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新しい日常

俺の名前は進藤健人(しんどうけんと)

両親はおらず高校を卒業してからはフリーターとしてダラダラ意味の無い暮らしをしている21歳

齢10歳で両親を亡くしてからは祖父母の家で過ごし、友人も作らず高校卒業と同時に一人暮らしを始めた

両親が亡くなった原因は交通事故

俺たち三人が乗っていた車は横からの飲酒運転の車にぶつかられ大破

生き残ったのは俺だけだった

病院に運ばれた後、記憶にあるのは全てが終わったあとのことだった

母方の祖父母が全て対応してくれたらしい

祖父母はとてもいい人たちだった

事故以来暗くなっていく俺を必死に面倒見てくれ、少しでも元気になるように色々な所へ連れて行ってくれていた

友達と遊ばない俺をよく心配していた


俺は部屋のカーテンを開けて外を見る

道には何人かがゆっくりと歩いているのが見えた

それを見て、俺はカーテンを閉める

机の上の時計を見る

時間は2時

午後ではなく午前だ

午前2時に外で複数人が歩いている

そのおかしさがわかるだろうか

馬鹿なヤツらが夜遊びしてる可能性はもちろんある

俺だって普通ならそう思った

暗い道でぼんやりと光る切れかけの街灯

その下を通る時に見えるのだ

半分ちぎれた腕

それぞれ前と後ろを向いている左右の足

頭からこぼれかけた赤いなにか

あれが俺が今まで友達を作らなかった理由だ


事故の後、病院のベッドで目を覚ましたあとから俺の世界はおかしくなってしまった

いや、おかしくなったのは俺の頭かもしれない

人に紛れる人じゃないもの

人だったもの

俺は霊感を持ってしまったらしい

病院にいる間は人と霊の区別がつかず

話しかけられるまま話していたら頭の検査をされることになってしまった

そこでようやく俺はあれが人ではないのだと理解した

しかし外のやつのように明らかに違うとわかるならば良いのだが、中にはほとんど人と変わらない奴もいる

その判別が子供の自分には難しく、周りが俺を見て気持ち悪がるのを見ているうちに誰とも関わらなければ嫌な思いしないで済むと考えるようになった

最低限の関わりだけに絞り、この歳まで生活し続けた


寝る準備をするためベッドを整える

電気を消し、毛布を被る

しばらく時間が過ぎた後、ゆっくりと目を開けた

横を向く

ベッドは扉と反対側の位置にある

扉のそばの壁に白い肌で黒い髪の男が寄りかかっている

膝を抱えて丸くなって


「...まだ居たのか」


その男はこちらを見ているけれど返事もせずに動かない

男は1週間ほど前からこの部屋にいる

この建物はアパートなのだが特にいわく付きだとかの話もない

それにここに住んで3年ほど経って今更出てくるのが不可解だ

最初は無視していたが何をしてくるのでもないためこちらから声をかけた

視線は向けてくるので俺がいるのは理解しているのだと思う

俺としては幽霊が部屋にいることは当然気分は良くないので出ていって欲しい

危害を加えないのであれば未練ぐらい聞いてやる

でもこいつは何も言わない

面倒くさいので放っておいた

常にいるというよりは気づくといる、という感じだった


次の日朝部屋を出ると隣の部屋のおばさんが出てきた

「あら、進藤さんおはようございます」

「おはようございます」

お隣さんとは一応挨拶程度の交流はしている

顔は覚えているので幽霊とは間違えないから楽だ

「そういえば聞きました?」

「何をですか?」

「進藤さんの下の部屋の方、亡くなられたそうですよ」

いつもなら挨拶で終わるのに話が続いたので聞いたら思わぬ衝撃を受けてしまった

「なんでも過労だったみたいでね、家族も友達もいなかったから気づかれなかったそうよ」

「そう、なんですね、あの、その人ってどんな方なんでしょうか」

「あら、会ったことない?男の方よ、短めの黒髪で、少し肌が白めの方だったわ」

やっぱり

あの男下の階のやつだったのか

隣人さんと別れ、エレベーターで下に降りながら考えた

何故あの男は俺の部屋に来たのだろう

理由があるのだろうか

ふと思い出した

声をかけるまであの男の現れる頻度はもっと少なかった

それこそ一日に2回ぐらいだった

声をかけてからは数時間に1回ぐらいに増えた

滞在時間も数分だったのが長かったら1時間くらいいる

もしかしてあの男は他の部屋にも現れていたのでは無いのだろうか

でも誰も男のことが見えない

その中で初めて認識した俺が嬉しかったのかもしれない

しかし成仏しないということはなにか未練があるということだろうか

それは認識してくれる人がいないとダメなのかもしれない

過労が原因だと言っていた

おおかた、ブラック企業にでも務めていたのではないだろうか

両親もおらず、友達もいない

その時俺の頭にひとつの考えが浮かんだ

根拠もない馬鹿みたいな考えだが可能性があるならやるべきだろう

俺はバイトを終わらせた後にある場所に向かった


部屋の扉を開けて、小さなリビングに向かう

電気をつければ、また部屋の隅に男は丸くなっている

俺は袋からビールをいくつか、それにツマミをいくつか取りだした


「おい」


男は俺を見つめる


「お前ビール飲めんの?」


初めて男の顔に表情が現れた

明らかに困惑している


「ビール嫌いなの?首振って」


男は戸惑いながらも初めて首を横に振って返事した


「飲めるのね?じゃあこっち、ここ座って」


低いテーブルの俺のいる位置の向かい側を指さす

男はゆっくりとそこに座った


「はいビール持って、かんぱーい」


男に缶を持たせ、チンッと音を立てて乾杯をする

男は困惑しつつも俺の指示に従っていた


「んー、んっまい、お前も飲みな」


促せば男はゆっくりと口をつけた

幽霊なので飲めているかは分からないが、男の顔が少し綻ぶ


「やっぱ労働後は飲まないとなー、俺バイトだけど」


ほらほらこれも食え、とツマミをさらにざらっと出して真ん中に置いてやる

男は少し迷ってから、ひとつ取って口に入れた


「んで?お前なんでここにいるの?」


男が酒飲んでつまみ食べてを繰り返し出したのでもういいだろうと声をかけた

男は手を止めて俺を見た


「下の階のやつだろ?」

(...こくり)

「喋れない感じ?」

(こくっ)

「ふーん、大変だな、ここに来たのは俺が見えるから?」

(こくこく)

「成仏してないのはなんか未練があるから?」

(こくっ)


喋れないようで返事は頷きで行う


「未練ってのはなんなの?なんか残してきたとか?」

(ふるふる)

「んー、好きな人いた?」

(ふるふる)

「やりたいことがあった?」

(こく)

「お、当たりじゃん、んーなんだろ...ん?」


俺が悩んでいると男は不意に俺を指さした


「なに?俺?」

(こく)

「俺に出来ること?」

(こくっ)

「んー...、俺さあ、お前が友達とかいなかったって聞いたから遊んだりしたかったのかなーって思って酒買ってきたんだけど」

(こくん)

「あ正解?俺天才じゃん、じゃあ特別に今日は俺が付き合ってやるよ、酒飲んでつまみ食って笑えば楽しくなるでしょ、2人だけだけどさ」


会話ではなかったけれど俺が話して男が笑う、そんな風に時間を過ごしていった

俺の話に笑ったり驚いたりする男が面白かった

俺自身友達がいない寂しさがあったから、男の気持ちが理解できた

俺には祖父母がいたけどこいつにはいなかったのかもしれない

幽霊に同情するなとはよく言われるが、俺には出来なかった


いつ間にか俺は寝ていたらしい

起きるといくつかの缶と皿が残っていた

男の姿はない


「あー、成仏したのかな」


久しぶりにできた友達がいなくなって、何となく寂しくなった


顔を洗おうと洗面台に向かう

顔に水をかけ、鏡を見る

背後でタオル持ってにこにこしてる男

い る


「ほぎゃあ!!!??おま、は!?」


男は楽しそうにタオルを渡してくる


「ええ、お前成仏しなかったの...?」


笑顔のまま頷く男

結局かよ!と肩を落とすが男は嬉しそうに背後をふよふよと漂いながら、俺の手伝いをする

そういえば缶を持ってたんだから物触れるよな、と考えながらバイトの準備をする

部屋を出ると男も着いてくる


「...お前部屋出れんだな」


小声で聞くと男はこくこくと頷いた


この日から男は同居人となった

食事を必要とはしないし、お風呂とかも入らないからお金がかからないのでまあ良しとする

(たまにご飯を羨ましそうにみてくることはあるがその時は1口分けてやれば嬉しそうに食ってる)

俺の声しかしないが、前より少し騒がしくなった気がする部屋は案外悪くない


そしてこの日から俺の日常は新しいものへと変わっていくのだった


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