16話
『リンネー!ここに牛頭くんがいっぱいいるよ!』
『おっけー!』
近距離用の無線機から、セリナの声が聞こえる。わざわざセリナが『いっぱいいる』と表現するという事は⋯⋯10では効かない数が居るのだろう。
私たちはその言葉に従い、ぽっかり空いた空間に足を踏み入れる。そこには、30を超えるミノタウロスが存在した。また、武器を装備したオーガ、オーク、ゴブリンといったモンスターも多数居る。ざっと見て、総数200オーバーといったところだろうか。
「な、なんだこれは⋯⋯」
「初めて見たぜ、こんなモンスターハウス⋯⋯!」
それを見て、ワルキューレ・コードさん達は驚きを隠せない様子だ。皆さんからすれば1体1体は敵じゃ無いと思うが、これほどの大規模戦は経験した事ない、のだろう。
異世界だとミノタウロスの3倍は強い魔物が数千から数万は徒党を組んで進行してきていたので、この程度であれば全く気にならない程度だ。
「撤退しますか?」
「いや、これは今のうちに潰しておくべきだ。4級や3級の者が誤って迷い込めば、間違いなく死んでしまう」
「了解しました!」
「いや、君たちは後ろで———」
レイナさんの静止を振り切り、アリサ、セリナ、私はモンスターの群れに駆ける。遅れて、レイナさん、カレンさんも群れに突っ込む。ミラさん、ユイナさん、サーシャは銃を使って援護だ。
ミラさんの銃弾が特殊な軌道を描き、ゴブリンアーチャーを殺していくのが見える。遠距離攻撃は面倒——効かないのに、配信用で避けないといけない——なので助かる。
「雑魚はサクサクやっちゃうよー!」
『すげー!無双だー!』
『二本の剣で敵がバッタバッタと倒れていくの、気持ち良すぎだろ!』
『50000円:セリナちゃーん!がんばえー!』
機動力の高いセリナが、その双剣でモンスターを次々に切り伏せる。彼女からすればどのモンスターも雑魚だ。ああいうカッコイイ立ち回りはセリナの専売特許と言えるだろう。
「ひれ伏しなさい!!」
『アリサ様!強すぎる!!!』
『オーガ2体、まとめて体真っ二つにしてて草』
『50000円:アリサ様最強!アリサ様最強!アリサ様最強!』
アリサは、無理やり戦場のど真ん中に突っ込み、どんな敵もその一振で切り伏せる。モンスターの等級なんて関係ない。
「私も!!」
『ファッ!?飛びすぎ!?』
『マジであの返ってくる雷の槍何???武器が特殊なの???何あれ???もう雷神じゃんあんなの』
『50000円:リンネちゃまだぞ。深いことは気にするな』
負けてられない。私はモンスターハウスの上空に跳躍する。ミノタウロスも良く見える高さ⋯⋯だいたい高さ10メートルほどまで跳躍すると、魔法袋から10本の槍を取り出す。こんな時のため、槍を沢山購入しておいて良かった。そして全ての槍に『雷神の槍』を付与すると、それを続けざまに投げまくる。
10本の槍は、それぞれ別のモンスターの心臓を貫き、役目を終えると手元に返ってくる。それを再び投げてモンスターを倒す。滞空時間の関係で、今回の投槍記録は17本となった。飛行魔法使って飛んじゃえば良いのだが、そうなると説明が更に面倒なのでやめておこう。
気が付けば、200そこら居たモンスターの群れは、ものの数分で全て倒してしまった。レイナさん達もほぼ無傷だ。その場には、多数のモンスターの死骸だけが転がっている。
「ふぅ⋯⋯お疲れ様でした!」
「はははっ⋯⋯君たちは、本当に初心者探索者か?これが天才⋯⋯規格外というやつか⋯⋯」
戦乙女の装備に身を包むレイナさんが苦笑いを浮かべる。異世界で得た強さなんて説明が出来ないので、私もレイナさんに倣って苦笑いを返す。
『マジで何者なんだフルール』
『強すぎて草』
『ワルキューレ・コードよりワンチャン強い説無い?』
『それは無いだろ。2級だぞ』
「!!リンネ!なんか強そうな敵が来るよ!」
「えっ!?」
すると突如、セリナの警告が耳に入る。すぐに槍を構え、一応いつでも魔法を放てるように魔力を練っておく。他の人たちも、セリナの言葉に武器を構える。
武器を構えたのと同時に、モンスターの死骸がドロドロに溶け、一つの箇所に集まっていく。そして全ての死骸が集まると、そこに1体の人型モンスターが現れた。
「⋯⋯ふぅ。今回の供物はこの程度ですか⋯⋯。まぁ良いでしょう」
病のように白い肌、闇よりも暗い黒髪、そこから覗く、白目部分は黒く染まった紅蓮の瞳。やけに端正な顔立ちの男で、全身喪服のようなスーツに身を包んでいる。
特徴的なのは、頭から生えている二本の角と、背中から生えている蝙蝠のような翼か。
「お前は何者だ!」
レイナさんが叫ぶ。それを聞いたモンスター?は、端正な顔をニヤリと歪め、恭しく頭を下げる。
「申し遅れました。私はアークデーモン⋯⋯貴女達の分かりやすいように言い換えれば、『悪魔』です」




