いひひぃ
童話ですけれど、小さい子どもには、こわいかもしれないです。
小学校中学年から大人向けの作品です。
みんな、いひひぃって知ってるよね?
ママの言うことを聞かない わるい子をさがして、さらっていってしまう おばけのことを。
おもちゃを かたづけなかったり、食べ物の好きらいをしたり、夜ふかししたり、そう言うことをしていると、すぐにやってくるんだ。
そんなときは、どこからともなく こんなおそろしいわらい声が聞こえてくる。
「いひひぃ~~~」って。
女の人の高い声で、とっても小さな声でわらっている時もあるし、ほとんど聞こえない時もある。
けれども だれかに『のぞかれている』ってかんじた時は、そっと目だけをうごかして まどの上のはしの方をみてごらん。いひひぃがいるはずだから。
そうやって、本当にわるい子かどうかを たしかめているんだ。
そこでわるい子だって思われたらおしまいだ。その子はさらわれて、二度とかえれない。
いひひぃの子どもとして、やみのせかいに つれさられてしまうんだ。
そこは まっくらで だれもいない。
聞こえるのは、
「いひひぃ~~~」
って言う わらい声だけ。
それに とってもさむい。
いひひぃのつめたい体に、だきしめられるからね。
死んでしまうまで ずっと。
いひひぃのすがたは、このせかいでは、かんのよい人しか見えない。
でもやみのせかいに行けば だれでも見える。
はんとうめいの ほねと かわだけの体。
ちのけのない まっ白なはだ。
まっ黒な あなだけがあいた大きな目と、まっ赤なさけた口。
長い黒かみはバッサバサで、それをふりみだして、風のように空をとびまわるんだ。
そうやって いえいえの まどからまどを、ママの言うことをきかない子どもたちがいないかと さがしまわっている。
これは、そんないひひぃのお話だ。
いひひぃはむかし、ほんとうはにんげんだったんだ。
それも、とてもやさしい やさしいママだった。
小さな子どもがひとりいて、それはもう よく かわいがっていた。
とってもおりこうな子で、ママの言うことをしっかりと聞く ほんとうによい子どもだった。
でもある日、とっても かなしいことが おこったんだ。
ひとりでおるすばんをしながら 外であそんでいる時に、その子は、赤い木のみを食べてしまったんだ。
ママに、いつも
『食べてはダメ』
と言われていたのに。
とっても いいにおいがしていたから。
そのみを口にしたとたん、すごく くるしくなって、そのあとはあっというまだった。
強いどくのみ だったんだ。
おうちにかえってきたママは、子どもがいないのに気がついて さがしまわった。
やっと見つけた時にはもう、子どもは つめたくなっていた。
ママはすごくかなしんだ。
かなしくてかなしくて、なん日もなん日も 木の下で子どもを だきつづけた。
やがて子どもは、ほねだけになった。
ママも、ほねとかわだけになって死んでしまった。
けれどもママは、じぶんが死んでしまったことが わからなかった。
気がくるってしまっていたんだ。
それである時とつぜん、
「いひひぃ~~~」
ってわらいだした。
じぶんがだいているほねも、だれのものだか分からなくなって。
それから木の下をはなれ、子どものほねを のこしてとびさった。
またじぶんの子どもを さがしはじめたんだ。
昼も夜も ねむらずに。
昼はやみのせかいを、日がしずむと このせかいにあらわれて。
気がくるったせいで、さがさなければならないじぶんの子どもの顔も わからなくなってしまった。
男の子だったのか、女の子だったのかも わからない。
それでも ひっしで、いえいえの まどからまどへと とびまわり、
『この子じゃないか? あの子じゃないのか?』と。
それで、ママの言うことを聞かない子を見つけると、
『きっと、この子にちがいない!』って思うんだ。
その時、いひひぃはちょっとだけ、こんなふうに思い出す。
『ちゃんと言うことを聞かせられなかったから、たいへんなことになってしまったのだ』と。
それでも、じぶんの子どもが死んでしまったことを思い出せないから、
『やっと見つけた』
ってよろこんで、
「いひひぃ~~~」
って笑うんだ。
でも、その子がちゃんとママの言うことを聞くのを見ると、
『ちがう! この子じゃない!』って、
べつのいえへと さっていく。
けれどゆだんしてはだめ。なんどでもやって来る。
そして、やっぱりこの子だと思ったら、かならずやみのせかいに つれさっていく。
二度とこのせかいには かえれない。
死んで ほねになってもだ。
いひひぃは、同じことをくりかえす。
ほんとうのじぶんの子どもを さがしあてるまで。
だからぜったいに まちがえられてはいけない。
もしいつかの夜に、まどの外から、
「いひひぃ~~~」って声が聞こえたら……。
どうしたらよいか わかるよね?
それでどうにか いひひぃが、どこかに とびさってくれたのなら、つぎの日の朝、外にでて まどの下を見てみるといい。
たまにだけど、そこに小さなとうめいな石のかけらが おちている時があるから。
それはいひひぃのなみだがおちて、すいしょうって石になったものなんだ。
いひひぃはわらっているけど、ほんとうは かなしくって ないているんだ。
小学校中学年でも読める程度の言葉と、漢字を使うようにしています。漢字が少ない分、読みにくいところがあったと思いますが、ご容赦頂けると幸いです。
星の評価や感想を頂けると、すごくうれしいです。