が取れる。社会人は仕事もあるしそういう優先権はない。学生のときのみの特権だ。
さてさてそんな人がたくさんいる会場の中で俺は再び微妙な空気を感じている。
原因は完全にあれだ、池田先輩と俺の隣にいて手をつないでいる女だ。
京子の話によると
「あの人がわたしに付き合ってって言った回数が二桁になったの。もう流石に嫌になったから大祐のことが好きって言っちゃった。だから大祐もちゃんと上手く合わせて!ね?」
この発言のおかけで普段は、多くの男が俺を睨むはずなのに池田先輩のオーラがやばすぎて他の男は俺を見るどころじゃなくなっている。先輩のファンたちもドン引きしてるもの。
西川たちに声をかけると
「大祐、諦めろ。うちの学校で先輩を敵に回しても大丈夫なのはお前か佐々門しかいないし。俺たちはちゃんと状況を把握してるからさ、陰ながら助けられる部分は助けるから。」
「実際、先輩がストーカーっぽいのがそもそも原因だからなぁ…三坂さんの出した条件を達成できなかった以上、素直に身を引けば良いのに。」
というように西川と虎川原が言う。
まあ、確かに先輩はストーカーっぽいけど俺はそこは非難できないな。俺が京子に手を出したってのもあるけどそれ以上に、池田先輩はかなり本気だったからな。
俺も昔、本気で幼馴染みを好きになってすごく傷ついて、それでもどうしても諦められないって思ってたことがったから気持ちはわからなくもない。
幼馴染といえばあいつらは今頃どうしてるんだろう?この会場にはいないからおそらくは木星のダンジョンのほうに行ってるんだろうな…たぶん沙夜も。
今も好きってわけではないけど何となく切なくなる感じ。
「どうしたの?」
俺の頬を突きながら京子が聞いてくる。
それには答えず、違う話を持ち出した。
数分後、エロ太が会場に入ってきた。
『まもなく次の試合を開始いたします。各選手はそれぞれ1番、2番の割り当てられ結界内に進んでください。』
アナウンスに従い選手たちが結界によって2つに区切られた戦闘区域のうち自分の試合場所として決められたフィールドへ進む。
1回戦や2回戦などは2試合を同時に行い、準々決勝からは1試合ずつ会場丸ごと使い行われる。
また試合時間は準々決勝の前までは30分で準々決勝からは無制限となる。
エロ太の試合は東心峰の客席からは離れているが俺は視覚を強化して見れるし他の人もモニターで問題なく見ることが出来る。
現在会場では2つの試合が同時に行われている。
先ほどまでは気まずい空気が漂う東心峰の客席だったが、今はエロ太に声援を投げかけることに精一杯力を注いでいる。
俺の見立てでは真面目に戦えば10秒で終わる試合がいまだに続いているということからワザと長引かせているようだ。
「瞬殺するよりも接戦の方が盛り上がる。俺も女が欲しいからちょっと魅せてくるぜ。」
試合前にあいつが言ってた言葉はこういうことだったらしい。
2つの試合の選手たちはいまだ戦っている。エロ太の相手は中の下というところなので余裕で勝てる相手のはずなのに何故かあの馬鹿部下は何箇所か傷を負っている。
あいつの顔を見る限りワザとなんだろう。まったく何やってんだか。
そんなことを考えながらしばらくぼ~っとしてると京子が唐突に話し始めた。
「ねえ、少し複雑なんだけど三上先生のことはいいの?さっきすごい悲しそう顔をしてたよ。」
「あーーー京子も気づいてたか。」
試合が始まる前はほとんどの人がこっちを注目していたからな。睦美ちゃんも当然こっちを見てた。もうホントショックですという顔をしてたけど、まさか他の先生と一緒にいる睦美ちゃんを口説きに行くわけにもいかないし。
「俺の試合が終わったら話しかけに行こうと思ってたところだ。」
「それなら良いけどね。でもここ数日わたしの部屋にずっといたから今日はダメだよ。ちゃんと先生のとこに行ってあげなきゃ。」
真顔で言う京子ちゃん。
俺は睦美ちゃんの家に行ったことなんてないんだけど…
…………………
あ、そうか!?そもそも京子と関係持ったのって俺が睦美ちゃんにセクハラした日だ!あの時は下着の中に手を入れてたし、睦美ちゃんの胸にいたってはほぼ丸出し状態だったか。
あの場面を見たなら睦美ちゃんの家にお泊り位してるって思うのも当然か。
まあ、それはそれとして今日は睦美ちゃんに迫ろうと俺は決意した。
どうせうちの学校のやつが喧嘩を売ってきても対処できるし。
嫉妬の視線も気にしないようにするし。
こんな悪いことを考えていると試合は終わっていた。京子にエロ太がどうなったのか聞くと、対戦相手の猛攻に追い詰められ「負ける!?」と思った瞬間、攻撃をギリギリで回避!そしてきれいなカウンターを決めて勝ち上がったそうだ。
そんなうまく良い試合を演じ客席に戻って来たエロ太はクラスの連中に囲まれてきゃーきゃー言われている。
特別かわいいコじゃなくてもたくさんの女の子に褒めて貰えるのは気分がいいんだよな。あいつも微妙に誇らしげだし。
ふとエロ太がこっちを見てきたから俺も視線でからかいをこめつつもおめでとうと伝えておいた。エロ太は少しだけニヤリとしたあとまたクラスの連中と話し始めた。
「良いなぁ~」
いきなり京子が言ってくる。
「何が?」
「目と目で通じ合うって言うの?そんな感じがさ。」
「やめてー!気持ち悪いから。別に京子だって仲のいい女友達と視線で会話できるだろ?」
「出来なくはないけどね。でも仲の良い大祐と佐々門君を見ていると妬いちゃうかも。」
「おかしいよ。いろいろおかしいよ。京子とあいつなら躊躇うことなく京子を選ぶから。」
からかい足りない顔をしてる京子が何か言う前に立ち上がり昼ごはんを食べに行くことを提案した。
西川たちにも声をかけると一緒にいくことになった。
さすがに食堂はどこも混雑していたため食事が終わると直ぐに店を出た。
特別何かしようということもないため客席に戻り再び試合を観戦する。
そして2時間後、俺の試合が終わった。
『始まった』ではなく『終わった』だ。
もう1つの試合は当然まだ続いている中で俺は開始10秒で終わった。
対戦相手の学生はトーナメント初戦であること、注目選手の俺と当たったことで見るからに緊張していた。
たぶん松田と似たような経緯で勝ち上がってきた下級の彼は相当パニックになってたんだと思われる。
試合開始数秒後に俺が「な、なんだあれは!?」と彼の後ろを指差したら彼は普通に後ろを見てしまった。
そこを俺が斬って終わり。
実況、解説、観客が何か言う前にアナウンスが試合の終わりを告げ俺は退場した。
通常はこのあと結界の修復作用が働くためしばらくはそこの留まるのだが俺は魔力も体力も消耗してないので修復前に出てきた。
さっさと客席に戻るとエロ太と事前にこうやって戦うと伝えておいた京子以外の学生と教師はまだ呆然としていた。
睦美ちゃんの目前まで来て、京子に視線を合わせる。
京子が頷いてくれたので周囲と同じく呆然とし「あ、あの~、さ、笹川君と………」と言葉を上手く出せないでいる睦美ちゃんを抱きかかえと”ある場所”へと転移する。
一瞬で視界が変わる。
今いるのは俺の”宝具”の中にある寝室の1つだ。
ここは一番質素な部屋で15畳くらいの大きさだが内装は平凡な学生の部屋と同じようなものだ。ドアから見て奥に窓があるがカーテンが閉められていてその付近にベッドがある、マンガや小説の本棚が壁際でタンスとともに並び、部屋の中央には床に座って囲むようなテーブルがある。あ、部屋は電気がついてるので明るいぞ。
睦美ちゃんが再起動する前に自分の靴を脱ぎ、睦美ちゃんの靴を脱がす。そしてベッドまで運んで寝かせた。
ここでようやく睦美ちゃんが再起動した。手をつき上半身を起こすと
「え!?さ、笹川君ここは何?」と聞いてきた。
「ここは俺の宝具の中だよ。睦美ちゃんから勝ち上がったご褒美を貰おうと思ったんだ。」
言いながら俺もベッドに上がり、後ろから睦美ちゃんを抱きしめる。
うん。良い匂いだ。京子はほのかに甘い匂いがするんだが睦美ちゃんはまた別の匂いだ。香水とかの人工的な匂いじゃなく…………上手く言えないけど文字通り女の匂いを感じる。
「宝具持ちなの!?それとご褒美って!?ちょっと笹川君!?」
腕の中でジタバタ暴れてる睦美ちゃん。もう少し遊びたいところだけど松田の試合もあるからあまりふざけてないで言うことは言ったほうが良いな。
睦美ちゃんを抱きかかえて1回転させる。俺と向き合う状態で足を開かせ俺の膝の上に置いた。
そのままギューッと密着した。
睦美ちゃんはしばらく暴れていたが俺が無視して抱きしめていると諦めたのか力を抜いた。
大人しくなったので一旦身体を離し目を見つめる。
今度は左腕でもう少し優しく抱きしめながら右手で頭を撫でる。
「睦美ちゃんも俺を抱きしめて。」
お願いすると珍しいことに素直に抱き返してくれた。ちょっと強めに抱きしめてくれておでこを俺の肩につけている。
身体に密着する胸の感触が実にいい。しばらくそれを堪能していると
「三坂さんに怒られるよ。」
小さな声で囁かれた。
「大丈夫だよ。京子は俺と睦美ちゃんがラブラブだって知ってるからね。」
「え?な、なんで…いや、その前にラブラブじゃありません!先生はご褒美って言うから仕方なく……」
「睦美ちゃん。それは自分で無理があると思わない?ご褒美なら他の生徒にもしちゃうの?」
「う~………」
「それはそれとして京子のことだけどさ、この前の大会への所信表明みたいのをやった日の放課後に、睦美ちゃんにお仕置きしたでしょ?あれね、京子に見られてたんだよ。」
バッと顔を上げた睦美ちゃん。
数秒停止したのち真っ赤になって「えーーーーーー!?」と大きな声を上げた。
目を大きく開いて俺を見つめてくる。口がパクパクしてるのがまたなんとも可愛らしいな。
「あのときは睦美ちゃんは胸を丸出しだったから言い訳なんて出来ないでしょ?ちなみに京子と関係を持ったのはその後だよ。」
俺の言葉はたぶん聞こえてないな。まだパクパクしてるし。
松田の試合まであと30分。試合前に話しかけておきたいからここにいられるのはあと15分ほどだな。
睦美ちゃんが「や、えー!?うー…どうしよう…」とボソボソ言い始めたが完全に回復するのを待ってたら時間切れになってしまう。
「睦美ちゃん睦美ちゃん。」
唇が触れるギリギリまで顔を近づけて呼びかける。
「な、なに?」
顔を離そうとしてるけど頭を撫でてた手で押さえているから逃げられない。
「睦美ちゃんって一人暮らし?」
「うん。そうだけど…」
「そっか!じゃあ今日泊まりに行くから!」
「うん。……え?いや、ダメだよそれは。」
「そう?じゃあ今日はずっと二人でここにいようね。」
言って額と額をくっつける。くっつけて数センチしかない距離でじっと見つめる。
睦美ちゃんは身体を動かして逃げ出そうとしたり、「ダメだよ。」「三坂さんに…」「先生だし…」などいろんなことを言って誤魔化そうとしたけど、俺は至近距離でじ~~~っと見つめたまま微動だにしなかった。
さすがに俺の相手を何年間もしてるだけあってYESの返事をしない限り俺が動かないことを悟ったんだろう。
静かになった睦美ちゃんは俺とおでこをくっつけたまま視線は下のほうを向けていた。
そして小さな声で俺のお願いを了承してくれた。
「お~松田!これから試合か!?」
転移して客席に戻ってきたらちょうど松田が下へ降りようとしているところだった。
「大祐か。もうお前にはいろいろ言いたいことがあるけどそれは良いや。とりあえず試合に集中したいし。」
苦笑しながら言う松田だが、それほど緊張していないようだ。寺島がどうにかしてくれたんだろうな。
「気楽にやれよ!」
「ああ。相手は中級だからな。勝つのは無理でも精一杯がんばってみる!」
男らしい顔で宣言する松田。
隣にいる睦美ちゃんにも一声かけられた松田は、そのまま控え室へと向かった。
俺と睦美ちゃんも自分の席へと戻った。
既に開き直ることを決意した俺は周りの視線からダメージを受けることはない。
西川たちと会話してた京子の隣に戻り試合の観戦を始めた。京子も「おかえり~」といった後は空気を読んでくれたのか西川たちと会話をしていた。
最初からわかってたとおり、松田は負けた。
しかし中級相手に一歩も引かず最後まで戦う姿勢を見せた松田に東心峰以外の観客も温かい拍手を送った。
試合後、松田がこっそり泣いていてそれを寺島が慰めているのが見えたので俺や西川は声をかけずにそっと立ち去った。
こうして本日の試合が終わり解散となったわけだが俺にとってのメインイベントはこれからだった。
学生は帰宅だが教師は仕事があるとかで学園へと戻っていった。
親には大会が終わるまではちがうとこに泊まると言ってあり、着替えとか必要なものは京子の部屋にあるから睦美ちゃんの仕事が終わるまで京子の部屋で過ごした。
今から学校を出ますとの連絡が来たので俺は京子に出陣の旨を継げる。
「いってこい!」
親指をグッとあげた京子がそう告げる。
『行ってこい』なのか、『逝ってこい』なのか不明だがとにかく俺は出陣した。
待ち合わせ場所で睦美ちゃんと合流した俺は、手を繋いで睦美ちゃんの家に向かった。
このあと何があったのかは詳しくは語らない。
ただ翌日は試合がないため授業だったのだが、首元に少しだけ赤いあざのようなものが見える睦美ちゃんは時折ぽ~っとしたり、にや~っとした顔をしてることがあり生徒に注意されたらしい。
そしてもう一つ。風呂上りの下着は黒の紐っぽいやつだった。これだけは報告しておく。
唐突だが一つ大きな問題がある。
ここ最近の性欲。これは前から懸念していたように魔王化の影響だな。
俺は本来性欲が少なめの人間だったのにも関わらず、近ごろのムラムラ感はあまりにも不自然。それこそ性魔法がなかったら抑えきれないくらいだし。日に日に強くなっている。
異世界への渡り方はゲートアウトだった。つまり魂だけが異世界に行き身体はこの世界に残ったままだった。
そこから考えるに俺の魂の方が問題なんだろう。
肉体と魂は相互に影響し合う。脆弱な人の魂が魔王と化した身体に1000年以上もいれば魔王に侵食されるのは当たり前だ。
そうして火星に帰ってきて元の身体に戻った後、魔王化した魂がオリジナルの身体に影響を与えているのだろう。
とはいっても魂だけで世界に干渉できる神核レベルまで魂が変異したわけではない。
魔王の魂といえどあくまで肉体を介することで世界に存在する以上、やはり肉体の影響を受けるんだと思う。
だから今までは魔王の影響が出ていなかったが時間の経過とともにじわじわと性欲という形で影響が出始めている。
以前、BとCが魔王の力を取り戻すべきだと主張していた。
俺は魂に魔王の痕跡があるからそれを調べれば取り戻せるだろうと予測できていたが、BとCに告げることはなかった。
魔王の力を取り戻すことに興味はなかったし何よりも俺には『目標』があったから!
しかしそうも言ってられなくなりつつある。
まだ時間に余裕があるとはいえ研究は行わねばならないな。
魂の研究となると上位の研究室の設備じゃないと無理だろうが、幸いにも今大会で好成績を残せそうだから何とかなるだろう。大会後、始原の塔の研究室を使えるように申請し研究開始だ。
ま、詳細は大会終わったから改めてしっかりと考えようじゃないか!