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お腹は壊したけど、たしかに白味噌の味がした。甘くて味噌って感じはしないけれど、これはこれで美味しい。このまま寝かせれば、赤味噌になるだろう。
次は蒸した麦にこの白カビを入れてみようかな…麦味噌になると思うんだよなー。
リルミルの[タイムローディング]で味噌の発酵を進めたけれど、とくに味のムラとかは気にならなかったから、多用していこう。
ここからは僕とエラノアさんとリルミルと、それぞれがそれぞれのマイ味噌を作ることにした。
エラノア「私は白味噌をたくさん作るねー♡」
リルミル「オレはえっとー… …とにかく発酵させて、うまいやつを作るぜ!!!!」
僕は売り物になるレベルの混合味噌を作るつもりだ。
そのためにはまず、赤味噌と麦味噌も作らないといけない。
まずは麦味噌。そのために麦麹を作る。
麦麹の作り方ー!!
1.麦の粒を40分〜60分蒸す。今回は殻付きの硬めの麦なので、60分くらい。
2.蒸して冷ました麦に白カビを入れて、30℃くらいの気温で藁の中に入れて保管する。だいたい1〜2日。
リルミル「……ひっ!な、なんか気持ち悪いモワモワしたやつが生えてきてるぞ…」
そう。発酵を進めると綿毛みたいな白いやつが麦全体にブワーッと広がる。
これで麦麹は完成。
あとは前の味噌の作り方と同じ。
麦麹入りの大豆を寝かせるか、リルミルの[タイムローディング]を使って発酵を進める。だいたい1年〜2年くらい寝かせる。
そんなに待てるわけがないので、もちろん[タイムローディング]を使う。
麦味噌には、麦特有のあの香りが立ち上って、味噌汁にしてみると旨味がブワーッと広がって、ザ・田舎味噌な味噌になった。
九州の味噌汁の味だね。これは豚汁向きかも。
赤味噌は、白味噌をさらに寝かせたらもう完成なので、お腹を壊されたあの味噌にさらに[タイムローディング]を使って発酵を進める。2年〜3年くらい。
白色から琥珀色、そしてよく見るあの赤味噌の赤茶色になっていく。
これで赤味噌も完成。ということで、白味噌、麦味噌、赤味噌の3種類の味噌が完成した。
エラノア「わー♡ なんかたくさんできたねー♡」
リルミル「なぁ!もういいか!?これでなにか作ってくれよ!♡」
ナナシノ「……じゃあ炊いたお米に味噌をちょっと塗って焼いてみて。うんまいよ?笑
その間に僕はこの味噌たちを合体させるねー。笑」
エラノア「え…?合体…?」
ナナシノ「はい。混合味噌って言って、それぞれの味噌の良さを補う、最強の味噌を作るんです。笑
それで今日は味噌汁を作るので、みんなで飲みましょうね。笑」
というわけで、いよいよ、混合味噌を作る。
混合味噌は、3種類の味噌の割合で大きく味が変わる。
例えば、白味噌20%麦味噌30%赤味噌40%にすれば、よく飲んでいたいつもの味の味噌汁になる。
白味噌のフルーティーな香りが、麦の強めのか香りと赤味噌のコクや旨味を引き立てるような味噌になる。
飲みごたえがある味噌汁になるだろう。
それか白味噌50%麦味噌30%赤味噌20%にしてみる。
この世界では魚介出汁が主流なので、味噌汁を作る時、この出汁に味噌を溶かすと、魚介出汁の繊細な旨味と白味噌の甘さがマッチしつつ、麦のほのかな香りと赤味噌のコクが出てきて、毎日飲みたくなるような味噌汁になるだろう。
それに味噌汁だけじゃなくて、この味噌なら他の料理にもたくさん使えそうだ。
…ということで、白味噌中心の味噌と、赤味噌中心の味噌を二種類作って、僕とエラノアさんとリルミルで味噌汁飲み比べパーティーをすることにした。
ナナシノ「じゃあ、まずは僕が昔よく飲んでいた味噌汁を飲んでみましょう。
(ズルルルルルル……)
…これこれぇ…あー…ウマ…旨味エグ…はぁ落ち着く。(ズルルルルルル…)」
エラノア「……美味しいね…たしかになんか落ち着く…」
リルミル「…でもちょっと濃いかなー。オレはもっと薄めが好きかも。」
ナナシノ「…じゃあ、こんどは魚介出汁と一緒に作った味噌汁を飲んでみましょう。
(ズルルルルルル…)
…甘い…でも魚介出汁が上手い具合に旨味をだしつつも、麦の香りとコクが出ていて美味しいー…
これは毎日飲んでも飽きないなー…(ズルルルルルル…)」
エラノア「んん〜♡♡ 私これ好き♡ うどんとか入れても最高かも♡」
リルミル「んんんんん〜〜〜〜♡♡♡♡♡」
ナナシノ「……じゃあ、売り物にするとしたら、この白味噌中心の味噌のほうがいいですかね?」
エラノア「…そうね。一般家庭向きなのはこの味噌だね。 でも、あの赤茶色の味噌も売れるとは思うよ?とくに軍人さん達には。」
リルミル「…そうだね。飲みごたえがあって、疲れた身体にはこの赤い味噌のほうがいいかも。しょっぱいのが欲しくなるもんね。」
ナナシノ「あー…なるほど… …ターゲットをその2つに絞って、売りに出してみましょうかね。
…じゃあ、早速量産してみましょうか。」
リルミル「……なぁ?これを魔法を使わずにちゃんと発酵させたらどんな味になるんだろ。もっともっともっとおいしくなるのかな?」
ナナシノ「それを確かめるには最低でも4年〜5年は掛かるよ。魔法を使っても味のムラみたいなのは感じなかったし、魔法を使わずに作って売るとしたら、それをブランド化して売りに出したほうがいいかもね。
でもそのためにはまず、この味噌たちを流行らせて、なじみのあるものにしないとだめだね。知らないもののブランド商品とか買わないでしょ?」
リルミル「…たしかに。 じゃあ頑張って流行らせるかー。 ……独り占めしたい気持ちもあるけど…」
ナナシノ「だーめ!絶対売るの! …味噌ができたら、こんどは醤油も作ろうと思ってるから。」
エラノア「しょうゆ…?それもゾンくんの故郷の調味料?」
ナナシノ「はい。醤油も大豆から作る発酵調味料なんです。だいたいの料理には醤油を入れてコクとかを出して食べていました。
生魚と、お米にお酢を混ぜたものにかけて食べたりとかもしてました。味噌と同じく『調味料のさしすせそ』にも、醤油は入っているんです。」
リルミル「…さしすせそ…?」
ナナシノ「…あー…そうか。50音の概念はないのか。
……ん…?でも僕、いままで難なく文字とか書けるし、読めるぞ…? …なんでだ…?全然文字も違うのに…てか、なんで日本語じゃないのに意思疎通できるんだ…?
…
…もしかして… 僕はもともと、この世界の人間だった…?
そしてどういうわけか、僕という存在がこの身体の主に乗り移った、あるいは記憶として蘇った…?
…すると、僕という意識は、起きたときにはなぜか目の前に森が広がっていて、知らない世界にやってきた、転生してきたという感覚に陥る…?
…なんかわけわからんな… 僕はもともと僕じゃなかったってこと……?」
リルミル「何?哲学?」
ナナシノ「…うん…なんかそういう話になってきたね…
…まあ『我思う、故に我あり』だから、僕は僕なんだけどねー。」
エラノア「…『我思う、故に我あり』? なーに?それ。」
ナナシノ「世の中のすべてを、『存在しない』って否定していくんです。
そうすると、結果的には自分の存在も否定することになるんですね。
でも、考えられるのは自分がいる。
もし自分を否定するなら、なぜ『考える自分』が存在するのか?
それ自体が、自分がいる証拠じゃないですか?
つまり、自分という存在は、どう足掻こうが否定できない。
だって、思考できるんだから。
それが、『我思う、故に我あり』。
…わけわからんでしょ? 昔の人は暇だったんですよねー。だからこういうことをずーーっと考えてたんですよー。」
リルミル「…」
エラノア「へー……ほんとに難しいことを考えてたんだねー。昔の人って。
ゾンくん、よく知ってるね?」
ナナシノ「恩師の授業で習ったんですよ。高校生のとき。笑
自分にしてほしいことを他の人にもするとか、いろんな考え方を教えてくれた先生で。
ある日、自己探求の機会を与えられて、そのときに教わったんです。
自分の価値とかを否定するのは簡単だけど、存在自体は変えられないし、存在していた事実は残り続ける。
事実が残るということは、価値があったってことでもあるんじゃないの?って。
…なんかこじつけに感じるんですけど、まあ、たしかにそうかなって。」
リルミル「………そんなわけないだろ…その『事実』は価値なんかじゃなくて、汚点なんじゃないの?
価値ってのは自分だけじゃ決められないだろ…他の人がいるからこそ、決まるんじゃないの…?
その人も、『自分にしてほしいと思うことを、他の人にもするべき』って言ってたんでしょ…?
つまり、それをするからこそ、本当の価値ってのが決まるんじゃないの…?
僕は自分の価値を自分だけで決めるなんておかしいと思う。
人に必要とされたときこそ、自分は存在していいんだって思えるんじゃないの?」
エラノア「……あー…なるほど……たしかに…私も他の人の役に立ちたいもん。わかる。」
ナナシノ「……僕もそう思ってたよ。リルミルと同じことを、後でその先生に言ったんだ。笑」
リルミル「……ふーん…で…?なんて言われたの…?」
エラノア「私も気になるー♡♡」
ナナシノ「……自分にしてほしいと思うことを、他の人にするってことは、まず自分を認めないといけないよね?って言われた。笑
……
『隣人を自分自身のように愛さなければならない』。」
エラノア「隣人…?なんでお隣さんなの?」
ナナシノ「隣人ってのは、他の人ってことです。笑
……リルミル?
自分自身のように愛さなければならないってことは、まず自分を適度に愛さないといけないってことでしょ?
つまり、まずは適度に自分を認めてからじゃないと、他の人に何か喜んでもらえることをするのはできない。
…ねぇ?この世界では、『神様が僕らに恵みを与えて、生きていけるようにしている。生かされている。』っていう考え方はあるの?」
リルミル「…あ…あるけど…なに?どういうこと?」
ナナシノ「じゃあさ?よくある例えだけど、鳥が餓死して道端で野垂れ死んでるところをみたことある?」
リルミル「………そう言われれば…ない… 死んでるとしても、狩られたり、事故で死んじゃったりしてるときかな。」
エラノア「私も餓死してるところは見たことないわね。」
ナナシノ「でしょ?でも、鳥ってその日に何かを食べるために、相当の体力とエネルギーを使うよね?それでも餓死しない。食べものは見つかる。
これって見方によったら、神様が鳥を養ってるとも取れないかな?」
リルミル「…………うん…まあ、たしかに…」
ナナシノ「じゃあさ? 鳥と僕って、どっちのほうが価値があるかな?」
リルミル「…は? ……お前かな…?」
ナナシノ「ありがとう。笑 …じゃあ、鳥と人間ってどっちのほうが価値がある?」
リルミル「人間だろ。鳥さんには悪いけど。」
ナナシノ「だよね? ………じゃあ、リルミルも例外じゃないよね? 鳥よりも価値があると思わない?」
リルミル「…………」
ナナシノ「神様は鳥さんを養っている。人間はそれより価値がある。だったら尚更、僕やエラノアさん、そしてなによりリルミルのことを絶対養ってくれるんじゃないかな?
価値があるんだから。
でしょ?笑」
リルミル「……………
……うん…」




