表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大きな猫  作者: 篠義
3/18

3

仕事帰りに、本屋に立ち寄って新刊を買った。シリーズのミステリーなんてものは、トリックが弱くても、そのキャラクターが、おもしろければ読めるので、なんとなく続けて買っている。すっかりと、日が暮れるのも早くなって、八時なんかだと、真っ暗だ。新月だったのか、月がないし、うっすらと寒い。そろそろ、コートを着ないといけないかもしれない。



 家に帰って、自分の部屋に入ったら、ちゃんとクローゼットに、コートがかかっていた。たぶん、俺の旦那が気付いて出してくれたんだろう。


「水都、先、風呂入り。それから、明日からコート着ていきや。」


 台所から叫ばれていることで、やっぱり、と、頬が歪んだ。俺が、どうこう考える前に、俺の旦那のほうが動いている。よくできた旦那なので、そういうことは手が早い。


 食事も、温かいものが並んでいる。だが、それほど盛大に熱いものではない。なんせ、俺は猫舌で、熱いものは食べられない。


「湯豆腐とちゃうんか? 」


「おまえ、湯豆腐だけにしたら、栄養失調になるから、豚肉と菊菜だけ追加しといた。」


「これ、水炊きちゃうけ? 」


「どあほ、水炊きやったら、白菜が入ってる。これは、湯豆腐。」


「ようわからん理屈やわ。」


「なんでもええから食べ。豆腐は、そこに順番に冷やしてあるやつな。」


 俺の前には、取り皿が何個か並んでいて、それに、豆腐が、一個ずつ入っている。俺が着替えている間に、準備してくれたらしい。よう、こんだけ手間かけるなーと呆れるのだが、旦那に言わせると、十年もやると癖になって、面倒ではないらしい。


 適当に、冷やされた湯豆腐を食べながら、のんびりとテレビを眺める。これといって会話することもないから、ふたりして、ぼおーっとメシを食う。酒飲みではないから、小一時間もかからず、メシを食い終えると、鍋はコンロに乗せて、後は、さっさと洗い物をする。これは、俺の担当だ。それが終わったら、ようやく寛ぎタイムということになる。寒くなると居間のこたつで食べるから、そこを台拭きで、さっと拭いて、お茶を置いた。


 スパーァーと、タバコの煙を吐き出して、ぎゅっと揉み消した。どちらも、テレビはBGM代わりにしているだけだから、画面は、ほとんど見ていない。


「なあ、花月。」


「んーーー? 」


「もよおした。」


「はあ、さよか。」


 ほな、やりまひょか、と、寝転んでいる花月が、手をひょろひょろと振る。起き上がろうとした花月を、こたつから、ちょっと引きずり出して、俺が跨ぐ。


「およ? こらまた珍しい。」


「たまに、ご奉仕させてもらう。」


「ちょ、待て。先に、ゴムとか取ってこんと。」


「用意した。」


「・・・・・なんかあったんか?・・・・・」


 まあ、こういうことは珍しいので、旦那も、なとなく気付いたらしい。怒鳴られたら誰だって気分は悪い。報復するにしたって、すぐにではないし、俺が直接やるわけではない。怒鳴られるのも給料の内だが、たまに、ムカつくやつもある。そういう時は、これが、ストレス発散させるのが、手っ取り早い。


「ストレス発散。・・・・・めちゃめちゃにして・・・・花月。」


「うわっ、寒っっ。おまえ、台詞下手すぎて、凍るからやめ。」


「サービスしたったのに。まあ、ええわ。とりあえず、動くなよ。動いたら、縛る。」


「なんじゃ、それはっっ。どんなプレー、ご所望じゃっっ。」


「襲うネコプレー。」


「あるかぁーーーっっ、そんなんっっ。」


「わかった。先に縛る。」


「いや、縛るな。もう、ツッコミせぇーへんから、縛らんでくれ。」


 お互い、寝間着代わりのスウェットだから、脱がせるのは楽なものだ。煌々と明かりのついた居間で、ごろりと転がった旦那を脱がしにかかるのは、それなりに興奮する。


「おい、こっちにケツ、向けてんか? 嫁。」


 旦那のほうも、ノッてきた。こちらも、ゴムを着けようとして、ふと、そのキズに目が止まった。あまり、旦那の、そこいら辺りをしげしげと眺める機会というのは多くない。普段なら、旦那が、こっちの身体を、さんざんぱら弄り倒しているからだ。


・・・・・え?・・・・・・


 多くはなくても、何度も見ている。だが、そこに、そんなキズは、見た記憶がない。ついでに、そのキズ、それほど浅いものではなさそうだった。もうちょっと、よく見ようとしたら、背後からの刺激で、飛び跳ねさせられた。


「水都さん、ぼちぼち、たのんまっす。」


「・・・・あっあほ・・・・ほんなら、動かす・・なや・・・・・」


「奉仕すんねんやろ? ほれ。」


「・・・ん・・・・やめや・・・・」


「はい、ほんなら、襲いネコプレー終了。」


 ころんと、横に転がされて、旦那が上から覗きこむ。とても楽しそうに笑っていて、かなり余裕のあるのが、ムカつくところだ。こっちは、まだ、弄られているから、満足に睨み返せもしない。


「なかなかエロかった。」


「・・・うっさ・・・い・・・・んんっ・・・・」


「ほな、本番まいりましょうか? 」


「・・・はよ・・こいや・・・ぼけ・・・」


 その時は、そちらに意識が向いていて、肝心なことを聞きそびれた。というか、完全に、忘れていた。平日は、あまり本気でやるとマズイので、大概は、一度か二度で終わる。たぶん、二度ではなかったと思うが、途中から、記憶がかなり怪しい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ