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13話 東心峰勢、行きます!(元魔王編)


 俺はフィールドの真ん中で対戦相手の荒川 美咲と向かい合っている。


 彼女の容姿だが顔は綺麗系で肩までの髪を後ろで束ねポニーテールにしている。肌は白くツヤツヤだ。胸は鎧ではっきりとは分からないがDくらいで程よい大きさ、身長は165センチほど、で170に届かないくらいの俺と大して変わらない。しっかりと訓練しているのだろうホットパンツのようなものと金属製の膝当ての間から見える太ももはいい感じで引き締まっている。


 銀色の鎧の金属部分は必要最低限と言ったところからおそらくは機動力優先の剣士型のBMだろうと思われる。鎧をつける金も必要もない俺のラフな格好とは違って完全戦闘モードだ。


 もうすぐこの美咲ちゃんとの対戦だ。


 





 俺の試合の番になったとき、仲の良い男友達と女子からは面白がった声援を、多くの男子から罵声を浴びてきた。


 それもこれもすべては京子のせいだ。あいつが途中まで面白がってついてくるから嫉妬にかられた男からいろいろ言われたんだ。おまけに睦美ちゃんとも少し話しちゃったから尚更視線が痛かったし。


 池田先輩は応援してくれたが必死に自制してるのがわかった。


 正直、罵声を浴びせられるよりきつかったんですけど。





 そんなわけで俺の精神は切なくなっている。


 けどそんなことを言ってる状況でもないか…。


 対戦相手の美咲ちゃんは公式ではレベル3となっていたが間違いなく中級の実力だ。


 前回の試合での指揮能力、戦術眼、そして今、目の前で発する気配がそれを物語っている。


 幸い俺の実力は気づかれてないようだが戦えばすぐにばれるだろう。まだ粗削りだけどこの女の才能は本物だ。将来間違いなく上級に届く器だ。


 だからこそ地方大会でのドゥークがそうだったように一太刀合わせればバレる筈。みんなに中級の実力があることを気付かれるだろうが仕方ないな。


 俺は覚悟を決め目の前の敵に集中する。













「それでは準備はよろしいでしょうか。………試合、開始!」


 同時に美咲が凄いスピードで突っ込んできた。



 明らかに下級を超えるスピードだ!


 これは真実意外だった。俺を格下とみなし力を抑えて下級として挑んでくると思っていたのに。

 

 だからこそ俺は油断してる間にぶっ倒す気だったが、むしろ俺がヤバイ!


 美咲は射程範囲内に入ると同時に首を狙って剣を横に振るった。


 俺が慌ててそれをはじき返すと、美咲の眼が一瞬大きく開く。


 しかしすぐさま大きくバックステップすると同時に切っ先をこちらへ向けて魔法を放つ。


 中級魔法『フレイムキャノン』 目標にあたると同時に爆発する魔法だ。



「チィッ!」



 いきなりの展開に舌打ちが漏れるが体は動かし続けている。炎弾が届く前に地面にロングソードを突き刺し3つの魔法を発動させる。



 『ロックストライク』によって地面から岩が突き出る。そこに炎弾があたり爆発する。



 爆発で吹き飛んだ土石は『つむじ風』で受け流し『遮断障壁・耐火』によって熱波を防御する。



 土煙が舞う中、敵の気配は正面からする。



 魔力循環による強化、同時に魔法式による身体強化を最大にし一気に後方に飛び煙から脱出!





 前方は土煙が未だ舞っている。


 向こうに動く気配がないからこちらも剣を構えたまま様子をうかがう。






 しばらくしてお互いの姿が視認できるようになる。美咲はしっかりと構えた状態でいたが無傷の俺を見てさらに意識を集中させたようだ。


 観客の声は聞こえない。ともに下級と聞いてたはずなのにいきなりの中級レベルの爆発が起き思考がついて行かないのだろう。




「美咲ちゃんだったっけ?いきなり仕掛けてくるのは意外だった。君が中級の実力だと気付いてなかったら油断してやられてたよ。どうしてマジで来たんだ?」


 

 首につけられたマイクで拡大された声が会場に響き渡る。



「特別な理由なんてないわ。ただなんとなく全力で仕掛けようと思っただけ。でもそれで正解だった。あれを無傷で防ぐ以上あなたも下級ではないわね。」



「なるほど。勘が鋭いのは良いことだね。ホントは君が力を隠してる隙に一気に片を付けてしまおうと思っていたのに。……………………んじゃあ、まあお互いの実力を確認したところでそろそろ始めますか。美咲ちゃんは切り合いと撃ち合いならどっちが好き?」


「どちらでも」


「ならせっかく距離あるんだし撃ち合いからはじめよう」



 俺は宣言すると剣の切っ先を敵に向ける。


 剣より少し前方に小型の魔法陣が30ほど現れる。


 その中心からは太い氷柱が現れていた。


 下級魔法『アイスニードル』


 ただし先の試合で松田が使った際には一度につき1本、連続で3連射までだったが、これは1度に40本が魔力の続く限り撃ち出せる。



 美咲を見ると彼女の前にも同じだけ魔法陣が存在しその中心からは下級魔法『フレイムアロー』が確認できる。


 正面から迎え撃つつもりなのだろう。



 緊張感が高まる。


 お互いが魔法陣に魔力を流し込み氷柱が炎の矢が太く大きくなっていく。


 そしてそれが限界まで来たとき





「行けーーー!」「行きなさい!」





 両者同時に打ち出す。


 二人のちょうど中間の位置で炎と氷はぶつかり合う。


 30…60…90………360…490……………720発、と下級とはいえ凄まじい数の魔法が次々と放たれる。


 氷は炎によって蒸発させられ、炎は氷にかき消される。


 両軍がぶつかり合う中央では双方が拮抗し、溶かされた氷による水蒸気で真っ白になる。


 それでも撃ちだされる魔法は止まらない。


 



 互いに譲らず、すでに放った魔法は数千発にも及ぶ。


 いつまでも続く状況を動かすために先に動いたのは俺だ。




 新たに2つの魔法陣を作り出すと威力は中級にしてはそれほどでもないがスピード、追尾性能に優れる『風玉』を発動させる。


 そしてアイスニードルを使いつつ、中央を迂回させ美咲の左右から挟撃するように攻撃を放った。




 これに対し美咲は完全に防御が遅れる。


 正面は水蒸気で視界が妨げられているなか、いきなり左右から魔法が飛んでくる。


 まさかこの撃ち合いの中でさらに別の魔法を繰り出せるとは思っていなかったのだろう。



 左右から迫りくる魔法が風玉だとわかると一瞬で状況を判断。


 ギリギリまで炎で氷を抑え風玉が近づいた瞬間、炎を止め片側の風玉を魔力を込めた斬撃でかき消す。


 迫りくる数百の氷柱をもう片方の風玉にワザとぶつかり吹っ飛ばされることで回避した。そして即座に体勢を立て直し、足に魔力を集めスピードを上げている。



 彼女のスピードを考えると氷柱では避けられると判断した俺は30の魔法陣を15ずつの2つに分け融合。イガ状に棘が突き出た1メートルほどの氷弾を2つ作る。


 それを風玉に包み込み、魔法陣が壊れるのと同時にこれを放つ。


 そしてそのまま相手の動きを見る。


 が、美咲はこれをフレイムキャノンを2発撃つことで吹き飛ばした。かなりの魔力を使うはずだが魔力消費を考えている場合じゃなかったのだろう。




 遠距離戦では不利と考えそのスピードを生かし突っ込んでくる。


 最初よりも数倍速い。魔法の選択を捨て直接迎え撃つ。


 そして始まる剣戟。




 払い、降りおろし、突き、とお互いの剣が交差し合う。


 金属同士がぶつかり合い甲高い音を響かせる。


 両者は一瞬たりとも立ち止まらず剣を交えあう。





 しばらくして拮抗した状況を変えるために今後は美咲から動いた。


 美咲が筋力を増加させパワーを高めたのがわかる。



「ヤバイ。」



 そうつぶやき一旦後退しようとする俺だが美咲がそれを許さない。後退すると同時に魔法を使う作戦は美咲も愛用するので読まれてる。



 徐々に押され始める俺。


 スピードもパワーもそれほどの差はないが武器の性能差が大きかった。


 俺が使用するのは『ロングソード』。改造により魔法式の内臓量は上昇しているが剣としての能力は下級っていうか初級のものだ。


 一方で美咲が使うのは片手用の長剣、『ゲイルペイン』中級用の剣だ。値段は10倍以上違う。




 俺の魔力と魔法式によって強化してるとはいえこれ以上正面からぶつかり合えば壊れる可能性がある。 

 正直いつひびが入ってもおかしくない状態だ。


 よってさきほどから真正面から撃ち合うのではなく回避するか、受け流すことで攻撃を防いでいる。


 美咲もそれをわかっているのだろう一切手を休めず責め立てる。


 彼女のスピードは間違いなく上級に届くレベルだ。これは完全に誤算だった。


 このレベルの戦いになると魔法式に魔力を注ぎ魔法を使うのと、剣を振るうのでは断然剣を振る方が早い。なので松田のときのように魔法による牽制もできない。


 またバトルロイヤル時に使った詠唱による自力型の魔法『サンダーボルト』は俺が使ったことに気付いているのだろう。口元を見て詠唱に対する注意も怠っていない。





 このままじゃジリ貧だ。


 手札云々言ってられない。


 そう思い“魔法を発動させる”。




 技術はあるが魔力量の関係でなかなか使えない詠唱破棄だが属性エンチャントは自分で魔力量を調整できるので使用可能だ!強力なものほど魔力は多く、弱くてもいいなら消費魔力量は少ない。


 ただし詠唱によるエンチャント中は常に魔力が減り続けるというリスクもあるから油断は禁物だけどね。

 





 雷属性を自分の体にかけスピード、反射を上昇させる。


 俺が自分に魔法をかける際、敵に対する注意が一瞬弱まった隙を見逃さず美咲は剣を振り下ろす。


 防御も回避も間に合わない。




 やった!と美咲が思ったであろう瞬間に 



 バチッ!



 という音を響かせ俺は彼女の視界から消える。



 美咲が地面にぶつかる自分の剣を見て驚愕しているのがわかる。


 しかし俺は彼女が動き始めるのを待たず後ろからその首に剣を添えた。






 俺の姿を横目で確認し、今は抑えられているものの体から弱く迸る雷光を見たことで何をしたのか悟ったのだろう。



「まさか詠唱破棄まで使えるなんて…」



 呆然とつぶやいた。


 そしてそのまま大きく息を吸い込み自分を落ち着かせると



「ふぅー………降参します」



 そう告げた。








「試合終了です! 荒川選手の降参により、勝者は笹川選手となります!」


 マイクで試合終了が伝えられると同時に大きな歓声が聞こえる。


 今日行われた試合の中では一番派手な試合だったろうからな。試合中は集中してて聞こえていなかった歓声が耳に痛いくらい響き渡る。


 美咲ちゃん目当てで試合を見ていた人たちも興奮したように声を上げている。






 結界が作動し俺たちの傷や会場が修復されていく。修復作業が終わるまでは外に出られないからもう少しここにいなきゃ行けない。


 東心峰の連中がどうしているか気になり、観客席の方を見ると俺を知ってる人は皆、驚きと興奮を顔に浮かべているように見える。今は興奮が強いけど、あっちに行ったらいろいろ問い詰められるんだろうなぁ…とちょっとテンションが下がる。


 でも手加減なんてしてたら絶対に勝てない相手だったし仕方ないか。





「いくつか聞きたいことがるんだけど良いかな?」



 再生が済んだのであろう、試合前と同じ状態になった美咲ちゃんが話しかけてくる。内密な話なのかこっちを気遣ってか観客席には聞こえないようになっていた。



「魔法技術関連のことは答えないけどそれ以外なら大丈夫。」


「それをメインで聞きたかったんだけど……仕方ないわね。じゃあ、どうしてそんな剣を使っているの?」



 俺の腰元にある剣を指示しながら言う。



「それ、ただのロングソードでしょう?あなたならもっと良いのが手に入るんじゃないないの?もしもっと良い武器ならば詠唱破棄なんて使わなくても良かったでしょうに。」


「確かに魔法式なりマジックアイテムなり用意して学生商店で売れば資金を用意できただろう。それでよい武器を買えただろうけど、でも俺は公式には下級扱いなんだよ。だから中級の商品は買い取ってもらえないんだよな。不正扱いされかねないし。訓練優先で昇格試験を受ける余裕はなかったし。」



 なんか呆れたような顔をしてこっちを見てくる美咲ちゃん。



「美咲ちゃんも公式には下級だけどどうして?俺は今言った通り訓練優先なのが理由だけど。」と聞いたところ。



「家庭の事情よ。親がうるさくてね。これ以上は秘密。」


「えー!?良いじゃん折角なんだし――っと修復が終わったか。そろそろ戻らなきゃね。次があったら教えてよ。」


「次があればね。」と可愛らしく微笑みながら言う。



 割り当てられた選手控室は正反対の方向にあるので、もう一度挨拶をし別々の方向へ歩き出す。



 うん、なんだかんだ言って楽しい試合だった。


 惜しむらくは、さりげなく胸を触ったりセクハラができなかったことだ。もうちっと余裕のある試合だとできたのになぁ…


 そんなアホなことを考え俺は控室に戻って行った。



武器についてですが自分のレベルより低いものを使う人はなかなかいませんが自分以上のレベルの武器を使う人は結構います。金とかコネで手に入るんで。


鎧の描写はあまりしてませんが下級では簡単な胸当て、肘と膝当て、ヘルメットくらいでつけない人も珍しくないです。

東心峰勢では池田、華柳が胸当てなどをつけてます。松田はちょっと強化されたローブっぽいものを着て、大祐は防具はつけてません。自分へのエンチャントの際に邪魔になることがあるので。


魔法についての補足です。アイスニードルを松田が1度に1本で3連射までだったのに対し大祐は30発を魔力の続く限りとなってますが、中級皆ができるわけじゃありません。大祐やそれに対抗した美咲ちゃんが優秀です。


魔法についての説明はまた機会があればしたいと思います。







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