63話
富士山ダンジョン攻略から、一ヶ月が経過した。
世界は相変わらず大騒ぎだった。
ダンジョンマスターの存在。平行世界。——そして、遊戯神アルス。
これまで陰謀論として扱われていた話題が、一気に現実味を帯びてしまったのだから当然だろう。
テレビもネットニュースも、毎日その話ばかりだ。おかげで、アリサ達が異世界人である話は、なんやかんや有耶無耶になった⋯⋯というか、あんまり大きな話題にはならなかった。それどころじゃない、って事だ。
特に大きかったのは、ダンジョンマスター達の存在である。
彼らは加害者だ。だが同時に、騙され利用された被害者でもあった。
各国は対応に追われ、国際会議が開かれ、法律の整備がどうとか、賠償がどうとか、そんな話が延々と続いているらしい。
らしい、というのは——。
「リンネ、見て見て! 私の切り抜き動画、再生数すごいことになってる!」
「おー、良かったね」
「反応薄くない!?」
私自身は、そんなニュースをあまり見ていないからだ。今は我が家のリビング。
セリナはソファの上でゴロゴロ転がりながらスマホを見ている。アリサは窓際で剣の手入れ。サーシャはお茶を淹れてくれていた。
いつも通り。
本当に、いつも通りだ。
「はい、リンネさん」
「ありがとう、サーシャ」
温かい紅茶を受け取りながら、窓の外を見る。
ダンジョンが見えた。その内部には、今もモンスターが存在している。
なお、富士山ダンジョンは、ダンジョンマスターの死亡により消滅した。避難命令が出ていた地域には、かつてそこを故郷とした人々がまた住み始めたらしい。
アルスは消えていない。
ダンジョンも消えていない。
モンスターも消えていない。
何も終わっていない。それなのに——不思議と絶望感は無かった。
「どうしたの?」
アリサがこちらを見る。私は少しだけ考えてから答えた。
「いや、なんかさ」
「うん」
「結局、何も解決してないなって」
遊戯神アルス、平行世界、ダンジョンマスター、ダンジョンの本当の目的。
その全てにおいて、アルス自身が全部話したとは到底思えない。
きっと、まだ何か隠している。——けれど。
「まぁ、別にいいんじゃない?」
セリナがあっけらかんと言った。
「いいの?」
「だってリンネ」
セリナは笑う。
「私たち、元々そういう感じだったじゃん」
「あー⋯⋯」
言われてみればそうだった。
異世界でも、魔王がいる。だから倒す。
困ってる人がいる。だから助ける。その繰り返しだった。世界の真理だとか、神の思惑だとか、そんなものを気にして戦ったことは、一度も無い。
「確かに」
「でしょ?」
セリナは満足そうに頷いた。
「リンネさん」
サーシャが微笑む。
「私たちは、どこまでも一緒ですよ」
「そうね」
アリサも立ち上がる。
「神だろうが魔王だろうが、全部まとめてぶっ飛ばしてあげるわ」
「アリサ様⋯⋯頼もしすぎる⋯⋯」
本当に私は良い仲間に恵まれたと思う。
異世界で出会った三人。帰還してもなお、こうして隣に居てくれる三人。
その事実だけで、私は十分幸せだった。
すると、スマホが震えた。WIOからの通知だ。
「お?」
「仕事?」
アリサが聞く。私は内容を確認し——少し笑った。
「うん」
「何の依頼?」
「北海道」
「遠いなぁ」
「新しいダンジョンらしい」
その言葉に三人の目が輝いた。
「行く?」
「当然!」
「楽しそうですね!」
「配信映えしそう!」
即答だった。私は思わず笑ってしまう。
本当に、この三人は変わらない。だから私も変わらないでいようと思う。
世界がどうなろうと。神が何を企んでいようと。
私たちは私たちのやり方で進むだけだ。
「よし」
私は立ち上がる。
そして、いつものように配信アプリを起動した。
『配信きたあああああ!!』
『フルールだ!!』
『待ってた!!』
『神と会話した女だ!!』
『リンネちゃまー!!』
コメントが一瞬で流れ始める。
私は苦笑しながらカメラへ向かって手を振った。
「みんな、こんにちは」
『こんにちはー!』
『待ってた!』
『今日は何するの!?』
私は三人を見る。
三人は頷く。
私は、いつものように宣言した。
「次のダンジョン攻略、決まったよー!場所は北海道!」
『うおおおおおおおお!!』
『北海道はでっかいどー!』
『待ってました!!』
『フルール最強!!』
『世界を救えー!!』
画面の向こうから届く声。隣に居る仲間たち。まだ見ぬダンジョン。まだ知らない世界の真実。
そして——どこかで見ているかもしれない、遊戯神アルス。
全部ひっくるめて。きっと、これからも面白いことが起きるのだろう。
「それじゃあ、フルール——出撃!」
『おー!!』
こうして。
私たちの物語は、まだまだ続いていくのだった。




