“彼氏と歩く帰り道”
並んで歩く距離は、まだぎこちない。
でも、結衣は気づいていた──浩太が自分の歩幅に合わせてくれていることに。
「ねぇ、なんで今日告白しようって思ったの?」
勇気を出して聞いてみる。すると浩太は、少し照れたように頭をかいた。
「実はさ……夏休み入ったら結衣に会えなくなると思って。それが嫌で、今日しかないって思ったんだ」
「え……そんな理由、可愛いんだけど」
「可愛いって言うなよ。……でも、本音だよ」
沈んでいた夕日が、二人の影を長く伸ばしていく。
その影がほんの少し触れ合った。
「なあ、結衣」
「なに?」
「手……つないでいい?」
その一言で、喉がきゅっと鳴った。
結衣は俯き、小さくうなずく。すると浩太の手がそっと差し出された。
触れた瞬間、体の芯まで温かくなる。
初めて好きな人と繋いだ手は、思ったよりも大きくて、頼もしかった。
「やばい……めっちゃ嬉しい」
浩太が素直に呟く。
その声を聞いて、結衣の幸せも一気に溢れた。
「浩太の手……あったかいね」
「結衣が冷たいだけだよ。緊張してんの?」
「してるよ……今日から彼氏だよ? そりゃ緊張するよ」
「……そっか。俺も同じ」
指が絡まる。
その瞬間、夕風がふたりを包み、夏の匂いが少しだけ濃くなった。




