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大きな猫  作者: 篠義
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移動がクルマだったので、本社まで爆睡させてもらったのだが、その後は大変だった。いきなり、本社ビルへ連れ込まれたと思ったら、俺の職場と同じような機械が並ぶ部屋へ放り込まれて、帳表のチェックを申し渡された。


「おかしい思うんは、付箋つけといてな。それから、こっちは、日々の流れ。こっちも、頼むわな。」


 沢野は、言葉遣いは丁寧なのだが、本当にえげつないおっさんで、半年前の中部の資料のチェックをやらされる羽目になった。一店舗分だけだと思っていたら、後から後から書類が運び込まれてきて、どう考えても中部全域ちゃうんかい? という量になった。


・・・・これが研修?・・・・・


 どう見ても、鑑査というものじゃないか、と、思いつつ、とにかく片付けることにした。半年分で、十数店舗となると、帳表のチェックなんて紙でするもんじゃない。置いてある端末を立ち上げて、それで、ざーっとチェックして、おかしいものには、その帳表に付箋を貼る。何店舗かやって、ちょっと首を傾げた。どう考えても、余計なモノが多すぎる。


・・・・・交際費とかの比率おかしいんちゃうんか?・・・・・


 例えば、陳列する景品用の商品でも、高価なものが、毎月購入されているの。あれは、見せるもので交換する客はいない。つまり、半年とか一年くらいは、同じモノでいいわけで、新鮮味がなくなったら、他の店舗と交換したりする使い回しするものなのだ。 


「付箋が足りんような気がするわ。」


 ふう、と、息を吐いて、横を見たら、弁当とペットボトルが置かれている。いつのまにか、届けられたらしい。腹が減ったから、それを掻き込みつつ、ちょっと考える。つまり、経費が、これだけ使われているとしたら、資金運用のほうも、とんでもないのでは・・・・というのが、簡単に予想がつく。それらを考えて、やれやれと肩を落とした。沢野がさせたかった仕事は、全店舗管理だったわけだ。




 そろそろ帰ろうか、と、呼びに来た沢野に、本日、付けたおした付箋を見せた。


「どう考えても、おかしいやろ? 本社って、こんな甘アマなことやってんのか? 」


「ん? 」


「計算すんのも面倒なくらい、使い込みしてるし、その分、資金もようさん回してやってるやんか。これは、なんじゃ? 」


「やっぱり、そうやった? いやあーさすが、みっちゃんやわぁー、半日で、もうわかったんかいな。うちの子は、優秀やそう。」


 ニコニコと沢野は、笑ったフリをする。騙されてはいけない。このおっさん、演技は役者並だ。背後にいる男に、「ほれ、うちの子が証拠をみつけてくれましたで? 」、と、笑っている。


「説明してくれ。どこが、おかしい? 」


 その男が前に出てきて、怒鳴りそうな大声で、俺を睨んだ。そら、怒りたいやろう。いきなり、やってきたヤツに、自分の職場を荒らされたら、誰かって、ええ顔はできん。


 付箋を付けたところを、取り出して、そこから説明した。とりあえず、一店舗についてだが、それが、他も同様なのは、付箋を見ればわかる。


「・・・・つまり、この数店については、悪質通り越して、私有物化させとると言うことです。それで、何がどうしてんのか知らんけど、そこへ、金も流れてる。儲かってる店舗やのに、収支トントンって、どういうことですかね? 」


 わかりやすいところを取り出したから、相手も、ちょっと顔色が悪くなってきた。どこまで、喋っていいのか、よくわからないが、そのうち、沢野が止めるだろうと、とりあえず、説明することはした。


「どうですやろな? うちの子は、予備知識なしで、連れてきたさかい、冷静な判断をしてくれてるはずですわ。」


「・・・いや・・・・そこまでとは・・・・・」


「同族会社やったら、身内だけやさかい、かましません。せやけど、うちと合併して、利益を、こんな形で食われるのは、困りますんや。社長。」


 沢野の言葉に、げっっ、と、俺は顔を上げた。自分とこの社長の顔も知らないことが、モロバレした。


「ええんや、ええんや、みっちゃん。おまえ、本社へ来たの、初めてやもんな。社長の顔を知らんで、おかしいことあらへん。」


「いや、えーっと。・・・・・不躾な態度ですんません。俺、関西から出たことあらへんもんで。」


「こちらこそ、こんな若いとは思ってなくて、失礼しました。」


 うっかりしていたが、いつも、東川が、本社へ出向いているので、そっちが、統括だと思い込んでいた、と、社長も言う。そら、もっともです、と、俺も頷く。


「難しい話は、わたしらだけでよろしいやろう。・・・・みっちゃん、下に堀内が待ってるから、もう帰り。」


 たぶん、このおっさん、社長を、この証拠で締め上げるつもりだ。だから、俺を外す。俺も、沢野のおっさんのネチネチ攻撃なんか聞きたくないから、挨拶して、さっさと廊下へ出た。エレベーターで、一階に降りると、そこには、堀内が待っていた。


「ごくろーさん、うまいこといったか? 」


「俺は知らん。言われたことはやってきた。・・・・帰れって、沢野のおっさんが言うとったから、駅まで送ってくれへんか? 」


 一週間だというから、結構、大きなカバンを下げている。一日で済むなら、大袈裟に言うな、と、内心で、沢野にツッコミをいれる。


「はあ? 何言うてんのや? ・・・・今日は、会社から帰ってもええっちゅーただけやろ? あほ言うてんと、メシいくぞ。」


「もう、仕事は終わったと思うんやが?  」


「はははは・・・・あれ、中部半分くらいや。後半分と、東海も残ってる。ついでに、わしのほうの仕事もしといてくれ。」


 肩にかけていたカバンを堀内が取り上げて、背中を押される。逃げないように、肩まで抱いてくるのが、とてもうざい。


「何がええ? 」


「マクドかうどん。」


「・・・・・もうええ・・・・おまえに聞いたわしがあほやった。」


 ほれ、行くで、と、そのまま本社の玄関を通り抜けたが、背後からの視線には気付かなかった。


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