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魔性のアンデッド   作者: アデビィ
第一章

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あれから1週間経った。






船に乗ってプリン・グルス帝国に行くのは一時中断し、エラノアさんと休養を取り、今回の騒動のまとめをしている。


エラノアさんは、自分が旅をする理由とともにこれまでの出来事を伝えてくれた。



エラノア「……今、世界にはゾンビが2000人〜3000人、ゾンビになって亡くなった人を入れると今まで5000人ほどがゾンビになっているの。


そして、私の身近な人もそのうちに入ってる。


1人目は私の父、『アラノア・ケルメール』。

2人目は母の「イラノア・ケルメール』。

3人目は『カロリーヌ』さん。私の教育係だった人。彼女から家事や自炊の仕方、特に裁縫を教えてもらったの。

4人目は『ツイテール・へアリル』先輩。資産家よ。昔私が働いていた会社の社長で、同じ学園の先輩。

5人目は『フロル・プロフ』さん。ツイテール先輩の元旦那さん。彼は資産家であり武闘家で、私に剣術を教えてくれた、師匠みたいな人。

6人目は『コロナン・ビールン』さん。酒造家で、よくお酒をもらっていたの。ビールンのホイップビールは人気だったのよ。父も大好きなビールだった。

7人目は『ハイネン・ビールン』さん。コロナンさんの奥さん。

そして、8人目が今回の『バンバーグ・デミグラス』氏。オークションの会長さんで、シーチュさんという資産家と結ばれ、ご子息も3人目いらっしゃって、長女さんは自分で株式会社キャロルデミ食品会社を立ち上げて、最近はマーブルさんと一緒に貧困孤児たちを保護して、訳あり商品を寄付してるの。どうやらバンバーグさんの過去の経験と、マーブルさんのお話を聞いて、貧困孤児の保護活動を行なうようにしたらしい。弟さんと妹さんはまだ学生。デミグラス家族はこれからの新財閥候補と言われていた。ほっこり家族として世間では有名よ。



身近な人では今まで8人がゾンビ化した。




……ゾンビ化する共通点はわからない。みんななにかを食べたからなのか、新型のウイルスなのか、特定のDNAが関係しているのか、それとも何者かの陰謀なのか。もしそうなら、裕福な人だけを狙ったりするはず。そしてゾンビ化するのは数えるほどになるはず。5000人もゾンビになっただなんておかしい。

しかも特定地域だけとかもないのよ? 全員てんでんばらばら。海に近い人も、平原の人も高原の人も、山に住んでる人だってゾンビになった。食文化だって宗教もバラバラ。


全く共通点がない。



………私は、その共通点を探すため、そしてもう誰もゾンビにならないようにするため、旅をしているの。


…完全な治療法は見つかってない。薬草も効かない。治癒魔法も効かない。効くのは浄化されたポーションだけ。でも、それもゾンビから元の人間に戻すことができない。


苦しめるだけ。


…元に戻して元気になってほしいのに、苦しめちゃう。そしてゾンビはもう死なない。ただ切っても肉が落ちるだけで死なない。痛みがあり、苦しむだけ。お腹も空いている。でももう消化したりできないから、お腹が満たされることはない。


つまり、苦しみ続けるの。それが今回目の前でゾンビ化したバンバーグさんを見てさらに確信した。好戦的で生意気な声から、いきなりあんな苦しそうな声になるだなんて…はぁ… だめ…思い出しちゃう…


………


…だったら、少しでも楽にしてあげたい。それは、もうもう一度の死しかない。



殺すしかないの。





…こんなことを続けてるとね…? はぁ……


…頭がおかしくなってくるの…


少しでも元気な状態にいたら、本当に心も元気になる気がして、から元気を続ける…

それで休憩の時には疲れのツケが回ってくる。だから少しでも休憩時間を減らして、元気であり続けようと必至になる……そうなると身体を壊す… 



でもね?はやくゾンビになったみんなには元に戻ってもらいたい。楽になってほしい。私が身体を壊してでも続ければ、よりはやく楽にしてあげられるかもしれない。


全ては、その人たちのため。



…でもね…?全然報われないの…笑 どんなに旅をしてどんなに調べても、結局はみんなを苦しめるだけ。楽にしてあげられるかもしれないけど、それを相手は認識してくれない。本当に楽になってくれてるのかもわからない。





とにかく、キツイの。






……はぁ…笑 ごめん…笑 …ごめんなさい…




もう…笑





むりかも…







なんだか、今までの笑顔が重く見える。



エラノアさんは、とっても明るくて、過保護で、時々うっとうしく思うけど、一緒にいて本当に楽しい人だ。


そう思ってた。



でも、実際はできるだけ元気であろうとして、とっても苦しんで、みんなのために奔走した結果、だれも報われないし嬉しい気持ちにならない。


特にエラノアさんが一番傷ついている。ゾンビになった人たちよりも、エラノアさんのほうが苦しんでいる。


見てられない。



ナナシノ「……エラノアさん。懐中時計、本当にありがとうございます。笑 これからもエラノアさんとの思い出を刻みますね。笑」


エラノア「……なに…?急に…」


ナナシノ「エラノアさん。あのとき僕を助けてくれてありがとうございます。笑 もしあのままエラノアさんが来てくれなかったら、僕ゴブリンにひどいことされちゃってましたよー…ほんとに助かりましたー…笑」


エラノア「……ゾンくん…?」


ナナシノ「エラノアさん。ダイヤモンドが綺麗に加工できたのは、エラノアさんのおかげです。笑 おかげで30億レオも稼げました。笑 これからもダイヤモンドの加工、よろしくお願いしますね。笑 あ、せっかくだからこのお金を使ってなにかすっごい美味しいものとか食べたり、遊んだりしましょうよ。笑」


エラノア「………」


ナナシノ「エラノアさん。バンバーグさんから守ってくれて、本当に本当にありがとうございます。あのままだと僕ほんとに死んでたかもしれません。


エラノアさん。

一緒にいてくれてありがとうございます。


毎日毎日楽しいです。笑」



ナナシノ「エラノアさん…」


エラノア「………?」


ナナシノ「…………」



この人の本当の笑顔が、心からの笑顔が見たい。

守りたい。だから…




ナナシノ「













生きててくれて、存在してくれて、ありがとう。」




















気がついたら僕は、腐りかけている腕で、腐りかけている胸の中で、エラノアさんを抱きしめていた。

腐りかけている鼻から、エラノアさんの優しい柔軟剤の匂いが通り抜け、腐りかけている脳へと伝わる。


そこからエラノアさんとの新鮮な記憶がこぼれた。


それと同時に、腐りかけている口は震えつつ口角が上がる。そして腐りかけている僕の目から、腐りかけている頬を伝って、


新鮮な涙がこぼれた。


それは血色のいいエラノアさんの頬から流れるものと同じだった。



僕の腐りかけている目には、エラノアさんの新しく本物の笑顔が、涙のせいでぼやけて写った。

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