12話 東心峰勢、行きます!(松田と華柳編)
いよいよ始まります。我らが東心峰学園の4人の試合であります。
松田君は結局まっすぐに選手控室に行ったらしくこっちには戻ってこなかった。既に対戦相手とともにフィールドにいるがここから見る限り落ち着いてるようだ。どうやら寺島が何とかしてくれたらしい。
てか寺島の空気がおかしい。顔は赤いし、夢見心地なように見えポワ~っとした感じだ。
もしかして………進展あったな!?
戻ってきた寺島に話しかけに行こうとしたら隣に座る三坂、改め京子が服をがっつりつかんで離さなかった。本人的には男避けでも周りにはそう映らなかったらしく、居心地が悪いです。
周りもそうだけど一番きついのは校長の近くに座る池田先輩からの視線だ。もう眼圧で殺人が出来そうなレベルで見てくる。それに気づいてるのであろう京子は俺の体をベタベタ触ってくる。
あとで先輩に弁解しに行かないといけないかも。
幸いなのは西川やマイクがレストランから戻っておらずこの場にいないことだ。お楽しみの昼食を京子にすっぽかされたうえ俺んとこにいるとなったらどんな目で見られるかわかったもんじゃないし。
「それでは間もなく時間となります。両選手は開始位置についてください。」
アナウンスが響き渡り両者が20メートルほど離れた位置で向き合う。
続いて結界が作動する。言ってなかったかもしれないが無色っていうか透明なガラスのようなものだと思えばよい。見た目にはそれほど問題はない。
ついでだけど1対1の場合は選手の首にマイクがつけられる。会話が観客にもわかるようにするための配慮だ。もちろん聞かれたくないことは遮断できる。それらは首のマイクが選手の思考から判断し勝手に調整してくれる。
徐々に静まっていく会場。
開始時刻まであと1分を切った。もうすぐだ。
「準備は良いでしょうか、…………試合、開始!」
開始の合図と同時に広がる歓声。
俺たちの席ではみんなが松田に声援を送っている。
ちょうど試合フィールドを挟んで対角線上には対戦相手の 奥平 斗夢 の学校であろう応援が声援を送っていた。
「行けー松田―ぶっ殺せ~「ガンバレー!」「松田君落ち着いて戦うんだぞー」「そこだ魔法をぶち込め!」「いけー」
クラスに関係なくみんなが声援を送っている。池田先輩や他の人も京子のことは一時置いて、松田に対し声を張り上げている。
ただ一部ではまだこっちを睨んでる人がいるが京子も試合に集中しているし、俺も気にせず松田に声援を送り続けた。
松田の対戦相手はレベル1ということもあり松田の余裕勝ちと思われたが意外と接戦となっている。
松田は後衛タイプだが相手は前衛で剣を振るタイプだ。身体能力では相手の方が高い。おまけに松田はここまでの試合で一度もまともに戦っていない。
それに対して相手は、先日のバトルロイヤルは逃げっぱなしだったがおそらくは地方大会ではしっかり戦っていたのだろう、松田よりも戦い慣れしていた。
距離を取ろうとする松田に対してしっかりと攻めかかり離れないようにしていた。松田はこの距離では強い魔法を使えば自分にも影響があるので使えない。
しかし松田も負けてるわけではなく爆発するような魔法は避け、下級魔法『アイスニードル』で攻撃したり初級魔法『つむじ風』で土埃を起こすことで牽制したり、またはかわしきれない攻撃は下級魔法簡易障壁『壁』で防いでいた。
敵の奥平は松田の攻撃を避けることで体勢が崩れた状態での斬撃だから『壁』を壊すことができない。
こうして戦いは拮抗していた。
「ねぇ、どうなると思う?」 と京子が聞いてきた。
「松田の魔力か相手の体力か、先になくなった方の負けだな。」
「そうだよね。相手の人は身体強化の魔法しか使えないみたいだし。」
奥平はさっきから切りかかるだけで攻撃魔法を一切使っていない。レベルも併せて考えると使わないのではなく使えないのだろう。
二人とも基礎能力が高くないのでこの攻防も長くは続かないだろう。
その予想通り3分後には二人ともバテバテになっていた。
「「「「「「「「ガンバレー」」」」」」」」「今がチャンスだー」「頑張れ!」「行けー」
みんなは必死に応援しているが二人はぜーぜーと荒い息を吐き動けないでいる。
それを見つめる寺島はもう泣きそうだ。それでも「頑張って」と囁いてるのがわかる。
本当にベタ惚れなんだなぁ。いつからなんだろ?こんな場違いなことを考える間も両者に動きはない。
だが体力と魔力では一般的に体力の方が回復は早い。このままでは負けてしまうだろう。みんなもそれがわかってるのか徐々に負けたかなっていう感じが出てきた。
お、今頃になって西川たちが下の階段から観客席へ上がってきた。
ちょうど良いタイミングと思い京子に断ってから西川たちのもとに行く。
「西川!」
「うぉ!大祐か!?いきなりびっくりさせんなよ」
「それより試合見ろ。松田がやばい。」
「やっぱりそうなのか!?」
「そこでだ。一緒に応援するぞ。」
そう告げ声援の内容を西川に伝える。にやりと笑って親指を立てる西川。
「よし、前へ行くぞ!」
「おう!」
「まって俺もやる!」
マイクもついてきて3人で一番前へと行く。
到着っと!ここはちょうど校長たちが座っている位置だ。
「おい、お前ら席に…………」
いきなりあらわれた俺たちを池田先輩が注意しようとするがそれより先に俺たちは叫ぶ
「「「せーのッっっ!まっっっつだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」
肩を掴もうと近寄ってきた池田先輩が耳を抑えた。かなりの大音量だからな。
当然松田もこっちに気付いたようだ。
対戦相手の奥平もこっちを見てる。
観客席も何事かと静かになった。
「「「寺島が泣いてるぞーーー!!!出来たてほやほやの彼女を泣かせるんじゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」
「ちょっとあんたらー!」
後ろで寺島が真っ赤になって怒鳴ってきた。無視無視。
「「「できたてほやほやの彼女を泣かすんじゃねぇ!ガンバレコノヤローーーー!!!!」」」
「ちょーーーーっと。やめてーーーーー」叫びながら寺島がこっちに来ようとするが他の女の子が抑えてくれている。グッジョブ!
他の人たちも状況がわかったのか全然知らない人たちも
「彼女泣かせんなー!」「根性見せろー!」「良いとこ見せてやれーーーー」「裏切り者がー死ねリア充―」「寺島のために頑張れやー」
口々に叫び始めた。一部おかしい声援もあったが会場は学校関係者以外の人たちも松田を応援し始めた!
「よし寺島!こっち来い。お前もここで応援しろ。」
「む、無理だよこんな状況で。恥ずかしすぎる。てか何で付き合いのこと知ってんのさ。ついさっきのことだよ!?」
「西川、マイク行くぞ」
寺島の言葉は無視しそれだけを告げた俺は彼女の元へ向かった。二人も俺が何を考えたかわかったらしく黙ってついてきた。よく見ると池田先輩もついてきた。
そしてそのまま
「キャーちょっと下ろして!」真っ赤になった寺島が俺たちに運ばれている。
池田先輩も一緒になって運んでくれた。ノリノリだ!
周りの人も俺たちが運んでる人が寺島だと分かったのかこっちにも注目している。
「到着っと。ほらお前が応援してやれ!」
「うぅ~恥ずかしすぎる…先輩助けてください」
「松田のためだよ!応援してあげよう。」
池田先輩にも言われた寺島は「うぅ~」とうなだれた後、「あとで覚えておきなさいよ!」と睨んできた。
寺島もそれなりにノリのいい女だからな。
覚悟を決めたのか大きく息を吸い込み
「負けんな松田ーーーーー!!負けたら別れるぞーーーーーーー!!」
この後のことは推して知るべし。会場を味方にし、数十分前にできたばかりの彼女の声援を受け奮起した松田は奥平に打ち勝った。
みんなはこれを愛の力だ~とからかっていたが実際は精神の高揚で魔力が高まったんだろう。魔力は質、量、回復どれも精神状態が大きく左右するからだ。
先輩を除いた前で叫んだ三人は松田につかまる前に上に避難した。校長を始め先生方に「とりなしお願いします」と言ったら笑顔で引き受けてくれたからしばらくは先生たちと話し込むだろう。
いろんな人に話しかけられながら、上方の席に向かった。
どうやらみんなの頭からは俺と京子とのことは抜け落ちたようだ!ほっとしたぜ。
京子と言えばあいつは~と思い見てみるとレストランに行ってた女友達と話してる。放っておいて大丈夫そうだな。
そしてクラスメイトが固まってる場所へ到着。
おまえらよくやった!と祝福の言葉を投げかけられる。
いや、俺たちが戦ったわけではないんだけどね。
そんな感じで興奮した友達と話している。あ、マイクはイケメン、ギャル混合グループの元へ行ったけどね、そこも盛り上がっているようだ。
次の試合まであと10分ほどだ。
松田は赤い顔をして客席に上がって俺たちを探したが池田先輩につかまりそのまま先生方の元へ連行された。先ほどからつかまってネタにされている寺島と一緒に試合とカップル成立の祝福をされている。
それを見ながら西川が
「あ~ついに松田と寺島が付き合うことになったか。」
「なんだよ。お前実は寺島狙いだったのか?」
「違うよ。ボクチンは三坂さん狙いだよ。そうじゃなく松田に彼女ってのが――――」
「あーー三坂さんと言えば大祐の野郎が―――」
近くに座ってる虎川原が急に話に割り込んできた。マズイ!
「ちょっと待て虎川原!それは」
あわてて虎川原の口を抑えようとする俺を押しのけて西川が尋ねた。
めんどくさいことになるのがわかりきってるので逃げようとしたときさらなる面倒がやってきた!
後ろに三坂 京子がいた。そして当たり前の様に隣に座りこむ。
「お疲れさま~。凄いことするね。面白かったよ!」
最高にかわいらしい顔で言う三坂さん。完全に俺をからかいに来たのがわかる。周りの視線がすごいもの。
「ちょっと松田と話してくる」と、立ち上がって逃げようとする俺の手を摑まえて「まだ先生と話してるから邪魔しちゃだめだよ。」と強引に座らせる。
そしてそのまま手を握った状態で話しかけてくる。
西川たちの視線がヤバイ。これ以上ひどいことになる前に手を打たないと!
「あのね三坂さん」
「京子です。」
「それよりね、三坂さん。どうして君は―――「京子です。」―京子さ「京子です。」………う~~京子。」
「はい。なんですか?」
「京子とは本日が初めて会話した日ですよね。」
「そうだね。」
「少し変だと思わないか?」
「何が?」
「こうやって一緒にいるのが。」
「友情に時間は関係ないと思うの。」
「本音は?」
「大祐といると私への視線が減る。」
そうですね。その分俺が睨まれてますもんね。
ただ救いなのは京子とは反対にいる西川や虎川原は会話を聞いているので俺が被害者なのをわかってくれたっぽい。それでも多少嫉妬の視線はむけられてるけど。
「西川、この人にちょっと注意してやって。」
「え?俺が?」急に話を振られた西川がテンパっている。その隙を逃さず京子は先手を打った。
「そういえばさっき西川君も前で応援してたよね。ああやって友達を応援できるのって格好いいよね!」
これまた憎たらしいくらいに可愛い笑顔で話しかける。
「え、あ、や、あーーーそんなこともないというか――」
西川はやられた。この様子だと虎川原に助けを求めても無駄だろう。
京子の友達に助けてもらおうと女子たちの方へ眼を向けるも、俺が見た瞬間一斉に視線をそらされた。
「無駄だよ~私は男避けが欲しい。あのコたちは池田先輩とかのファンだから私が大祐といてくれた方がありがたいの。目的が一致してるから助けてくれないよ~」
……………ひどい…………
落ち込む俺に虎川原が声をかけてくれた。
「お前も大変だな。さっきはなんでお前にと思ったけど事情は分かった、お前は睦美ちゃん派だし三坂さん的にも安心して男避けに使えるもんな。俺はお前の味方だ。」
なんていい奴なんだ。と感動浸る俺の前で京子に積極的に話しかける。便乗して西川もだが。
…うん。良い奴だよ。決して俺をダシにしたわけじゃないと信じてる。
それから華柳先輩の試合が始まるまで西川と虎川原、他に数名いつも一緒にいるやつが京子と話していた。
俺は余計なことにならないように黙っていたよ。この時もずっと手は繋がれたまま(周りからは見えないようにしてたけど)だった。
もしかして睦美ちゃんも今の俺のような気分だったのかな。
もう少し人の気持ちを思いやれるようになろうと決心したところで華柳先輩がフィールドに登場した。
対戦相手は中級BMであるドゥーク・キサント。正直結果は見えている。
応援はファンの女子と仲のいい友達が頑張ってるが他の連中は結果が見えているのだろう。
松田のときほどの声援はない。
俺も大人しくしていた。
結果。
ドゥークは空気の読める男だった。
華柳先輩を応援している人がたくさんいるのがわかったのだろう。瞬殺はせずにある程度手を抜いたうえで接近戦を行った。
そしてそこそこの接戦を演じた上で華柳先輩を倒した。ドゥークの実力を知らない今日初めて来た人は良い試合だと感じただろう!
先輩の名誉は守られた。
華柳先輩もそれを屈辱と取るタイプではないらしくむしろほっとしていた。
観客席に戻った先輩は先生たちに善戦をたたえられファンの女の子たちと仲良く話し始めた。
あ、負けたからか京子に対しては特にアプローチはありませんでした。
さて、次は1試合挟んで俺の番です。
今大会最初の難関。
戦う相手は公式レベル3 荒川 美咲。
集団戦で指揮の上手な俺の1つ上の学年。
イーザン・ポッター学園(イーザン・ポッターは創立者の名前)の生徒会長。
俺と同じく実力は“中級”の相手だ!