4話
「はぇー、ここがダンジョンかぁ」
「迷宮と似ていますけど⋯⋯なんかこう、根本的な何かが違う感じがします」
「うーん、私も初めて来たからよく分からないけど、そんな感じもするような、しないような⋯⋯」
「みんな、日本での勇者パーティ初陣よ。気を引き締めなさい」
異世界でのお馴染み装備を身に着けた私たちは、早速家の最寄りダンジョンに入った。私は、各々の装備を確認する。
まずはアリサだ。銀と黒を基調とした重厚な鎧。肩から腰にかけて流れる赤い布と、獅子の意匠が刻まれた大盾。長い赤髪が鎧の隙間からこぼれ、鋭い赤い瞳が周囲を睨む。その立ち姿は、あの世界で何度も背中を預けてきた“前衛”そのものだった。
その少し後ろで、サーシャが杖を両手で抱えるように持っている。淡い紫の髪が揺れ、白と紫を基調とした装束が風にふわりと広がった。布の重なりや刺繍は相変わらず繊細だ。杖の先の魔石が、かすかに光を宿している。あのときと同じように、彼女がいるだけで、張り詰めた空気が少しだけ和らぐ気がした。
横では、セリナが軽くつま先で地面を蹴っている。革を主体にした軽装。最低限の防護と、最大限の機動力。その装備思想は、場所が変わっても一切ぶれていない。腰や太ももに巻かれたベルトに収まる二本のダガーナイフは、今にも飛び出しそうに揺れている。金髪のハーフアップが弾むたび、彼女は楽しそうに笑う。ここが日本だろうと異世界だろうと、戦いの前の顔は変わらないらしい。
そして、最後に自分の手元を見る。黒を基調にした装いに、金のラインが走る魔法使いの服。あの世界で何度も着て、何度も焼け焦げて、それでも最後まで使い続けた服——自動修復機能があるため、ちゃんと綺麗だ——に袖を通した瞬間から、魔力の感覚が自然と呼び起こされた。杖も黒ベースに金があしらわれた、高級感漂う杖だ。私の魔力に反応して、杖の魔石がキラリと光る。
日本だとちょっと⋯⋯いや、結構浮く。コスプレ感が半端ない。が、仕方ない。諦めよう。気を取り直し、私はダンジョンの情報を振り返った。
このダンジョンの1階層には、ビッグワームという大きな芋虫みたいなモンスターが出てくる。こいつらはキモいだけで、動きは遅いし殺傷能力は低い。外皮は柔らかいし特殊能力も持たない。ほぼ、大きいだけの芋虫だ。
異世界転移前ならキモさに震えたかもしれないが、異世界には根源的に不快感を抱く魔物という怪物が跳梁跋扈していた。心の奥底から嫌悪感を抱く魔物と比べたら、モンスターは可愛いものだ。
「じゃ、試しにやってみようか。まずは全力で叩き潰してみよう」
「分かりました!それでは⋯⋯『全能力超向上』『全能力超低下』!」
「はぁぁぁ!!」
「そりゃっ!!」
「『雷龍爆撃』!」
サーシャが使える最強のバフ魔法をかけてもらい、ビッグワームには最強のデバフ魔法をかける。バフ魔法により漲る力をそのままに、私たちは各々の最強技を繰り出した。アリサ、セリナの近接職と異なり、魔法は詠唱を必要とするのが小っ恥ずかしい。異世界ではもっと命懸けだったし、みんな詠唱してたから、五年の月日で恥ずかしさは感じなくなっていたが、日本に居ると思うと途端に恥ずかしくなった。スキル発動もスキル名を口にする必要があるので、浮かないは浮かないはずだ。多分。
まず、アリサの剣がビッグワームを真っ二つに切り裂く。続いてセリナのダガーナイフが、二つに分かれたビッグワームの肉体の片割れを細切れにした。
既にビッグワームは死に体だが、その上で私は最上級魔法を放った——というよりは、既に詠唱完了していたので止められなかった——。私の黒金の杖から、爆発的な雷が発生し、それが龍の形を象って細切れのビッグワームに襲いかかる。
結果として、ビッグワームは消し炭すら残らず消えていった。
凡そ分かっていたことだが、あまりにも過剰戦力。なんならダンジョンごと崩れるんじゃないかと思わんばかりの衝撃であった。危ない危ない。
どれだけ手加減してもこの辺のモンスターは相手にならない。何の支援が無いサーシャでも、軽く小突けばビッグワームを倒せそうなくらいだ。まともに相手しているのは馬鹿らしいので、サクサク倒して行くことにする。




