表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

プロローグ

時が流れれば、誰もが死ぬ。

それは生まれることと同じくらい自然で、忘れることと同じくらい避けられない。

かつての私は、その真実を抵抗もなく受け入れていた。

だが――死ぬ運命にあるからといって、最期の瞬間まで苦しみ続けなければならないのだろうか。


人は一人、また一人と倒れていった。

それは決して急激なものではなかった。――災厄は、いつだってそうだ。


知り、愛した者たちの命は、消えかけてはまた揺らめき、

消える寸前で、必死にこの世界へしがみついていた。

中には、自らの光が早く消えてしまえばいいと願いながらも、

それでもなお、生に縋り続ける者もいた。


叫ぶ者もいた。

虚しい希望にすがり、耐え続ける者もいた。

そして、ほんの一握りの者だけが――静かに、その苦しみから解放された。


争いは意味をなさなかった。

絆も、立場も、違いも関係なかった。

共有される痛みの前では、すべてが取るに足らないものへと変わった。

そして苦痛は、終わりの日まで続いた。


それは呪いだったのか。疫病だったのか。あるいはウイルスか。

もはや、どうでもいい。


生きることが「生きる」ことではなく、

ただ「まだ倒れていない」状態へと変わったとき、

名前など意味を失う。

恐怖だけが人を立たせている世界で、

私たちはただ、できるだけ長く留まることを選んだ。


私は、ここにいたくなかった。

この世界にも、この時代にも。


時折、目を閉じて、別の人生を思い描く。

二千年以上も昔、世界は奇跡に満ちていたという。

神話の生き物が空を舞い、無限だと信じられていた海を泳ぎ、

大気にはマナが満ち、魔法は尽きることのない川のように流れていた。


剣士は魔王に挑み、

魔導士は雲から雷を引き裂き、

騎士は輝く鎧で竜と相対した。


だが、その黄金の時代も、例外ではなかった。

終わりは――疫病だった。


それは「呪い」と呼ばれ、神の罰だと囁かれた。

即座に命を奪うことはなかった。

体内に染み込み、時間をかけて衰弱させ、

不可能さえも枯らしていった。


幻想の生き物たちは、すぐには死ななかった。

理性を失い、形を失い、目的を失った。

今では、かつて存在した証だけが残されている。


マナはゆっくりと枯渇していった。

終焉の時代の魔導士たちは、

かつて炎が荒れ狂っていた場所で、

かろうじて火花を灯すことしかできなかった。


人類は諦めなかった。

魔法を捨て、知識を結晶化させた――技術へと縋った。


「もし、あの時代に生まれていたら……」

そう呟き、

雷を放ち、炎を操り、冒険をしていたかもしれないと夢想する。


乾いた笑いが漏れる。


「……いや、運が悪ければ、“呪い”が始まった瞬間に生まれていたんだろうな」


五百年前も、状況は変わらなかった。

新たな疫病が現れた。

それは殺すことを目的とせず、

だからこそ、より残酷だった。


体は動かなくなり、

心は壊れていった。

それでも心臓は打ち続け、肺は呼吸を止めなかった。

痛みだけが、決して止まらなかった。


街には彷徨う影が溢れ、

苦痛だけが機能する存在となった者たちが呻いていた。

死は、救いだった。


数か月で、人類の九割が姿を消した。

安らぎを得たわけではない。

ただ、肉体が――ついに限界を迎えただけだ。


生き残った者たちは、その記憶の上に社会を再建した。

再び、科学と技術に賭けた。

――もう二度と、疫病に追いつかれないために。


私たちは、学んだつもりだった。


数十年前、

私たちは、自分たちが孤独ではないと知った。

異星文明との接触。

彼らは星々への道を示す代わりに、条件を提示した。


――すべての病を根絶せよ。


他世界に感染を持ち込むリスクを、彼らは許さなかった。

そして、人類は想像を絶する資源を

人工的な治療法の開発へと注ぎ込んだ。


成功した。

――あまりにも、成功しすぎた。


肉体は変質し、

力に適応し、

臓器は歪みながらも機能を続けた。


精神は耐えた。

肉体は耐えなかった。

それでも、生きていた。


呼吸のたびに痛み、

動くたびに、取り返しのつかない異常を思い知らされる。

疫病に勝ったのではない。

ただ、永遠に引き延ばしただけだった。


助けを求めた。

一瞬、救われると信じた。


だが――救われなかった。


私たちは失敗作だった。

数ある実験の一つにすぎなかった。

彼らが何を求めていたのかは、最後まで知らされなかった。

失敗した瞬間、私たちは切り捨てられた。


「……どうして……こんなことが……」


虚無は答えない。

それでも、私はここにいる。


英雄だからではない。

使命があるからでもない。


選べたはずの終わりを、逃しただけだ。

今はただ、この歪んだ存在が消えるのを待っている。


私の体は、執拗に、休息を許さない。


「……これが……終わりなんだろうな……」


何年が経ったのかはわからない。

私はただ、かつて「普通」と呼ばれていた人生を望んだだけだ。

笑い、

誰かと共に生き、

愛し、愛される――

そんな、当たり前の人生を。


だが、この世界では、それは贅沢だった。


「……もし……やり直せたなら……」


悲しい瞬間さえも抱きしめ、

空虚な日々の中に美しさを探し、

完璧だったはずの人生を、必死に守っただろう。


今、私は思う。

自分は最後の一人なのだろうか。

この星のどこかに、

同じ願いを抱いた者は、まだいるのだろうか。


どれほどの人が、

第二の機会を願ったのだろう。


痛みから始まらない物語を。

苦しまない体を。

存在するだけで罰せられない世界を。


だが――違う。

これが、私の物語の終わりだ。


目を閉じ、静寂に耳を澄ます。

すべてを食い尽くした後、

疫病もまた、死ぬのだろう。


それが、この世界の宿命だ。

疫病は私たちと共に生まれ、

共に育ち、

そして――

喰らうものを失った怪物のように、

何も残らなくなった時、ようやく息絶えるのだ。

はじめまして、イー・カルテンです。

よければ、エドガーと呼んでください。


本作は、私にとって初めての小説であり、

「歪曲と贖罪」という物語の始まりとして構想しています。

なお、私の日本語表現はまだ拙い部分も多いですが、

最後まで『ウイルス歪曲』を書き切るつもりです。


温かく見守っていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ